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Intel、低電力サーバー向けSoC「Atom C2000」を発表
~アウトオブオーダーに一新
(2013/9/5 01:30)
米Intelは4日(現地時間)、開発コードネームAvoton(アヴァトン)/Rangeley(レンジリー)で知られる、22nmプロセスのサーバー向けのSoCを「Atom C2000」シリーズとして発表した。Intelは、すでに32nmプロセスルールで製造されているサーバー向けのSoC「Atom S1200」(開発コードネーム:Centerton)を低電力サーバー市場向けに投入しているが、Atom C2000はそれに次ぐ製品となる。
サーバー市場は現在変革期を迎えており、従来の重厚長大な大規模サーバーから、高密度で電力効率を重視した低消費電力サーバーへ移行が始まっている。新しい選択肢としてARMアーキテクチャのサーバー用SoCも各社からリリースされ、AMDも2014年にARMベースのサーバー向けSoCを投入する計画。次世代は誰が覇権を握るのか、注目が集まっている。
そうした中で、Intelが出した答えが今回発表されたAtom C2000だ。5月に概要が発表された新しいアーキテクチャSilvermont(シルバーモント、開発コードネーム)ベースのCPUコアを採用しており、従来のAtomプロセッサに比べて処理能力と電力効率が大きく引き上げられている。
Avotonが一般的なサーバー向けで、Rangeleyが暗号化処理のハードウェアエンジンを加え、製品寿命を長めにとっているネットワーク機器組み込み向けとなっている。
低電力サーバーを担うAtom C2000
今回Intelが発表したAtom C2000は、TDP(Thermal Desgin Power)が5W~20Wと、数十~百W超に設定されているのこれまでサーバー向けCPUと比較すると、大幅に低めに設定されている。現在サーバー向けの市場でも、クライアントと同じようにダウンサイジングの流れが強まっており、より大規模なサーバーから、ブレードサーバーのような、小型のサーバーを多数ラックに詰め込んでいく方向へ変わりつつある。Atom C2000はそうしたセグメント向けの製品と言うことになる。既にIntelは昨年(2012年)、Atom S1200(開発コードネーム:Centerton)をこうした市場向けに投入しており、今回のAtom C2000はその後継だ。
Atom C2000とAtom S1200はいずれもx86のSoCであることは共通だが、内蔵されているCPUのアーキテクチャが一新されている。Atom S1200ではインオーダー型だったのに対し、Atom C2000はアウトオブオーダー型となった。このCPUの新しいアーキテクチャは、Intelが5月に発表したSilvermontに基づいている(Silvermontの詳細に関しては別記事参照)。
今回発表されたAtom Cプロセッサは、製品のSKUによって違いはあるものの、最大で8コアまで対応できる設計になっている点も新しい。Silvermontのアーキテクチャでは、CPUコア2つ+1MBのL2キャッシュで1つのモジュールになっており、8コアの場合はこのCPUモジュールが4つ内蔵される設計となっている。このCPUモジュールは、Silvermont System Agent(SSA)と呼ばれる内蔵コントローラに専用バスで接続されており、SSAを通じてメモリ、各種I/Oに接続される形となっている。
CPUの命令セットは、Silvermontでサポートされる命令セット(SSE4.2、AES-NIなど)すべてで、もちろんIntel64にも対応。この点で、現時点では32bitに留まっているARM勢に大きくリードする(ARMの64bit対応サーバー向けプロセッサは来年以降本格的に出荷される見通し)。
メモリコントローラはDDR3ないしはDDR3L対応で、シングルチャネルまたはデュアルチャネルで利用できる。クロックは1,600MHzまでで、デュアルチャネル構成で利用した時には25.6GB/secのメモリ帯域を実現することができる。搭載メモリの最大容量は64GBになっており、この点も先述の通り、32bitで4GBの壁を越えられないARM系のプロセッサと比較すると大きなメリットだ。ECCも標準で対応している。
電力効率を実現するため、高速部分と中速部分に分離している内部バス
SoCの内部にある従来のチップセットに相当する部分は、高速部となるHigh Speed IOSF(Intel On-chip System Fabric)と、中速部となるMedium Speed IOSFの2つが用意されており、接続するI/Oにより使い分ける。PCI Expressのような高速なバスはHigh Speed IOSFに接続され、USB 2.0やSATAなど比較的高速ではないバスはMedium Speed IOSFに接続される。このように2つに分けているのは、省電力のため。必要に応じて電力を細かくオフにできるからだ。
PCI ExpressはGen2までの対応で、4つのコントローラを内蔵しており、x16×1、x8×2、x8×1、x4×4、x4×2の設定が可能だ。各コントローラはそれぞれx1へダウングレードして利用することも可能で、その場合にはx1×4という設定も利用可能だ。また、Medium Speed IOSFに接続されているSATAコントローラは、合計で6ポートサポートされるが、うち2ポートをSATA 6Gbps、4ポートをSATA 3Gbpsとして利用できる。なお、USB 2.0は4ポートまでの対応となる(USB 3.0には未対応)。
このほか、ネットワークコントローラを標準で内蔵していることも特徴として挙げられる。内蔵されているコントローラは最新のi350(開発コードネーム:Powerville、パワービル)相当で、Gigabit Ethernet(1000BASE-TX)を4ポート実装できるスペックを誇っている。ただ、PHY(物理層)は内蔵されていないので、仮に製品にポートを実装する場合には、必要なPHYを実装する必要がある。
