笠原一輝のユビキタス情報局

クラムシェルとタブレットの境界をなくす未来のUltrabook

 「第4世代Coreプロセッサを搭載したUltrabookではタッチ機能の搭載が必須になる」。Intel 副社長兼PCクライアント事業本部 本部長のカーク・スコーゲン氏は、2013 International CESの記者会見でこう宣言した。同時に「2013年の末にはタッチ搭載のUltrabookの価格帯を599ドルのレンジに持ってくる」と、普及価格帯へと持って行きたいという意向も表明した。

 そこから透けて見えるのは、IntelがUltrabookのヒューマンインターフェイスを大幅に作り替えることで、単なる薄型ノートPCという捉えられ方から脱却して、新しいカテゴリの製品として成立させたいという意思だ。本記事では第3四半期以降に登場するHaswell搭載のUltrabookやタブレットがどのような姿をしているのか、予測してみたい。

Haswell世代のUltrabookではタッチ機能が標準搭載される

 Haswell搭載Ultrabookではタッチ機能が必須になるということについて、驚きを感じた人も多いだろう。というのも、多くのユーザーにとってタッチというのは、タブレット形状では必須な機能だが、クラムシェル型ノートPCでは必要がないと思っているからだ。

 ではIntelはなぜ、クラムシェル型が大多数を占めるUltrabookでタッチ機能を必須とするのだろうか。Intel PCクライアント事業本部 Ultrabook製品課長 アナンド・ラクシャマナン氏は「2012年頃からOEMメーカー、Microsoft、デバイスベンダーなどと話を続けてきて、Modern UIを利用できるWindows 8では明確にタッチが必要だという結論に至った」と説明する。

LenovoのIdeaPad Yoga 11Sを手にもってタッチのメリットをアピールするIntel 副社長兼PCクライアント事業本部 本部長のカーク・スコーゲン氏。タッチ機能をHaswell世代のUltrabookの要件にすると発表した
スコーゲン氏はタッチ機能を標準搭載することでタッチ搭載Ultrabookの価格をメインストリームにしていくと表明

 Windows 8は従来のデスクトップ環境であるクラシックUIと、Metoro UIまたはModern UIと呼ばれることが多い新しいUIの2つのモードを備えている。Windows 8が起動した時に新しいUIが起動し、従来のデスクトップに切り替えるには、新しいUIから「デスクトップ」を選んでデスクトップモードに切り換える必要がある。仮にユーザーがクラシックUIのアプリケーションを使うなら、キーボードやマウスで操作するのが最も快適だ。しかし、Microsoftはソフトウェア開発者に対して、新しいUIを使うWindows Storeアプリへの移行を推奨しており、今後は新しいUIを利用する機会が増えると考えられる。

 新しいUIでは、“タッチもあったほうが便利”というよりむしろ、“タッチ機能がないと不便”である。実際新しいUIを使ったことがあれば実感できると思うが、タッチができないこととさまざまな制約を受ける。今後Windows Storeアプリが増えていき、ユーザーが新しいUIを操作するシーンが増えた時、クラムシェル型でもタッチ機能が欲しくなるだろう。

 これまでもタッチ機能を搭載したクラムシェル型のUltrabookはあった。レノボの「IdeaPad Yoga 13」やパナソニックの「Let'snote CF-AX2」など、いわゆるコンバーチブル型のノートPCがその代表だが、それらの製品は10万円を超えるプレミアム性の高い製品だった。その原因の1つが、タッチ機能の実装にかかるコストと言えるだろう。

 そこで、IntelはタッチをUltrabookの標準機能とし、コンポーネントの大量生産を促進することで追加コストを下げ、プレミアム価格帯の製品だけでなく、599ドルなどの普及価格帯のUltrabookにも実装できるようにする。

Haswell世代のUltrabook要件

 それでは、それ以外のHaswell世代のUltrabookの要件はどうなっているのだろうか。ラクシャマナン氏は「我々は現行製品で用いてきた要件を次の世代にも適用していく。現時点では詳細に関してはお話しすることはできないが、Sandy Bridge、Ivy Bridge、そしてHaswellと、世代ごとにUltrabookの要件を向上させることでよりよいユーザー体験を提供していきたい」と述べ、HaswellではIvy Bridgeに比べて要件を増やしたことを示唆した。

 OEMメーカー筋の情報によれば、現時点でIntelがOEMメーカーに対して説明しているHaswell世代のUltrabook要件は以下のようになっているという

【表1】Haswell世代のUltrabook要件(筆者予想)
プラットフォーム Huron River Chief River Shark Bay
プロセッサ Sandy Bridge 17W Ivy Bridge/Sandy Bridge 17W Haswell(U/Yプロセッサ)
厚さ 14型以上:21mm以下 13型未満:18mm以下 14型以上:21mm以下 13型未満:18mm以下 (コンバーチブルは+2mm) 13型未満:15mm以下
バッテリ駆動時間 5時間 5時間 8時間
スタンバイ - - Always Fresh Data+7日間スタンバイ
ヒューマンインターフェース - - タッチ
応答性 S4からの復帰が7秒以下 S4からの復帰が7秒以下+PCMark Vantage HDDベンチで必要以上のスコア S3/S4からの高速復帰
センサー - - コンバーチブルは必須
ワイヤレス Wi-Fi Wi-Fi Wi-Fi(11n、2x2)+WiDi
I/O - USB 3.0 ないしはUSB 3.0/Thunderbolt USB 3.0 ないしはUSB 3.0/Thunderbolt
推奨 バッテリ駆動8時間 バッテリ駆動8時間、SSD、WiDi、各種センサー Connected Standby、フルHD、SSD、ワイヤレスWAN、音声認識、顔認識、vPro(企業向け)

