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国内PC市場、Windows 8以来の不況も底打ちで回復傾向

~日本人の“ITリテラシーの低さ”が負のスパイラルの原因に?

 株式会社BCNは、都内にて「いよいよ底打ちPC市場」と題した記者発表会を開催した。

 発表会にはBCN チーフエグゼクティブアナリスト 道越一郎氏が登壇し、PC関連商品の最新国内市場動向についての分析と、今後の展望について解説を行なった。

BCN チーフエグゼクティブアナリスト 道越一郎氏

 BCNは「BCNランキング」として、アマゾンジャパンやヨドバシカメラ、ビックカメラ、ソフマップ、コジマ、上新電機など全国の大手家電販売店の販売データを集計し、商品カテゴリごとに情報を配信するデータ提供サービスを運営している。BCNランキングはPOSデータを参照しているため、今回の市場分析も出荷台数などではなく店頭の実売データをもとにしている。

 なお、メーカー直販やキャリアショップの売上は集計されていない。

 道越氏は、ノートPC販売台数が2016年12月から4カ月連続で前年超えを記録しており、2012年末のWindows 8発売以来続いた市場の減少傾向に変化が現れたと述べ、ノートPCよりも不調だったデスクトップPCも台数、金額ともに前年を上回っていることから、底打ちと見て良いのではとの見方を示した。

 また平均単価も上昇しており、価格低下によるものではなく売上が拡大しているという。

減少傾向に回復の兆し
2017年1月には、33カ月ぶりに台数と金額ともに前年同月比増を記録

 タブレットは依然不調となっているが、ノートとデスクトップは2015年の水準に近づいているとした。なお、タブレットにはMicrosoft Surfaceやドコモなどのキャリア経由での販売台数は含まれていない。2in1 PCについては、キーボード着脱式はタブレット、ディスプレイ回転式についてはノートPCとして計上されている。

 この傾向反転の要因としては、2017年4月11日にサポートが終了したWindows Vistaの買い替え需要があるという。Vistaの利用者数は限定的と見られているが、販売店のPC引き取りサービスなどでVista搭載機が目立つとの声もあり、一定の効果はあるとした。

 また、「Anniversary Update」と「Creators Update」と大型アップデートが2度提供された点や、企業導入が進んでいるなど、Windows 10の安定化が個人消費者の精神的ハードルの低下を促し、買い替え需要を刺激しているとの分析を示した。買い替えの対象となっているのは、Windows 7初期に登場したHDD 1TB以下やメモリ4GB未満などのエントリー機だという。

タブレットは不調
ノートPCの販売台数は2015年レベルに
平均単価
販売PC搭載OSのWindows 10への切り替えは順調で、回復を後押し

 しかし、道越氏は「数%の回復であり、本格的な回復傾向とは言えない」と指摘し、本格的な回復には工夫が必要であるとした。

 業界としてPCの再定義とともに、ユーザーへの用途提案が必須であるという。具体的には、情報消費型の利用では、大画面でのTV視聴や動画閲覧、複数のウィンドウを使い分けることなどによる快適さを訴求し、情報生産型利用では、プログラミングや作曲、現像、設計、長文作成といったPCのポテンシャルを訴求していくべきであるとした。

 また、IoT時代の到来によって、TVや冷蔵庫など「家庭」と「クラウド」を繋ぐゲートウェイ的デバイスのポジション争奪戦が起こると指摘し、そこでPCの音声対応や相互接続性などの拡張性を追求することで優位性が得られるとした。

 製品そのものについても、市場が右肩下がりだったこともあり、各社とも冒険やチャレンジができていないと述べた。

 一方で、携帯性を重視した小型クラムシェルノートがクラウドファンディングで資金を集めていたり、Samsungが冷蔵庫とPCを融合した製品を参考出展するなど、ニッチな製品が登場している動きもあり、形状を超えた新しいPCの模索や驚きのある演出など、多様なハードへの挑戦が必要だと述べた。

 今回の回復傾向について、同氏は「新しいもので市場が再活性化しているわけではない」と述べ、ビジネスモデルが時代に即していないのではないかと指摘する。

 IT先進国というくくりなど、「日本人のITリテラシーは比較的高い」という意識があるが、同氏は、実際には日本人のITリテラシーは高くなく、むしろ低いと指摘した。

 同氏の引用した、国立青少年教育振興機構による「最新の高校生のICT活用に関する調査」では、簡単なプログラミングをする率は、アメリカで12.9%、中国で21.4%、韓国で23.4%に対して、日本は4.8%であるほか、Wordなどの文書ソフトを使う率は、米85.6%/中36.4%/韓50.9%に対し日本は20.8%、PowerPointなどのプレゼンテーションソフトでは、米74.5%/中32.4%/韓64.1%に対し、日本は11.1%と10人に1人に過ぎない。

 同氏は「これは高校生の調査だが、Microsoftの実施しているリテラシー調査でも日本は低く、実際には高校生以外の層でも同様のITリテラシーレベルではないか」と述べ、その”ITリテラシーの低さ”が市場拡大の妨げになっていることを認める必要があるとした。

 これまで国内市場では、PCに主要ソフトをすべてバンドルし、手厚いサポートとセットにして高価格で販売していた。これはスマートフォン登場以前では好都合なビジネスモデルだったが、同氏はそれがPCユーザーの自立を妨げており、リテラシーが向上しないと指摘する。

 ユーザーのリテラシーが低いためにライトな利用から抜け出さないが、スマートフォンの普及でそれらにPCが利用されなくなり、PCの活用が進まず市場全体がジリ貧になって、「負のスパイラル」に陥っているとした。

 そこで、他人任せにするのではなく、積極的なPC利用による機会の底上げが必要であり、PCの多様な可能性を活かす販売方法として、高度なソフト利用の啓蒙と合わせて、前述の高度情報消費利用と情報生産型利用の訴求を徹底するとともに、多様なPCの形を追求するべきであるとした。

 加えて、若年層でも気軽に買えるよう価格を見直し、ユーザーの自立を促すサイクルを構築。さらに教育投資を通じて若者のリテラシー向上を目指し、日本人のITリテラシーをレベルアップさせることで、IoTの進展とともにPCの利活用が広がり、市場の活性化に繋がるとした。

ポイント
負のスパイラル
ノートPCメーカーシェア
ノートPCは軽量化の傾向
デスクトップPCは富士通がNECを抑えシェアトップに
デスクトップPCでは液晶一体型が7割、画面は大型化。同時にTVチューナー搭載機が増加
ノートPCメーカー別前年同月比
ノートPC単価は10万円台に接近
OS別PC推移