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産総研、MRAMによる2Gbit大容量LLキャッシュの実現に道筋
~電圧駆動書き込み方式を新たに開発
2016年12月5日 13:59
産業技術総合研究所は5日、不揮発性磁気メモリ(MRAM)の新たな電圧駆動書き込み方式を開発したと発表した。これにより、書き込み時のエラー率の低減ならびにラストレベルキャッシュへの電圧トルクMRAMの適用に道筋が立ったという。
磁性体を使ったスピントロニクス分野において、磁石を使った不揮発性メモリのMRAMは、大容量・高速性・高耐久を満たす唯一の不揮発性メモリとして注目されている。しかし、現状の磁気メモリは磁気トンネル接合素子(MTJ素子)への電流通電によって情報の書き込み(磁化反転)を行なう“電流駆動型”であるため、半導体メモリと比べて書き込み時の消費電力が大きいことが課題となっている。
同研究所の開発チームは、これを改善すべく、書き込み時の消費電力を極めて小さくできる“電圧駆動型”の「電圧トルクMRAM」の開発を進めており、非常に薄い金属磁石薄膜に電圧をかけて磁化の方向を制御する方式を採用している。だが、電圧トルクMRAMにおける重要な課題として、情報書き込み時のエラー率をいかに下げるかが焦点となっていた。
今回、書き込み時のパルス電圧の形状を工夫することで、擬似的に垂直磁気異方性を増大させて書き込みエラー率を低減する手法を開発。従来の電圧書き込みでは正の電圧パルスをかけて磁気異方性が小さくなることのみを利用して磁化反転を行なっていたが、磁気異方性が大きく異なる負の電圧を始状態と終状態に加えることで、始/終のそれぞれの磁化の熱揺らぎを抑制し、書き込みエラー率を大幅に改善できることが分かった。
ただし、この効果を得るためには1ナノ秒程度のパルス幅と数百ピコ秒程度の急峻な極性反転を有するパルス電圧を、メモリアレイ内の個々の素子に正確にかける必要がある。従来の回路では波形のなまりや極性の高速切り替えを行なえず実現が困難だったが、極性反転を伴う高速パルス電圧を生成できる、電圧トルクMRAM専用の書き込み回路を新たに開発した。
さらにこの回路では、逆極性のパルス電圧を印加している間に読み出しを行なうことで無駄なメモリ回路の動作を省くことが可能。これによって、初期状態の記録情報を読み出して情報を書き込む必要がない場合には書き込みプロセスをスキップし、書き込み後に記録情報を再度確認して、書き込みエラーが発生していた場合には再度書き込みを行なうエラー訂正が高速に行なえる。これらのエラー率低減手法を組み合わせることで、実用化の目標となるエラー率10のマイナス10乗からマイナス15乗を達成できるという。
これに加え、読み出し電圧に対してMTJ素子の抵抗が変化する現象を活用した新しい読み出し回路も合わせて開発。実際に作成した直径30nmのメモリ素子における実測データをもとにして、書き込み/読み出しのエラー率が大幅に改善されることを先端CMOSの回路シミュレーションによって示し、現状の3倍程度の電圧磁気異方性制御の効率が実現されれば、1~2Gbitの大容量ラストレベルキャッシュへの適用が可能であることが明らかになった。
今後は大容量のラストレベルキャッシュ、大容量のメインメモリにおける仕様を満たす電圧磁気異方性制御を数十nmの実MTJ素子で実証することを目指し、より高品質な回路システム設計を進めていく。