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あの物理HDDクラッシャーで実際にHDDを破壊してきた

〜話題となったイラストの誕生秘話も公開

HDD破壊装置によって壊されたHDD

 PC好きのユーザーであれば、大抵使わなくなったHDDが家にゴロゴロしているものと思うが、こういったHDDをどう“捨てるか”は悩みどころの1つだろう。HDDに記録されている多数の個人情報を考えると、簡単に不燃物や金属ゴミとして捨てるわけにはいかない。だからと言って物理的、あるいはソフト的に壊そうとしても、それなりに時間がかかる。筆者の事務所にも、今まで検証で使ったりサーバーの組み換えで余ったりしたHDDがいくつも倉庫に眠ったままだ。

 そんな時に読んだのが、5月8日に掲載された「HDDをV字に折り曲げてM字に圧迫する物理破壊装置」という日東造機のHDDクラッシャーの記事である。その存在もさることながら、イラストのファンキーさも話題を呼んだことは記憶に新しい。

あまりにもギャップの激しいメーカー公式の比較イラストも話題を呼んだ

 この中で紹介されているCrushBoxシリーズの「HDB-20V」は、HDDを物理的に破壊することで情報漏洩を防ぐと同時に、廃棄しやすくするという記憶メディア破壊装置だ。冒頭に書いた通り、HDDの廃棄で悩む筆者としては、これは見逃せない機会である。

 墨田区にある日東造機のショールームを訪問し、実機をじっくりと検証させてもらいつつ、イラストの件も含めて同社IT事業部 事業部長の唐鎌益男氏に話しを伺った。

HDDを物理的に破壊して情報漏洩を防ぐCrushBoxシリーズ「HDB-20V」。写真手前にあるスリットからHDDを差し込み、上部のレバーを上下して油圧を高め、HDDに金属製の杭を打ち込む

軍でも採用例があるという手動式のHDD破壊機

 日東造機では、精密加工部品や超小型モーターのほか、ジャッキアップやポンプに使う油圧装置などを扱っている。今回紹介するHDB-20Vを始めとするCrushBoxシリーズは、同社が扱うOA機器の1つで、HDDなどを破壊するメディア破壊装置の分野では、独占に近いシェアを持つそうだ。ソフマップではHDDを破壊して廃棄する「ハードディスク破壊サービス」を展開しているが、このサービスで使われているのも日東造機のCrushBoxシリーズなのである。

 HDB-20Vは、CrushBoxシリーズの中でも手動で動作するハンディタイプの製品である。重量は12kgと、気軽にとまでは言えないが、片手でも十分持ち歩けるレベルの重さだ。こうした特性を持つため、実は他国の軍隊でも採用例があるそうだ。電源供給が安定しない地域でも問題なく利用でき、情報が保存された記憶装置を破壊できるという特徴は、移設しながら機密情報を扱う必要がある組織で大きなメリットとなる。

重さは12kg。リンクストラップをレバーに繋げることで、このように片手でつり下げるようにして持つことも可能

 HDB-20Vは、直方体のデザインを採用する。天板部分には上下に動かすレバーがあり、このレバーで油圧を高め、HDDを破壊するための力を得る。内部には金属製の杭が組み込まれており、油圧によって高まった圧力で、この杭をHDDの表面から内部に突き通すのだ。その破壊力は何と2トンもある。データが保存されているプラッタや金属製のフレームを修復不可能になるように物理的に破壊する。

ちょっと分かりにくいかもしれないが、窓の奥に金属製の杭が出ている

 実際に試してみたのが下の動画だ。金属製のカバーを突き通す力を得るため、レバーを20回ほど上下する必要があった。1回倒すだけで処理できるというものではない。また動画では、かなり力を入れているようにも見えるが、慣れていないのと撮影で焦ったことが影響している。しばらく操作して慣れてくれば、クイクイと軽くレバーを操作するだけでも大丈夫だった。後述するが、破壊方式には日本式と米国式の2種類がある。ここでは先に日本式で破壊を行なった。

日本式の破壊基準で壊されたHDD。中央左に穴が空いているのが分かる
日本式でHDDを破壊

 油圧が十分に高まった状態になると、レバーの近くにある「インジケーター」と表記された赤い突起が持ち上がった状態になる。大体この辺で1、2回レバーを上下すると、プラッタが破壊されるようだ。この状態になるとレバーを押す時に「クニャッ」とした手応えがある。

油圧が十分に高まった状態になると、「インジケーター」という文字の上にある赤い突起が飛び出てくる

 HDDを取り出してみると、見た目は“壊れている”ようには見えない。しかし金属製の天板に大きな穴があいていた。HDB-20Vの杭が内部に突き刺さり、内部のプラッタが破壊されているということだ。

 HDB-20Vのウリの1つは「米国式のHDD破壊基準」にも対応しているところ。日本と米国では装置が破壊されたとする認定のされ方が違うのである。こちらも試してみたが、作業的には非常に簡単だ。HDDを挿入する場所の下に、金属製のアダプタを置くだけでよい。後は先ほどと同じように、20回程度レバーを上下しよう。

 破壊されたHDDを取り出すと、日本式とは全く異なる状態だった。中央部分に強い力がかかった状態になっており、V字形に金属のフレームが大きくゆがんでいる。米国では、壊れていることが目ではっきり分かることが重視されるということだ。

