西川和久の不定期コラム

ヤマハ「THR10」
〜USB接続でパラメータ編集できるコンパクトなギターアンプ



 11月20日に面白そうなアンプがヤマハから発売となった。バッテリ駆動でき、チューナやエフェクターも内蔵したコンパクトなギターアンプだ。さすがにただのギターアンプだと本連載で扱えないが(笑)、USB接続でエフェクターなどの細かい設定が可能でUSBサウンドやアクティブスピーカーにもなる優れもの。久々のサウンドネタで楽しみながらの試用レポートをお届けする。

●コンパクトなボディに機能満載

 筆者は高校時代から20年前ほどまではバンドでギターをやっていて、いろいろなエフェクターやアンプを使ってきた。初期はJeff Beckのホワイト・ストラトキャスターが流行った頃だろうか。アナログのコンパクトタイプのエフェクターが全盛期で、同社のシステムボード「SB-200」をフル実装で所有していたこともあった(ハンドキャリーして電車に乗ってスタジオへ通ってたのだから凄い体力かも)。20歳を越えた頃から徐々にデジタル化され始め、同社のSPXなども懐かしい。

 ギターは高校時代は安物のストラトキャスター、大学に入ってからは主に同社の「SG1000」(ブラウンサンバースト/Floyd Rose+EMG×2+GR-1のアタッチメント付)と、同じく「SG1000」(メタリックブルー/フレットレス)。社会人になってから「IN-1」。今から思うと結構なヤマハ党だ(笑)。ただ、アンプは住宅事情などもあり、超小型アンプ程度しか所有せず、スタジオでは「Fender Twin Reverb」などを好んで使っていた。

 とは言え、既に10年以上(20年近く)弦も張替えずにギターは眠ったままだったのだが、ちょっとしたきっかけで、このギターアンプを知り、渋谷の楽器屋に何度か足を運んだところ一目惚れ。とりあえずSG1000の弦とEMGのバッテリを20年ぶりに交換、まだギターが使えることを確認し、翌日購入した。主な仕様は以下の通り。

「ヤマハ THR10」の仕様
搭載アンプシミュレーション CLEAN, CRUNCH, LEAD, BRIT HI, MODERN, BASS, ACO, FLAT
搭載エフェクト CHORUS, FLANGER, PHASER, TREMOLO, DELAY, DELAY/REVERB, SPRING REVERB, HALL REVERB, *COMPRESSOR, *NOISE GATE(*の印はTHREditor上でのみ使用可能)
クロマチックチューナ 内蔵
接続端子 INPUT, PHONES, AUX IN, USB
コントロール AMP, GAIN, MASTER, BASS, MIDDLE, TREBLE, EFFECT, DLY/REV, GUITAR OUTPUT, USB/AUX OUTPUT, USER MEMORYスイッチ x 5, TAP/TUNERスイッチ
A/Dコンバーター 24bit+3bitフローティング
D/Aコンバーター 24bit
サンプリング周波数 44.1kHz
メモリ数 ユーザーメモリ×5
定格出力 10W(5W+5W)/8cmフルレンジ x 2
電源 電源アダプタまたは単3形電池×8本
サイズ/重量 360×183.5×140mm(幅×高さ×奥行き)/2.8kg
価格 オープンプライス(29,800円で購入)

 入力はINPUT、AUX IN(ミニステレオ)、USBの3系統。出力はヘッドフォン。GUITAR OUTPUTとUSB/AUX OUTPUTのボリュームが2系統に分かれているので、バランス良く音をミックスできる。またこのGUITAR OUTPUTボリュームは、アンプシミュレーションのGAINとMASTERで調整した歪み具合をそのまま音量調整できるため、バリバリに歪んだ音でも蚊が鳴くような小音量でプレイすることも可能だ。

 搭載しているエフェクターなどの接続順は以下の通り。ただしCOMPRESSORとNOISE GATEに関しては本体側で操作できず、後述するTHREditorを使ってON/OFF、そしてパラメータをセットすることになる。いずれにしてもCOMPRESSOR、アンプシミュレーション、NOISE GATE、4種類のエフェクト、DELAY、REVERBと、一般的にはこれだけあればOK的なものを独立して搭載しているため、どんなサウンドにも仕上げることができる。その昔、筆者もこの順番で(ただし、アンプシミュレーションではなく、BOSS OD-1かRAT Disortion)使っていた。

