ニュース

「かつてSFで描かれた世界はもはやフィクションではない」

~NVIDIA GTC 2016基調講演、人工知能にフォーカス

米NVIDIA 共同創業者 社長兼CEO ジェンスン・ファン氏

 NVIDIAは5日、GPUを利用した開発者向け技術カンファレンス「GPU Technology Conference(GTC) Japan 2016」を開催した。

 基調講演には、米NVIDIAの共同創業者であり、社長兼CEOを務めるジェンスン・ファン氏が登壇。同氏は、1995年のPC/インターネット、2005年のモバイル/クラウドに続く、第3のコンピューティングがAI(人工知能)とIoTであると述べ、GTCのトピックは「GPUによる深層学習(ディープラーニング)は何を実現するのか」であるとした。

 人間は人と猿を別のものとして認識できるなど、複雑なパターンを認識する能力があるが、ファン氏は、このパターン認識こそが「知性の基盤」であるとし、深層学習はそのパターンの学習を自動化できる点が特徴であると述べた。

 深層学習には、学習に多くのデータが必要であり、その学習に必要な演算負荷が高すぎるという大きな問題があったが、GPUを用いて汎用計算を処理する「GPGPU」という発明により、実用性のあるものとなったとアピール。元々GPUは並列処理に優れた設計となっているため、ニューロネットワークの並列処理を行なうことで、データ学習の大幅な高速化が可能となった。

 その結果、現在では画像認識、音声認識において、人間の認識能力を超えた精度に到達しているという。米Microsoftが9月に発表した音声認識DNN(ディープニューラルネットワーク)は、わずか6.3%というエラー率を記録している。

 ファン氏は、そういった人間同等、または人間を超えた認識能力を持たせることが可能となった現在こそ「AI革命」の舞台が整ったと言えるとした。

 その中で、NVIDIAはコンピューターグラフィックスという、トップクラスに並列処理を必要とするジャンルを創業当時から手がけており、今や「世界最大の並列コンピューティング企業」であり、人工知能企業ともなったとアピールした。

 GPGPUという新たな要素を得て、CUDAをリリースした際、同社では抜本的に並列処理が必要なアプリケーションが世に溢れていると考え、GPGPU(CUDA)によって多くの分野を革新させると考えていたが、AIという新たなコンピューティングモデルの登場と発展によって、それが正しかったと述べ、VRやAR、AIの時代が到来し、SF作品で描かれていた世界は、もはや“フィクション”ではなくなったとした。

 AI開発者がなぜGPUを使うのかという点については、GPUは「理想的なプロセッサ」であるためだとした。人間は何かを考える時、「メンタルイメージ」を想起するが、これはGPUがCGを生成するのと同じであり、「脳はGPUである」と述べ、逆に、GPUも脳のように何千何百万という小さなプロセッサが問題を解決するという構造で、「GPUもまた脳のようなもの」であるとした。

脳はGPUのごとし
GPUは脳のごとし

 披露されたデモでは、PascalアーキテクチャGPUを利用し、絵画の画風を学習させ、動画に対してその画風を適用させるというデモが行なわれた。GPUによりリアルタイムでの処理が可能であり、会場を写した映像にも適用して見せていた。

画風が適用された渋谷の映像
会場内の映像にも適用

 国内のAI開発について紹介が行なわれた後には、産業用ロボットメーカー大手のファナック株式会社のロボット制御プラットフォーム「FANUC Intelligent Edge Link and Drive System (FIELD System)」へのAI実装に関する提携が発表。登壇したファナック株式会社 取締役専務執行役員 ロボット事業本部長の稲葉清典氏は、「工場で次に何が作られるのか分からず、結果として顧客の要求がどうなるか分からない中、要求が変わるということは、ロボットの挙動も変わらなくてはいけない。機械学習によってロボットが要求に合わせて学習できる柔軟性を持てば、それに対応できる」と述べた。

ファナックと提携
イメージ

 最後のトピックとして、ファン氏は自動運転車について言及。乗用車やトラック、シャトル、タクシーなどの交通市場は10兆ドル(1,000兆円)規模の市場だが、AIによる自動運転という大きな革命によって、利便性向上、事故現象、都市計画改善が実現されるとした。

 NVIDIAは、自動運転用にPascalベースのGPUを搭載した3つの車載コンピュータを提供しているが、さらに自動運転車用のOS「DRIVEWORKS ALPHA1」の提供も行なう。

 DRIVEWORKS ALPHA1は、物体認識を行なうDriveNet、フリースペースを認識するOpenRoadNet、運転を行なうPilotNetの3つのDNNを組み合わせて構成されている。DRIVEWORKSは継続的なアップデートが2カ月毎に提供されるという。

NVIDIAはオートクルーズから完全自動運転まで同じアーキテクチャで実現
DRIVEWORKS ALPHA1
DriveNetによる車両認識
車線認識
OpenRoadNet
人間も
両DNNを組み合わせた結果
UIのイメージ
人の運転をモニタリングさせて学習させた自動運転車「BB8」
工事現場のような複雑な状況でも対応できる
カリフォルニアで学習
ニュージャージで走る

 ファン氏は最後に、AI用車載SoC「XAVIER」の計画があることを紹介。GTCヨーロッパにて明かされたもので、ファン氏はXAVIERについて、IntelのXeon CPUに匹敵する70億個のトランジスタが載ったSoCで、8コアのARM64 CPU、“Pascal”の次世代とされる“Volta”アーキテクチャ採用の512コアGPU、2基の8K HDR対応ビデオプロセッサを搭載し、ASIL Cレベルの機能安全性を実現しているとした。

AIスーパーコンピュータSoC「XAVIER」
DRIVE PX2の25%の消費電力で同じ性能