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ゲームコンソールに挑むNVIDIAの3代目「SHIELD」の背景

5月から発売開始のSHIELDコンソール

 NVIDIAの3代目の「SHIELD」は、ゲームコンソール兼スマートTV兼ストリーム端末だった。「PlayStation 4」(PS4)や「Apple TV」のように、TVに接続するボックス型コンソールだ。心臓部は、同社のモバイルSoC(System on a Chip)「Tegra X1」で、OSは「Android TV」となっている。簡単に言えば、ARMコアでAndroidベースのTV接続ボックスだ。

SHIELDコンソールを発表するNVIDIAのJen-Hsun Huang(ジェンセン・フアン)氏(Co-founder, President and CEO)

 SHIELDのスペック自体は、それほど驚くものではない。SoCはNVIDIAのTegra X1で、CPUコアはARMの64-bit ARMv8 CPUコアIPのCortex-A57が4コアにCortex-A53が4コアの4+4構成。GPUコアは、NVIDIAの最新のMaxwellアーキテクチャで、2個のSM(Streaming Multiprocessor)で合計256コア。SHIELD発表時の浮動小数点演算性能は512GFLOPSとなっているので、GPUコアは1GHzで動作させている計算になる。そのため、SoCには冷却ファンがついている。

Tegra X1に搭載されているARMのCortex-A57コア
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Tegra X1のMaxwell SMの構成図
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SHIELDコンソールの内部

 メモリはLPDDR4が3GB、ストレージはNANDフラッシュスが16GBでさらにmicroSDで増設が可能。USB 3.0の口もあるので外部ストレージも可能だ。ボックスにはゲームコントローラが付属するが、USB 3.0で別なゲームコントローラを接続することもできる(ドライバがあれば)。価格は米国で199ドルで、米国では5月に先行発売。ヨーロッパとアジア地区も、それほど遅れずに発売する予定だという。

価格は米国で199ドル。本体にゲームコントローラがついている

 NVIDIAは、ゲーム開発者向けカンファレンス「GDC(Game Developers Conference)」に合わせて開催したプレスカンファレンスで、このSHIELDコンソールを発表した。NVIDIAのJen-Hsun Huang(ジェンセン・フアン)氏(Co-founder, President and CEO)は、SHIELDコンソールの特徴を3つの性格に分けて説明した。(1)4Kビデオの再生と出力ができるストリームビデオ端末、(2)ダウンロードゲームをプレイできるゲームコンソール、(3)NVIDIAのゲームストリーミングサービスGRIDによって最新のPCゲームをプレイできるゲーム配信端末、の3つの要素だ。

4Kビデオの再生デモ
ビデオ操作のためのリモコンも別売り。リモコンはマイクとヘッドセットジャックつきで、音声コマンド入力などに利用できる

Xbox 360を軽く凌駕するSHIELDコンソールの性能

 NVIDIAは、Tegra X1のSHIELDコンソールの性能を、ゲームコンソールと比較して見せた。単純なGPU演算性能では、SHIELDはXbox 360のほぼ2倍。APIに対応するフィーチャとしてはDirectX 12世代で、DirectX 9世代のXbox 360よりずっと新しい。もちろん、最新のPS4やXbox Oneの世代には性能は及ばないが、ビデオ再生を主としたほかのTV接続ボックスと比べると格段にグラフィックス性能が高い。デスクトップPCと共通のGPUアーキテクチャである点も重要で、ゲーム開発者にとっては馴染みがある。

 加えて、NVIDIAは同社のゲームストリーミングサービス「NVIDIA GRID」の本格サービスを、SHIELDコンソールと同時に始める。現在は無料で試行サービスを行なっているが、5月から定額サービスをスタートさせるという。ゲームによっては、最高1080p/60fpsの画質でゲームをストリームで実行できる。言い換えれば、ゲーミングPCでのゲーム体験を、SHIELDコンソールで楽しめるようにする。

SHIELDに合わせて本格サービスが始まるNVIDIA GRID
1080p/60fpsのゲームデモ

 NVIDIAは、GRIDサーバー側のハイエンドのGeForce GTXの性能を使うことで、SHIELDは端末の性能を越えた性能を得ることができる点を強調。GRIDによってXbox Oneを凌ぐ、(一昔前の)スーパーコンピュータクラスの性能が可能になると謳った。

既存のゲーム機のビジネスモデルが崩れたという認識

 NVIDIAのSHIELDは、第1世代がTegra 4ベースのモバイルゲーム機、第2世代がTegra K1ベースのタブレットだった。そして、第3世代がTegra X1ベースのコンソールだ。NVIDIAは、SHIELDを毎年出すと言っていたが、それは、同じフォームファクタのものを出すという意味ではなかったことが、これで明瞭になった。そして、3世代目がコンソール型だったことで、NVIDIAがリビングルームのゲーム機もターゲットにしていることが明瞭になった。