・エフェクタなどの接続順
IN→COMPRESSOR→アンプシミュレーション→NOISE GATE→EFFECT(CHORUS/FLANGER/PHASER/TREMOLO)→DELAY→REVERB(Hall/Room/Plate/Spring)→OUT

 肝心な音質は、このクラスのギターアンプとしては大満足。クリーンなバッキングから思いっきり歪んだトーンまで面白いほど変化し、筆者的には文句なし! 出力も自宅では最大に出来ないほどのパワー感がある。この原稿を書き始める時は、少し弾いて実際の音を録音し、掲載しようと思ったが、さすがに10年以上のブランクは初心者同様の腕に逆戻り。恥ずかしいので自主規制。既に店頭にも出回っているので是非試して欲しい。

 AUX INやUSBによるサウンドも下手なアクティブスピーカーとは比較にならないほど音がいい。もちろん8cmのフルレンジスピーカーなので重低音や高音のリアルさは望めないものの、音離れが良く、抜けるようなハイハット、ウッドベースの質感、艶っぽい女性ボーカルなど実にうまく再現している。AUX INは接続する機器の音質によるが、USBサウンドとしてはかなりクオリティが高い。音が厚く朗々と鳴る感じだろうか。

 さらに新技術の「エクステンデッドステレオ」(デフォルトでON)もスピーカー間の幅を超えたサイズで音が飛び出してくる。電源ONして一番初めに驚いた部分だ。

フロント。なかなかレトロな感じのデザインだ。左右に8cmフルレンジを内蔵 リア。USB×1、電源入力 上部。電源スイッチ、プリセットボタン×5、LEDディスプレイ、TAP/TUNERボタン、AMP(8種類切替)、GAIN、MASTER、BASS、MIDDLE、TREBLE、EFFECT(Chorsu/Flanger/Phaser/Tremoloゾーン切替)、DLY/REV(DELAY/DLY・REV/SPRING/HALLゾーン切替)、GUITAR、USB/AUX、AUX IN、PHONES、INPUT
下部。単3形電池×8本で駆動可能 バーチャル・チューブ・イルミネーション。今時のアンプにも関わらず、真空管の暖かい明かりの雰囲気を醸し出す。しかも電源ON後、徐々に明るくなると言うこだわりぶり 付属品など。マニュアル、ACアダプタ、CUBASE AI6セットアップCD-ROM、電源ケーブル、USBケーブル、ステレオミニピンケーブル

 ルックスはご覧のように、レトロな雰囲気。今時のアンプなのにアナログっぽさを前面に出したデザインだ。加えて電源ONからじわじわ明るくなる「バーチャル・チューブ・イルミネーション」を搭載。音には全く関係無い部分ではあるものの、この真空管っぽい光がまた気持ちいい。

 電源は付属のACアダプタか、単3形電池×8本を使用する。今回筆者は電池駆動を試していないので駆動時間などは何とも言えないが、これだけのシステムをいつでもどこでもスイッチONで使えるのは嬉しい限り。

 左端にあるTAP/TUNERボタンは3つの機能があり、単にタップするとその間隔がDELAYタイムにセットされる。1秒長押しするとチューナーモード。左側のLEDディスプレイに「→A←」表示され簡単にチューニングができる。3秒長押しすると先に書いたエクステンデッドステレオのON/OFFとなる。OFFの時LEDディスプレイは#が表示され、ONの時は非表示。このエクステンデッドステレオは、AUX IN/USBもしくは、DLY/REVまたはHALL エフェクト使用時に有効だ。

 AMP作動モードは、同社の「VCMテクノロジー」を搭載。サイトの説明によれば、往年のコンプレッサー、イコライザー、テープデッキ、フェーザーやディストーションのサウンドを再現する音楽的なモデリング技術が用いられている。全部でCLEAN/CRUNCH/LEAD/BRIT HI/MODERNとBASS/ACO/FLATの8種類。それぞれの特徴をマニュアルから抜粋すると、「ジャズやブルース、カントリーサウンドのための、6L6管のパワーアンプからの豊かなクリーントーン」、「低出力クラスAアンプの、明るくて鮮明でありながらダイナミックなパワーアンプの歪み」、「程よいゲインのプリアンプとEL34管のパワーアンプの結合による、ミッドレンジの素晴らしい往年のイギリス製アンプの歪みを再現」、「ハイゲインプリアンプとEL34管のパワーアンプによるワイルドで鮮烈な歪みが自慢のイギリスアンプのサウンド」、「ハイゲインプリアンプと6L6パワー管の組合せによる、滑らかでパワフルな歪み」、「ロックベース用」、「エレクトリックアコースティックギター用」、「入力された信号をそのまま出力」。

