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パワーがあって繊細な作業もできるタフな四脚ロボット「WAREC-1」
~早稲田大学らが発表
2016年11月1日 19:37
早稲田大学、三菱重工業株式会社、科学技術振興機構(JST)、内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)の4者は2016年11月1日、共同で記者会見を行ない、4脚や2脚を使い分けることで梯子や階段を上ったり、不整地を腹ばいで歩行できる4脚型ロボット「WAREC-1」を発表した。
ひよわなロボットをタフに鍛え上げる「タフ・ロボティクス・チャレンジ」
「WAREC-1」は、内閣府総合科学技術会議・イノベーション会議が主導する「革新的研究開発促進プログラム(ImPACT)」の「タフ・ロボティクス・チャレンジ」の成果の一環として開発したロボット。
「タフ・ロボティクス・チャレンジ」のプログラム・マネージャーである東北大学の田所諭教授は、同プログラムの趣旨について、想定した好条件下でないとまともに動かない、いわば「ひよわな優等生」である現状のロボットを「タフに鍛え上げよう」というものだと解説した。
さまざまな「ひ弱さ」をなくしていくために、具体的には、GPSが使えない条件下でも自律飛行が可能な飛行ロボット、狭い場所に入り込めるケーブルのような索状ロボット、既存重機を上回る高性能な建設ロボット、救助犬とIT技術で高度化したサイバー救助犬、そして脚式ロボットの開発を行なっている。
それらのロボットの開発を通じて、技術ならびに社会実装において、これまでとは違うイノベーションを起こすことを目指している。ターゲットは災害。現場での情報収集、人命救助などの災害時の活用だけでなく、予防にも役立てようとしている。
腹ばいで歩行できる4脚ロボット
今回発表された4脚ロボット「WAREC-1(WAseda REsCuer - No.1)」は、早稲田大学理工学術院 創造理工学部 総合機械工学科 高西淳夫教授、早稲田大学高等研究所 橋本健二助教、三菱重工業株式会社が開発したもの。災害時の復旧などへの活用、また老朽インフラ・プラントの保守点検を用途としたロボット研究開発用のプラットフォームだ。
四脚は全部同じ構造で、1本の足の自由度は7。全体の自由度は28。梯子の昇り降りのほか、四脚歩行、二脚歩行のほか、崩れやすい場所でも胴体を付けた腹ばい歩行が可能。本体の上下の区別もない。
2本足で立った場合の高さは1,690mm。重さはおよそ150kg。強い力が必要な作業と、繊細な作業の両方ができることを目的としている。
今回デモで見せたのは 胴体部分を最初から接地してしまい、まるでバタフライのように4脚をクロールさせて前に進むというもの。開発者の橋本助教らはこれを「超安定姿勢」と呼んでいる。
中空構造の高出力アクチュエータユニットを新規開発
開発は2014年から始めており、今回の機体はハードウェアとしては2代目(前機種についてはこちら)。
モーターは高速回転は得意だが、力を出すためには減速機が必要になり、動作が遅くなる。また2つのモーターを組み合わせて1つの関節を駆動する方式もあるが全体が大型化する問題がある。
そこで今回、新型をつくる過程で、扁平構造のモーターの内部だけを購入して、中空構造の高出力アクチュエータユニットを新規に開発し、配線を内部に収納した。また省配線化のために分散制御システムと小型分散モータドライバを採用。内部の通信規格にはCAN(Controller Area Network)を用いている。これによってモーターの体積比あたりの出力を大きくすることができたため、ロボット全体の動作を数倍高速化させることができ、また、配線によって可動範囲が制限される問題を回避した。
今回のロボット用には大・中・小と3つのモーターを使って組み合わせている。本体内部にはIMU(慣性計測装置)を搭載。手足の先には力センサーを内蔵している。今後は力制御を使った歩行動作なども研究しているという。
なお、現在はバッテリを搭載しておらず、今後、内部に搭載する。バッテリタイプについては検討中。燃料電池や発電機の搭載も含めて考えるという。また、アクチュエーターを油圧とすることも検討しているという。
今後は現場のニーズや環境条件からスペックを探りながら、移動能力の向上、作業能力の向上、遠隔操作システムの活用などを目指す。手足の先端部分もフック形状となっているが、「タフ・ロボティクス・チャレンジ」でほかのグループが開発中のハンドなどと統合していき、バルブを閉めたり、道具を使ってコンクリート壁に穴を開けたりといった作業ができるようになることを目指す。