笠原一輝のユビキタス情報局

かつてVAIO Pで協業した日本通信とVAIO。両社にVAIOスマホの狙いを訊く

日本通信株式会社代表取締役副社長兼COOの福田尚久氏(左)、VAIO株式会社執行役員マーケティング・セールス/商品企画担当の花里隆志氏(右)。2人の間にあるのは、かつて両社が協業したVAIO P(2010年型)

 2014年12月の下旬に、やや唐突な感じにアナウンスされた日本通信株式会社とVAIO株式会社のスマートフォンに関する提携(別記事参照)に関しては、年末のニュースの少ない時期だったことを差し引いても、Windows PCの世界で、これまで数々の尖った製品をリリースしてきたVAIOが絡むスマートフォンだと言うこともあって、かなり大きな話題となった。

 今回、このプロジェクトの主役となる日本通信株式会社の代表取締役 副社長兼COO 福田尚久氏と、VAIO株式会社の執行役員 マーケティング・セールス/商品企画担当 花里隆志氏に経緯などを伺ってきた。

 そこからは、“格安スマートフォンにはないクオリティのデザインを備えるVAIOデザインのスマートフォン”という、SIMロックフリースマートフォン市場に一石を投じる新しい形のスマートフォンビジネスを目指す両社の思惑が見えてきた。

VAIO P時代の提携から綿々と続いてた関係が今の時代に花開く

VAIO P

−−12月25日の発表で、いきなりVAIOのスマートフォンということで、VAIOからはまずは新デザインのPCが出るであろうと思っていたユーザーからすれば、度肝を抜かれました。そもそもこの話が出た発端は何なのでしょうか。

【花里】VAIOに詳しい方にはご存じの方がいらっしゃるかもしれないのですが、両社の協業というのはソニーVAIO時代の2010年に遡ります。当時「VAIO P」(筆者注:VAIO type Pの第2世代モデル、この世代からtype表記がなくなってVAIO Pになった)の2010年春モデルの時に、日本通信さんのSIMをバンドルするという協業を行ないました。その後、我々がソニーから分離して独立した時に、日本通信さん含め、さまざまな企業の方から協業しましょうという有り難いお申し出を頂き、具体的な話が進展していったというのが経緯になります。

【福田】VAIO Pの時の提携というのは色々な意味で今の先駆けになったものでした。当時のワイヤレスWANというのは、PCを買ってからドコモショップへ行って契約という面倒な仕組みでしたが、弊社がVAIO Pにバンドルさせて頂いた「もしもしDoccica」は、最大6カ月間360分の無料通信権が付属しており、回線開通は電話1本で済ませられるという、買ったらすぐ使えるというモデルを実現したのです。

 また、今でこそMVNOのSIMに050番号のIP電話が付くというのは当たり前になりつつありますが、VAIO PにIP電話を入れたのは斬新でしたし、Wi-Fiのホットスポットを含めて付属しているツールで最適な回線に常時接続できるような環境を実現してのも画期的だったと自負しています。

 そうした提携の時代があって、VAIOさんがソニーから独立したときに何か一緒にできないかとお話をさせて頂きました。ご存じの通り日本通信は、MVNOとしてMNOに比べて安価なSIMカードの提供を実現しています。しかし、そこにはある程度の限界もあります。というのはSIMカードを買って自力で設定までできる人ばかりではないからです。格安のSIMカードの魅力を伝えるため、イオンさんと組んでNexus 4とセットにして格安スマートフォンとして提供する仕組みを作り、それが大成功を収めました。

 次の段階として、2015年にはSIMロック解除の義務化が決まっており、2015年はSIMロックフリー端末の市場が活性化するという見通しがありました。ただし、そこにも魅力的な端末が必要だろうということで、VAIOさんとお話をさせて頂きました。それが日本通信側の考え方です。ちょうどVAIOさんもソニーさんから独立されて、小回りが効く体制になられたので、手を組んでやっていきたいと考えたのです。

−−VAIO Pの時などの提携がきっかけで、今回のスマートフォンでの提携になったんですね

【花里】弊社を立ち上げる時、新聞広告で“自由だ変えよう”というメッセージを打ち出させて頂きました。我々の中では変えようというのは別にPCに限っているわけではないという想いもありました。ではどういう風に変えていけばいいのか。スマートフォンも1つの可能性ですが、弊社がただ普通にスマートフォンを出すだけじゃ面白くない。そうではない何かと組み合わせるて面白いことができないか、それが日本通信さんとの提携だったのです。

