後藤弘茂のWeekly海外ニュース

Steamrollerが消えたAMDロードマップの変化と、次世代ゲーム機の行方



●AMDの2013年ロードマップの異変

 AMDの来年(2013年)のロードマップから「Steamroller(スチームローラ)」コアベースの製品の姿が消えたようだ。この変化が意味するのは、AMDのロードマップの上半分から28nmプロセスが消えたことだ。そして、AMDのファウンドリ転換と、そこに何らかの問題が発生していることを示唆している。そして、Steamroller以降のAMDのハイパフォーマンス系CPUコア自体の行く手にも暗雲が立ちこめて来た。

 Steamrollerコアは、32nmベースのBulldozer(ブルドーザ)系アーキテクチャのコアを28nmへと移行させ、同時に大幅なアーキテクチャ拡張を行なう予定だ。Bulldozerアーキテクチャは2個のCPUコアを1モジュールに融合させた構造となっていて、従来は命令デコーダは1個しか持っていない。しかし、Steamrollerコアでは命令デコーダを2系列備えて、IPC(Instruction-per-Clock)を引き上げる。Bulldozer系アーキテクチャの大きなジャンプとなる。

 AMDは、28nmプロセスのコアとして、Bobcat系のJaguar(ジャギュア)コアとSteamrollerコアの2系統を持っている。このうちJaguarはBobcatと同様にTSMCで製造され、28nmプロセスへと微細化(Bobcatは40nm)することがわかっている。問題はSteamrollerの製造ファウンドリの方で、この世代のCPU/APUは、もともとはGLOBALFOUNDRIESの28nmプロセスで製造される予定だったと言われている。

 雲行きが怪しくなったのは今年(2012年)の2月にAMDがアナリスト向けカンファレンス「Financial Analyst Day 2012」で、ロードマップを更新したあたりからだ。この時、AMDは28nmプロセスではファウンドリを選択できるようにすると説明、Steamrollerのファウンドリについて明言しなかった。そして、翌3月には、GLOBALFOUNDRIESとの契約を改定すると発表。AMDはGLOBALFOUNDRIESの株を手放す代わりに、GLOBALFOUNDRIESがAMDのCPUやAPUの一部を独占的に供給する権利はなくなった。これによって、AMDはファウンドリを自由に選択できるようになった。

 実際には、それ以前の2011年11月頃から、AMDは28nmプロセスの製品をGLOBALFOUNDRIESからTSMCに移そうとしているという情報が流れていた。そうした噂が、今年に入ってからの一連の動きで裏付けられた格好だった。そして、AMDの動きの中で、Steamrollerコアベースの製品の製造ファウンドリが実際にどうなるのか、注目されていた。

●Steamrollerの製造はGLOBALFOUNDRIESかTSMCか

 そもそも、AMDのGLOBALFOUNDRIES離れの背景にあったのは、GLOBALFOUNDRIESの先端プロセスでのもたつきだったと言われている。GLOBALFOUNDRIESはIBMを中心としたプロセス技術開発のアライアンスCommon Platformの一角だ。同社は、AMD向けにはPD SOIの32nmプロセスでAMDのBulldozer系のCPUとAPUを製造している。また、現在は、最先端のプロセスとしてバルクの28nmプロセスの生産も行なっている。

 しかし、Common Platformは最近、量産立ち上げで問題が発生することが多くなって来た。これは、IBMが先端プロセスでの量産立ち上げの「パイプクリーニング」に利用していたCell Broadband Engine(Cell B.E.)の製造が、32nmプロセス以降はなくなったためとも言われている。つまり、立ち上げ期に走らせて、プロセス側の問題をチェックするための手頃なチップがなくなってしまった。そして、複数の業界関係者によると、GLOBALFOUNDRIESの28nmプロセスも、立ち上げに苦戦しており、AMDのスケジュールに合わせることが難しい状況にあったと言う。

 そうした背景を考えると、Steamrollerベースの製品のスリップは製造面での問題だと推測される。最初の世代のSteamroller製品が、依然としてGLOBALFOUNDRIES製造のままであるのなら、2013年のロードマップから消えたことは、GLOBALFOUNDRIESが28nmのボリュームで苦労していることを示すことになる。

