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BSA、企業内違法コピーの情報提供者に対し最高300万円の報奨金

 BSA | The Software Allianceは、組織内違法コピーの解決に繋がる有力情報の提供者に対し、最高300万円を提供する報奨金プログラム「知財ブラック企業は通報だ!」を開始する。

 2月16日~3月15日までの4週間の期間限定で実施。通報された対象組織で行なわれていた違法コピー対象組織からBSA加盟企業(権利者)に対して、和解金(損害賠償金)が支払われた場合に、その規模によって最高300万円までの報奨金を支払う。

 期間中には、首都圏主要鉄道の車内ビジョンやインターネット広告、ソーシャルメディアなどを通じて積極的なプロモーションを行なう。

 BSAでは、「この報奨金は、職場環境改善のため組織内違法コピーに関する情報を提供するという、その正しく勇気ある行動を適正に評価し、報いるため、問題解決に繋がる有力情報の提供者に対しBSAが支払うものとなる」と位置付け、「これまで100万円だった報奨金最高額を300万円に引き上げることで、組織内違法コピー問題に対する関心がより一層高まるものと期待している」とした。

 BSAは、1988年に設立。米ワシントンDCに本部を構え、世界60カ国以上で活動する業界団体で、MicrosoftやAdobe Systemsをはじめとする加盟ソフトウェア企業の著作権保護活動のほか、正規ソフトウェアの使用を促進するコンプライアンスプログラムの開発、技術革新の発展とデジタル経済の成長を推進する公共政策の支援などを行なっている。

 日本では1992年に活動を開始。1995年に設置した違法コピーホットラインは、企業や団体といった組織内での違法コピーに関する情報などを受け付ける窓口で、今年で設置から20年目を迎えている。

 BSAでは、全世界において、報奨金プログラムを実施。報奨金額やプログラム運用方法などはそれぞれの国民性や法環境などに合わせた独自のものとして展開。日本では、期間限定の試験的施策として、2013年に報奨金の最高額を100万円としたプログラムを初めて実施。さらに、2014年度にもこれを実施した。その結果、2013年で282件、2014年で166件の合計448件の通報があり、そのうち、最高額の100万円の報奨金を得た情報提供者は、6人に達しているという。

日本担当顧問のTMI総合法律事務所・石原修弁護士

 BSAの日本担当顧問であるTMI総合法律事務所の石原修弁護士は、「2014年の通報者のうち、100万円を得たのは、2014年12月末時点で1人だけだが、まだ和解が済んでいない案件もあり、今後増える可能性がある」とコメント。現在、大規模な和解案件があることを暗に示唆した。

 今回のプログラムでは、対象組織から支払われた和解金が、6,000万円以上の場合に、300万円以下の報奨金が支払われる可能性があり、4,500万円以上6,000万円未満では報奨金が300万円未満、3,000万円以上4,500万円未満では225万円未満、1,500万円以上3,000万円未満では150万円未満、1,500万円未満では75万円未満となる。

 また、今回の報酬金プログラムの名称を「知財ブラック企業は通報だ!」とした点については、「不正コピーが常態化している企業は、昨今話題のブラック企業と風土が似通っている。第三者の知財を侵害する企業を、知財ブラック企業と呼び、知財ブラック企業の実態の理解と認知促進に加え、職場での違法コピー撲滅を目指す」とした。

 一方、BSAでは、昨今の日本における違法コピーの現状などについて説明した。

 BSAの調べによると、日本国内における組織の違法コピー率は2013年の実績で19%となり、米国に次いで2番目に低い。2003年には29%の違法コピー率であったこと比べると低減傾向にある。

 石原弁護士は、「政府と協調した取り組みの成果もあり、コピー率は20%を切っている。2014年もほぼ同等の水準になると予測されている。だが、逆算すれば組織で利用されている5本に1本が違法コピーによるものとも言える。また、市場が大きい分、違法コピーによる被害総額は1,400億円の規模に達している」と語る。違法コピーによる被害総額では世界でワースト11位、アジア太平洋地域ではワースト4位となる大きさだ。

 さらに、情報提供に基づく和解額が高額になっていることも指摘する。

 情報提供に基づく和解例では、最高額では4億4,000万円となっており、5位でも1億9,000万円となっている。

 「これらの事例は数万人が勤務する企業であるとか、上場企業の例だと思っている人も多いが、最高額の4億4,000万円は従業員500人以下のソフトウェア開発会社。500人以下の企業を抽出しても、5位までは1億円以上の損害賠償額となっている。組織内違法コピーの賠償金は、中小企業の場合、経営基盤を揺るがしかねない」と警告する。