 真空管の型番やプリアンプとパワーアンプの構成をあげるなど具体的な部分がありなかなかマニアック。これらをベースに、GAIN/MASTER/BASS/MIDDLE/TREBLEを調整し、自分の好みのサウンドを作ることができる。

チューナ。TAP/TUNERボタンを1秒長押しするとチューナモード、タップするとDELAYタイムの設定、3秒長押しするとエクステンデッドストレオのON/OFF(OFFで#マーク点灯) AMP作動モード切替。CLEAN/CRUNCH/LEAD/BRIT HI/MODERNとBASS/ACO/FLATの8パターンAMPを切替えることができる ユーザーメモリスイッチ。5つのユーザープリセットをTHREditorで設定することができる

 全てのコントロールは普通のボリュームタイプであえて安価な(失礼)ツマミが使われている。デジタルっぽい雰囲気はLEDディスプレイ程度だ。特にEFFECTやDLY/REVは回転するゾーンで作動が切り替る仕掛けでこれがなかなか使いやすい。

 サイズは360×183.5×140mm(幅×高さ×奥行き)、重量2.8kg。写真からも分かるように、ヤマハ SG1000のボディ約4分の3の横幅と言ったところ。手軽に持ち運び可能だ。

 このようにTHR10は、レトロなルックス、アンプシミュレーション、エフェクター、ディレイ、リバーブ、USBサウンド、AUX IN、じわじわ明るくなるバーチャル・チューブ・イルミネーションなど、本体だけでもかなり楽しめる仕様になっている。

 もちろんギターを弾いても、音楽を再生しても、そのサウンドはGood。開発者の想いがビンビン伝わってくるあまり類を見ない製品だ。興味のある方は文末に開発者インタビューへのリンクも掲載したのでご覧頂きたい。

 個人的な不満点があるとすれば、AUX INはリアパネルにUSBと並んで欲しかったこと、そして本体側でCOMPRESSORのON/OFFができないことの2点だろうか。前者はプラグが上部に刺さった形になるので見た目が悪い。後者は昔からCOMPRESSORは何時でもON派だったので、THREditorでしかON/OFFできないのは不便(もちろんプリセットしてしまえばいいのだろうが)。例えばTAP/TUNERボタンを5秒長押しでON/OFFとかできないだろうか。

コンパクト&バッテリ駆動でどこでも弾ける AUX入力でiPhoneなどを接続してアクティブスピーカーにもなる USBオーディオとしても使用可能

 なお同時に姉妹機としてさらにコンパクト(271×167×120mm/2.0kg、THR10の3分の2程度のサイズ)な「THR5」も発売されている。価格はオープンプライスだが、THR10より1万円安く19,800円が相場のようだ。

 機能的にはユーザーメモリ無し、アンプシミュレーションのBASS/ACO/FLAT無し。BASS/MIDDLE/TREBLEのトーンコントロールが無くなりTONE 1つに、USB/AUX OUTPUTのボリュームが無くなりVOLUMEが1つと、THR10では10個あったボリュームが、7個になっている。ただし、後述するTHREditorを使うと、BASS/MIDDLE/TREBLEのコントロールは可能だ(アンプシミュレーションのBASS/ACO/FLATは非対応)。内蔵しているスピーカーや出力など主要な部分はTHR10と同じなので、ギターアンプ中心として使うならTHR5の選択肢もありだろう。

●USB接続でさらに細かく調整可能

 単体でも十分満足できるTHR10だが、「THREditor」と言うソフトウェアを使うと、さらに遊べるようになる。ソフトウェア自体は、Windows XP/Vista/7、Mac OS X 10.5.8以降に対応。ヤマハ Steinberg USB Driverは32/64bit版が用意されている。同梱のCD-ROMには含まれず、同社のサイトからダウンロードする形式だ。今回はMac OS Xで試したが、特に難しい部分もなく、簡単にインストールできる。

