後藤弘茂のWeekly海外ニュース

東日本大震災をどうやってIntelは無傷で乗り切ったのか



●成田を離陸する直前に地震に遭う

 2011年の東日本大震災の、まさにその時、Intelでサプライチェーン(供給連鎖)を担当する副社長は、成田空港にいて日本を離れようとしていた。Intelのサプライチェーンでは、実は半導体製造の資材の多くを日本に頼っている。そのため、震災は大きなインパクトだった。うまく対処できなければ、Intelのチップ製造ラインを止めてしまうことになる。

Jackie Stum氏(Vice President, General Manager, Grobal Sourcing and Procurement, Intel)

 Intelでサプライチェーンを担当するJackie Stum氏(Vice President, General Manager, Global Sourcing and Procurement, Intel)は、自身の被災体験とともに、Intelがその時に取った対策と、震災から学んだことを明かした。

 「私は、地震の時、日本にいた。私とスタッフ達は、まさにサプライチェーンの人達との会議を成功裏に収めたところだった。私のスタッフの多くは、テクニカルミーティングのために残り、私自身は成田に向かった。そして、成田で私が何も知らずに飛行機が離陸するのを待っている時に、地震が襲った。

 災害が襲ったのだから、サプライチェーン組織の長として、私はすぐに状況に対応しなければならないはずだった。ところが、私は日本にいて、そして、私の次席も成田にいたため対応できなかった。そのため、我々の危機管理システムは、自動的に次々席のスタッフに権限を渡し、世界中にまたがっているサプライチェーンに対応させた。

 これは、いい処置だった。なぜなら、その時の私は、使えるコミュニケーション手段が非常に限られていたからだ。サプライヤとコミュニケーションする手段はBlackberryだけで、すぐにコンタクトできるサプライヤーは少ししかいなかった。

 本社は、すぐに集中して対処し始めた。なぜなら、震災は我々のサプライチェーンに甚大なインパクトを与えていたからだ。ディストリビューションラインのうち7,000が危機にあった。これは、当社の14,000のディストリビューションネットワークの約半分にも及んでいた。

 すぐに露呈した問題は、化学薬品パイプラインのうち海岸沿いにあるものだった。それらは、津波のために閉鎖されていたからだ。全部で365の材料の調達を、すぐに再割り当てする必要があった」。

●世界に広がったIntelのサプライチェーン

 Intelは同社の研究開発部門のカンファレンス「Research@Intel 2012」を現地6月26日から米サンフランシスコで開催する。前日は「International Press Day」と銘打って、Intel各部門の責任者からのアップデート説明が行なわれる。サプライチェーンを担当するJackie Stum氏のセッション「Preparing for the Unthinkable(想定外に備える)」は、その一枠として行なわれた。

 Stum氏は日本の震災の例を取り上げつつ、同社のサプライチェーンのシステムについて説明した。

 半導体チップの製造工程では、さまざまな材料が必要となる。そのため、Intelのサプライチェーンは世界にまたがっており、非常に複雑だ。広大なサプライチェーンを円滑に稼働させ、必要な資材が滞りなく調達され、加工中の製品が工場間を無事に輸送され、最終製品が顧客やコンシューマに滞りなく届けられるようにしなければならない。

 Intelの場合、外部からの資材の調達量が特に多いエリアは全部で7ヵ所。米国、日本、韓国、台湾、中国、英国、ドイツだ。その中で、日本は全体の15%以上と、大きな割合を占めているという。特に多いのは、化学薬品で、日本のサプライヤの品質が高いため、主要なソースになっているという。

Intelのサプライネットワーク 世界のサプライヤー分布

 Intel自身の製造施設も世界に分散している。ウェハの製造施設は北米中心だが、中国などにも分散している。アセンブリとテストは、南アジアとコスタリカ。全部合わせると400万平方フィートの施設規模となり、Intelは総額365億ドルを投資しているという。そして、サプライチェーンの輸送網はさらに複雑で、全部で14,000の拠点があるという。広大な輸送網は災害の影響を受けやすく、2010年にアイスランドの火山が噴火した際も、大きな影響を受けたという。

【お詫びと訂正】アイルランドの火山と記載しておりましたが、アイスランドの誤りでした。お詫びして訂正いたします。

Fabとアセンブリーの分散図 輸送ネットワーク

●6年間に渡りサプライチェーンの弾力性を高める

 Intelは、2006年以降、被害を受けてもすぐに立ち直ることができるサプライチェーンづくりに取り組んできたという。例えば、2008年の中国四川大地震でも、四川省の成都のチップ・パッケージング工場が影響を受けた。この時は、地震から6日のうちに全ての従業員がサイトに戻り、7日目には製造能力の90%に戻したという。さらに、昨年(2011年)のように、大災害が連続した年にも対処ができたという。

