山口真弘の電子辞書最前線
カシオ「XD-N6500」
~動画対応、スマートフォン風UIを搭載した生活・教養モデル
(2013/2/15 00:00)
カシオの「XD-N6500」は、生活・教養関連の100コンテンツを搭載したクラムシェルタイプの電子辞書だ。新たに動画コンテンツの再生に対応したほか、従来のインターフェイスを一新し、メニュー画面にスマートフォン風のアイコン表示を採用したことが特徴だ。
各社の電子辞書がタッチ操作を採用し始めて早数年になるが、インターフェイスは従来からのテキスト主体のメニューがタッチ対応後も踏襲されてきた。本モデルをはじめとする2013年春の「XD-N」シリーズでは、このメニュー画面がスマホ風のデザインに一新された。カラー化を除けばここ数年インターフェイスに大きな変化がなかった同社の電子辞書にとって、久々の大規模な刷新ということになる。
今回はメーカーから試作機を借用することができたので、実際に試用してその特徴をチェックする。なお、市販される製品とは若干相違がある可能性があることを予めご了承いただきたい。
本体の薄型軽量化に加え、スクロールパッドをメイン画面に統合
まずは外観と基本スペックから見ていこう。
電源投入前にまず気づくのが、従来モデルでは画面右側にあったスクロールパッドが、本モデルでは省かれていることだ。といっても機能がなくなったのではなく、スクロール機能がメイン画面に統合されたことで単体のパッドとしては存在しなくなった、というのが実情だ。元はといえば、画面にスクロール機能を追加するためにやむなく画面外にスクロール専用のパッドを設けるという“つぎはぎ設計”だったわけで、これは正しい方向性だろう。ただしこれによって画面サイズが広くなったりはせず、解像度も含めて従来と同様である。
本体は従来製品より1mm強薄くなったほか、重量は約290gと従来モデルより約20g軽量になり、300gの大台を切った。このこと自体はよいことなのだが、外装があきらかにプラスチックと分かるようになり、塗装なども含めて質感がややチープに感じられるようになった。また、ギラギラした塗装が控えめになり全体的にマット調になった反面、相変わらず指紋がつきやすいのも難点だ。
電池は単3電池×2本で、電池寿命は約130時間。競合にあたるシャープ製品とは同等ということになる。microSDカードスロットは先代のモデルと同じく2基を搭載しており、コンテンツの追加などに対応する。また、本体内にも100MBのメモリを搭載する。
キーボードの配列などは従来と変化はないが、上段のファンクションキーの右端にあった「お気に入り/ライブラリ」キーが1つ内側に移動し、かわって「メニュー」がもっとも右端に配置されるようになった。一番端のキーを押せばメニューが表示されるというのは感覚的に分かりやすいので、この変更は歓迎だ。
その下、キーボード手前にある上下左右キーは、これまで円形の一体型だったのが、各キーが独立した形状へと改められた。その影響かは分からないが、左キーや上下キーを押そうとして誤って左上の「音声」キーや左下の「戻る/リスト」キーを押してしまうことが、今回の試用中に何度かあった。個人的にはやや気になるところだ。キータッチが従来モデルに比べて軽くなったことが影響している可能性もある。
メニュー画面がアイコン表示にリニューアルも、操作性はやや疑問
さて、本製品の大きな変化として、先に述べたスクロールパッドの統合のほかに、メニュー画面のアイコン化が挙げられる。これに伴って操作性もずいぶんと変化しているので、併せてチェックしていこう。
まずはメニューのアイコン化。従来モデルでは「国語」、「英語」、「趣味」などカテゴリ別にタブが横に並び、個々のタブの中に辞書コンテンツがリスト形式で並んでいた。アイコンはまったくなく、テキストでの一覧だ。これは同社の電子辞書に限らず、シャープ、セイコーインスツル、キヤノンといった競合他社の製品にもほぼ共通する、昨今の電子辞書の共通といっていいレイアウトである。
今回のモデルでは、各カテゴリがタブで分けられているところまでは従来と同じだが、個々の辞書コンテンツはリスト形式ではなく、アイコンで表示されるようになった。iOSやAndroidと同様、角が丸くやや立体感のある正方形のアイコンと、テキストラベルの組み合わせだ。アイコンのサイズは2種類に切り替えられ、5個×2段か、もしくは2個×3段のいずれかの配置となる。後者の場合はアイコンサイズは変わらないがテキストラベルのみが拡大され、アイコンの右側に並ぶ形になる。