【福田】弊社にとっても、今の格安スマートフォンというのは、海外で作った製品を日本にそのまま持ってきて売っているだけではないのか、という自問がありました。日本のお客様に対して、設計の段階から関わることで、もっといいものが提供できるのではないか、そこにチャンスがあるのではないかと考えていたのです。

VAIO株式会社設立会見のスライドより

SIMロックフリー端末市場にはなかった、ど真ん中を狙うデザイン重視の製品

−−両社の関係がずっと続いてきたのはよく分かりましたが、具体的にはいつ頃から開発をはじめたのでしょうか。

【花里】ご存じの通り、弊社が立ち上がったのが2014年7月1日で、話が出たのもそれ以降です。そして暑い最中に話をまとめていって、双方が商品のある程度のイメージを共有できたのが、10月ぐらいだったと思います。以前のソニー時代のVAIOだったら、とても実現できないタイムフレームですが、小さな会社になったのだからもっと足軽にできるだろうと、迅速さを心掛けた結果この短い時間でここまでこぎ着けることができました。

 この製品でも、VAIOらしさというのは何なのだろうかという議論をしました。例えば「VAIO Z」やVAIO Pのようにスペック的に尖った製品はVAIOの象徴でもありますが、今回のスマートフォンに関しては違う方向性を探りました。最終的に、今回の製品でVAIOらしさとしてこだわっている部分はデザインになります。これならVAIOスマートフォンを名乗るのに十分満足できるという製品に仕上がっています。

【福田】私個人としても、昔からVAIOのデザインは大好きでしたので、デザインに関してはVAIOさんに完全にお任せしました。

 我々の視点で言うと、デザインはスマートフォン市場では既に最も重要と言ってよい差別化ポイントになっていると考えています。ハードウェアメーカーはどうしても機能面で差別化をしたがる傾向があります。ですが、実際にはその機能はあまり使われていなかったりします。それよりも、万人が使う機能に力を入れて、加えて格好良い、見た目がいい、そういうスマートフォンって実はあまり多くないと思っています。一番それに近いと思われるのはAppleのiPhoneでしょうか。

 我々の側からすると、既に述べたようにSIMロック解除の義務化が今年(2015年)のテーマであると考えているので、安価なSIMロックフリーのスマートフォンにも格好良い機種が必要だと考えていました。PC市場だと、低価格な製品から、ミドルレンジの大手PCメーカーの製品、そしてVAIOやAppleのようなハイエンド製品まで上から下まで揃っています。ですが、現在のSIMロックフリースマートフォンの市場を見ていくと、格安と言われるスマートフォンかiPhoneしかないんです。この間を埋める製品というのがほとんどない。ここのど真ん中がすっぽり空いている。そこを埋めることができる製品が欲しい。それが弊社のシンプルな要求でした。女性が持っても、男性が持っても、若い人が持っても、高齢の方が持ってもしっくり来る製品が欲しいと考えたのです。

 モバイルPCもそうだと思うのですが、持ち運ぶモノだから人に見せびらかしたくなるところってあると思うんです。でも、今のスマートフォンは、ケースでごまかしてしまうようなところがあると思うんです。すでに実際にできた製品を見せてもらいましたが、手に持ったときのフィット感はいいし、格好良いデザインに仕上がっています。

−−おっしゃる通りSIMロックフリー市場が今後大きくなり、そこにミドルレンジの製品が必要になるというは道理です。他の日本のメーカーはなぜそれをやらないのでしょうか。

【福田】これまでも国内の端末メーカーともお話をさせていたのですが、なかなか決まらなかったというのが本当のところです。もしどこかがSIMロックフリーの端末を出していたら圧倒的なシェアをとっていたと思うんです。まぁ我々のVAIOスマートフォンのために市場をとっておいてくれたと思うことにしますが(笑)。

 ですが、VAIOさんはそこを非常に迅速に決断してくれて、今回のプロジェクトにこぎ着けることができました。我が社もベンチャーの小さな会社ですが、そうした小さな会社同士だからできることがあるし、チャレンジ精神でやれているということはあると思います。

−−そのVAIOデザインの端末ですがどのような製品になるのでしょうか。

【花里】言うまでもないことですが、ウルトラCはありません。ハードウェアのスペック的にはど真ん中を狙っていく形で、どちらかと言えばデザインを重視する製品となります。たたずまいがシンプルで美しく、持ちやすさを追求したデザインになっています。

