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Japan Dronesとドローン・ジャパン、日本発のドローンソフト技術を目指し始動

ArduPilotTeamJapanのプロジェクトフレームワークが4月1日に開始

 Japan Drones株式会社とドローン・ジャパン株式会社は、ドローンソフトウェアエンジニアを育成し、ドローンソリューション開発を行なっていくプロジェクト「ArduPilotテクノロジー・プロジェクト」を開始した。

 両社は昨年(2016年)からドローンに関連するソフトウェアエンジニアを育成する「ドローンソフトウェアエンジニア養成塾」を開講。3カ月で完了するコースで、これまでに2期、55人が受講完了し、4月1日から第3期の塾が開講した。この養成塾をきっかけに、オープンソースでドローン関連技術を開発するコミュニティ「ArduPilot(アルディパイロット)」の中核エンジニアとなる人材を育成することを目標の1つとする。

昨年のドローンソフトウェアエンジニア養成塾

 さらに、「日本で土木・建設、一次産業、インフラ設備管理、災害救助などの分野でドローンが注目され、さまざまな予算がつき、実証実験が多数行なわれようとしている。そういった場で利用できる、オープンソースのフレームワークを作っていく」(ドローン・ジャパン 代表取締役社長 勝俣喜一朗氏)ことで、実践で利用できるドローンテクノロジー開発を進めていく。

ドローン・ジャパン 代表取締役社長 勝俣喜一朗氏
ドローン・ジャパン 取締役会長 春原久徳氏

 今回のプロジェクトが必要な背景について、ドローン・ジャパンの取締役会長 春原久徳氏は次のように説明する。

 「欧米ではさまざまなドローンのプロジェクトが走っている。ドローンを開発する企業も増え、クローズにソフト開発を行なう例も増えている。最大手のDJIはSDKを提供し始めているが、対応状況はAppleの雰囲気に似ている。ドローンは技術、ビジネスともに黎明期にあり、手作りで新しい動きが誕生している段階。あくまでもオープンにソフト開発を行う必要があるということで、ArduPilotを選択し、ソフトウェアエンジニア育成を進めている。今回のイベントで紹介する技術、取り組みを見ることで、現在のドローン業界に足りないものを示している」。

 イベントでは、養成塾の受講を完了した卒業生が開発したシステムが紹介された。いずれも、現状のドローンでは足りない部分を補うために開発されたものばかり。最初の2つは、ドローン活用の基本部分を拡張するための開発だ。

 松浦伸吾さんが開発したのは、「非GPS環境下での機体制御」技術。ドローンの走行は、GPSベースで行なわれることが多いが、橋の下や屋内など、GPSが使えない環境でドローンが必要になる場面も多い。海外ではUWB(ウルトラ・ワイド・バンド)が活用されているものの、日本では電波法の問題で活用することができない。そこで非GPS環境での機体制御技術を開発した。

 山口達也さんが開発したのは、スマートバッテリードライバー。現時点ではバッテリの電流、電圧を取得しているが、今後は電池の残量、温度などの情報を取得していくことを目指す。対応バッテリも、現在検証しているのはマクセル製のみだが、今後はそれ以外のメーカーのバッテリで検証していく予定だ。

 ホビー的な基礎開発を行なったのは川村剛さん。「自作の小型ドローンをシンプルに飛ばしたかった」という思いから、ドローンを振って、投げて飛ばす、「Shake Mode」を開発した。

松浦伸吾さんは非GPS環境下でのドローン機体制御技術を開発
山口達也さんはスマートバッテリードライバーを開発

 実践的な開発例もある。吉田柳太郎さんが開発したのは、Raspberry Piベースのブドウ畑で働く圃場ローバー。ブドウ畑で農薬散布を行なう際の車をドローンに置き換えるためのものだが、「飛行タイプを導入すると、商品となるブドウの上空を飛ばすということで保険をかける必要がある。そのための査定などにコストがかかることもあり、飛行タイプ導入はあきらめ、ローバータイプとした」と実態に合わせた開発が必要となり、手がけたものだ。

 海津裕さんはドローン・ジャパンが手がけるドローン米栽培に必要な技術を開発した。品質の高い米を栽培するために欠かせない、温度分布計測用RTK(高精度GPS)搭載ドローンを開発した。「RTKはすごく高価だったが、安い物が出てくるようになった。精度も1cm、2cm単位の計測が可能で、従来はできなかった多地点の温度計測が可能となる」。

 ドローンそのものだけでなく、ドローンで獲得したデータを有効活用するために必要な運用管理システムの開発例もある。日立システムズに所属する鈴木裕一朗さんは、ドローン運用管理システムを開発した。「空撮データは容量が大きくなるので、クラウドにアップロードし、安全な基準のもとでデータの管理、保管を行なっていく。今後は3次元化をクラウド側で自動化していくといったことを実現していきたい」という。鈴木さんは第一期生としてスクールに参加。参加前はドローンについては素人だったというが、スクールに参加する中で、現状のドローンに足りないものを理解し、このシステムを開発したという。

吉田柳太郎さんはRaspberry Piベースの圃場ローバーを開発
海津裕さんはドローン・ジャパンが手がけるドローン米育成に必要な、温度分布計測用RTK搭載ドローンを開発
日立システムズに所属する鈴木裕一朗さんは、運用管理システムを開発

 2期生の有志メンバーは、Wi-FiやSORACOMを使ってドローンの遠隔制御と、リアルタイム監視を実施し、IoTプラットフォームに接続するための試作を行なった。プロトコルとしてMQTTを利用、ドローンをIoT化することや、フライトデータをビッグデータとして活用し、ディープラーニングによる自律飛行などを実現していく。

 こうしたプロジェクトのベースとなっているのが、ArduPilotで公開されているソフトウェア。養成塾を率いるJapan Dronesの代表取締役社長であるランディ・マッケイ氏は、ArduPilotの開発コミュニティを牽引する技術者の1人。

 川村剛さんが開発したShake Modeは、マッケイ氏が開発したソフトウェアをベースに改良したもの。オープンソースのメリットを活かして目的に近いソフトウェア開発を行なうことができる。

 マッケイ氏はArduPilotの代表的なものとして、水中で動くドローン「Submarine」、タンデムヘリコプター「Chinook」などを紹介した。

 現在、ArduPilotを牽引する技術者の中には日本人は含まれていない。養成塾をきっかけにドローン技術に長けたソフトウェアエンジニアを育成。ArduPilotの中核技術者となるスキルを持った技術者育成を目指していく。

柴田有一郎さんは塾生の2期メンバーと共に、ドローンをIoT化し、Wi-Fiなどで遠隔操作するプロジェクトを実施
ArduPilotの中核メンバー
Japan Drones ランディ・マッケイ氏
水中で動くドローン「Submarine」
タンデムヘリコプター「Chinook」
デュアルGPSや光学フォローセンサーを組み込んで位置情報をより正確にする