Hothotレビュー

日本HP「HP Elite Slice」

~モジュールを積み重ねて機能を拡張できる小型PC

HP Elite Slice

 日本HPから3月下旬に発売予定の「HP Elite Slice」は、モジュール設計を採用した小型PCである。重箱のようにモジュールを積み重ねることで、機能を拡張できることがウリで、省スペース性やデザイン性も高い。

 今回は、HP Elite Sliceを試用する機会を得たので、早速レビューしていきたい。なお、今回の試用機は製品版ではなく、仕様が一部異なっていることに注意していただきたい。

コンパクトで美しいボディに高い性能を凝縮

 HP Elite Sliceは、上からみると角が丸められた正方形のような形状をした小型PCであり、本体のサイズは165×165×355mm(幅×奥行き×高さ)とコンパクトで、重量も約1.05kgと軽い。上面には、hpのプレミアムブランドであることを示すロゴがあり、高級感を演出している。

 HP Elite Sliceは、本体上面の天板として、「コラボレーションカバー」と「ワイヤレスチャージングカバー」の2種類が用意されていることも特徴だ。コラボレーションカバーには、Skype for Businessと連携するタッチキーが用意されており、ワンタッチでインターネット会議への参加や通話、ミュートなどが行なえる。

 また、ワイヤレスチャージングカバーは、6型までのスマートフォンやモバイルデバイスのワイヤレス充電が可能であり、同社の「HP Elite X3」などを上に載せるだけで、充電が行なわれる。

 HP Elite Sliceは、天板とモジュール(後述)の組み合わせによって、「HP Elite Sliceコラボレーションモデル」、「HP Elite Sliceワイヤレスチャージングモデル」、「HP Sliceオーディオモジュール付きコラボレーションモデル」の3モデルが用意されている。

 HP Elite SliceコラボレーションモデルとHP Elite Sliceワイヤレスチャージングモデルは、CPUとしてCore i5-6500Tを、ストレージとして500GB HDDを搭載する。HP Elite Sliceオーディオモジュール付きコラボレーションモデルは、CPUとしてCore i7-6700Tを、ストレージとして128GB SSDを搭載する。OSは、全モデルともWindows 10 Pro(64bit)が搭載されており、メモリは全モデル共通で8GBであるが、最大32GBまで増設が可能だ。

 今回試用したのは、HP Elite Sliceオーディオモジュール付きコラボレーションモデルだが、メモリとSSDの仕様が製品版とは異なり、メモリが16GB、SSDが512GBとなっていた。HP Elite Sliceオーディオモジュール付きコラボレーションモデルに搭載されているCore i7-6700Tは、開発コードネームSkylakeと呼ばれていた第6世代Coreプロセッサであり、クアッドコア+Hyper-Threadingにより、最大8スレッドの同時実行が可能である。一般的なノートPCに搭載されているCore i7は、デュアルコアCPU+Hyper-Threadingであり、最大4スレッドしか同時実行できないので、マルチスレッドアプリケーションではCore i7-6700Tがより高い性能を発揮する。Core i7-6700Tの基本動作クロックは2.8GHzだが、Turbo Boostにより最大3.6GHzまでクロックが向上する。

HP Elite Sliceの上面
HP Elite Slice本体
コラボレーションカバーにはSkype for Business用のタッチキーが用意されている
本体の上面には排熱のためのスリットがある

3種類のモジュールが用意されており、工具を使わずにワンタッチで脱着が可能

 HP Elite Sliceの最大のウリが、オプションのモジュールを積み重ねることで、機能を拡張できることだ。モジュールの幅や奥行きは、本体と同じなので、ぴったり重箱のように積み重ねることができる。昔あったミニコンポのようなデザインだが、いわゆるドッキングステーションのように、工具を使わずにワンタッチで脱着できる設計になっている。もちろん、デザイン的な統一感も完璧だ。

 今回試用したHP Elite Sliceオーディオモジュール付きコラボレーションモデルでは、オーディオモジュールが付属する。オーディオモジュールはその名の通り、オーディオ機能を拡張するためのモジュールであり、高級オーディオブランドのBang & Olufsenブランドの360度スピーカー、双方向ノイズキャンセリングおよび周囲5mの集音が可能なマイクシステムを内蔵している。オーディオモジュールの上に本体を積み重ねることで、こちら側が多人数でも、Skype for Businessなどを利用したインターネット会議や通話を、よりクリアなサウンドで実現できる。サウンドのクオリティも高いので、音楽や動画などを楽しむにも向いている。

本体の底面。接続用コネクタが用意されている
オーディオモジュールの前面。Bang & Olufsenブランドの360°スピーカーやマイクを内蔵している
オーディオモジュールの上面。接続用コネクタが用意されている
オーディオモジュールの底面。こちらにはコネクタは用意されていないので、この下にVESAマウントモジュール以外のモジュールを重ねることはできない

 現時点で用意されているHP Elite Slice用モジュールは、オーディオモジュールを含めて、全部で3種類がある。残りの2つが、「オプティカルディスクモジュール」と「VESAマウントモジュール」である。

 オプティカルディスクモジュールは、DVDスーパーマルチドライブを内蔵したモジュールであり、DVDやCDの読み書きが可能になる。VESAマウントモジュールは、100×100mmのVESA規格に対応したマウンタであり、VESA規格対応のアームやスタンドなどに本体を固定できる。今回は、この2つのモジュールも試用した。

