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半導体チップの国際カンファレンス「COOL Chips XIX」が来週開催

超低電力技術がテーマのキーノート講演

 半導体チップの国際カンファレンス「COOL Chips XIX」が、来週4月20日より3日間、横浜情報文化センターで開催される。国内において、世界の最先端のチップ技術を発表する場としてCOOL Chipsは定着している。IEEEの国際会議であり、今回で19回目となる。初日の4月20日に特定テーマのスペシャルセッション、4月21~22日にキーノート講演、技術講演、パネルディスカッション等が行なわれる。

 4月21日の最初のキーノート講演は、チューリッヒ工科大学(ETHZ)のLuca Benini氏による「Sub-pj per Operation Scalable Computing - the Next Challenge」。同氏は、IoT時代に向けて、1オペレーションあたりのエナジーがサブピコジュールレベルのエナジー効率が必要となる時が来るとしている。

 ETHZでは、IoT時代の超高電力効率プロセッサのテストチップとして「PULP (parallel ultra-low power)」を制作している。28nm FD-SOIプロセスで、インオーダのOpenRISCコアを載せたチップだ。Benini氏は、PULPの紹介から、今後のヘテロジニアス3Dインテグレーション、非フォン・ノイマン型アーキテクチャや近似処理(approximate processing)などの電力効率を高める技術の展望について講演する。

PULP(Parallel Ultra-Low Power)のテストチップ実装

 データフロー型プロセッサについてのキーノート講演も行なわれる。Oskar Mencer氏(Imperial College London/Maxeler Technologies)による「The Multiscale Dataflow Computing Chip」だ。これまで、MaxelerはデータフローコンピューティングエンジンをFPGAで実装してきた。しかし、今後の10~20倍の性能を達成するために、Dataflow Computing Chipを設計した。

金属イオンを使うNanoBridge FPGA技術が招待講演

 ソニーの平山照峰氏による「Modality of CMOS Image Sensor Competition」もキーノート講演だ。IoT(Internet of Things)時代を迎えて、CMOSイメージセンサーの用途は急速に広がっている。セキュリティから医療まで、広範な活用が始まっているためだ。その結果、現在のCMOSセンサーには、赤外線受光、デプス(距離)、偏光分析といった従来とは異なる機能が重視されるようになっている。こうした現況についてのスピーチが行なわれる。

 「Cool Techniques for Hot Chips」という、カンファレンスに合ったタイトルがつけられたキーノート講演はBarcelona Supercomputing CenterのMateo Valero氏によるもの。現在、プロセッサアーキテクチャとパラレルランタイムソフトウェア層を協調設計することで、ムーアの法則を活かした性能向上を実現しようという「Riding on Moore's Law(RoMoL)」プロジェクトが進められている。Valero氏は、同プロジェクトでの核となる、Runtime-Aware Architecture(RAA)について講演する。

Runtime-Aware Architecture(RAA)の概念図

 COOL Chipsでは、招待講演でNECの「NanoBridge-based FPGA in Harsh Environments」の講演がある。NanoBridgeは、金属イオンを使った抵抗変化型の不揮発性スイッチ技術。NECでは、同技術を使った低電力かつ省面積のFPGAを開発した。電力や面積の利点だけでなく、過酷な環境に強いという利点を持つ。既存のFPGAとは素子レベルで異なる新しいアプローチだ。

 このほか、4月21日には、パネルディスカッション「Computing and Communication Evolution for IoT Innovations」が行なわれる。

Intelからはキーノート講演が2つ

 CPU業界最大手のIntelからは、Michael McCool氏による「New Frontiers in Computing」と題したキーノート講演がCOOL Chipsで行なわれる。McCool氏は、4つのポイントについて講演する見込みだ。

(1)Intelの最新CPUアーキテクチャ「Skylake」のGPUコア。IntelはSkylake世代で、GPUコアの性能を大幅に増し、非グラフィックスの汎用コンピューティング向けに拡張した。

IntelのSkylake GPUコア
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(2)Intelが買収したFPGA(Field-Programmable Gate Array)メーカーAlteraについて。Intelは重要戦略としてFPGAを同社の製品ラインに組み込んで行く予定だ。McCool氏は、FPGAの可能性について、従来市場だけでなく、ローパワー市場での可能性についても触れる。また、重要な点は、FPGAの泣き所であるプログラミングモデルの改革についても語ることだ。

(3)Intelは、メニイコアプロセッサ「Xeon Phi」ファミリを展開している。もともと、McCool氏はGPUなどに向けたデータ並列プログラミング言語を開発していたRapidMindの共同創設者。Xeon Phiのプログラミングモデルは、本来の専門分野となる。

(4)Intelは、現在、IoTへと重心を移しつつある。McCool氏はIoTの課題の1つであるプログラミングモデルについて講演する。IoTは、組み込み+ネットワークと思われがちだが、IoTの上で多様なサービスを花開かせるためには、Webプログラマなどにも親しみやすいプログラミングモデルを持ち込む必要がある。Intelはその課題に取り組んでいる。

(5)McCool氏は、Intelが視野に入れている新しいコンピューティングプラットフォームでるロボットについても語る、

 Intelからは、もう1人、Ashraf Lotfi氏から「Power Optimization Leveraging FPGA and Voltage Regulator Chip Co-Design」と題したキーノート講演が行なわれる。

 Lotfi氏は、Intelに買収されたFPGAメーカーAlteraのフェローだった。Intelは、XeonとAltera FPGAをワンパッケージのMCP(Multi-Chip Package)に収めた製品を投入する。AlteraのFPGAは、Intelにとって多様化するデータセンタ市場のワークロードに対応するカギとなる技術だ。Lotfi氏はFPGAの電力制御についてフォーカスし、FPGAとボルテージレギュレータ(VR:Voltage Regulator)の協調設計について発表を行なう。

 Alteraは、オンダイボルテージレギュレータ(On-Die Voltage Regulator)まで視野に入れたVRの研究開発を行なっていた。そのAlteraが、高性能CPUにおけるオンダイボルテージレギュレータの技術を実用化したIntelと連結した。Intel傘下となったAlteraのボルテージレギュレータ技術の今後は注目されている。

旬な技術にフォーカスしたスペシャルセッション

 このほか、初日の4月20日には、2つのスペシャルセッションが行われる。1つは、香港科技大学のJiang Xu氏による「Inter/Intra-Chip Optical Networks」。現在のプロセッサは、コア数が増えるに連れてコミュニケーションの量が増えて、電力消費とレイテンシが伸びている。光インターコネクトを使うことで、この問題を解決しようというのが講演のテーマだ。チップ間だけでなく、チップ内の配線についても展望する

光インターコネクトによるイントラ/インタチップリンクのアイデアの1つ

 もう1つのスペシャルセッションはソウル国立大学のKiyoung Choi氏による「Architectural Approaches to using STT-RAM for Low-Power Caches」。不揮発性メモリ「STT-RAM」を、低電力のキャッシュとして使うアプローチについて。STT-RAMの用途として、現在、注目を浴びているのがキャッシュだ。書き換え可能回数が多く、高速なSTT-RAMの特性を活かして、プロセッサの中で電力消費の大きなキャッシュを置き換えるというアイデアだ。

 こうした特別セッション以外に、技術セッションも多数行なわれる。

(後藤 弘茂 (Hiroshige Goto)E-mail