これによって見た目はスマホやタブレットに非常に近くなったわけだが、気になるのは肝心の操作方法がスマホとは異なっていることだ。例えば、アイコンをタップすると反応するのに、アイコン下(もしくは右)のテキストラベルをタップした時は反応しないこと。5個×2段表示の際はまだしも、2個×3段表示では画面の半分以上をテキストが占めているにもかかわらず、テキストをタップしても辞書コンテンツが起動しないのだ。ここはアイコン/テキストラベルどちらをタップしても起動できるようにしておくべきだろう。
また「かんたんサーチ」内の「電子辞書 図から検索」に、これとほぼそっくりの外観を持つアイコン風のインターフェイスがあるのだが、こちらはシングルタップでは起動せず、ダブルタップしてやる必要がある。辞書コンテンツの起動と「図から検索」ではやや性質が違うとはいえ、見た目がそっくりである以上、操作性は統一しておくべきだろう。
上記の2つの問題は、慣れればまだ使えなくはないのだが、個人的にかなりつらかったのが、横に並んだ各カテゴリのタブを切り替える際の操作方法だ。従来であれば各カテゴリのタブは左右キーを使って切り替えられたが、今回のモデルでは左右キーはアイコンのフォーカスの左右移動に割り当てられており、この操作方法が使えなくなっている。
ではタブを切り替えるにはどうすればよいかというと、主に2つの方法がある。1つは、左右キーを繰り返し押すか、あるいは押し続けてタブを切り替える方法。左右キーを押し続けると、画面上にある5つのアイコン(5個×2段表示の場合)が順に選択されていき、端まで来ると隣のタブに切り替わるのだ。この方法だと従来と同じキーを使って切り替えられるが、これまで左右キーを1回押せば済んでいたのが何回も押さなくてはならず、少々煩わしい。
もう1つは、キーボード手前のサブパネルに表示される「<<」「>>」のキーを押すことだ。要するに、タブ切り替えに適したハードウェアキーがないが故に、サブパネルにその役割を持ったボタンを表示するという、苦肉の策がとられているのだ。ただ、物理キーを中心に操作している時はサブパネルは視野に入っていないことが多く、やはり無理があるように感じられる。
このほか、メニュー画面ごとに左右フリックしてタブを切り替えることもできるのだが、スマホのように指先にくっついて画面がスライドするのではなく、フリック後に指を離してからスライドする仕組みなので、こちらも違和感がある。切り替える方法そのものは複数用意されているのだが、帯に短したすきに長しで、どうにも使いにくいのだ。
クラムシェル型の電子辞書の場合、スマホと違ってキーボードによる操作も考慮する必要があり、操作方法に折り合いをつけるのが難しかったであろうことは想像がつく。しかしながら、ルックスをスマホに似せたからこそ、従来の操作方法を中途半端に残すのではなく、思い切って操作性もスマホに近づけるべきだったのではないだろうか。もし、次のモデルで操作性に変更を加えるとユーザーがまた混乱することは確実で、メニューともども操作性を一新する千載一遇のタイミングを逸してしまったように思える。
動画コンテンツ「リトル・チャロ」を新規に搭載
コンテンツ面も見ていこう。コンテンツ数は、従来モデルの110に比べて100と若干目減りしているが、各カテゴリの中で若干のラインナップが差し替わった結果であり、カテゴリ単位での大掛かりな改廃はない。日本経済新聞社の「経営用語辞典」、「株式用語辞典」など一連の用語辞典シリーズがまとめて省かれたのが目立つくらいだ。
その中で特徴的なのは、新たに搭載された動画コンテンツだ。これまで動画コンテンツといえばシャープの電子辞書が注力してきたが、カシオ製品も本製品をはじめとする2013年春モデルで動画コンテンツを搭載してきた。搭載コンテンツは各モデルによって異なるが、本モデルでは英語学習用のコンテンツとして「リトル・チャロ」を収録しているので、ざっとチェックしていこう。
