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山間部の一軒家に突如最新PC環境のオフィスが誕生
~空き家のサテライトオフィス化をデルが支援
2017年7月10日 06:00
総務省が提唱するプロジェクト「おためしサテライトオフィス」。青森県弘前市、京都府京丹後市、秋田県大館市、島根県松江市、千葉県銚子市、山口県、新潟県南魚沼郡、徳島県、福井県鯖江市、鹿児島県錦江町が採択され受け入れを行なっているプロジェクトだ。
三大都市圏内に本社が所在する民間企業を対象に、サテライトオフィスの開設・誘致に向けた具体的な取組を行ない、都市から地方への新たなヒトの流れや地元企業・人材と連携したビジネスの創出に結びつけることが目的だ。
採択された自治体の1つである福井県鯖江市が、その「おためし勤務」としてモニターツアーを7月上旬に実施した。メガネ、漆器、繊維の街として知られる鯖江市は、空き家、空き室問題への対応、進出企業と地場企業との新たなビジネスマッチング、進出企業による雇用促進、人材確保などをテーマに、市内に散在する空き家をサテライトオフィス用に活用し、サテライトオフィスリロケーションの実施に向けた具体的なスキームの検証を行なうという。
今回鯖江市が実施した1泊2日のモニターツアーでは、参加企業の職員の1往復相当の交通費が支援され、さらに光熱水道費、インターネット利用料などが負担される。本格的にサテライトオフィスを設置したいと考える企業が、お試しできる機会として企画されたものだ。都市部での説明会などを経て参加したのは18社26名。また、以前から鯖江市のIT戦略を支援してきたデルが、このモニターツアーに併せて機材などを提供した。
今回のモニターツアーのために整備された物件は4カ所だ。空き店舗を利用した市街地オフィスが2件と山間部にある空き家を利用したオフィスが2件の合計4件だ。
地方都市の空き家問題は目抜き通りがシャッター街になってしまっているなど深刻なことになっている。また、住宅地においても、高齢化社会の到来とともに、自宅をそのままにして施設やアクセシビリティの高い近代マンションへに住むようになり、真新しい家屋を放置したままにしてしまっている世帯も少なくない。
そして、若年層においても高校卒業後に都市部の大学に進学し、地元には就職先がなく、都市部に就職してそのまま帰ってこないといったケースはどの地方自治体でも抱える悩みの種だ。
それらをなんとかし、自治体そのものの活性化につないでいくこと、そして働き方の改革につないでいきたい。それがこのプロジェクトの目的だ。
鯖江市がサテライトオフィス用に整備した物件の1つを視察してきた。山間部の吉谷町にある一軒家で木造瓦葺きの2階建て家屋だ。老兄弟が本家と分家として近隣して居をかまえて住んでいたものの、弟の逝去にともない空き家になってしまい、家具などもそのままになっていたという。それらの家具を2階部分に格納し、1階部分をすべてオフィス用に提供するという物件だった。8畳の和室が2部屋、16畳程度のリビングダイニングの2LDKで5名程度の執務環境が想定されている。
デルは「働き方改革を支援するデルの7つのメソッド」として、従業員それぞれの働き方に見合ったデバイスとテクノロジを提供する戦略を進めているが、今回はこのモニターツアーに参加する株式会社LIFUL Marketing Partnersに対して機材を提供した。
LIFUL Marketing Partnersは不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME'S」を運営する株式会社LIFULL(旧社名:株式会社ネクスト)のグループ会社で、そのマーケティングをになう組織だ。そのクリエイティブ部門のサテライトオフィスとして検討するためにこの鯖江のモニターツアーに参加した。
今回、デルが提供したのは、
- 27型4K液晶ディスプレイ「U2718Q」
- 43型Ultra HD 4Kマルチクライアントディスプレイ「P4317Q」
- 19.5型ディスプレイ「P2417HZ」
- デスクトップPC「Optiplex 7050MT/SFF」
- Intel Unite対応の小型PC「7040MFF」
などだ。一部未発売のものもあるが、7月14日の発売に先立って最新機器を貸し出したという。
クリエイター利用ということで最高級ワークステーションの提供も考えたが、実際にこれまで慣れ親しんでいた環境が通常のデスクトップPC環境であることをヒアリングで確認し、こうしたラインナップを整備したという。
株式会社LIFULの執行役員としてHOME'Sの運営、営業の責任者であり、株式会社LIFUL Marketing Partnersの代表取締役として新しい事業の取り組みで地方創生の事業を担当する役員でもある数野敏男氏は、今回のモニターツアー参加にあたり、本体グループとして空き家バンクのデータベース化に取り組んでいる関係から、そこでどういうスタイルで仕事ができるかということを、その可能性を含めて探りたいという。
鯖江市は街そのものがITに対して積極的で、行政も市民も官民こぞって積極的で一体感があり、子育てなどでも共働き率が日本一の福井県という場所で新しい働き方を模索していきたいと話す。
同社としてはこのサテライトオフィスがうまく稼働することで、外注費を70%削減できる可能性があるという。
制作事業は外部発注が多いが、その外注費コストが激減すること、また、勉強をしたい、地元にいたい、スキルアップしたいといった地方の若手を採用することで、東京の下請けとしてではなく、地元や地域ならではの仕事ができる場に発展させるもくろみだ。1~2年後を目途に10名規模のオフィスの実現をめざしたいとのことだ。さらに、こうした場で得たノウハウを、本来のビジネスである不動産業にも還元していきたいとしている。
鯖江市長の牧野百男氏はクリエイティブな事業者が雇用の窓口を作ってくれることで、都会に出ていった若い人たちが戻ってくれる可能性を信じたいという。若者の首都圏流出を食い止めるためにも、今回のプロジェクトで大きな変化が起こることを期待しているということだ。
デル株式会社常務執行役員クライアント・ソリューションズ統括本部長の山田千代子氏は、鯖江市の取り組みはデルにとっても大きなビジネスチャンスをもたらすものであるとする。サテライトオフィスのような場ではどのようなデバイス、環境が求められるのか、どのような使い方をされるのかを試行錯誤していくことで、それを本来の顧客に対する提案材料として活かし、大きなビジネスにつないでいきたいとしている。