Hothotレビュー
日本HP「HP Elite Slice」
~モジュールを積み重ねて機能を拡張できる小型PC
2017年2月15日 06:00
日本HPから3月下旬に発売予定の「HP Elite Slice」は、モジュール設計を採用した小型PCである。重箱のようにモジュールを積み重ねることで、機能を拡張できることがウリで、省スペース性やデザイン性も高い。
今回は、HP Elite Sliceを試用する機会を得たので、早速レビューしていきたい。なお、今回の試用機は製品版ではなく、仕様が一部異なっていることに注意していただきたい。
コンパクトで美しいボディに高い性能を凝縮
HP Elite Sliceは、上からみると角が丸められた正方形のような形状をした小型PCであり、本体のサイズは165×165×355mm(幅×奥行き×高さ)とコンパクトで、重量も約1.05kgと軽い。上面には、hpのプレミアムブランドであることを示すロゴがあり、高級感を演出している。
HP Elite Sliceは、本体上面の天板として、「コラボレーションカバー」と「ワイヤレスチャージングカバー」の2種類が用意されていることも特徴だ。コラボレーションカバーには、Skype for Businessと連携するタッチキーが用意されており、ワンタッチでインターネット会議への参加や通話、ミュートなどが行なえる。
また、ワイヤレスチャージングカバーは、6型までのスマートフォンやモバイルデバイスのワイヤレス充電が可能であり、同社の「HP Elite X3」などを上に載せるだけで、充電が行なわれる。
HP Elite Sliceは、天板とモジュール(後述)の組み合わせによって、「HP Elite Sliceコラボレーションモデル」、「HP Elite Sliceワイヤレスチャージングモデル」、「HP Sliceオーディオモジュール付きコラボレーションモデル」の3モデルが用意されている。
HP Elite SliceコラボレーションモデルとHP Elite Sliceワイヤレスチャージングモデルは、CPUとしてCore i5-6500Tを、ストレージとして500GB HDDを搭載する。HP Elite Sliceオーディオモジュール付きコラボレーションモデルは、CPUとしてCore i7-6700Tを、ストレージとして128GB SSDを搭載する。OSは、全モデルともWindows 10 Pro(64bit)が搭載されており、メモリは全モデル共通で8GBであるが、最大32GBまで増設が可能だ。
今回試用したのは、HP Elite Sliceオーディオモジュール付きコラボレーションモデルだが、メモリとSSDの仕様が製品版とは異なり、メモリが16GB、SSDが512GBとなっていた。HP Elite Sliceオーディオモジュール付きコラボレーションモデルに搭載されているCore i7-6700Tは、開発コードネームSkylakeと呼ばれていた第6世代Coreプロセッサであり、クアッドコア+Hyper-Threadingにより、最大8スレッドの同時実行が可能である。一般的なノートPCに搭載されているCore i7は、デュアルコアCPU+Hyper-Threadingであり、最大4スレッドしか同時実行できないので、マルチスレッドアプリケーションではCore i7-6700Tがより高い性能を発揮する。Core i7-6700Tの基本動作クロックは2.8GHzだが、Turbo Boostにより最大3.6GHzまでクロックが向上する。
3種類のモジュールが用意されており、工具を使わずにワンタッチで脱着が可能
HP Elite Sliceの最大のウリが、オプションのモジュールを積み重ねることで、機能を拡張できることだ。モジュールの幅や奥行きは、本体と同じなので、ぴったり重箱のように積み重ねることができる。昔あったミニコンポのようなデザインだが、いわゆるドッキングステーションのように、工具を使わずにワンタッチで脱着できる設計になっている。もちろん、デザイン的な統一感も完璧だ。
今回試用したHP Elite Sliceオーディオモジュール付きコラボレーションモデルでは、オーディオモジュールが付属する。オーディオモジュールはその名の通り、オーディオ機能を拡張するためのモジュールであり、高級オーディオブランドのBang & Olufsenブランドの360度スピーカー、双方向ノイズキャンセリングおよび周囲5mの集音が可能なマイクシステムを内蔵している。オーディオモジュールの上に本体を積み重ねることで、こちら側が多人数でも、Skype for Businessなどを利用したインターネット会議や通話を、よりクリアなサウンドで実現できる。サウンドのクオリティも高いので、音楽や動画などを楽しむにも向いている。