 一方、Steamroller系の製品がGLOBALFOUNDRIESからTSMCに移されるとしたら、ファウンドリ移行に時間がかかっていることを示している可能性が高い。ハイパフォーマンスCPUのようにカスタム回路設計が多い製品では、セルライブラリを置き換えるだけでは移行できないため、一般にファウンドリの移行に伴う物理設計に時間がかかる。また、AMDはTSMC側で製造キャパシティを確保しなければならないが、TSMCの28nmには各メーカーが殺到しているため、キャパシティの確保は容易ではない。もし、TSMC 28nmにAppleのA6系SoC(System on a Chip)が来ていれば、もっと逼迫していただろう。

 この問題は、AMDのPC&サーバー系CPU製品群だけに影響する話ではない。GLOBALFOUNDRIESでAMD設計のチップを製造する、あるいは製造する計画だった、他のベンダーにも大きな影響を与える。例えば、次期Xboxを抱えるMicrosoftと、次期PlayStationを抱えるソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)だ。両社とも2013~2014年の次世代機の投入であるため、当初の製造プロセスは28nm以降を予定していると見られる。

●先行するIntelに追いすがるファウンドリ各社

 GLOBALFOUNDRIESは、今年9月にはFinFET型の3Dトランジスタの14nmプロセスの量産立ち上げを1年前倒しして、量産開始を2014年と発表した。20nmプロセスも今年中に提供開始として、先端プロセスの勢いを誇示した。もちろん、これは水を開けられたIntelのプロセス技術とのギャップを埋めるためのスピードアップだ。しかし、急ピッチなプロセス技術開発の裏で、GLOBALFOUNDRIESは立ち上げに苦労していると見られる。

 もっとも、TSMCを始めとする他ファウンドリも順調に28nmへ移行したとは言えず、先端プロセスの開発の難しさを浮き彫りにしている。毎世代、スムーズに立ち上げ続けている(ように見える)Intelが、むしろ例外だと言える。

 しかし、ファウンドリ各社がIntelに対して、先端プロセスの量産で遅れていて、そのギャップが開きつつある現状は、Intel以外のチップベンダーにとって不利だ。ボディブローのように、徐々に製品の競争力を弱めつつある。

 PC&サーバー市場では、実際にAMDの足腰をすっかり弱めてしまった。Intelに対して常に周回遅れのプロセス技術で戦い続けなければならないため、パフォーマンスや製造コストや電力で不利な立場に立たされている。プロセッサアーキテクチャをいかに改良しても、プロセスの絶対的な不利を覆すことは難しい。今は、Intelを圧倒しているスマートフォンやタブレット向けのモバイルチップでも、将来は、Intel製品に他のファウンドリの製品が太刀打ちできなくなる可能性がある。

●AMDの変化からうかがえる設計計画の変更

 このように、製造面での不利を抱えて懸念されるのは、AMDのロードマップの今後だ。AMDのメインストリーム向けラインナップは、Steamrollerベースの「Kaveri(キャヴェリ)」に換えて、現行のPiledriver(パイルドライバ)コアベースの「Richland」を2013年に投入しようとしていると伝えられる。PiledriverコアはGLOBALFOUNDRIESの32nm PD SOIプロセス。そのため、GPUコアだけを現在のTrinity(トリニティ)の「VLIW4」アーキテクチャから、「GCN(Graphics Core Next)」アーキテクチャへと切り替え、GLOBALFOUNDRIESの32nmで製造すると見られる。

以前予定していたAMD CPUのアーキテクチャ開発
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現在のAMD CPUのアーキテクチャ開発
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 GCNは、現在はTSMCの28nmバルクプロセスに乗っており、従来の計画では、GCNは全て28nmプロセスで提供される見込みだった。その場合、GCNの物理設計にはあまり手を加える必要がないため、労力が少なくて済む。しかし、Steamrollerが間に合わない可能性が出てきた段階で、GCNを32nm PD SOIプロセスへと移植し、32nmに乗っているPiledriverと組み合わせる準備していたものと見られる。

 28nmプロセスの低電力&低コスト向けAPUは、Bobcat系のJaguarコアの「Kabini」や「Temash」が来年(2013年)に投入される。こちらは、もともとTSMCプロセスで設計が行なわれていたものだ。ただし、JaguarコアもGPUコアも、どちらも論理合成可能なシンセサイザブルコアであるため、ファウンドリの移行は比較的容易だ。