米国式のHDD破壊基準に従って破壊すると、見た目でもフレームが大きくゆがんでいることが分かる
2.5インチHDDを破壊するためのアダプタ
米国式でHDDを破壊

強磁界と油圧でHDDのデータを二重に破壊できる電動式も

 ところでこのショールームには、HDB-20V以外にも多数のCrushBoxシリーズが展示されている。ボタン1つでHDDを破壊できる電動式のタイプもあり、実際に利用できる状態になっている。こちらも合わせて検証させてもらった。

ショールームに展示されていた電動式/手動式の記憶メディア破壊装置たち

 電動式ではあるが、基本的な破壊の仕組みはHDB-20Vとほぼ同じだと言う。油圧でパワーを高めて金属製の杭をHDDに打ち込み、内部のプラッタやHDDのフレームを破壊する。ただし、電動式なのでより強い力を加えてHDDを破壊できることが特徴だ。実際に電動式のHDD破壊機で処理してみると、「メキメキバキッ」と衝撃的な音を発してHDDのフレームが大きく折れ曲がった状態になった。

ブラックを基調とした鋭角的なデザインの「DB-HYBRID」

 ブラックのフレームを採用する「DB-HYBRID」では、強磁界を発生してプラッタ上の磁気情報を消去し、さらにHDDを物理的に破壊する。強磁界の発生装置では他社の協力を得ており、まさしく最強のHDD破壊機と言える。使い方も簡単で、HDDを入れたらボタンを押すだけでよい。後は強磁界の発生とHDDの破壊は自動で行なわれる。

電動式の場合、HDDを差し込んでボタンをポチッと押すだけで破壊処理が実行される
動かしてビックリ! 何と液晶に顔文字が表示されているではないか。例のイラストといい、遊び心があふれるユーモアな会社である

 もちろんこうした機器は50万円から100万円クラスであり、個人や中小企業が気軽に導入できる代物ではない。日々PCの廃棄が発生する大企業や、中古店のHDD破壊サービスのような業務で利用する機器である。それだけに破壊は確実、そして操作は簡単であり、HDB-20Vのような手動タイプに比べると作業は大いに捗る。

DB-HYBRIDで破壊したHDD。手動式のHDB-20Vに比べ、ビジュアル的にも派手に壊れていることが分かる
強磁界と油圧でHDDを破壊する電動式の「DB-HYBRID」

あのイラストの真相が解明される

HDB-20V紹介用の公式イラスト

 さて、HDB-20Vのニュースが公開された時、HDDを物理的に破壊するというインパクトはもちろん、その「公式画像」に対する反響も大きかった。

 この点について確認してみたところ、女性のイラストは武蔵野美術大学を出て、デザインを学んでいる唐鎌氏の息子さんの手によるものだと言う。そしてイラストの左の女性に施されたコラージュは、唐鎌氏の部署で作成されたということだ。

 なぜあのようなイラストが採用されるに至ったのか、それは1つ前の手動式ハンディタイプ破壊装置「HDB-15」が影響している。HDB-15のリリース時も、HDB-20Vと同じように、女性が片手でHDB-15を持っているイラストが添えられていた。しかし、これがまるでハンドバッグを持つような手軽な持ち方であり、とても10kgのものを持っているようには見えないイラストだったのだ。

HDB-15のリリース。このイラストに対するユーザーからの違和感の声が、HDB-20Vのイラストを産んだのだと言う

 こうしたイラストに対し、ネット上で「これは不自然だ」などと取り上げられたことがきっかけとなり、後継モデルであるHDB-20Vでは、改めて“不自然に思われない”ようなイラストを生み出す必要があったということだ。小規模オフィス向けを念頭に置いた製品であり、女性でも気軽に扱えるという軽量さをアピールしたい日東造機としては、こうした点に配慮する必要があったのだろう。それでも不自然さは拭い切れてないように見えるが、今回の反響を見るに成功と言えるのかもしれない。

古いHDDを持て余し、処分に困っているなら25万を払ってでも導入したいところ

 個人的にMini-ITXの小型PCケースをメインで使うようになって、組み込むHDDの台数は減り、1台あたりの容量が増加している。HDDを増やせばそれだけ消費電力も増えるので、常時稼働するサーバーでも組み込むHDDの数は最小限に抑えるようにしている。

今回の取材でご協力いただいた日東造機株式会社 IT事業部 事業部長の唐鎌益男氏。同社の破壊装置にかける情熱や業界事情をたくさん話していただいた

 同じような考えでPCに組み込むHDDの台数が減ったユーザーは、筆者だけではないはずだ。そうなるとこれまで使ってきた2TBといった容量のHDDはほぼ出番がなくなる。そもそも古いHDDは読み書きも遅いし、今さら新しいPCに組み込んで使う気にもなれない。

 だからと言って簡単に捨てられないという自縄自縛の状況だが、HDB-20Vがあれば、情報漏洩の心配もなく金属ゴミや不燃物で捨てられるようになる。大量にHDDを抱えているユーザーなら1台手元に置いておきたいところ。

 ただ、HDB-20Vの実売価格は25万円前後だ。個人で買うには少々厳しく、この点が残念ではある。複数の編集部やライター数人で共同購入する手はないだろうか、などと真剣に悩む筆者であった。

おまけ〜記憶装置破壊グラビア集

(竹内 亮介)