編んで作るiPhone/iPadケース



 今回はハイパーニットクリエイターの力石咲さんをお招きして編み物の世界に触れてみました。記事の最後で、世界に1つしかない手作りiPhoneケースの読者プレゼントもお知らせします。

軽いフットワークで現れた力石咲さん。大きなカバンには編み物の作品と材料が詰まっています
足下を見ると不思議なクツを履いています。ツメが生えているようなんですが……。実はこれ、ハイパーニットクリエイターとして活動するときのコスチュームの一部です
カバンから取り出されたコスチューム。何種類かあるようですが、この日は「タイガースーツ」。力石さんが自分で編んだ虎革です
タイガースーツの頭部。目のところにLEDが入っていて赤く光ります。鼻は基板ですね

 我々武蔵野電波と編み物作家力石さんの間にどういう接点があるのでしょうか? 実は力石さんの作品には電子部品がよく使われています。この虎も目の部分にLEDと電池が内蔵されていて光ります。力石さんはだいぶ前からLEDを編み物に組み込む方法を研究してきたようで、着ても壊れない安定した装着方法を編み出しています。タイガースーツの鼻はジャンク基板を再利用したものです。この部分は電子回路としては機能していませんが、電子部品の造形的な面白さに着目した意外な使い方です。

 本格的な電子回路を持つ作品もあります。大きいため今回はご持参いただけませんでしたが、ManGlobeという直径85cmの地球儀の姿をした作品は、複数のセンサーとモーターを内蔵していて、人が近づくと地表に目玉が現れます。この「大陸の瞬き」にはある種の生々しさがあって、小さな子供は見ると必ず泣き出すそうです。

 力石さんにとっては、個々の作品を作ることだけでなく、編むという行為そのものが表現活動です。この行為を力石さんは「編み包む」という言葉で表しています。編み包む対象はまったく限定されていません。先日公開された動画では家屋をまるごと覆っています。道具をまったく使わない「腕編み」という技法を開発し、ビニールテープを使って壁を編み物で覆っていく様子がYouTubeで見られます。

【動画】3時間で800mのビニールテープを使い、自分のアトリエである小家屋を編み包んでいます。道具をいっさい使わない腕編みという新技法のテストでもあるようです

先ほどの頭部に続いて、こちらはタイガースーツの胴体部(前側)
胴体部の背中側。虎らしい縞々です。このほかに長いシッポがついた脚部があります
タイガースーツを着用した様子。ここからはハイパーニットクリエイターモードです。

 力石さんはコンセプチュアルな編み物だけでなく、実用性を考慮した作品も開発しています。今回は最新の成果を見せていただきました。iPhoneとiPadのケースです。もちろん、毛糸だけを使って作られた編み物です。

iPhone 3Gを包んでいる100%編み物のケース。使用する毛糸の種類にもよりますが、適度にやわらかくバンパーとしても機能しています
裏側を見ると、カメラ用のホールがあいています。細かい作り込みです
iPhone4との互換性も段ボール製モックアップを使って検証済み
こちらはiPadケースのプロトタイプ。最初のバージョンです。裏側からかぶせる構造はiPhone用と同じ
太い毛糸を使ってふわふわな感触に仕上げられています。衝撃吸収性はかなり高そうです。右のぼんぼんはクリーナー兼チルトスタンド
ぼんぼんを敷いて本体を傾けるといい角度が出ました。ソフトウエアキーボードの操作性が格段にアップします
力石さんはまだiPadを所有していないので、iPhone4と同様に段ボールでモックアップを製作し、サイズや使用感を検証しました。撮影では我々の所有機を使っています

 当初我々には「毛糸で作られたiPhone/iPadケースの実用性はどうなんだろう?」という疑問がありました。しかし、実際に触れてしばらく使ってみると、とてもポジティブな印象が残ったのです。まず、本体を保護するという基本的な機能は毛糸でも問題なさそうです。シリコン樹脂等でできた一般的なケースと比べた場合、形が崩れやすい、毛羽立ちがある、防水性がないといったデメリットはありますが、いっぽうで、質感がナチュラル、色や素材の選択肢が豊富、洗えるといったメリットがあります。そしてなんといっても、デジタル機器と毛糸が組み合わさったときの意外性が愉快です。手作りのものでしか味わえない希少性もありますね。

iPhoneケースはすでに10個ほどが作られ、今では1個あたり30分ほどで完成するそうです。我々はお願いして1つ編んでいただきました
道具が少なくて済むのが編み物の魅力の1つかもしれません。iPhoneケースの場合、編み針(かぎ針)1本とハサミだけで作れてしまいます。写真の編み針は力石さんがオーストラリア遠征のときに見つけたカラフルなもの。この中から適切な太さの1本を使用します
カバンから出てきた毛糸。ここから選びます。iPhoneケースの場合は1玉で足りますが、iPadケースの場合は3玉ほど消費するようです(毛糸の種類や編み方で変わります)。今回の作例では、2色の毛糸を使ったボーダー柄に挑戦していただきました

【動画】みるみる進んでいきます。ときおり現物に合わせて寸法や縫い方を調整しています。iPhoneの場合、液晶ディスプレイの外側の「額縁」に相当する空間が狭いため、折り返し部分の調整にコツがいるようです。編み物としてはiPadケースのほうが易しいとのこと

できあがったiPhoneケース
裏からの様子。なんだか北欧風ですね
底面のコネクタ口も開けられています

 当初、この記事では、我々がiPhoneケースの作り方を習い実際に作ってみる、というところまで踏み込むことを検討していたのですが、製作の様子を見ていると、そうすぐに真似できるものでもないということがわかったので、本格的なトライアルは機会を改めて……ということにし、編み物の基本の基本をほんの少しだけ教えていただきました。

きわめてぎこちない手つきで編み始めた我々のメンバー。力石先生いわく「編み物は毛糸のわっかを作ってそのなかに通していくだけです」とのこと。それだけのはずなのに、なかなかうまくできません
複数の指の協調動作によって1本の糸を3次元的な物体に変えていく「編み物」という行為はシンプルでありながらも膨大な深さと広がりを持っていると感じました。ただし、頭のなかで描いたカタチを実際の編み物として出力するためには、かなりの練習が必要そうです
できあがった(?)物体は携帯ストラップということにしました。我々の最初の編み物作品です
力石さんはワークショップなどのイベント活動にも力を入れています。来る7月6日には池袋にて「オトナモコドモニナレルカナイト」というイベントがあります。こちらでは七夕の短冊を毛糸で作る予定とのこと

 記事で製作していただいた北欧テイストのiPhoneケースを1名様にプレゼントします。ご希望の方は「iPhoneケース希望」というタイトルのメールをpr@musashinodenpa.comまでお送りください。応募メールには住所、氏名等は不要です(記事の感想や要望は歓迎です)。なお、今回の毛糸を使ったiPhoneケースは試作品です。自己責任でご使用いただける方のみご応募ください。応募の締め切りは7月10日です。メールをお待ちしています。