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京都大学ら、光ディスクや相変化メモリの材料が超高速で相変化するメカニズムを解明

光励起後の初期時間におけるGeのRattling motionとポテンシャル変化図

 京都大学工学研究科材料工学専門の松原英一郎教授、市坪哲准教授、山田同特定教授らの研究グループ、および大阪大学と東北大学は共同で6日、DVD/BDといった光学メディアや、相変化メモリの材料に使われるカルコゲナイド系光相変化物質「Ge-Sb-Te(以下GST)」の超高速相変化メカニズムを解明したと発表した。

 近年、GSTがフェムト秒(10の-15乗秒)という極めて短いレーザーパルスの照射により、結晶相からアモルファス相への相変化をピコ秒程度で起こす現象が報告されており、記録速度の飛躍的向上や消費電力削減の可能性から注目を集めている。しかしこのメカニズムについては、理論計算をベースにしたモデルが提案されたものの、構造変化を直接観測して得られたものではないため、変化の過程については分かっていなかった。

 研究グループでは、X線自由電子レーザー設備「SACLA」(理研)を利用し、可視光フェムト秒レーザーをポンプ光、フェムト秒パルス幅のX線(XFEL)をプローブ光とするポンプ・プローブ測定法を実施した。この測定法では、回折線の時々刻々の変化をピコ秒以下の単位の時間分解で観測することで、レーザー照射直後からの結晶構造変化を直接的かつ連続的に見られる。この際、単結晶試料ではなく、多結晶資料を用いることで、超格子反射を含む複数の回折線を同時に測定可能となり、より正確な構造議論を可能とした。

 実験により、Ge原子が示す“Rattling motion”というユニークな挙動を初めて見出すことに成功した。つまり、GSTおよびGeTe結晶をレーザー励起した時に、Ge原子は一方向へ大きな変異を示すのではなく、これを囲む6つのTe原子の籠の中で、ある球殻上の任意サイト間を振動、あるいは周回運動をする。

 このGe原子の動きは、GST/GeTe結晶が示す大きな反射率の起源である「共鳴結合」と呼ばれる特殊な結合を瞬時に消失させることから、ピコ秒以下の反射率変化/電気抵抗変化をうまく説明できる。また、このRattling motionによってやがてTeサブ格子の局所的破壊とGe-Teボンドの結合様式変化(共鳴結合から二量体化へ)へと進み、最終的にアモルファス化が生じると考えられる。

 Ge原子のRattling Motionが、共鳴結合の消失、結合様式の変化、そしてアモルファス化へと進むモデルは、これまでの実験結果を矛盾なく説明できる。さらに、この結合変化のプロセスは、これまでにも示唆されていた「非メルト」アモルファス化のプロセスを明瞭に示し、可能性を強く示唆するとしている。

 今回の研究結果は相変化材料の構造変化メカニズムに関する議論や理解をさらに深められるほか、低消費電力デバイスの開発を理論的裏付けを示せたことから、デバイスの開発が加速されると期待できる。一方で、アモルファス相から結晶相への反対方向変化のプロセスについてはまだ十分な議論が進んでおらず、今回の結果をもとに高速結晶化プロセスについても解明したいとしている。