■多和田新也のニューアイテム診断室■
2008~2009年にかけて登場したAtomプラットフォームは、自作ユーザーにとっても低消費電力/省スペースなPC向けプラットフォームの選択肢として存在感を発揮をした。2009年12月21日にIntelが発表した、後継プラットフォームのマザーボードも新年早々から発売されている。遅ればせながら、その性能をチェックしてみたい。
●2チップのプラットフォーム「PineTrail」【写真1】PineViewことAtom D510プロセッサ。デュアルコアCPU、GPU、メモリコントローラを一つのダイに統合している |
まずは簡単に新Atomの特徴をおさらいしておきたい。新AtomはPineViewのコードネームで開発されたCPUだ。この製品のポイントは、デュアルコアのCPUコア部とメモリコントローラ、グラフィックスコアを1つのダイにしたことにある(写真1)。今月初めに発表されたCore i5/3シリーズ(Clarkdale)も、この3つの機能を1つのCPUパッケージに収めたが、ClarkdaleはCPUコアと、GPUコア+メモリコントローラの2つのダイに分かれており、Pineviewの方が統合が進んでいる。
ただし、マイクロアーキテクチャレベルではほとんど違いがない。イン・オーダー型のAtomアーキテクチャをベースに、Hyper-Threadingを有効化した仕様だ。キャッシュ構成も同じで、L2キャッシュは512KBとなる。
グラフィックスコアも旧Atomプラットフォームで使われていたIntel 945GC Express内蔵のIntel GMA950と同等のDirectX 9対応のもの。むしろデジタルディスプレイ出力がカットされている。動作クロックは400MHzで、これは旧プラットフォームと同じだ。
CPUはシングルコアのAtom D410と、デュアルコアのAtom D510がラインナップされており、動作クロックはいずれも1.66GHz。TDPは前者が7W、後者が12Wとなる。1.66GHzという動作クロックは、モバイル向けの旧Atom製品であるN280と同じクロックであるが、デスクトップ向けの旧AtomはシングルコアのAtom 230とデュアルコアのAtom 330の2製品で、いずれも1.6GHz動作。ことデスクトップ向け製品だけで見れば、動作クロックは微増したと考えて良いだろう。
メモリコントローラも依然としてシングルチャネル動作となるが、旧AtomがDDR2-667対応だったのに対して、DDR2-800を正式にサポート。ちなみに内部的には、DDR2-667はホストのベースクロックである166MHzからメモリクロックを生成するのに対して、DDR2-800で使用する際はメモリ用のPLLからメモリクロックを生成するという動きをする。メモリ容量も2GBから4GBに引き上げられている。
チップセットはIntel NM10 Expressが用いられるが、これはTigerPointの開発コードネームを持つ1チップ・チップセットとなる(写真2)。従来のサウスブリッジに相当する機能だけを持っており、PineViewコアのAtomとTigerPointをDMIで接続する2チップ構成のプラットフォームとなる(図1)。このプラットフォームが「PineTrail」(コードネーム)だ。
【写真2】TigerPointことIntel NM10 Expressチップセット。サウスブリッジに相当する機能を提供する | 【図1】Intelのデータシートより抜粋した、PineView+TigerPoint環境、つまりPineTrailプラットフォームのブロックダイヤグラム |
Intel NM10はICH7に近く、SATA×2ポート、USB 2.0×8ポート、100BASE-TX対応LAN MAC、PCI Express×4レーン(x4×1基またはx1×4基)といった仕様になる。ただしPATA(IDE)はサポートを外されており、利用にはコントローラの実装が必要になってしまう。搭載製品のセグメントを考えると、コスト高に繋がる要因は少しでも排除されるべきで、IDE対応の新Atom製品は少なくなると見られる。
今回テストするのは、Intel純正のAtom D510搭載製品「D510MO」である(写真3)。型番からも分かるとおり、デュアルコアのAtom D510をオンボード搭載した製品だ。比較には、同じくデュアルコアのAtom 330を搭載した「D945GCLF2」を用意した(写真4)。
まず目に留まるのは大型のファンレスヒートシンクである。Intel NM10チップセット(TigerPoint)はヒートシンクレスになっており、このヒートシンクはCPU専任クーラーということになる。D945GCLF2はチップセット側にファンを備えていたので、ファンレス環境になったことを望ましく思う向きはあるだろう。ただし、ヒートシンクはD945GCLF2に比べて丈があるものとなっているので、小型ケースに収めるときに注意が必要となる(写真5)。
I/Oリアパネル部は写真6に示したとおり。拡張スロットはPCI×1のほか、PCI Express Mini Cardスロットを1基備えている(写真6)。
●両製品をベンチマークで比較
それではベンチマーク結果を紹介する。テスト環境は表に示したとおり。D945GCLF2が最大2GBまでしか利用できないので、メモリ容量を2GBに揃えている。OSも32bitにした。