 現時点では厚さの規定に関しては明確な情報を得られなかったが、現状14型未満は18mm以下となっているものが、15mm以下になるという。

 大きな変更は、タッチ機能が入ること、バッテリ駆動時間が従来の5時間から8時間に変更されること(MobileMark 2007)、スタンバイ時の要件として「Always Fresh Data」をサポートしつつ7日間スリープのまま動作しなければならない点だ。

 なお、Always Fresh Dataはその名の通り、「Intel Smart Connect Technology」と呼ばれるIvy Bridgeでもサポートされている機能の発展版で、スケジュールされた時間にスリープを解除してメールやSNSのアップデート情報などを更新しておくことで、ユーザーがPCを使い始めようとした時に、常に最新になった状態にする機能である。

ナチュラルインターフェイスへ向かうIntel

 IntelがこのようにUltrabookの要件を進化させようとするのは、Haswell世代こそがUltrabookの本命だと考えているからだ。ラクシャマナン氏は「Ultrabookの進化は今後も続いていく。Ultrabookに特化して開発したプロセッサになる、それにあわせて多数の革新的なデザインが市場に登場するだろう」と述べた。つまりHaswellのSoC版で消費電力を下げ、Ultrabook市場を促進する方針である。

 Intelのそうした方針は、記者会見や展示でも明確に見て取れる。記者会見でスコーゲン氏が紹介した現行世代Ultrabookは1つの例外を除き、すべてがタッチ対応のUltrabookだった(ちなみに例外は15.6型液晶搭載で世界最薄の「LaVie X」)。同じくブースで紹介しているUltrabookもコンバーチブルかタッチ対応の製品ばかりで、タッチに対応していない通常のUltrabookはなかった。

 また、IntelはPerceptual Computing(知覚コンピューティング)というビジョンを昨年のIDFで公開し、さまざまな取り組みを発表したが、CESの記者会見でも同じデモを繰り返した。今回の記者会見ではPCに内蔵されたカメラで人間の瞳の動きをモニターし、その瞳の動きでページめくりを行なうことをデモした。

 Intelは2012年以来、音声認識、顔認識やジェスチャーなど、ナチュラルインターフェイスをUltrabookに取り入れることを盛んにアピールしているが、今後もそうした開発を積極的に行なっていくつもりで、すでに専門の事業部まで設立している。その事業部は2012年までPCクライアント事業本部の事業部長を務め、現在はイスラエルIntelの社長を務めているムーリー・イーデン氏が率いているが、彼はイスラエルのハイファでBroadwellの後継となるSkylakeの開発を進めるIntelのプロセッサ開発チームも統括している。その世代には、ハードウェアの機能としてそれらのPerceptual Computingの機能が実装されていく可能性もあり、今後も注目していきたい動向だ。

International CESでのIntelブースではこのようにタッチ搭載Ultrabookや、コンバーチブル型のUltrabookにフォーカスされた展示が行なわれた
Intelブースで行なわれていたジェスチャーでのPC操作のデモ
Intelの記者会見での知覚コンピューティングのデモ。視線を動かすとページをめくることができた
同じくIntelの記者会見での知覚コンピューティングのデモ。手の動きをPCが認識して、操作をできる

タッチでノートPCとタブレットの境界はますます曖昧に

 Intelが目指しているUltrabookの姿は、もはや単に薄く軽いノートブックPC、もっとわかりやすく言えば、「MacBook Air」のWindows版という位置付けではなくなってきていると思う。Ultrabookで目指しているのは、彼らが言うところの「PCの再発明(Re-inventing the PC)」であり、新しいタイプのデバイスだ。そこにはノートPCの市場ごと移り変えていきたい意向がある。

 CESの主催者が開催した説明会で、アナリストは「2013年はタブレットがさらに活気づき、クラムシェルノートは成長しないだろう」と予測していた。しかし、IntelがCESでデモしたHaswell搭載“タブレット”は、キーボードドックをつけるとそのまま“クラムシェル”になる。こうした製品をタブレットに分類するのか、それともノートPCに分類するのかは難しい。おそらく、今後ノートPC、タブレットという分類は意味を失い、1つの市場として捉えていかなければいけなくなるだろう。

IntelがCESの記者会見で公開したHaswell搭載Ultrabookのリファレンスデザイン「North Cape」を公開した。13型液晶を搭載しながら、10mm厚、850g、10時間バッテリ駆動のタブレットでもあり、キーボードドックにドッキングすると13時間駆動が可能なクラムシェル型ノートPCでもある

(笠原 一輝)