−−OSはもちろんAndroidですよね。

【花里】申し訳ありませんが、現時点では非公表とさせていただけますでしょうか。1つだけ言えるのは、弊社としてはビジネス方面にも力を入れていくというビジョンでやっていますので、ある1つのOSに縛られるということはないです。B2Bで使われることも意識していきたいと思っているので、将来的にはさまざまなOSの可能性があると考えています。

流通販路は日本通信が用意

−−VAIOがスマートフォンビジネスを始める場合、現在でも5%の株主でもあるソニーの意向は無視できないと思います。ソニーは子会社のソニーモバイルで「Xperia」ブランドのビジネスを展開しています。その辺りの調整はいかがだったのでしょうか。

【花里】VAIOブランドの商標は、現在でもソニー株式会社の所有ですので、今回日本通信さんとスマートフォンのビジネスを始めるにあたり申し入れを行ない、ソニーから快諾を頂いております。

−−なるほど。今回の製品は、日本通信の流通網を使って販売されるという理解で良いのでしょうか。その場合は「b-mobile」ブランドの製品が扱われている流通網(例えばAmazonや量販店など)で扱われるということになるのでしょうか?

【福田】基本的には弊社の流通網を使って取り扱います。弊社ではメジャーな新製品は、どの流通網を利用して販売するかはゼロから考えています。今回の製品は全くの新製品になるので、どのような形でどのようなサービスで提供するのかを一体的に考えており、流通網に関しては現在調整中で、今まさに大詰めを迎えているところです。それが決まり次第発表、発売する予定です。

 スマートフォンと通信の総計価格で見たら、ドコモ、au、ソフトバンクのMNO 3社に比べてかなり安くしていきたいです。このため、VAIOスマートフォン専用の通信サービスを作る予定です。というのも、現在スマートフォンはMNO 3社が端末の料金込みで売っており、端末の価格というのはあってないようなものになってしまっています。そこで、そうした製品を買っていた人の移行を促す意味でもトータルの金額をかなり安くしたいのです。

 実際、弊社がイオンさんと販売したNexus 4も、端末単体ではなくサービスとセットで24回分割払いにしています。そう設定した結果、端末単体+サービスよりも広くお客様に受け入れて頂いています。当たり前な話しなんですが、お客様が比較する対象はMNOの3キャリアなんです。そこと比べて圧倒的に安いことが分かれば受け入れて頂けるのです。今回の製品はそうしたユーザー層のお客様に買って頂きたい製品なのです。

−−愚問だと分かっていて訊きますが、もちろんSIMロックフリーですよね。

【福田】もちろんSIMロックフリーで提供します。SIMロック解除のガイドラインの議論の中でも分割払いの間はSIMロックをしていいとか、よくないとか議論がされているようです。通信事業者からすれば確実に回収したいという思惑があってそういう議論をしているのだと思いますが、例えロックしても回収率が100%になることなんてないですし、これまでの弊社の経験でもビジネス的に成り立たないような率になっているのかと言えばそんなことはないのです。弊社の心意気として、SIMロックフリーで分割払いは成り立つんだということを他のキャリアの皆様にもお示ししたいという想いもあります。

 正直難しいのは、お客様に選択肢を提供することができるのかという点です。例えば、分割だけでなく、一括支払いで欲しいお客様にも選択肢を用意するとなると、弊社側のオペレーションが複雑になり、結果コストアップに繋がってしまうという側面があり、正直当初からそういう選択肢を用意するというのは厳しいと考えています。もちろん、そういうニーズがあることは理解しています。

製品のデザインとパッケージング、ブランドがVAIOの担当

−−一緒に進められてきたようですが、ブランドはVAIOという理解でよろしいのでしょうか。

【花里】VAIOとしてのデザインやブランド、商品構成としてのパッケージングをやっていますが、日本通信さんにお任せする部分もあり、従来のメーカーと通信サービス会社という建付けとは全く違うんです。

【福田】今回のようなケースはまだ、どこもやっていないと思います。やらないといけないことをToDoリストをつくり、これはどっちでやる、あるいは両方でやる、っていうイメージです。製品としてはVAIOのブランドで、日本通信の文字は前面に出てきません。

−−それは面白い形ですね、これまで日本のMNOキャリアは、メーカーの製品を自社ブランドで売るということを一生懸命やってきたわけですが、日本通信はそれと違うことをやっていくというのは面白いですね。

【福田】その辺りはある程度カオスでいいんじゃないかと思っているのです。というのも、今回の契約にあたって法務としては当然の疑問として、デザインを変更する場合にはどっちが最終決定権があるのか、という質問をしてくるのです。私は「そんなの気にするなと、夫婦で子供の教育方針を決める時に、どっちに決定権があるかなんて決めたら成り立たないだろう」と言ってやりました。そんな感じでいいと思うんですよ、大事なことは、お互い小さな会社同士が面白いことをやろうとしている、それでいいじゃないかと。

