■後藤弘茂のWeekly海外ニュース■
Kinectセンサー。Natalセンサーとして紹介されていたデバイスとほぼ形状は同じ。ただし、Natalセンサーにあったアレイマイク用と見られた切り込みが見えなくなっている |
「Kinect(キネクト)」
Microsoftは、画像認識技術を使ったXbox 360向けの新しいヒューマン-マシンインターフェイス(HMI)「Project Natal(プロジェクトナタル)」の正式名をKinectと発表した。運動力学を意味する「Kinetics(キネティックス)」と、Connection(コネクション)を結びつけたと見られる造語だ。Kineticsを形容詞にしてKinetic Connectionと続けるなら、運動力学的コネクションといった意味になる。ようは、動いて繋がると言いたいわけだ。ユーザーのジェスチャをコンピュータが認識するNatalにふさわしい名前と言えそうだ。
また、MicrosoftはNatalの正式名とそのデモを、単に紹介するだけでは済ませなかった。前衛サーカス団「シルク・ドゥ・ソレイユ」を使ったショウに仕立てて、Kinectをお披露目した。ゲーム機のイベントとしては、かつてないほど派手にショウアップしたイベントでKinectを押し出した。
Kinectは、人間のジェスチャなどを認識することで、コントローラを一切使わずにマシンをコントロールできるインターフェイスだ。Xbox 360本体に、Kinectのための、専用センサーを付加することで実現する。重要なポイントは、3Dセンサーによって、センサーからユーザーまでの深度を高精度に測ることで、3次元的な位置を高精度に特定すること。ゲーム機では、Wiiがモーションを検知できるWiiリモコンコントローラによって、HMIの改革に先鞭をつけたが、MicrosoftはKinectで完全にコントローラレスを実現しようとしている。
●シルク・ドゥ・ソレイユを使ったド派手なショウイベントは、米ロサンゼルスで開催される「E3(Electronic Entertainment Expo)」の前々夜に当たる6月13日夜に行なわれた。Microsoftは、ロサンゼルス中心街近くの南カリフォルニア大学の「Galen Center」を借り切った。カメラや録画機材は一切シャットアウトし、ゲーム業界関係者とマスコミを集めてのイベントだった。
イベントでステージに向かってせり上がるXboxマーク | イベントに登場したロボット像 |
ショウ会場のステージには、まず、野生動物に扮したシルク・ドゥ・ソレイユのパフォーマがそれぞれパフォーマンスを行なっていた。一部の客は、ステージに通され、間近でパフォーマンスを見ることができた。しばらくすると、実物大のロボット像がステージに登場、そのままステージ上に客がいる状態でイベントがスタート。シルク・ドゥ・ソレイユによるパフォーマンスのあと、XboxのグリーンのXの字をつけた巨大な岩がせり上がった。せり上がった先のステージ上方には、四角い小部屋が設置されており、そこで、Natal改めKinectのデモが始まった。
デモは、WiiスポーツのKinect版としか見えない「Kinect Sports」やバーチャルペットと遊ぶ「Kinectimals」、リバーラフティングの「Kinect Adventures」などの他、ヨガやダンスのゲームなどざっと10種類ほどが紹介された。「Star Wars: The Force Unleashed」系と思われるゲームがデモされた時は、大きな歓声が起きた。
Kinect Sportsはボーリングや障害物競走、サッカーなど、動きが大きくてモーションを取りやすそうなゲームが多く見えた。Kinectimalsでは、ネコ科動物の子ども(子トラなど)が登場、プレーヤーがペットをなでる仕草をすると、画面内のバーチャルワールドにプレーヤーの手が現れて、撫でるモーションが再現された。ヨガレッスンでは、画面内のコーチの動きに合わせて体を動かすと、そのモーションが画面内の自分のアバタに反映された。その際に、自分のアバタの腕のボーンが表示され、指示通りの美しい位置にボーンが並ぶとそれが示されるようになっていた。
どちらかというと体感に主体を置いたミニゲームが多いなかで、目立ったのは「Star Wars」だった。Star Wars The Force Unleashedの第1作目は、WiiとPLAYSTATION 3(PS3)、Xbox 360の3プラットフォームで出た。しかし、当然ながら体感コントローラはWii版だけだった。それがKinectによってXbox 360で、ライトセーバーを振り回すのを体感プレイできるようになる。
●Microsoftの本気度を示すためのイベントイベント会場のダンサー |
Microsoftはこのイベントを飾るために、シルク・ドゥ・ソレイユだけでなく、俳優やミュージシャンなどのセレブも集めた。しかも、そのセレブ陣を特に個別にも紹介しないというもったいない使い方だった。Microsoftのリストを見ると、ビリー・クリスタルやマシ・オカ(HEROES/ヒーローズのヒロ・ナカムラ役)など、日本でも知られた名前があった。
こうしたことが示すのは、Microsoftは、単独で行なったこのイベントに膨大な資金を投入したことだ。単なるゲーム機の新インターフェイスの発表とは信じられない派手な紹介だ。
その狙いは明白だ。Microsoftは、集めたゲーム業界関係者(その中には大手ゲーム会社のトップ陣も含まれる)やマスコミに対して、Kinectに対する本気度を示そうとしている。Kinectの最大のネックは、どれだけ普及するのかが見えない点にあるからだ。WiiはデフォルトでWiiリモコンがついており、モーションによるコントロールが基本となっている。それに対して、Xbox 360とPS3は、従来型のゲームコントローラで出発しており、Kinectもオプションとして提供することになる。
その場合、どれだけKinectが浸透するのかによって、ゲーム会社の姿勢が違ってくる。Microsoftが本気で普及させて膨大なインストールドベースができるなら、ゲーム会社も積極的に対応できる。しかし、普及が進まないと、積極的に対応していいものかどうか、ゲーム会社側も迷ってしまう。Microsoftは、Kinectの立ち上げを派手にすればするほど、Microsoftの本気度を信じるゲーム業界関係者が増えると見ていると推測される。
ただし、Microsoftは普及度合いを占う最大のポイントであるKinectの価格をまだ明かしていない。それは6月14日午前中(現地時間)のカンファレンスで明らかになると見られる。しかし、Microsoftはそれ以前には、主要ゲーム会社にすら価格を伝えていないと言われる。それが示すのは、Microsoft自身も価格がカギであり、それを極秘にする必要があると考えていることだ。
また、今回のイベントは、参加者が実際にKinectを試すことができるものではなく、またデモも詳細なものではなかった。イメージを強調した、本当のデモかどうかを検証しにくいものであり、その点でも、Kinectの仕上がり具合を見ることができなかった。また、元々のNatalの売りの1つであったはずの、音声認識による対話デモもなかった。Kinectの仕上がりも、まだ今日の段階では未知数だ。