 「日本の地震と津波では、世界経済が大きな影響を受けた。資材の不足などで製造が滞った産業がいくつもあった。例えば、自動車産業は30%も落ち込んだ。

 しかし、Intelはその時期に、何も財政上や生産上の不足を被らなかった。我々は、製造材料や機材のうち2/3を日本に依存し、アセンブル材料の半分も日本から得ている。それなのに影響を受けなかったのは、非常によく準備を整えていたからだ」とStum氏は語る。

世界でさまざまな事件、出来事が起こった Intelの復旧

 Intelの危機管理戦略は、組織作りから始まっている。危機状態になった時の組織と役割がきっちり決まっているから、迅速に対応ができる。社外のサプライチェーンへの対応も、緊急時の組織分担が明瞭になっているから、何が起きていて何が必要かを明確に伝えることができるという。危機時の組織と組織図は下の通りだ。

Intelの危機管理戦略 危機管理プログラム

 具体的に、日本では、この組織がどう働いたのか。

 「震災のその日から、「CMT(Crisis Management Team)」が立ち上がった。全社を挙げて、我々の顧客とコンタクトを取り、十分な資材の供給を得られるかどうかを確かめ始めた。参考までに言うと、この震災の影響で、世界中の300mmウェハのシリコン製造の45%がダウンした。供給が得られないものについては、新しい材料の品質評価をすぐに始めた。日本以外で供給できるという業者とも連絡した。技術開発チームもすぐに動き始めた。あらゆる部門でCMTがスタートし、即座に動きはじめた」。

●日本法人が危機に際してフル稼働

 そこで、Intelがまず、最初にしなければならなかったことは、福島原発の事故に関連したことだったという。

 「マイクロプロセッサの製造は非常に精緻だ。化学物質を非常に正確な調合で、精緻な製造装置によって加工する。そのため、我々の顧客は、まず放射能が与える影響を心配した。それを払拭しないと、日本から材料や機材を持って行くことができない。そこで、当社は全てのチームが全力で放射能について調べ、我々の製品に影響がないことを確かめた。我々は、通常、一次サプライヤーと関係を持っているが、一次サプライヤーに供給するサブサプライヤーとは直接的な関係を持っていなかった。しかし、今回は、サブサプライヤーもカバーする必要があった。

 日本法人を中心とした努力の結果、我々のCMTの活動は、急速に終息して行った。危機に際しての司令部となるCEOC(Corp Emergency Operations Centaur Technology)は、4月6日に活動を終えた。日本の施設は、地震時に社員の安全のために緊急避難をさせたが、これもリモートの施設から戻すことができるようになった。集中した努力の結果、当社は、震災から2カ月で完全に通常の生産に戻った。夏が始まる頃には、震災前のレベルに達していた。しかし、全世界の産業を見渡すと、多くは2011年9月まで回復できなかった」。

東日本大震災が及ぼした影響 Intelの回復までの2カ月

 Stum氏は、どうしてIntelはうまくやれたのかを自己分析する。下のスライドがそれだ。そして、中でも、最も重要なのは、サプライヤーとの堅固な信頼関係を築いていたことだと、強調する。また、震災から学んだことも多かったと言う。

 「まず、コミュニケーション機能を向上させる必要がある。災害下でも、さまざまな重要な情報を迅速に伝達することは重要だ。輸送については、これまで我々は、主に成田空港に頼っていた。しかし、震災で成田は2日に渡って閉鎖され、その後も輸送量が限られた。日本国内の他の空港からの輸送を強化する必要がある。

 また、サブサプライヤーとの関係を築くことも重要だと学んだ。複数のダイレクトサプライヤーを持つことが危機の分散には有効だと。しばしば、我々のサプライヤーは、クリティカルな材料を単一のサブサプライヤーに頼っていることがわかったからだ」。

 サプライヤーに関しては、日本国内の地理的な集中度も問題だという。下の図の紫はIntelの顧客、緑がサプライヤー、そしてオレンジがサブサプライヤー、そして、赤が福島原発だ。Stum氏によると、サブサプライヤーの多くが福島から200km圏内にあるという。Intelとしては、より地理的に離れたサプライヤを開拓して行く必要があると見ているという。

Intelでは何が上手くいったか Intelは何を学んだか 日本のサプライヤー分布

 こうしてIntelの危機管理を見ると、改めて、Intelのパラノイア企業振りが見えてくる。緻密に、起こり得ることに備えて準備を進めるのがIntel流だ。Intelの強味は、こうした管理の強力さにある。しかし、外から見ると、それがやや息苦しく見えるのも確かだ。