現時点で用意されているHP Elite Slice用モジュールは、オーディオモジュールを含めて、全部で3種類がある。残りの2つが、「オプティカルディスクモジュール」と「VESAマウントモジュール」である。
オプティカルディスクモジュールは、DVDスーパーマルチドライブを内蔵したモジュールであり、DVDやCDの読み書きが可能になる。VESAマウントモジュールは、100×100mmのVESA規格に対応したマウンタであり、VESA規格対応のアームやスタンドなどに本体を固定できる。今回は、この2つのモジュールも試用した。
オプティカルディスクモジュールの底面には、接続用コネクタが用意されているので、この下にさらにほかのモジュールを重ねることができるが、オーディオモジュールの底面には、接続用コネクタが用意されていないので、その下にVESAマウントモジュール以外のモジュールを重ねることはできない。つまり、全てのモジュールを重ねる場合は、上から、HP Elite Slice本体、オプティカルディスクモジュール、オーディオモジュール、VESAマウントモジュールという順番になる。
なお、各モジュール間はUSB経由で接続されている。モジュールを装着する時は重ねて押し込むだけで、自動的にロックがかかる。外す時は底面にある取り外し用スイッチをスライドさせることで、ロックが外れ取り外せるようになる。
インターフェイスやセキュリティ機能も充実
HP Elite Sliceは、インターフェイスやセキュリティ機能も充実している。背面に、Gigabit EthernetやDisplayPort、USB 3.1 Type-C、USB 3.1×2が用意されているほか、左側面にもUSB 3.1 Type-Cとヘッドセット端子が用意されているので、拡張性は十分だ。また、IEEE 802.11ac準拠の無線LAN機能も搭載する。さらに、本体右側面に指紋認証モジュールを内蔵するほか、本体および各モジュールにセキュリティロック用ホールが用意されている。一番下のホールにセキュリティケーブルを差し込んでロックすることで、システム全体がロックされるので、盗難の心配もない。
キーボードとしては、スリムタイプのUSBキーボードが付属する。マウスは、試用機は光学式ワイヤレスマウスが付属していたが、製品版では有線タイプのUSB光学式マウスが付属するとのことだ。電源は付属のACアダプタ経由で供給される。ACアダプタは65W仕様で、サイズもコンパクトだ。
ビジネス向けPCとして十分な性能を実現
参考のためにベンチマークテストを行なってみた。利用したベンチマークソフトは、「PCMark 8」、「ドラゴンクエストX ベンチマークソフト Ver.1.4K」、「ファイナルファンタジー XIV 蒼天のイシュガルドベンチマーク」、「CrystalDiskMark 3.0.3b」、「CrystalDiskMark 5.1.2」である。比較用として、ユニットコムの「LEVEL∞ C-Class」とレノボ・ジャパン「ThinkPad X1 Carbon」の値も掲載した。LEVEL∞ C-Classは、高性能なGPUを搭載したゲーミングPCであり、ThinkPad X1 Carbonは、ビジネス向けノートPCであるため、同列に比較すべき製品ではないが、あくまで参考にしていただきたい。
PCMark 8のスコアはThinkPad X1 Carbonよりも2割程度高い結果になっている。さすがに、高速なCPUを搭載したLEVEL∞ C-Classにはかなわないが、ビジネス向けノートPCとしてはハイエンドに位置するThinkPad X1 Carbonよりも高い性能を実現しており、性能で不満を感じることはまずないだろう。
なお、試用機にはストレージとしてSATA仕様のSSDが搭載されていたため(製品版とは容量が異なるため、あくまで参考だが)、PCI Express/NVMe対応の高速SSDを搭載したLEVEL∞ C-ClassやThinkPad X1 Carbonに比べると、CrystalDiskMarkの値は低いが、体感的には十分高速であった。
HP Elite Slice | LEVEL∞ C-Class | ThinkPad X1 Carbon | |
---|---|---|---|
CPU | Core i7-6700T(2.8GHz) | Core i7-6700K(4GHz) | Core i7-6600U(2.6GHz) |
GPU | Intel HD Graphics 530 | GeForce GTX 1080 | Intel HD Graphics 520 |
PCMark 8 | |||