 なぜ、NVIDIAがゲームコンソールを出すのか。その背景には、既存のゲームコンソールのビジネスモデルが、既に時代遅れなものになっているという、NVIDIAの認識がある。NVIDIAのフアンは、2013年の初代SHIELD発表時にインタビューで次のように語っていた。

 「ゲーム産業が3Dグラフィックスへと移行し始めた頃、PCはまだ2Dグラフィックスの時代だった。そのため、3Dグラフィックスのエンターテイメントを提供したいと考える企業は、全く新しいコンピュータをゼロから作り出さなければならなかった。カスタム設計のプロセッサを作り、OSやシステムを開発し、費用がかかった。しかし、そうしなければ、3Dグラフィックスゲームを走らせることができるマシンがなかったからだ。

 あれから長い時間がたち、今では汎用コンピューティングデバイスが、いずれも高度な3Dグラフィックス機能を持つようになった。これら、優れた3Dグラフィックスの汎用デバイスの出荷数は、年間10億台にも達している。その結果、新しいゲーム機を作り出すために、数10億ドルを投資する理由がなくなってしまった。

 汎用デバイスが進化したために、ゲームのビジネスモデルも変わった。旧来のクローズドなビジネスモデルでは、インストールベースが小さい専用のゲーム機に売るために、ゲームの価格を高くしなければならない。それに対して、汎用デバイスでインストールベースが膨大であるため、大量に売ることで価格をより低く設定できる。また、汎用デバイスでは、ゲーム開発者はプラットフォームベンダーにロイヤリティを払う必要がない。

 NVIDIAはゲーム機メーカーとは競合しない。発想の基本が違うからだ。我々がやっているのは、Androidユーザーのために、ゲーミングに最適なデバイスを作ることだ。また、我々は、新しいTegraを毎年発表して行く。それが意味するのは、毎年新しいSHIELDを出すのが理に適うということだ。ライフサイクルの面でも、SHIELDはゲーム機とは異なる」。

ゲーム機の歴史

汎用コンピューティングデバイスがゲーム機と似たアーキテクチャに

 NVIDIAのビジョンの中核は、汎用コンピューティングデバイスのチップが、今ではかつてのゲーム機チップのようなアーキテクチャになっているとい点にある。その背景には、汎用プロセッサが、かつてのようにシングルスレッド整数演算性能重視ではなく、マスレッド並列/データ並列重視で、浮動小数点演算重視へと移行しているという事情がある。さらにその背景には、半導体技術の制約から、電力消費を一定に抑えると、シングルスレッド性能は伸ばしにくく、スレッド/データ並列性能は伸ばしやすいという事情がある。つまり、NVIDIAのビジョンは、半導体チップの技術トレンドを映している。

 NVIDIAは、このビジョンに沿ったSHIELD戦略を走っているように見える。簡単に要約すれば、ゲーム機並に進化した汎用チップを使い、オープンな汎用OSであるAndroidをベースにしながら、ゲームに最適化したデバイスを作るという戦略だ。そして、2年前のフアン氏の言葉からは、ゲームコンソールタイプのSHIELDを出すのは、当然の展開と言える。

SHIELDコンソールの発表が行わなれたサンフランシスコの「The Nob Hill Masonic Center」

 もっとも、実際のNVIDIAの展開では2年前のビジョンとのズレも発生している。今回のSHIELDコンソールは、AndroidのTV向けバージョンである「Android TV」ベース。しかし、入力はゲームパッド用に拡張されており、NVIDIAがAndroidに独自に乗せたOpenGL 4.xの上にゲームを乗せることを狙っている。そのため、実態としては、今のSHIELDはAndroidゲーム機というより、Androidアプリが走るNVIDIA独自コンソールで、NVIDIAのストアでNVIDIA用のゲームを買うマシンとなっている。つまり、完全に汎用ではなく、部分的にNVIDIA独自となっている。

 もちろん、Tegra K1/X1チップを搭載したデバイスが、Android市場に溢れていれば、Tegra K1/X1プラットフォーム全体としての展開が成り立つ。しかし、現状ではTegra K1/X1ベースのコンシューマ製品は限られているので、そうではない。

 また、上のフアン氏の発言は、PS4が発売される前のものだった。その時点では、PS4が成功するかどうかは、まだ未知数だった。しかし、フタを開けると、PS4は世界的には成功を収め、ゲームコンソールのモデルがまだ通用することを証明した。

 もっとも、PS4の中身は、AMDの汎用APUをセミカスタム化したチップで、PlayStation 3(PS3)までのようなフルカスタムチップではなかった。汎用チップアーキテクチャを利用したという意味では、フアン氏の指摘は当たっている。

 このように、現状では、2年前のビジョンとズレる部分がある。しかし、大枠ではNVIDIAのビジョンは、汎用デバイスの時代に合わせたゲームデバイスを作るという点にあることは間違いない。そして、その論理から言えば、ゲームコンソール版SHIELDは、当然のごとく登場したマシンということになる。

チップを発表してからの製品展開が速くなったNVIDIA

(後藤 弘茂 (Hiroshige Goto) E-mail