後藤弘茂のWeekly海外ニュース

E3で見えて“来なかった”ソニーの次世代PlayStation 4



●まだ計画を明かす段階にないPlayStation 4(PS4)

 現行プラットフォームでの、ゲーム内容の丁寧な説明。それが、SONY COMPUTERENTERTAINMENT AMERICA(SCEA)が、米ロサンゼルスで開催されているゲームショウ「E3(Electronic Entertainment Expo)」のカンファレンスで行なったプレゼンテーションだった。推しタイトルのゲーム内容をじっくり見せ、PlayStation 3(PS3)とPS Vitaの魅力を訴えることに終始した。また、AR技術を使った、新しいソフトウェアの展開を見せた。しかし、同社は、次世代プラットフォームについては、黙して語らず、今回は何も触れなかった。この点は、Microsoftと同じだ。

 なぜ、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)はPlayStation 4(PS4)を今回のE3で少しでも触れなかったのか。その理由は簡単で、まだ準備していないからだ。SCEの次世代機のメインチップの開発は、紆余曲折の末、AMDと協力して行なうことになったと言われている。AMDチップを使う次世代機の投入は、現在のペースから計算すれば2014年、リスク覚悟で急いだ場合でも2013年末になると見られる。

 当初は、SCEは32nmプロセス世代で次世代機への移行を検討していたと見られる。Cell Broadband Engine(Cell B.E.)は90nmから65nm、45nmへと微細化したが、32nm版は設計されなかったからだ。PS4が、32nmベースのマシンであったなら、今頃市場に出ていたはずだ。最初は、Cell B.E.の拡張版などが検討された。

 しかし、SCEはさまざまなプランを検討し、計画は後ろへとずれ込んでいった。知られているように、SCEは、一時IntelアーキテクチャベースでPS4を検討していた。Intelが積極的にLarrabeeを売り込んでいたためだ。

Larrabeeの概観
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 Intelに近い業界関係者によると、IntelはSCEだけでなく、Microsoftと任天堂にもLarrabeeを売り込みに行ったという。任天堂がWii Uのプランを練っていた時期だ(ちなみに、同じ時期にNVIDIAも任天堂にTegraを売り込みに行っている)。Intel側は1社でもLarrabeeを採用してくれれば、Larrabeeアーキテクチャが一気に浮上できると期待していた。

 Larrabeeが採用されれば、ソフトウェアベースのレンダリングパイプラインという、これまでとは違うステージに3Dグラフィックスが移行するはずだった。ソフトウェアレンダリングへの移行は、パラダイムシフトであるため、ゲーム機のような原動力をIntelは欲していた。そして、3社の中で最も真剣にLarrabeeを検討したのがSCEだったという。

●Larrabee2の搭載も検討されたPS4

 Intelに近い業界関係者によると、その当時SCEが検討していたプランは、オールIntelのプランだったという。Larrabeeの低消費電力&拡張版のLarrabee2に、Intelの先端CPUを組み合わせる計画だったようだ。Larrabee2であることを考えると、その時点の予定では、2013年までに市場にPS4を出すロードマップだったと考えられる(ゲーム機ではソフトウェア開発のリードタイムが必要になるため)。その場合、時期的に考えて、組み合わせるCPUはHaswell(ハスウェル)アーキテクチャだったと推定される。いずれにせよ、32nmはスキップして22nmで立ち上げることになったはずだ。

 SCEとIntelの組み合わせは奇妙に見えるかも知れないが、実際にはSCEはかなり初期の段階からIntelと組むことを想定していたと推測される。振り返ると、SCEは、初代PlayStationでは米LSI Logic社と組み、次のPlayStation 2では東芝と組み、その次のPS3ではIBM、東芝と組んだ。徐々に組む半導体メーカーをステップアップして来た。つまり企業の戦略として、より大きなロジック半導体メーカーと組んで行く方針でいたと思われる。その流れからすれば、Intelは最終目標だったはずだ。