Home conventional | 3262 | 4613 | 2635 |
Home accelerated | 3580 | 5174 | 3176 |
Creative conventional | 3396 | 5673 | 2691 |
Creative accelerated | 4550 | 8209 | 3890 |
Work conventional | 3462 | 3857 | 2928 |
Work accelerated | 4730 | 5647 | 4063 |
ドラゴンクエストX ベンチマークソフト Ver.1.4K | |||
1,280×720ドット 最高品質 | 6595 | 20882 | 6796 |
1,280×720ドット 標準品質 | 7153 | 20489 | 6844 |
1,280×720ドット 低品質 | 8346 | 21148 | 6851 |
1,920×1,080ドット 最高品質 | 3230 | 20665 | 3109 |
1,920×1,080ドット 標準品質 | 4148 | 20984 | 4256 |
1,920×1,080ドット 低品質 | 4927 | 21512 | 5835 |
ファイナルファンタジーIXV 蒼天のイシュガルドベンチマーク | |||
1,280×720ドット 最高品質 | 1653 | 22281 | 1713 |
1,280×720ドット 最高品質(Direct X9相当) | 2043 | 22528 | 2284 |
1,280×720ドット 高品質(デスクトップPC) | 1788 | 21777 | 1975 |
1,280×720ドット 高品質(ノートPC) | 2238 | 22612 | 2288 |
1,280×720ドット 標準品質(デスクトップPC) | 3039 | 24092 | 3280 |
1,280×720ドット 標準品質(ノートPC) | 3035 | 24287 | 3273 |
CrystalDiskMark 3.0.3b | |||
シーケンシャルリード | 483.8MB/s | 1413MB/s | 1,648MB/s |
シーケンシャルライト | 442.9MB/s | 963.2MB/s | 1,539MB/s |
512Kランダムリード | 322.3MB/s | 855.9MB/s | 1,224MB/s |
512Kランダムライト | 386.4MB/s | 946.8MB/s | 1,452MB/s |
4Kランダムリード | 26.55MB/s | 43.38MB/s | 51.05MB/s |
4Kランダムライト | 51.29MB/s | 152.9MB/s | 139.8MB.s |
4K QD32ランダムリード | 342.2MB/s | 718.9MB/s | 555.6MB/s |
4K QD32ランダムライト | 235.6MB/s | 334.7MB/s | 418.7MB/s |
CrystalDiskMark 5.1.2 | |||
シーケンシャルリードQ32T1 | 550.7MB/s | 1641MB/s | 2,592MB/s |
シーケンシャルライトQ32T1 | 515.1MB/s | 965.0MB/s | 1,533MB/s |
4KランダムリードQ32T1 | 316.0MB/s | 716.4MB/s | 545.9MB/s |
4KランダムライトQ32T1 | 298.6MB/s | 335.3MB/s | 251.7MB/s |
シーケンシャルリード | 481.1MB/s | 1428MB/s | 1,854MB/s |
シーケンシャルライト | 454.6MB/s | 963.5MB/s | 1,528MB/s |
4Kランダムリード | 28.29MB/s | 48.51MB/s | 53.99MB/s |
4Kランダムライト | 58.61MB/s | 175.2MB/s | 164.5MB/s |
省スペースでスタイリッシュな小型PCとしての魅力は高い
HP Elite Sliceは、ビジネス向けPCとして設計されており、コンパクトでデザイン性に優れているだけでなく、信頼性やセキュリティにも配慮が行き届いている。
モジュールにより、機能を拡張できるというコンセプトも面白いのだが、現状ではモジュールの選択肢があまり多くないことが残念だ。例えば、バッテリと小型プロジェクタを内蔵したプレゼンテーションモジュールや、大容量ストレージモジュールなどがあれば、より便利になりそうだ。
プレミアムブランドとして位置付けられる製品であり、価格が高めなことがネックではあるが、それだけの価値がある製品と言えるだろう。