日本IBMは、今年1月から試験的に導入を図っていた新たなオフィス環境「オンデマンド・ワークスタイル」を、箱崎事業所の全営業部門に導入することを決定した。 オンデマンド・ワークスタイルは、営業部門の効率的な運用を目指した新たなワークスタイルとされているもの。コンサルティングチームで構成される日本IBMビジネスコンサルティングサービスが丸の内オフィスで導入している仕組みを参考に、営業部門に最適化した仕組みへと変更。半年以上の試験運用を経て、今回の本格導入へと踏み切った。 日本IBMは、このほど、箱崎オフィスで展開しているインダストリアル(製造)分野向け営業部門のオンデマンド・ワークスタイルを報道関係者に公開した。その様子をレポートしよう。 ●ライフスタイルの変化とワークスタイルの変化
日本IBMの大歳卓麻社長は、「インターネットの導入によって、我々のライフスタイルが変化しているのは多くの人が認識している。ライフスタイルが変わるのならば、当然、ワークスタイルが変わるはず。ここにチャレンジしたのがオンデマンド・ワークスタイルだ」と説明する。 日本IBMでは、「オンデマンド・ビジネス」をキーワードに事業展開を進めているが、これは一言でいえば、市場のあらゆる変化に対して、柔軟に、そして迅速に対応できる体質を持った企業のことだ。 今回のオンデマンド・ワークスタイルは、その名の通り、顧客の要求に対して、柔軟に、迅速に対応できる営業部門の構築を目指して進められた。 同社では、必要な時に、必要な人や情報にアクセスでき、相談できるオフィス環境を整えるとともに、情報共有や協業作業を促進できるITインフラの整備と、顧客の状況を適切に把握できるビジネス・プロセスの変革を行なうものであると、オンデマンド・ワークスタイルの狙いを説明する。
●ITを駆使して実現するオンデマンド・ワークスタイル では、具体的にオンデマンド・ワークスタイルの仕組みを見てみよう。 今年1月から試験的に運用されたインダストリアル事業部門は、箱崎事業所の14階のリバーサイドフロアに集結。対象となった900人の席は自由に座れる「フリーアドレス」方式とした。 机の上には、電源とEthernetケーブルを常設。フロア全体で無線LANが利用できるようにしており、フロアのどこからでもプロードバンドに接続できる環境が整っている。 机は、パーティションが有るタイプと、無いタイプを用意。個人の好みや用途に応じて選択できる。
また、社員同士のコミュニケーションや会議が行ないやすいように、複数のタイプの「コラボレーション・スペース」(会議室)を用意。共用モニターやプロジェクターの利用の有無、会議の目的や参加人数に合わせて、柔軟に選択できるようになっている。 フロアの中央部分には、「マネジメント・コクピット」と呼ばれる管理職が利用するエグゼグティブゾーンが3カ所用意されている。マネジメント・コクピットは、6角形に机を配置していることから、管理職が部門内全体を見渡せ、部下や他部門とのコミュニケーションを促進しやすいようになっているのが特徴。管理職は6角形の机の内側に座り、部下がその周りに座るという仕組みとなっている。 オンデマンド・ワークスタイルでは、紙の資料は極力使わないことを前提としており、e-ビジネス構築基盤ソフト「WebSphere」、グループウェアの「Lotus Notes」などの活用によって、電子化による情報共有を実現している。社内ポータルでは、個々人の業務に合わせたパーソナライズ機能を導入する予定であるほか、コラボレーション・ソフト「Lotus Sametime」を活用することでインターネット会議(e-ミーティング)が簡単に利用できるようになっている。 また、電話会議専用ブースも設置しており、隔離した環境でも会議が行なえるような工夫が凝らされている。 情報の管理については、Siebelにより構築しているSSM(Signature Selling Method=IBMにおけるセールスの経験を1つのフレームワークにまとめたもの)を活用。顧客情報、プロジェクト情報、対応状況を一元的に管理し、これらの情報を社長をはじめとする役員や管理者、チームで共有することで、顧客に対するオンデマンドな対応を実現することができるという。 そのほか、日本IBMの事業所、研究所などにサテライトオフィスを設置、大崎、新宿、池袋の貸しビル内にブロードバンド環境などを整えたサテライトオフィスを設置し、ここから会議への参加も行なえるようになっている。 「サテライトオフィスは、都内近郊などにさらに3カ所程度増設する予定」(山本哲男常務執行役員)としている。 ●顧客との対話時間の増加などのメリットも 今年1月からのオンデマンド・ワークスタイルを試験導入した結果、すでにいくつかの成果があがっているという。 「顧客との対面時間が最大で約4割増加した」、「紙による文書の収納量が2/3も削減できた」、「コピー量が27%削減できた」などの成果が具体的な例だ。 「会議や教育も、PCとインターネットを利用してその場で行なえることから、そのために人が移動することがなくなり、場所も新たに確保しなくていいというように、コストメリットも出ている」(大歳社長)という。 また、社員の約7割からは「時間と場所の自由度が増した」との評価も得ているという。 「インダストリアル事業部門は、業界平均に比べて高い伸びを見せるなど、収益面でも効果が出ているのではないか。社員にとっても、プラス要素が大きいと判断したことで、全営業部門に展開することにした」と大歳社長は話す。 今後、オンデマンド・ワークスタイルの対象となるのは金融、流通などの箱崎事業所内にある業種営業部門で、全国の営業拠点は対象とはならない。 来年から再来年前半にかけて全業種営業部門、約5,000名を対象にオンデマンド・ワークスタイル方式に転換を図ることになる。 ●過去の失敗を生かす 日本IBMの箱崎事業所は、'89年に開設した時点で「フリーアドレス方式」をいち早く採用し、話題を集めた拠点。だが、「社員数の7割しか席を用意していなかったために、先輩社員が書類をドカンと置いてしまい、若い社員の席がないなどの問題が起こり失敗した」(大歳社長)経緯がある。 ところが、箱崎事業所が先行して失敗したフリーアドレス方式は、米国、韓国などでは成功。それを進化させた運用が行なわれてきた。 「今回の仕組みは、欧米で進めてきた手法に、日本ならではのモバイルの仕組みを加えた最先端技術のもの。世の中が変化し、社員が家庭にブロードバンドを引くことが可能になったという点でも、当時とは様子が違う。実際、家庭でブロードバンドを引くには、会社が経費を支援するということもやっており、社員の8割が家庭に引いている状況だ。社員の生産性、顧客満足度の向上という点でも、試用段階で成果が表れており、仕組みやツールに対する評価も高い。あとはこれをいかに運用していくかだ」と語る。 自らオンデマンドの実践を掲げ、その挑戦の1つとして取り組んでいるオンデマンド・ワークスタイル。その成果は、今後の同社の収益拡大という実績で推し量れるだろう。 □日本IBMのホームページ (2004年9月17日)
[Text by 大河原克行]
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