 しかし、Larrabeeはグラフィックス用途としては電力効率が悪く、それは、家電として浸透させることを目標としているゲーム機では都合が悪かった。ほかの要因も加わり、Larrabeeプランが流れた。そして、その後出てきたPower系マルチコアプラスSPU(Synergistic Processor Unit)のプランも流れた。そのため、PS4は2010年までに、いったん白紙に戻ったと見られる。

 仕切り直しのPS4が再始動したのはその後で、その段階で、AMDが浮上したと推測される。SCEがAMDを選んだとすれば、その理由は、一定のシングルスレッドパフォーマンスを望んだためだろう。

 PS3を出した後、SCEはゲームデベロッパからフィードバックを聞き取り続けていた。その結果、シングルスレッド性能が、より必要だというソフトウェア開発側の声に直面したと言われる。そのため、SCEは、次世代アーキテクチャではシングルスレッド性能も重視する方向に転じることにしたと推測される。

 この推測が正しければ、SCEが指向しているのは、高いシングルスレッド性能のCPUコアと、高いスループットの並列プロセッサの組み合わせとなる。言い換えれば、今風のヘテロジニアス(Heterogeneous:異種混合)コンピューティングのスタイルだ。

●フロムスクラッチで開発ができないPS4世代

 ソニーグループは、現在、苦境にあり、そのため、ゲーム機の開発プランもかなりの制限を受けている。PS Vitaを見てもわかる通り、特殊なプロセッサをフロムスクラッチで(何もない状態から)開発することは、今はできないと見られる。できる限り、既存のIPを買うことで開発費を抑える方向に向かっているように見える。また、メモリ業界関係者は、今のソニーはXDR DRAMのような割高についてしまうコンポーネントを使うことも避けようとしているという。ソニーの現在のスタンスは、できる限り既存の確立した技術を使うことで経費を押さえることのようだ。

 そのために、メインチップの設計には前回PS3の時のような時間はかからないだろう。AMDを使うとしたら、既存IPを利用することになり、カスタム化をしても、ゼロから開発したCell B.E.の時と比べると、ある程度は短い期間で設計できる。

 もし、SCEが2011年からAMDとの協議をスタートさせたとすれば、チップの完成は2013年になるだろう。もちろん、これは、SCE側の要求仕様によって大きく変化する。例えば、SCEがK10(Hound)コアを28nmプロセスに移植することを求めたり、チップを20nmプロセスにしたりすれば、時期はより遅くなる。

 ゲーム機の場合は、ソフトウェアを揃えなければならないので、チップが2013年なら、製品を投入できるのは2014年という見積もりになる。ゲームタイトル開発のリードタイムが一定期間必要になるためだ。

 ただし、MicrosoftがXbox 360でやったように、ダッシュで開発を行なえば、早巻きで2013年に間に合わせることもできる。もっとも、Xbox 360のローンチは、そのために綱渡り状態だった。

●24カ月の突貫工事だったXbox 360 CPUの開発

 具体的にXbox 360のスケジュールの例を説明すると、2003年に開発をスタートして、2005年末に製品を出した。そのため、CPU設計に関しては、下のスライドのように、コンセプトから製造までをわずか24カ月というアグレッシブなスケジュールで行なった。Cell B.E.よりも後にCPU設計を開始して、PS3の1年前に製品を出すという乱暴さだった。

Xbox 360のCPU

 スライドは2007年のMemconカンファレンスでのIBMのもので、この時、IBM側の担当者は、Xbox 360 CPUの開発が、それまでで最もアグレッシブで大変な作業だったと語った。仕様にいたっては、数週間で決断を迫られることが多く、慎重な検討を重ねることが難しかったと言う。しかし、再利用できるIPをできる限り使うことで、設計の迅速化を図ったと説明した。

