NEDOら、5Tbit/平方インチのHDD基礎技術を開発



 独立法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、および東北大学電気通信研究所は12日、「次世代大容量省電力ストレージ技術のための革新的技術開発」と題した合同成果報告会を開き、5Tbit/平方インチを実現するHDDの基礎技術を開発したと発表した。

 報告会では、日立製作所/NEDO 研究開発本部の城石芳博氏と、東北大学電気通信研究所 プロジェクトリーダーの村岡裕明氏が、プロジェクトの目的やスケジュール、役割および結果の概要について説明した。本記事では要点のみを紹介する。

城石芳博氏村岡裕明氏

 今後はPC/スマートフォン/タブレットなどのデバイス、そしてクラウドサービスの増加により、コンテンツの容量が爆発的に増えることが予想される。この環境の中で、コンテンツを提供するサーバーをすべて高速で低消費電力なフラッシュストレージに置き換えるのは理想的だが、コスト的には非現実的である。また、もし今後HDDの容量が現状のまま増加しないのであれば、データセンターにおけるストレージの消費電力の割合が増大し、運用コストがかさんでしまう。

 そこでNEDOや東北大学電気通信研究所らは、経済産業省および文部科学省の後援を受け、2006年より高密度なHDD記録技術の開発プロジェクトに着手した。なお、このプロジェクトは今年(2012年)で5年目に入り、予定では2013年を1つの区切りとして終了することになっている。

 企業として日立製作所(HGST)と東芝、大学として東北大学電気通信研究所などが参加。大学の研究開発によって得らた基礎技術を企業に伝え、製品化のサイクルの短縮を実現するとともに、逆に企業側で得られた実証結果を大学側にフィードバックし、原理解明や次の研究開発のステップとして役立つよう、双方のシナジー効果の向上を狙っている。

プロジェクトにおける役割分担HDDの部品や日本のシェアなどHDDの役割
プロジェクトの位置づけ開発経緯
5Tbit/平方インチの記録密度を実現する課題など

 5Tbit/平方インチのような高密度記録を実現するための課題は、記録メディア、ヘッド(記録素子)、メディア保護膜、振動抑制、などが挙げられる。

 まず記録メディアについては、既存の垂直磁気メディアに代わる、より高密度記録が可能なビットパターンメディアが必要となる。既存の垂直磁気メディアでは、磁気を持つランダム形状の複数の素子が1つのbitを記録する。素子の形状がランダムなため、熱擾乱などによりほかのbitに磁場が溢れ出し、ジッタとして現れる可能性がある。しかしジッタは訂正可能なため、垂直磁気メディアではそれほど大きな問題にならない。

 ところが、1bitがパターン化されたビットパターンメディアでは、1つのビットパターンが1bitとして記録されているため、熱擾乱による磁化の反転はジッタではなく記録誤りに相当する。そのため、ビットパターンをいかに円周状に綺麗に並べるかが重要となってくる。今回の研究結果では、高磁気異方性と低キュリー温度を有する素材の開発と、ドットの物性を解明することで、5Tbit/平方インチ級を実現するビットパターンメディアを実現した。


ビットパターンメディアの開発ビットパターンメディアの仕組み
ビットパターンメディアでは磁気の反転がデータの誤りを意味するビットパターンメディアの技術

 記録ヘッドについては、先述のようにビットパターンメディアでは、1bitの反転が記録誤りとなってしまうため、隣接するビットパターンを書き換えないようにするヘッドが必要となる。これについては新プレーナ型ヘッドと、熱アシスト記録技術(TAMR)を併用することで、5Tbit/平方インチの記録を実現できたという。

 なお、熱アシストのほかに、発振することで磁気を反転できるようにする「マイクロ波アシスト記録技術(MAMR)」も開発され、現時点ではシミュレーションではあるものの、2.5~3TBit/平方インチの記録を証明できたという。

記録ヘッドにおける課題とその解決法マイクロ波アシスト記録技術でも実証

 また、再生ヘッドについても感度を高める必要があるとし、トラック間のクロストークを低減する技術を開発し、仕様を緩和できたほか、低抵抗電極「NC-MR」素子は、5Tbit/平方インチ級を読み取りできる高感度ポテンシャルがあることを確認した。

 記録ヘッドに熱アシストを用いた場合、ビットは瞬間的に400~500℃まで加熱されるため、磁気媒体の蒸発も懸念される。そこでメディアの表面に保護膜を貼ることでこの問題を回避するわけだが、現状でもHDDのヘッドはメディア表面から15nm(ナノメートル)しか浮いていない。もし保護膜に僅かな突起があった場合、ヘッドまたはディスクが損傷してしまう。

 今回、ダイヤモンドの構造に近いFCA-C保護膜と、高耐熱/Starfish型潤滑剤を組み合わせることで、総膜厚1.6nm以下でも、耐熱性およびヘッド浮上性を確保できることを確認した。

 また、高密度化に伴い、より高精度なヘッド制御が要求されるほか、モーター回転によるプラッタの振動をさらに抑える必要がある。今回、風乱の低減により、5Tbit/平方インチ相当の位置決め精度を見通し確認したほか、ディスクプラッタ抑制プレートを内蔵し、2枚円盤搭載の2.5型HDDで5Tbit/平方インチ級の記録が可能になる抑振効果を確認した。

再生ヘッドも感度を高める必要がある熱アシスト記録において重要になる保護膜ヘッド制御技術やプラッタ抑振技術の開発

 なお、5Tbit/平方インチの技術によってどのぐらいの容量のHDDが実現できるかについては言及されなかったが、2Tbit/平方インチ技術を用いた場合、3.5インチHDDで1台あたり12.5TBの容量を持つとされた。つまり、5Tbit/平方インチを用いた場合、3.5インチで31.25TBの容量が実現できるという計算になる。

研究成果のベンチマーク記録密度の推移
今後の容量の展望2Tbit/平方インチの技術で、12.5TBの3.5インチHDDを実現できる

(2012年 3月 12日)

[Reported by 劉 尭]