なお、従来のAtom S1200では、こうしたネットワークコントローラなどを搭載していなかったため、別途実装する必要があったが、Atom Cプロセッサではそうした必要がなくなったので、マザーボードをよりコンパクトにできるのもメリットの1つと言える。
RangeleyとAvotonの違いは2つで、1つはIntel Quick Assist Technology(QAT)と呼ばれる暗号化のハードウェアアクセラレーション機能が内蔵されていることで、もう1つは製品の提供期間がAvotonに比べて長期間に設定されていること。QATを利用すると、AES/DESなどの暗号化やMD5などの認証、RSAなどのパブリックキーなどの処理をハードウェアで行なうことができる。ただしQATはRangeleyのすべてのSKUに対応しているのではなく、一部のSKUのみに実装されている。
Intelの発表した資料によれば、Atom C2000シリーズには、以下のようなSKUが用意されている。
プロセッサナンバー | コア数 | クロック周波数(ターボモード時) | L2キャッシュ | パッケージ | TDP | 千個ロット時価格 |
---|---|---|---|---|---|---|
Atom C2570 | 8コア | 2.4GHz(2.6GHz) | 4MB | FCBGA1283 | 20W | 171ドル |
Atom C2730 | 8コア | 1.7GHz(2GHz) | 4MB | FCBGA1283 | 12W | 150ドル |
Atom C2550 | 4コア | 2.4GHz(2.6GHz) | 2MB | FCBGA1283 | 14W | 86ドル |
Atom C2530 | 4コア | 1.7GHz(2GHz) | 2MB | FCBGA1283 | 9W | 70ドル |
Atom C2350 | 2コア | 1.7GHz(2GHz) | 1MB | FCBGA1283 | 6W | 43ドル |
プロセッサナンバー | コア数 | クロック周波数 | L2キャッシュ | QAT | TDP |
---|---|---|---|---|---|
Atom C2758 | 8 | 2.4GHz | 4MB | ○ | 20W |
Atom C2738 | 8 | 2.4GHz | 4MB | - | 20W |
Atom C2718 | 8 | 2GHz | 4MB | - | 20W |
Atom C2558 | 4 | 2.4GHz | 2MB | ○ | 15W |
Atom C2538 | 4 | 2.4GHz | 2MB | - | 15W |
Atom C2518 | 4 | 1.7GHz | 2MB | - | 13W |
Atom C2358 | 2 | 1.7GHz(2GHz) | 1MB | ○ | 7W |
Atom C2358 | 2 | 1.7GHz(2GHz) | 1MB | - | 7W |
従来製品と比較して電力効率が最大で10倍に
IntelはAtom C2000(C2750を利用)のベンチマーク結果についても明らかにした。全体的な傾向で言えば、従来の32nmのAtom S1200(S1260を利用)と比較すると、純粋な性能では1.4~1.9倍だが、消費電力あたりの性能では3.8~10.3倍になるという。これは、製造プロセスルールが22nmに微細化したことや、さらに省電力な設計が施されたことなどにより実現したと見られる。
ARMのCortex-A9ベースのサーバー向けSoCとの性能比較では3.9~35.6倍という結果が出ており、現状の32bitのARM SoCとのパフォーマンス差はかなりあると言える。特にメモリ周りのテストでは、4GBまでしか利用することができない32bit CPUの制限が大きくでているモノがあり、一部のベンチマークテストでは32bitのARMプロセッサでは満足に走らせることができなかったと、Intelは指摘した。
これに対して、64bitのARMに関しては、現状では製品が発売されていないため、競合他社のカンファレンスなどで公開されている数値などから予想される数値の比較になるが、消費電力あたりの性能では1.8倍近くになると予想されているとIntelでは説明している。
2014年はARM勢が64bit対応を投入することで大戦争始まる
Intelは、来週(9月10日~12日)に米国で行なわれる予定のIntel Developer Forum(IDF)において、同じ22nmプロセスルールで製造されるAtomプロセッサとなるBay Trailを発表する予定で、そこでBay Trailの詳細などが公開される(スマートフォン向けのMerri Trailは2014年の第1四半期に予定されており、おそらくはMWCで発表されることになる)。
それに先駆けて、22nmプロセスルールで製造されるAtomの先陣を切ってサーバー向けのAvoton/Rangeleyが発表された背景には、今後低消費電力のサーバー市場が激しい競争の場になっていくと考えられており、そこにIntelとしても力を入れていきたいという意向ががあると考えることができる。既に述べたように、サーバー市場でも電力効率が重視される時代を迎えており、そこにARMのSoCで参入することを検討しているベンダーは増えつつある。
特に、64bitのARMプロセッサを設計しているような半導体メーカーは、ほぼ例外なくサーバー市場へ参入し、Intelの牙城に挑戦しようとしている。NVIDIA、AMDも64bitのARMアーキテクチャのサーバーSoCを計画しており、早ければ2014年にも製品が投入される。そうした状況の中で、Intelが黙っていては、過去のスマートフォンがそうだったように、マーケットシェアが下がり、Qualcommのようにほかのベンダーに市場ごと持って行かれるということが起きかねない。
ましてや、今はサーバービジネスは、Intelの製品部門の利益の大部分を叩き出しており、その市場を守ることはIntelにとって大きな意味がある。このために、攻めに出たというのが、Atom C2000シリーズの持つ戦略的な意味ということになるだろう。