 実際、Xbox 360のCPUコアは、Cell B.E.のPPU(Power Processor Unit)との類似が明瞭で、IBM内でPPUの設計を流用・拡張しているように見える。下のXbox 360チップ開発チームの分布を見ても、CPUコアである「PX Core」の開発チームは、Cell B.E.の開発チームと同じオースティンにある。一般に言われているような、IBMロチェスタで開発したCPUコアではない。もしそうだとすれば、皮肉なことにソニーがXbox 360の短期開発を手助けしたことになるのかもしれない。

IBMのチップ開発チームの分布

 このように、Xbox 360では、チップについては既存IPを一部流用することで、設計を迅速化した可能性がある。その上で、チップができる前からゲーム開発を本格的にスタートさせることで、PS3を追い抜いた。この時は、MicrosoftはXbox 360と同系のアーキテクチャのCPUとGPUを積んだPower Mac G5を開発キットとして配布。実チップによる開発キットがギリギリのタイミングだったにも関わらず、先行してゲーム開発だけは進ませた。

 その結果、Microsoftは常識を覆すようなハイペースでの開発を実現した。こうした前例にならって、SCEもアグレッシブなスケジュールを取れば、最速で2013年末はありうる。しかし、穏当なスケジュールでは、2013年末のリリースは難しいだろう。

●危険を冒すことができない今のソニー

 PS4についての1つの疑問は、どれだけの規模のチップになるのかという点だ。ここにも、ソニーの財政苦境が影を落とす。チップが大きくなると、チップ自体のコストだけでなく、冷却機構のコストも増え、トータルのコストが上がる。もし、PS4がコスト高となり、発売時点でソニーの業績の足を引っ張ることになれば、それこそ経営陣の責任問題にも発展しかねない。ソニーとしては無理ができないはずで、スペックも、ある程度穏当に押さえなければならないだろう。もっとも、経営陣が責任をかぶる覚悟で、逆ざやでPS4を出すということも考えられないわけではない。しかし、現実問題として、それは難しいだろう。

 この問題に深く関わるのはプロセス技術だ。AMDはメインストリーム製品については、2013年から28nmバルクプロセスに切り替える。SOI(silicon-on-insulator)プロセスはハイエンド製品にだけ使うとなると、ラインの確保などを考えると難しいかもしれない。いずれにせよ、AMDが現在、パフォーマンス&メインストリームのCPU&APUの製造を委託しているGLOBALFOUNDRIESには、今のところ28nmのSOIは不鮮明だ。

ファウンダリ企業のプロセスロードマップ
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 こうした状況を考えると、PS4のチップで考えられるプロセス技術は、まず28nmバルク。PS4の出荷時期が2014年後半なら20nmもありうる。28nmプロセスだった場合は、32nm SOIよりチップに載せられるトランジスタ数が増えるが、32nm SOIに対してのパフォーマンスアップは期待できない。20nmならさらに微細化する上に、パフォーマンスもある程度期待できる。ただし、GLOBALFOUNDRIESの20nmはIntelの22nmと異なり3Dトランジスタではない。細かな検証は後の記事で行なうが、基本的には2013〜14年のミッドレンジPCの水準になる可能性が高い。

 もっとも、ゲーム機はすでにプロセッサのスペック競争のフェイズにはないと考えることもできる。チップのプロセッサ数は、それほど競ってもしょうがない段階に入ったのかも知れない。

 そもそも、ゲーム機でのAAAタイトル(大作ゲーム)というもの自体のビジネスモデルが揺らいでいる。ゲームプラットフォームでは、スマートフォンやタブレット、さらにこの先はスマートTVといった汎用的なデバイスの挑戦を受けている。さらに、クラウドゲーミングによって、ローカルのリソースの不利をカバーするという流れも勃興している。SCEも、クラウドゲーミングにかなり関心を示していると伝えられる。PS4世代で、クラウドがどう絡んで来るかが、ハードウェア仕様と絡んで重要なポイントとなるだろう。