独立行政法人の新エネルギー・産業技術共同開発機構(NEDO)は5日、東京で記者会見を開催し、NEDOの委託による研究グループがハードディスクの記録密度を高める媒体技術を開発したと発表した。財団法人の次世代金属・複合材料研究開発協会(RIMCOF)と東北大学金属材料研究所、大阪大学産業技術研究所、中央大学理工学研究所、株式会社BMGで構成される研究グループが、金属ガラスに1Tbit/平方インチ相当のビットパターンを形成してみせた。
この研究成果は、NEDOの委託を受けてRIMCOFが実施中の研究開発プロジェクト「高機能複合化金属ガラスを用いた革新的部材技術開発」の一環である。プロジェクトの実施期間は平成19年度(2007年度)~平成23年度(2011年度)の5年間で、1)高密度記録媒体、2)微小モーター、3)微細カードコネクタへの応用を目指して研究が進められている。記者会見ではまず、NEDO技術開発機構でナノテクノロジー・技術開発部の主査を務める土井秀之氏がプロジェクトの概要を説明した。
NEDO技術開発機構でナノテクノロジー・技術開発部の主査を務める土井秀之氏 | 「高機能複合化金属ガラスを用いた革新的部材技術開発」プロジェクトの目的 | プロジェクトの体制 |
製品のイメージ。高密度記録媒体、微小モーター、微細カードコネクタの3つがある | プロジェクトのスケジュール |
RIMCOFで研究開発グループ長を務める西山信行氏 |
続いてRIMCOF(「リムコフ」と読む)で研究開発グループ長を務める西山信行氏が、研究成果の概要を説明した。
プロジェクトでキーとなるのは、「金属ガラス」である。金属ガラスはガラス転移点(ガラス転移温度)を有するアモルファス状の金属で、ガラス転移点を超える温度に加熱すると急激に柔らかくなるという性質がある。この性質を利用して微小なビットパターンのアレイを金属ガラスの薄膜に形成し、その上に磁性膜を堆積させることで高密度な磁気記録が可能な媒体を作る。いわゆるビットパターン媒体(BPM:Bit Pattern Media)である。
ビットパターンの形成にはインプリント技術を使う。マスターとなる金型を始めに作製し、金型を金属ガラス膜に熱圧着してパターンを転写する。金属ガラス膜を使用したインプリントは工程が簡素になるので、樹脂膜を使う従来のインプリント技術に比べると、コストを大幅に低くできるという。
金属ガラスの概念図。3種類以上の金属元素で構成される。'90年に東北大学の井上和久氏(現・東北大学総長)が発見した | 面記録密度の推移 | 従来のインプリント技術と今回の金属ガラスを利用したインプリント技術 |
金型の作製には、集束イオンビームによる微細パターンの堆積とリアクティブイオンエッチング(RIE)を使用した。サファイア基板にダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜を堆積し、その上に白金(Pt)の微細なパターンを集束イオンビームで堆積する。Pt膜をマスクとしてRIEで金型のビットパターンを形成した。コレにより、1Tbit/平方インチに相当する、25nmピッチの金型パターンを作製できた。
そして作製した金型を使い、金属ガラス薄膜にビットパターンを転写した。1Tbit/平方インチに相当する、25nmピッチのパターンをきれいに転写できた。金属ガラス薄膜はパラジウム銅ニッケル・リンの合金(PdCuNiP合金)である。ガラス転移点はおよそ300℃。
また金属ガラスではなく、金型に磁気記録層(コバルト・パラジウム多層膜)を形成して磁化反転を起こし、高密度の垂直磁気記録が実現できていることを示した。パターンを形成済みの金属ガラス薄膜に磁気記録層を形成した実験で磁化反転が起こることも確認しているが、きれいな観察像を撮影できなかったので、記者発表会では示さなかった。
金属ガラスは加工性が非常に良好で、急峻なパターンを形成しやすいという特徴がある。金型が作れれば、数nmという非常に微細なパターンも形成可能だ。プロジェクトの期間は残りが2年あるので、この期間で2Tbit/平方インチを目指して研究を進めていくとしている。
金型の作製工程 | 作製した金型のビットパターン |
金属ガラス薄膜に転写されたビットパターン。これは穴のアレイを形成したもの。突起のアレイを形成したビットパターンも試作済みだという | 33nmピッチのパターンを形成した金型に磁気記録膜を堆積し、磁気状態を観察した像。磁化反転がきれいに起きている |
(2009年 8月 6日)
[Reported by 福田 昭]