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製品版に近づいたSCEのバーチャルリアリティシステム「Morpheus」

第2世代のMorpheusプロトタイプを発表

 ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)は、バーチャルリアリティ(VR:仮想現実)システム「Project Morpheus(プロジェクトモーフィアス)」の“プロトタイプ新版”を発表した。Morpheusは、PlayStation 4(PS4)向けに開発されているVRヘッドセットシステム。サンフランシスコで開催されいてるGDC(Game Developers Conference)に合わせた発表会で、SCEのワールドワイド・スタジオ プレジデントの吉田修平氏はMorpheusの発売時期と最終版により近い仕様のプロトタイプ、新デモなどを発表した。

サンフランシスコのコンベンションセンター「Moscone Center」
新Morpheusを発表する吉田修平氏(プレジデント、SCEワールドワイド・スタジオ)
後ろが新しいMorpheus

 “新”Morpheusの特徴は、応答性の高い有機ELディスプレイ(OLED)の5.7型の表示パネル、120fps(flame per second)の高リフレッシュレート対応、18ms以下と極端に短い表示までの遅延時間、位置トラッキングを正確にするためのLEDマーカーの追加、ユーザーの装着時の快適性を高めるためのデザイン変更など。昨年(2014年)公開した第1世代のプロトタイプが、VRシステムの開発をスタートさせるためのキットだったとしたら、今回の第2世代プロトタイプは製品版の仕様を検証しながら開発するためのキットと見られる。

 Morpheusの製品版の発売日は来年(2016年)前半。今年(2015年)末の商戦時期は逃す。また、価格帯もアナウンスがなく、製品版デザインも明かされなかった。しかし、発売時期は、ゲームデバイスの場合、タイトルを揃えなければローンチできないという事情が絡んでいる。価格は、市場への普及台数の予測を立てることができないと決定が難しい。VRという新しい体験をベースにしたシステムの場合、タイトル開発は簡単には行かないはずで、発売までに時間がかかるのも無理はない側面がある。

システム遅延を短縮し応答性を上げる

 VRシステムは、ヘッドマウントでバーチャルワールドに没入するというシステムの性格上、ユーザーの頭の動きの検出精度と、動きに対する表示の応答性が求められる。応答性が低いと、視野となるヘッドマウント内の表示が頭の動きに追いつかず、違和感が生じて3D酔いなどの現象が起きる。動きの検出が緩い場合も、同様に違和感が生じる。

 そのため、VRシステムの開発では、表示までの遅延をいかに短縮するかが重要な課題となっている。SCEの新Morpheusは、こうした課題に対する同社の回答となっている。特に目立つのは18msにまで遅延を短縮したこと。SCEの場合は、PS4という特定のマシンに特化したシステムでるため、不特定多数のGPUとPCシステムに対応しなければならないPC向けVRシステムよりも、遅延を短縮しやすい利点がある。18msは、その利点を活かした結果だと見られる。

 ディスプレイを液晶から有機ELに切り替えたのも応答性を高め残像を減らすためだという。液晶と有機ELでは応答性に大きな差があるため、VRシステムでは有機ELが有利となる。また、今回の第2世代Morpheusでは、フレームレートを120fpsに高めることで、よりスムーズな視界を実現する。より短い間隔でフレームを描画することで、頭部を動かした時の視界画像の移動をスムーズにする。

VRに最適化したフレームの再プロジェクションシステム

 もっとも、ゲーム側は通常は60fpsまでのレンダーをターゲットとしている。120fpsのネイティブレンダリングは難しいためだ。そのため、120fps表示が可能なMorpheusでは、PS4内で補完フレームを生成することもできる。とは言え、Morpheusの場合の高フレームレートの目的は、視界の変化をなめらかにする点にある。そのため、頭部動作に合わせたフレームを生成する方法を取る。動作から次のフレームを予測して、描画したフレームの位置をスライドさせて表示する。ちなみに、動きに合わせてフレームのプロジェクション位置をずらすことは、補完フレーム以外にも適用される。