メモリについて補足すると、ここでは同じモジュールを使ってテストしたのだが、使用したDDR2-800モジュールがDDR2-667のSPDを持っていなかった。そのため、D945GCLF2環境はDDR2-533動作となってしまっている(手動での変更もできなかった)。
CPU | Atom D510 | Atom 330 |
チップセット | Intel NM10 | Intel 945GC+ICH7 |
マザーボード | Intel D510MO | Intel D945GCLF2 |
メモリ | DDR2-800(2GB×1/5-5-5-18) | DDR2-533(2GB/4-4-4-12) |
グラフィックス機能 (ドライバ) | チップセット内蔵 (Version. 15.12.75.50.2.2023) | チップセット内蔵 (Version. 15.12.75.4.1930) |
ストレージ | Seagete Barracuda 7200.12(ST3500418AS) | |
電源 | ZUMAX ZU-650-B-KA | |
OS | Windows 7 Ultimate x86 |
まずは、CPUとメモリ周りの性能をチェックしておきたい。テストは、Sandra 2010aのProcessor Arithmetic/Processor Multi-Media Benchmark(グラフ1)、PassMark Performance Test 7のCPU Test(グラフ2)、PCMark05のCPU Test(グラフ3~4)、Sandra 2010aのCache & Memory Benchmark(グラフ5)と、PCMark05のMemory Latency Test(グラフ6)である。
CPUの演算周りについては、1.66GHzと1.6GHzの比に近いか、ややAtom D510がこの比率を上回る結果を見せており、クロック以上の良い性能を出している印象を受ける。とくにPassMarkやPCMarkに含まれる実使用を想定したCPUテストでより良い結果が出る傾向が見られる。
メモリ性能はキャッシュについては動作クロックの影響でAtom D510が良好。メインメモリへのアクセスはDDR2-800対DDR2-533ということで、当然DDR2-800を使用するD510MO環境が良好である。メモリレイテンシも良好な傾向が出ており、このあたりにはメモリコントローラを統合したメリットが見られる。
続いては実際のアプリケーションを用いたテストである。SYSmark 2007 Preview(グラフ7)、PCMark Vantage(グラフ8)、CineBench R10(グラフ9)、ProShow Gold(グラフ10)、動画エンコード(グラフ11)、SD動画再生時のCPU使用率(グラフ12)、3DMark06(グラフ13、14)、3DMark05(グラフ15)、FINAL FANTASY XI for Windows - Vana'diel Bench 3(グラフ16)である。
CPUもメモリも速い新Atom環境が、すべてのテスト結果で旧Atom環境を上回るという、良い意味で面白みのない結果が出た。ただ、結果を細かく見てみると、その差は5~10%程度、10%を超えるところも少なくない。つまり、メモリ速度との相乗効果もあって、クロックの数字より性能が上がっている。もっとも、絶対的なスコアは低く、PentiumやCoreブランドの製品と比べてどうか、という話ではなく、あくまでAtomブランドの製品としては良くなったという話である。
3D性能についても、微増といったところである。CPUに関わる影響が少ないテストにおいてもスコアが伸びているのは、メモリアクセス速度が改善されたからだろう。こちらも絶対的なスコアはAtomプラットフォーム相応といったところで、3D性能は非現実的なレベルに留まっている。
最後に消費電力の測定結果である(グラフ17)。ここは、今回の新Atomプラットフォームの意味を感じさせる結果といえるだろう。ここまで示してきたとおり、性能はより高くなっているにも関わらず、アイドル時、高負荷時ともに消費電力はより低い結果になっている。
ちなみに、CPU、GPUのどちらに負荷をかけた状態でも旧Atom環境よりも低い消費電力を維持しているが、GPUに負荷をかけたほうがやや、その差が縮まるという結果にもなっている。
【グラフ17】消費電力 |
●Atomプラットフォームとしての価値を高めた製品
以上、駆け足ながらベンチマーク結果をお伝えしてきたが、マイクロアーキテクチャを変えずに動作クロックが上がったCPUコア、統合されたメモリコントローラ、対応メモリクロックの改善、とベンチマーク結果のスコアが下がる要素が見当たらないだけに、安定して好結果を残した。
もっとも、それ以上に重視すべきは消費電力の測定結果だろう。性能が伸びたとはいっても上位ブランドの製品には適わないし、例えばAVCHDの再生はコマ落ちするといった実使用における制限は存在する。そのため、Atomでできることをやる、というのがAtomユーザーに求められる割り切りといえるだろう。
そうした枠組みのなか(もちろんそこでの性能改善は見られる)で、より消費電力が下がる今回の製品は、Atomプラットフォームとしての価値を高めた存在に映る。また、価格面でもD945GCLF2が登場時に1万円以上したのに対し、D510MOは8,000~9,000円と割安な初期価格となった。この点も魅力だ。