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NTT、原子レベルの誤差もない人工原子の作製に成功

6月27日 発表

 日本電信電話株式会社(NTT)は27日、独ポール・ドルーデ研究所および米ネイバル・リサーチ研究所との連携により、誤差が原子1個未満という高精度で位置と構造が制御された量子ドットとそれを組み合わせたナノ構造の作製に成功したと発表した。

 電子をナノメートルレベルの領域に閉じ込めた「量子ドット」と呼ばれる構造は、電子の状態が量子統計力学に従うため、量子ビットとして使うことができる。この電子状態の殻構造や電子充填のフント則など、天然原子が示す特徴的性質を再現するため、半導体で作製した量子ドットは「人工原子」として振る舞うことが知られている。

 人工原子は、光・電子デバイス、ディスプレイ、バイオ、太陽電池、量子情報処理など幅広い分野での活躍が期待されているが、微細化を進めると、構造加工の誤差の影響が大きくなるため、従来のリソグラフィーや自己形成手法とは異なる微細化方法が求められていた。

 今回NTTらのグループは、分子線エピタキシャル成長法とよばれる方法で作成した原子レベルで平坦なInAs(インジウムヒ素)の(111)A表面を用い、その原子配列に起因する周期的に並んだくぼみに、低温走査トンネル顕微鏡を用いてIn原子を1つ1つブロックのように固定。多数(6~25個)のIn原子でできたブロック列は、人工原子の核の役割を果たし、生じたポテンシャル井戸中に電子を閉じ込め、原子レベルで誤差のない人工原子を実現した。

 また、これを組み合わせて人工分子も作った。具体的には約10nm四方の領域に数nmサイズの量子ドットを3個集積化。これは、集積度では現在のLSIの約1,000倍に相当し、集積化では極限に近いレベルとしている。

 人工原子は、単一光子源や、同一特性を持つ量子ビットを実現可能で、それを多数集積化/制御することで、量子コンピュータや、現在のCMOSシリコン技術の限界を超えた技術に応用できる可能性があるという。

従来の量子ドット
走査トンネル顕微鏡による観察と原子操作
本研究の量子ドット構造
本研究の量子ドット(走査トンネル顕微鏡実験)

(若杉 紀彦)