THREditorとUSBドライバは同社のサイトからダウンロード ヤマハ Steinberg USB Driverのセットアップ。リブートが必要 アプリケーション/ヤマハ THREditorフォルダ

 THREditorを起動すると、そこはいきなりエフェクターラックの世界だ。左側には最大100個のプリセット、右側上部はTHR10の上部のイメージ、その下には、COMPRESSOR、EFFECT(CHORUS/FLANGER/PHASER/TREMOLO)、DELAY、REVERB(Hall/Room/Plate/Spring)、GATEの順に並んでいる。

 右側上部で実機と違うのは、スピーカーキャビネットを選べるセレクタがあること。American 4×12/American 2×12/British 4×12/British 2×12/1×12/4×10の計6種類。左側が数、右側がスピーカーのサイズ(インチ)となる。他が同じ設定でもこの部分を変えるとサウンドは激変。筆者は2x12タイプのアンプを使うことが多かったので、スピーカーが4発の音は新鮮だったりする。ステージなどで巨大音量時に感じる音圧はさすがに再現できないものの、こんなコンパクトなアンプから出ている音とは思えない。

 左側のプリセットはさまざまなタイプが登録済だ。1つ1つ試して弾いているだけも非常に楽しい。上から5つ分+PRESET5だけ画面キャプチャを掲載したので、設定の違いなどをご覧頂きたい。もちろんユーザーが自由に編集したり保存したりできる。

THR Editor/MODERN HM backing THR Editor/BRIT HI HR backing THR Editor/LEAD Classic Rock backing
THR Editor/CRUNCH Blues backing THR Editor/CLEAN backing THR Editor/PRESET5

 下の部分は本体ではコントロールできないCOMPRESSORとGATEの設定も可能となっている。COMPRESSORはコンパクトタイプ(2コントロール)とラックタイプ(6コントロール)と2種類が選べる念の入れようだ。EFFECTはChorsu/Flanger/Phaser/Tremoloの4タイプ。選べるのは1つだが、一般的にこれらを複数同時に使用することは無い。DELAYは、Time/FeedBack/High Cut/Low Cut/Levelの設定が可能。REVERBは、Hall/Room/Plate/Springの4タイプを選べる。

 全てに対して直感的に扱える分かりやすいインターフェイスでマニュアルいらずだ。欲を言えばウィンドサイズが固定なので可変、そしてフルスクリーン対応だとさらに使いやすくなると思われる。バージョンアップに期待したいところだ。

COMPRESSOR/Stomp(コンパクトタイプ)上、Rack(ラックタイプ)下 EFFECT/Chorsu、Flanger、Phaser、Tremolo
DELAY。Time/FeedBack/High Cut/Low Cut/Levelの設定ができる REVERB/Hall。Room、Plate、Springのモードもある

 その他の機能としては、PreferencesにDATA IN/OUT、Knob Mode、Extended Stereo、Power Lampの設定、ファイルメニューではライブラリへの保存、Import/Exportもサポートしている。

 もう1つ、付属のCD-ROMには録音/編集/ミックスなど音楽制作の基本作業をカバーするアプリケーション「Cubase AI 6」が入っている。こちらはライセンスの関係だろうか、ダウンロード形式は無く、CD-ROMのみ。画面キャプチャからも分かるように高性能だが、今のところ弾くだけでも精一杯なので、残念ながらまだ試していない。

Preferences。DATA IN/OUT、Knob Mode、Extended Stereo、Power Lampの設定 ファイルメニュー。ライブラリへの保存やImport/Exportをサポート Cubase AI 6。録音/編集/ミックスなど音楽制作の基本作業をカバーするアプリケーション

 以上のように「ヤマハ THR10」は、コンパクトでバッテリ駆動ができる上、必要なエフェクターもほぼ入っている非常に便利なギターアンプだ。ほんのり光るバーチャル・チューブ・イルミネーションもなかなかGood。加えてUSB接続により細かいパラメータの編集や、USB/AUX入力でアクティブスピーカーとしても使える優れもの。価格も29,800円(THR5なら19,800円)と手頃なのも魅力的。

 普段からギターを弾いてる人はもちろん、正月休み眠ってるギターを引っ張り出して遊ぶのもいいだろう。久々にサウンド関係でグッときたお勧めの逸品だ。