 また、アジア太平洋地域では、不正コピー率が62%となっており、日系企業にとっても海外支店における管理を強める必要性があること、警察の民事不介入が前提となる日本とは異なり、直接、警察当局による摘発を受ける日系企業の事例が出ていることなどを指摘。「法執行制度が異なる海外での状況を把握して、対応する必要もある」と述べた。

 さらに、こんな指摘もする。

 「例えば、大手量販店などの店頭で、ソフトウェアを万引きした場合には、行為者に対しては懲役10年以下、罰金50万円以下の刑事罰となるが、違法コピーの場合は、懲役10年以下の刑は変わらないものの、罰金は1,000万円以下となり、併科も可能となっている。企業に対しては、万引きの場合は、それが企業のための盗んだとしても刑罰は科せられないが、違法コピーでは企業にも3億円以下の罰金が科せられる」。

 つまり同じソフトウェアを違法に入手して利用するといった場合にも、万引きよりも、違法コピーの方が刑事罰が重いということになる。

 さらに、昨今では、オークションサイトなどで、プロダクトキーや、ライセンス認証システムによる認証を回避することができるクラックツールの販売を目的として出品が増加しており、BSAから大手オークションサイトに向けた削除以来件数が大幅に増加していることも示した。

 BSAによると、2013年(集計は2013年2月~12月)には、47,290件だった削除依頼は、2014年には302,636件に達しており、この1年で急増しているのが分かる。

 また、これまでは著作権法違反による法的対応だったものが、「不正競争防止法違反」、「私電磁的記録不正作出・共用罪」、「商標法違反」にといった法的対応にも広がっていることも示した。

 例えば商標法違反では、ネットオークションでプロダクトキーやクラックツールの販売を目的とした際に、Windowsなどの商標を表示したことについて違反が問われるもので、ブランド品の偽物などに適用される仕組みと同じだ。また、私電磁的記録不正作出・共用罪では、マイクロソフトのTechNetの購入申し込みをした事実がない容疑者以外の別の人物が同サービスの購入手続きを取ったことが罪に問われた。不正競争防止法違反では、クラックツールの提供がこれにあたったという。

 今後、こうした著作権法違反以外での摘発例が増加すると、石原弁護士は予測している。

 石原弁護士は、違法コピーしたソフトウェアを使わないための注意事項をいくつか明らかにした。

 一般ユーザーに対しては、注意が必要なショップやオークション出品者の特徴として、「価格が安すぎる」、「プロダクトキーやシリアル番号だけを販売している」、「法人向けのボリュームライセンスと称して、その余った分を販売している」、「他言語版、OEM版、DSP版と称している」、「PCに同梱されているDVDを単品として販売している」といったオークション出品例のほか、「説明文の日本語に間違いが多く、中国で使用される漢字が使われている」、「扱う製品のレビューがどれも似た文章であり絶賛する内容が多い」、「100%正規品・本物などと強調している」、「国内より発送するので安心などの記載がある」、「認証保証などの普段聞き慣れない言葉の記載がある」といった例を挙げ、「これらのどれか1つが当てはまるというのではなく、複合的に判断してほしい」とした。

 さらに、企業における違法コピー予防のための4つのポイントとして、「経営層・従業員の意識改革」、「全体的な現状把握」、「定期的なレビュー」、「定期的な改善」を挙げた。

 「経営層が違法コピーをあまり意識せず、漫然と放置すると、どんどん広がっていくのが違法コピー。また、ハードウェアの台帳管理だけでなく、その中に入っているソフトウェアも1つ1つ管理する必要がある」とした。

 その中で、石原弁護士が指摘したのが、社内監査で違法コピーを発見した時の対処法だ。石原弁護士は、「違法コピーされたソフトウェアを発見して、すぐにそれをアンインストールすると、証拠隠滅に問われるケースがある」と語る。

 これは、従業員のロッカーで覚醒剤を発見した場合、それは犯罪であり、いけないことだからといって、そのままトイレに流してしまうのと同じ理論だという。これも証拠隠滅に当たることになる。

 「覚醒剤を見つけたら多くの人が、警察に通報するなどの措置を取るように、違法コピーを見つけた場合には、まずはBSAなどの関連する団体に相談して、適切な対処を行なってもらいたい。あるいは、きちっと調査を行ない、調査報告、審査報告をまとめ、アンインストールを行なった行為が証拠隠滅ではないということを証明することが必要だ」と述べた。

(大河原 克行)