電線を編んで涼しげに光るバッグを作ってみよう



 今回は力石咲さんの新しい編み物作品を紹介します。どのあたりが新しいかというと、使っている素材がまったく違います。電線なのです。毛糸の代わりに、秋葉原で売っている普通の電線を編んで作った作品が、今回のハートライトバッグ・シリーズです。

新作のパンダコスチュームに身を包んで登場した力石咲さん。こちらの素材は普通の毛糸のようです(耳の部分にはLEDが内蔵されています)
これがハートライトバッグ。素材は協和ハーモネット耐熱ビニル絶縁電線です。かなり太い線を200m使っています。1巻50mのリールを4巻ですから、手に持つとずっしりきます
どうしてこの太い電線を使ったのか尋ねると、赤く塗られた電源プラグを取り出しました。カバンになっている電線の端がこのプラグなのです
続いて取り出したのがLED電球です
電線のもう一方の端は電球用のソケットでした。ここに電球をセットし、プラグをコンセントに挿すと……
光ります。カバンの中の電球により、カバン全体が光ってみえます
光るハート型のカバン、「ハートライトバッグ」です。外ではカバン、家のなかでは明かりとして使える、新しいコンセプトのデバイスです。電線の隙間から漏れ広がる光がやさしく周囲を照らします

 電線でできた電球入りのカバンというアイデアに軽くショックを受けたあと、少し気になったのが、100Vの電気が編み固められた200mの電線を流れているのは大丈夫なの? という点なのですが、実際はカバンの取っ手の部分だけ別の配線で、その電線の両端がプラグとソケットになっているようです。配線長は1mほどでしょうか。

 力石さんは電子工作歴が長く、また、数年間、秋葉原の電子部品店で働いていたので、突拍子のないことをしているように見えても、実装は現実的で、部品の知識も豊富です。例えば電線の仕様を尋ねるとAWG(米国ワイヤゲージ規格)まで即座に返ってきます。このカバンの線はAWG-18のようです。

 さて、ハートライトバッグの照明としての機能はわかりました。予想外に美しい電灯です。しかし、カバンは本来、移動時の便利のためにあるもの。コンセントにつながれた状態が良くてもカバンとして意味をなさないのでは……という疑問が湧いたのも事実です。そんな我々の心の内を読んだかのように、力石さんは次の機能をデモし始めました。

編まれた電線の一部に指を入れて取り出したのはiPhone用のコネクタです。やはり赤く塗られています
別の場所からはUSBコネクタが現れました。iPhoneコネクタとは電気的につながっています。ここにeneloopモバイルブースターを接続して……
iPhoneをつなぐと、充電が開始されました
移動中のハートライトバッグはiPhoneチャージャとして機能することがわかりました。発展性のあるアイデアです

 光るバッグという発想をレベルアップさせるためには、やはり移動中も点灯することが条件となるでしょう。もちろん、持ってみたいと思わせるだけのファッション性も不可欠です。携帯性とファッション性を兼ね備えたハートライトバッグのあり方について力石さんと武蔵野電波が検討した結果、ELワイアを使ったプロトタイピングを行なうことにしました。

こちらが設計図。無造作なスケッチに見えますが、実はかなり正確に編み目をシミュレートしたものであることがこの後わかります
材料は協和ハーモネットUL1007 AWG-24です。100mのリールから1個作れます
ELワイアは本連載で使ったものと同じです。くしゃくしゃになっているのは、一度「編み」の実験を行なったせいです
AWG-24には7号(4mm)の編み針がいいようです。ハートの先端からスタートします
線が固いので、毛糸に比べると少し力が必要とのこと。傍らで見ている我々には、いつもどおりにするすると編んでいるように感じられました
切りのいいところで図面に当てるとピッタリです。線材の性質を踏まえた、正確な設計図だったことがわかります
ハート型を1枚編んだところでカットします。電線なのでもちろんニッパーです
同じ形のものを2枚編むとちょうど100m消費します
重ねあわせて袋状にし、縁をELワイアで縫います。カバンの輪郭が光るわけです
縁を縫ったあと、同じELワイアで取っ手を作ります。この部分は編んで太くします。「ELワイアは編める」という証拠写真です
ただし、かなり編みにくそうで、指先に力を入れてぐりぐりと編んでいました。我々ははらはらしながら見ていました。ELワイアの注意書きには、強く曲げると内部の線が切れて光らなくなる可能性があると記されていますが、このくらいの負荷には耐えられるようです
完成です。ハートライトバッグELと名付けました
携帯とお財布とELワイア用のインバータが収まるくらいの大きさです
電源を入れると、このとおり。今までに見たことのない視覚効果を備えたカバンです。インバータのLEDもアクセントになっています
暗所での視認性も良好です

 電線を編み物の手法で扱うことが可能とわかったことが、今回の成果といえるでしょう。ELワイアのように硬質な線材であっても、輪の連続からなる編み物の構造をうまく適用すると、固定用の材料を用いずに、線材だけでかたちを作り出すことができます。配線の一部として使用する場合は(電気を流すときは)注意が必要ですが、通電せずに電線の質感や色の面白さを利用するだけでもかなり楽しめるでしょう。

 自分でも編んでみたいと思った人のために、基礎の基礎となる編み始めの指使いを連続写真で紹介します。これだけではカバンにはなりませんが、紐状の何かを作ることはできます。たとえば携帯ストラップなら大丈夫そうですね。