 こうした方式を取るため、Morpheusでは、例えば、頭を左右に激しく振ったりすると、視界の画像の端に部分的に表示が欠ける部分が生じる可能性があるという。それが問題にならないのは、VRシステムだからだ。離れた場所のディスプレイの場合は、端の部分を注視する可能性があるが、VRの場合はユーザーの視点は、ほぼ視界画面の中央に集中する。そのため、周辺部には若干の問題が発生しても、ユーザーが気づく可能性は低い。

 こうした人間の眼の性質があるため、Morpheusでは有機ELのピクセル配置もカスタム化したという。ピクセル密度を中央と周辺で変えて解像度を調整していると見られる。また、新Morpheusでは、視野角が100度に向上した。これは、画面サイズが5型から5.7型と拡大されたのと合っている。画面が広がっても視野角が狭ければ、画面周辺部がうまく見えないからだ。

ポジショントラッキングを改良

 VRヘッドセットは、頭部の相対的な運動を検出するために、加速度センサーとジャイロセンサーを内蔵する。頭部の回転動作と慣性力によ位置移動を検出できる。現在のVRヘッドセットは、加えてユーザーの頭部の位置のトラッキングも、カメラによる画像認識で行なう。問題は、このカメラによるトラッキングを正確に行なうことが相対的に難しい点にある。

 そのため、MorpheusではヘッドマウントにLEDによる発光マーカーをつけている。第2世代のMorpheusでは、このLEDマーカーも改良された。新たに3個のマーカーが追加され、合計9個のLEDマーカーになった。LEDの発光部分の形が、第1世代のボーッっと光るものから、くっきりと光源の縁が見えるデザインに変わった。特に目立つのは、Morpheusのヘッドセット部分の中央に、まるで一つ目のようにLEDが配置されたこと。

 この変更はLED光源のサイズから、より正確に距離を測ることができるようにするだめだという。PS4のオプション、PlayStation Cameraは、もともと2眼カメラであるため、視差によって対象物までの距離を測ることができる。第1世代のMorpheusは、その機能によってMorpheusヘッドセットの位置などを測定する仕様になっていた。

 しかし、第2世代Morpheusは、視差による測定に加えて、MorpheusヘッドセットのLEDの大きさからも距離を測定して、カメラからの位置をトラックできるようにした。VRタイトルでも、ユーザーはマシンに対して正面から向かい合うケースが多いため、ヘッドセットの顔面中央にLEDを配置すれば検知しやすいと判断したという。

エルゴノミクス設計を向上させた

 ヘッドセットのエルゴノミクス的デザインも改良された。着脱が容易になり、重心位置が調整されたほか、ディスプレイ部を前後にスライドさせることができるようになった。実際に装着すると、この改良は劇的で、画面を調整させることが容易になった。メガネをしている場合などに効用が顕著だ。

 Morpheusでは、ヘッドセット以外にプロセッシングユニットと呼ばれるボックスが付属する。このボックスは、PS4からのMorpheus向けの出力から、TVへの出力を生成する。これは、Morpheusの重要な特徴で、Morpheusではヘッドセットをしているプレイヤー以外の観客がプレイ画面を見ることができる。このボックスも更新され、例えば、120fpsのMorpheus用のリフレッシュレートから、60Hzに落として画面出力ができる。

新Morpheusを装着したところ

 通常のTV画面のゲームでは、バーチャルワールド内の対象物に一定以上近づくことができない。もともと、TV画面とユーザーの距離が離れているため、近づいても近接感が得られないからだ。ところが、VRシステムでは、目前に画面があるため、バーチャルワールド内の対象物に迫ると、本当に近づいているように見える。目前からTV画面までが、VRのプレミアム距離だという。

 SCEグループが用意した新しいデモは、こうしたVRの特徴を活かしたものとなっている。刺青男に脅されるシーンから始まる「London Heist」を体験したが、男が迫ってくると、思わず身をすくめて顔を背けてしまった。従来のゲームにはない感覚だ。SCEもVRへの理解を深めて、デモを進化させつつある。

新たなMorpheus向け自社スタジオ開発デモも行なわれた

(後藤 弘茂 (Hiroshige Goto) E-mail