 問題は、ハイパフォーマンスのPC&サーバーセグメントでは、AMDが2013年に28nmの製品を出せない可能性があることだ。もし、量産が2014年にずれ込むとしたら、Intelが14nmプロセスのP1272を量産するタイミングと重なる。プロセス技術では、1世代半の遅れとなってしまう。かつては、1年差だったIntelとAMDのプロセス技術のギャップが、2年を越える遅れとなってしまう。ますます、競争力が削がれることは必至だ。

 GLOBALFOUNDRIESやTSMCがプロセス技術開発を前倒ししている理由はその遅れを取り戻すためだ。GLOBALFOUNDRIESのロードマップで行くなら、2013年後半から2014年には20nmで、2014年後半から2015年には14nmで製品を市場に出せることになる。TSMCも似たようなスケジュールだ。しかし、問題は量産時期でギャップを詰められるかどうかにあり、そこには、まだ疑問符がついている。

TSMCのロードマップ
Intelのロードマップ
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 もっとも、Intelもモバイル製品向けのSoCプロセスは、製品の出荷のタイミングがPC&サーバー向けよりもかなり遅く、ファウンドリとのギャップは狭い。一方、GLOBALFOUNDRIESとTSMCは、モバイル製品向けのプロセス開発に注力しており、かつてはハイパフォーマンスプロセスを先に開発していたのが、今では、パフォーマンスモバイル向けプロセスを先に持って来るようになっている。そのため、モバイル製品では、半導体技術の面でも、ファウンドリはある程度はIntelと戦える。現在の流れは、GLOBALFOUNDRIESとTSMCのどちらも、立ち上げるプロセス技術のバリエーションを絞り込んで、パフォーマンスモバイル向けのプロセスで広い製品分野をカバーする形に変えつつあるように見える。

●AMDアーキテクチャを使う場合の限られた選択肢

 こうして見ると、AMDのハイパフォーマンスCPUのような製品は、現在はIntelに対抗してファウンドリで製造しにくくなっていることがわかる。プロセス技術の導入時期で大きく水を開けられ、量産でつまずくと、ハンディキャップをいくつも負わされている。そのため、AMDがBulldozer系のハイパフォーマンスCPUコアの製品をストップするという報道も流れている。実際、来年(2013年)2月の半導体回路カンファレンス「ISSCC(IEEE International Solid-State Circuits Conference)」では、恒例のAMDのハイパフォーマンスCPUの論文が予定にない。発表されるのは、Jaguarの方だけだ。

 こうした状況で、AMD設計のプロセッサは、現在、やや困難な局面に直面している。AMD設計のチップをGLOBALFOUNDRIESで製造しようとすると、28nm以降のプロセスでもたつく可能性がある。しかし、TSMCで製造しようとすると、製造キャパシティなどの問題があるだろう。また、TSMCでは、少なくとも2013年中は、まだBulldozerアーキテクチャ系のCPUコアを使うことができない可能性が高い。

 Microsoftの次世代Xboxがチップの製造で困難に直面していると伝えられる理由は、このあたりにあるのかも知れない。MicrosoftはGLOBALFOUNDRIESで試作したと報じられている。次世代Xboxが2013年よりも遅れるとしたら、それは製造面の問題で、その根源は全体的なファウンドリプロセスの遅れによる。

 SCEも次世代PlayStationの心臓チップを、Microsoftと同様にAMDアーキテクチャベースで開発していると見られる。そのため、同社がGLOBALFOUNDRIESでSteamrollerベースのCPUコアで製造するなら間に合わない可能性があり、TSMCで製造するならJaguarベースのCPUコアに使わなければならない可能性がある。後者の場合は、CPUコア数を増やすことで、マルチスレッド性能を上げるというアプローチになるだろう。TSMCで製造する場合は、フルシンセサイザブルな設計になる可能性が高く、その分、ファウンドリやプロセス世代間の移植が容易になる。

 どちらのゲーム機も、不幸なのは、ファウンドリのプロセスがFinFETに移行する直前のプロセスで製造を始めることだ。こればかりは、どうにもならないが、半導体のプロセス技術の一大転換期の直前にチップ製造をスタートすることになる。ただし、その分、微細化してFinFETに移行した際に、低電力化で大きな利点を得る可能性もある。