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点字ブロックや芝生、毛の長い絨毯上でもロボットの移動を可能にする「円形断面型クローラー」

~東北大学多田隈研とNEDOが開発

 東北大学多田隈研究室と国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は8月26日、一般の車輪ではスムーズな移動が難しい点字ブロックや踏切段差、毛の長い絨毯上でも、全方向に移動できる「円形断面型クローラー」を開発したと発表し、記者会見を行なった。

 独自機構によって環境に線で接触し、従来の車輪では不得意な環境でも駆動力を発揮し続けられ、切り返しせずに360度全方向に移動できる。

円形断面型クローラー。長さ50cm弱、重量はおよそ22kg。
仕様。安全率3で187kgの重量物を搬送可能

 段差3cmの段差を踏破でき、14cm程度の溝を乗り越えることができる。斜面角度は30度程度まで対応可能。車椅子向けのスロープ上でも斜め移動ができる。

 点字ブロックや芝生のような、従来の車輪、また全方向移動機構では足をとられやすい場所であっても自在に移動し、連続的に斜め方向移動ができることから、電動車椅子や屋内外を移動するロボットなど、重量のある移動体の駆動機構として使えるという。

 今回開発した全長480mmのモデルでも、安全率3で187kgの重量物を搬送可能な設計となっているが、シャフト部分を強靱化することで、さらなる重量物への適応も可能とのこと。

NEDOプロジェクトで開発

従来のオムニホイールが苦手な点字ブロックでも問題なく走行

 NEDO ロボット・AI部 次世代人工知能・ロボット中核技術開発プロジェクトの枠組みで開発されたもの。次世代人工知能・ロボット中核技術開発プロジェクトは、95テーマからなる次世代人工知能・ロボットの要素技術の開発と社会実装加速を進めるプロジェクトで、うちロボットは全部で25テーマ。センサー、アクチュエータ、インテグレーションの3グループに分かれて開発を行なっている。

 NEDOプロジェクトマネージャーの渡邊恒文氏は、現状の車輪機構を使った移動では屋内でも深い絨毯などでは多くの困難があることを指摘し、「さまざまな場所で活用できることを期待している」と述べた。

NNEDO ロボット・AI部 次世代人工知能・ロボット中核技術開発プロジェクトマネージャー 渡邊恒文氏

独自機構で高い走破生性を実現

東北大学タフ・サイバーフィジカルAI研究センター准教授 多田隈建二郎氏

 開発者である東北大学タフ・サイバーフィジカルAI研究センター准教授の多田隈建二郎氏は、とくに機構の専門家である。今回の技術の特徴は、路面に対して線接触することで駆動方向に連続的に力を出すことができることと、線接触により任意の方向に連続的に移動できることの2点だと述べた。

 小回りがきくことから多くの移動ロボットに用いられている、従来の「全方向移動車輪」は、複数のローラーを組み合わせて1個の車輪にしたものが多い。

 しかしながら絨毯のような柔軟物体相手では接地面積が小さく、進みたい方向に進むことが難しかった。また、小型の受動車輪を使っているため段差があるとスタックしてしやすく移動できなくなることが多い。

 そこで接地点1点のみで進みたい方向に駆動力を生成する機構が必要だと考えて開発を始めたと経緯を述べた。

 今回の円形断面型クローラーの内部には、多田隈研究室が独自開発した「スクリュー式差動回転機構」が用いられている。

 この機構は、左右に配置された回転軸の動力を、ねじ歯車により垂直方向に変換する構造を対称に配置して構成されている。左右から同じ向きに回すと構成部品全体が回転し、逆向きに回すと中心部分だけがその場回転する。この全体が回る「公転」とその場で回る「自転」の2つを組み合わせることができる動力伝達機構だ。

 これを全方向駆動車輪に用いることで、従来のオムニホイールでは受動車輪だった部分も駆動力を発揮することができる。

 そして、ぬかるみなどの軟弱な地面にはまってしまうことに対しては、車輪を軸方向に伸ばしてクローラとすることで、線接触することで駆動力を発揮できるようにした。屋内の絨毯に対しても線接触なので痛めにくいという。

円形断面型駆動機構

 都市環境での点字ブロック上などのほか、この機構は接触した方向すべてに推力を出せるので、パイプの内側や瓦礫の隙間などといった狭い場所にも入り込んでいくことができる。

パイプ内外も走破可能

 それら探査ロボットのほか、将来は柔らかい砂が積もっている部分でも自在に移動できる特性を活かし、海底探査ロボットなどへの応用も考えるという。