「リトル・チャロ」は、テレビ放映版の1年分に当たる全50話から、JASRAC楽曲の使用部分を省いたフルアニメーションがまるごと収録されている。前回紹介したシャープ「PW-GX300」もやはり「リトル・チャロ」を収録しているが、そちらは進行に合わせて静止画が切り替わっていく、いわば紙芝居スタイルなので、フルアニメーションでの収録は本機が初となる。
しかし、実際に使ってみた限り「必ずしもフルアニメだからといって良いわけではない」と感じさせられた。というのも、フルアニメならではの情報量の多さゆえ、英語学習のつもりで鑑賞し始めたにもかかわらず、普通にアニメ番組を観ているかのようにキャラクターの一挙手一投足に見入ってしまい、英語がなかなか頭に入ってこないのだ。むしろ静止画を中心とした紙芝居のほうが情報量が少ないぶん気を取られにくく、英語の聞き取りに没頭できる。
また、英語のテキスト字幕が映像と同時に表示できないのも大きなネックだ。シャープ製品であれば、映像の下段に日本語・英語のテキスト字幕を表示でき、また英語字幕は進捗に合わせてテキストの色が変化するので分かりやすい。しかし本製品の場合は、フルアニメを全画面で再生するか、あるいは日本語と英語のテキスト字幕を表示するかの二択なので、画面を参照しながら英語のテキストを読むことができない。これは少々不便だ。
その代わりに選択部分だけを指定回数だけ繰り返し再生するといった機能はあるが、やはり代替にはなりにくい。実際に使ってみると、これはかなり不便だ。一般的に「静止画ではなくフルアニメ」と言われるとリッチに感じてしまうが、目的によっては必ずしもそうではないことを感じさせられた。習熟度などによっても向き不向きは異なると思われるが、個人的にはシャープ「PW-GX300」の形式のほうが、電子辞書に収録する形としては適しているように感じた。
なお、動画の再生そのものは(あまり動きが激しくないリトル・チャロというコンテンツの特性もあるだろうが)きびきびとしており、動作が遅くストレスが溜まるといったことはない。ただし動画の一時停止/早送り/巻き戻しなどがスクリーン上で操作できない点も含め、まだまだブラッシュアップが必要なように感じられた。
メニューと操作性の今後のブラッシュアップに期待
以上ざっと使ってみたが、従来モデルまでで複雑怪奇になった操作体系を統廃合すべく、メニューのアイコン化をはじめとしてあちこち手を加えた心意気は買うのだが、従来の操作性を継承するのか、それともまったく新しい操作体系を採用するのか決めかねているうちに、時間切れでリリースに至ってしまったという印象だ。メニュー画面にしても、アイコン化されたのは一番上の階層のみで、辞書コンテンツの中身は従来通りなのだが、それだけでここまで使いにくくなるというのは驚きである。
これが例えば「従来の電子辞書ともスマートフォンとも異なる独自の操作性だが、これが我々の描く次世代の電子辞書の基礎となる新しいインターフェイスだ」と自信を持って提示してくれているのなら話は別なのだが、行き場を失ったタブの左右切り替えキーをサブパネルに表示させたりと、どちらかというと妥協の産物といった感が強い。ところが辞書コンテンツを起動させてしまえば、まったくストレスなく使えてしまったりするので、問題がアイコン中心のメニュー、およびその操作性にあるのは明白だ。
というわけで、試用期間中、これまでになく首をひねらされたわけだが、電子辞書に初めて触れるユーザーなら、先入観がないぶん馴染める可能性はある。ただし、これまで長く電子辞書を使ってきたユーザーは、身に染みついてきた経験則が通用しない場合が多く、またスマホなどほかのデバイスとも異なる独自の挙動が見られることから、買い替えにあたっては気をつけたほうがよい。次期以降のモデルでのメニューおよび操作性のブラッシュアップに期待したい。
製品名 | XD-N6500 |
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メーカー希望小売価格 | オープンプライス |
ディスプレイ | 5型カラー |
ドット数 | 528×320ドット |
電源 | 単3電池×2 |
使用時間 | 約130時間 |
拡張機能 | microSD×2、USB |
本体サイズ(突起部含む) | 148.0×105.5×18.6mm(幅×奥行き×高さ) |
重量 | 約290g(電池含む) |
収録コンテンツ数 | 100(コンテンツ一覧はこちら) |