 理詰めで行くと成り立たなくなると思うんです。このプロジェクトを始めたことで、日本通信の側にも新しい可能性が出てくるだろうし、VAIOさんにも新しい可能性が出てくる、お互いがいろんな組み合わせでやっていくと、ユーザーさんからしたら、新しいものが、いろんなところから出てきて、ワクワクすると思うんです。

−−確かに新しい会社が立ち上がるとき、新しい市場が立ち上がるときにはある程度のカオスが必要だと私も思います。

【花里】私たちがソニー時代にVAIOを作り始めた時もカオスだったんですよね(笑)。今だから笑い話ですけど、VAIOを日本でも出荷し始めた頃、メモリ32MB欲しいという販売店のニーズに対して、我々が企画した製品は16MBでした。そこで、私たち自身で、倉庫に出かけていって空いているメモリスロットに16MB挿して出荷したなんていうこともありました(笑)。

 それも後日談があって、今度はそれを販売店に持って行ったら、1スロット32MBじゃなきゃダメだって言われてまた振り出しに戻る、みたいなことをやってました。そういう時代を経て、皆さんに受け入れて頂いてVAIOのブランドができあがって行きました。それが新会社になってまた、新しい方向性を見つけて行かないといけない、今はそういう段階にあるんだと思っています。

−−今後このスマートフォンの動きがタブレットなど別の製品に発展していくことはあるのでしょうか。

【花里】弊社としてはハードウェアと通信融合ということは今後もどんどんと広げていきたいと考えています。既に日本通信さんとも今後の広がりを含めてお話させて頂いてますし、ぜひご期待頂ければと思います。

【福田】今やPCもそうだと思いますが、既に通信がないと何もできない時代になっています。ですので、通信事業者とハードウェアメーカー、しかもまだまだ小さな2社が協業して何ができるのかというのが重要だと思うんです。VAIOの皆さんと一緒になってやれることは沢山あって、基本編があり、応用編があり、尖った編があるかもしれない。そういったことを提案していきたいです。

 もう1つ大事なことは、今スマートフォンの買い方、流通方法が大きく変わりつつあると我々は認識しています。その中で、現在のMNOキャリアがやっているような、スマートフォンだ、PCだ、タブレットだと区別して販売する意味はないと思うんです。もしかしたら将来的には我々がVAIOさんのPCにSIMカードを入れて法人向けに販売してもいいかもしれないですし、いろいろな可能性が考えられる。これから私たちが発表するVAIOスマートフォンはまさにその第一歩になるのではないかと期待しています。

最初のVAIOスマートフォンはメインストリーム向けのデザイン重視

 今回のインタビューで非常に印象的だったのは、VAIOと日本通信が目指しているところが、格安スマートフォンと言われるような安価なSIMロックフリースマートフォンと、iPhoneなどのハイエンドスマートフォンの間を埋めるSIMロックフリーのスマートフォンが、日本市場にはほとんどないという福田氏の指摘だ。

 確かにその通りで、PCで言えば、10万円台のVAIOやMacと、3〜5万円の格安ノートPCはあるが、間を埋める5〜10万円のメインストリーム向けのPCが少ないという状況が発生している。VAIOと日本通信が販売するスマートフォンはそのメインストリーム向けの市場を埋めるような商品になると、福田氏は明言している。要するにハードウェアのスペックとしてはものすごく尖ったモノというよりは一般的だけど、デザインが良く、市場の大多数を占める一般のユーザーにターゲットを絞った製品になるのだろう。

 いずれにせよ、VAIOにとっても、日本通信にとっても、今回の協業の形はまさに新しい挑戦と言っていい。それが成功すれば、次の段階として、既存のVAIO PCユーザーが欲しがるようなハイエンドなスマートフォンという展開があってもいいだろうし、VAIOの花里氏がいうようなB2B向けのOS(もしかしたらそれはWindows 10 for phones and tabletsかもしれない)を搭載したビジネス向けのスマートフォンという展開だってあってもいい。その意味で、今後の展開が非常に楽しみだ。

 なお、このインタビュー時点では、具体的な製品や発表時期に関しては何も開示されなかった。しかし、2014年12月の発表時点で「来月にも投入」とあった。1月30日には日本通信の四半期決算の説明会が計画されており、そこでなんらかのアナウンスがある可能性は高い。そこに注目したいところだ。

(笠原 一輝)