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東北大学、Gigabitを超える記憶容量のMRAM実現に向けた新素材TMR素子を開発
~マンガン系合金ナノ薄膜の作成に成功
2016年7月27日 14:30
東北大学は、同大学 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)が、東京大学 大学院理学系研究科、京都工芸繊維大学、東北大学 大学院工学研究科などとの共同研究の結果、垂直磁化マンガン系合金ナノ薄膜を用いたトンネル磁気抵抗(TMR)素子の開発に成功したと発表した。
TMR素子を1bit記憶素子とする「不揮発性磁気抵抗メモリ(MRAM)」は、磁化(スピン)の方向を0/1の情報として見なすことで情報を保持するメモリで、不揮発性でありながら、DRAMクラスの記憶容量とSRAMクラスの高速性能を両立できるとされる。
現在最先端のMRAMでは、1~3nmの厚みの垂直磁化膜をTMR素子の電極として用いた、垂直磁化TMR素子を記憶素子として利用しており、記憶容量の増大は素子サイズの小型化によって実現される。Gigabitクラスの容量を実現できるMRAMのTMR素子直径はおよそ20~30nmとなり、材料としてコバルトと鉄の合金にホウ素が添加されたコバルト鉄合金などが用いられているという。
しかし、素子の直径が10~20nmとなるGigabitを超える容量のMRAMを実現するには、情報を保持する能力を高めるため、より大きな垂直磁気異方性(磁性体薄膜の面に垂直に磁化を安定化する力)を持った垂直磁化膜材料が必要となる。
加えて、MRAMは磁化を反転させることでbitを書き換えるため、書き込みに必要となる電流は、磁性材料の磁気摩擦係数(磁気反転の際に磁化に作用する摩擦係数)に比例して増大するため、磁気摩擦の小さい特殊な垂直磁化膜が必要となる。
東北大学 AIMRの研究グループは、2011年にマンガンおよびガリウム元素を組み合わせた合金が、高垂直磁気異方性と低磁気摩擦を兼備した材料であることを発見し、マンガンガリウムの「ナノ薄膜」を有する垂直磁化TMR素子の研究を行なっていたが、作製技術の開発が課題となっていたという。
特性の優れたマンガンガリウム合金ナノ薄膜の作製には、原子を規則的に配列させるため、数百℃の高温で薄膜を加熱するプロセスが不可欠だが、ナノ薄膜に高温加熱プロセスを用いると、下地材料とマンガンガリウム合金ナノ薄膜の間で原子拡散が生じ、素子作製が困難だった。
しかし今回、研究チームは、非磁性コバルトガリウム合金を下地材料として用いることで、加熱プロセスなしに原子が規則的かつ周期的に配列したマンガンガリウム合金ナノ薄膜が作製できることを実証したという。
マンガンガリウム合金ナノ薄膜の上部には、ガリウム原子を介して酸化マグネシウムトンネル障壁層が成長し、高品質なTMR素子が形成されていたが、これはガリウム原子が、マンガンガリウム合金とコバルトガリウム合金の界面で、両者を上手く結合することによるものと考えられるという。
開発した素子は、上部の磁性体層と下部のマンガンガリウム層の磁化の配列に依存したTMR効果を室温で発現することが確認され、また、磁化を傾けるために4テスラ以上の磁場が必要なため、次世代のGigabitを超える容量のSTT-MRAMに対応できる、高い垂直磁気異方性を有しているとする。
コバルトガリウムとマンガンガリウムは、各々の固有の結晶格子の大きさが僅かに異なる材料であり、マンガンガリウムナノ薄膜の結晶格子は、その違いを補うように歪んでいることが観測されたという。計算科学の手法から、そのように歪んだマンガンガリウム合金ナノ薄膜は巨大なTMR効果を発現することが示唆されており、実際の素子においても、酸化マグネシウムとの界面における元素の種類を制御し、マンガンガリウムの結晶性を改善することで、理論的に予測される巨大なTMR効果が発現する素子を開発できると期待されるとする。
今後は、本研究で開発された素子の研究をさらに高度化し、実用に資する素子の実現、Gigabitを超える記憶容量を有するSTT-MRAMの実用化に繋げていくほか、スピン軌道書き込み(SOT)を用いた超高速なSOT-MRAM、電圧書き込み(VC)を用いた超低消費電力のVC-MRAMなど、最先端の書き込み技術を用いたMRAMの開発への貢献、本研究で明らかとなったマンガンガリウム合金ナノ薄膜TMR素子の作製技術を、そのほかのマンガン系合金薄膜を用いた素子にも応用することで、材料科学の学術的な発展に貢献するとしている。
本研究は内閣府革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の一環として、世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)などの支援を受け行なわれたもので、研究内容は7月26日(英国時間)、「Scientific Reports」誌へ掲載される予定。