 オプティカルディスクモジュールの底面には、接続用コネクタが用意されているので、この下にさらにほかのモジュールを重ねることができるが、オーディオモジュールの底面には、接続用コネクタが用意されていないので、その下にVESAマウントモジュール以外のモジュールを重ねることはできない。つまり、全てのモジュールを重ねる場合は、上から、HP Elite Slice本体、オプティカルディスクモジュール、オーディオモジュール、VESAマウントモジュールという順番になる。

 なお、各モジュール間はUSB経由で接続されている。モジュールを装着する時は重ねて押し込むだけで、自動的にロックがかかる。外す時は底面にある取り外し用スイッチをスライドさせることで、ロックが外れ取り外せるようになる。

オプティカルディスクモジュールの前面。イジェクトボタンが用意されている
オプティカルディスクモジュールはトレイ式のDVDスーパーマルチドライブを採用している
全てのモジュールを本体に装着して、オプティカルディスクモジュールのトレイを引き出したところ
オプティカルディスクモジュールの上面。接続用コネクタが用意されている
オプティカルディスクモジュールの底面。こちらにも接続用コネクタが用意されているので、この下に別のモジュールを重ねることができる
本体の下にオプティカルディスクモジュール、さらにその下にVESAマウントモジュールを重ねたところ
VESAマウントモジュールの上面。こちらは電気的に接続する必要はない
VESAマウントモジュールの底面
現在用意されている全てのモジュールを積み重ねたところ。上からHP Elite Slice本体、オプティカルディスクモジュール、オーディオモジュール、VESAマウントモジュールという順番になる
全てのモジュールを積み重ねた状態の左側面。USB 3.1 Type-Cとヘッドセット端子が用意されている
全てのモジュールを積み重ねた状態の右側面

インターフェイスやセキュリティ機能も充実

 HP Elite Sliceは、インターフェイスやセキュリティ機能も充実している。背面に、Gigabit EthernetやDisplayPort、USB 3.1 Type-C、USB 3.1×2が用意されているほか、左側面にもUSB 3.1 Type-Cとヘッドセット端子が用意されているので、拡張性は十分だ。また、IEEE 802.11ac準拠の無線LAN機能も搭載する。さらに、本体右側面に指紋認証モジュールを内蔵するほか、本体および各モジュールにセキュリティロック用ホールが用意されている。一番下のホールにセキュリティケーブルを差し込んでロックすることで、システム全体がロックされるので、盗難の心配もない。

HP Elite Sliceの背面。Gigabit EthernetやDisplayPort、USB 3.1 Type-C、USB 3.1×2が用意されている
全てのモジュールを積み重ねた状態の背面。全てのモジュールにセキュリティロック用ホールが用意されており、セキュリティロックケーブル1本でシステム全体をロックすることができる

 キーボードとしては、スリムタイプのUSBキーボードが付属する。マウスは、試用機は光学式ワイヤレスマウスが付属していたが、製品版では有線タイプのUSB光学式マウスが付属するとのことだ。電源は付属のACアダプタ経由で供給される。ACアダプタは65W仕様で、サイズもコンパクトだ。

スリムタイプのUSBキーボードが付属する。配列も標準的で快適にタイピングが可能
試用機に付属していた光学式ワイヤレスマウス。製品版では有線タイプのUSB光学式マウスになるとのことだ
試用機に付属していた光学式ワイヤレスマウスの底面
付属のACアダプタ
ACアダプタは65W仕様である

ビジネス向けPCとして十分な性能を実現

 参考のためにベンチマークテストを行なってみた。利用したベンチマークソフトは、「PCMark 8」、「ドラゴンクエストX ベンチマークソフト Ver.1.4K」、「ファイナルファンタジー XIV 蒼天のイシュガルドベンチマーク」、「CrystalDiskMark 3.0.3b」、「CrystalDiskMark 5.1.2」である。比較用として、ユニットコムの「LEVEL∞ C-Class」とレノボ・ジャパン「ThinkPad X1 Carbon」の値も掲載した。LEVEL∞ C-Classは、高性能なGPUを搭載したゲーミングPCであり、ThinkPad X1 Carbonは、ビジネス向けノートPCであるため、同列に比較すべき製品ではないが、あくまで参考にしていただきたい。

 PCMark 8のスコアはThinkPad X1 Carbonよりも2割程度高い結果になっている。さすがに、高速なCPUを搭載したLEVEL∞ C-Classにはかなわないが、ビジネス向けノートPCとしてはハイエンドに位置するThinkPad X1 Carbonよりも高い性能を実現しており、性能で不満を感じることはまずないだろう。

 なお、試用機にはストレージとしてSATA仕様のSSDが搭載されていたため(製品版とは容量が異なるため、あくまで参考だが)、PCI Express/NVMe対応の高速SSDを搭載したLEVEL∞ C-ClassやThinkPad X1 Carbonに比べると、CrystalDiskMarkの値は低いが、体感的には十分高速であった。

【表】HP Elite Sliceのベンチマーク結果
HP Elite SliceLEVEL∞ C-ClassThinkPad X1 Carbon
CPUCore i7-6700T(2.8GHz)Core i7-6700K(4GHz)Core i7-6600U(2.6GHz)
GPUIntel HD Graphics 530GeForce GTX 1080Intel HD Graphics 520
PCMark 8
Home conventional326246132635
Home accelerated358051743176
Creative conventional339656732691
Creative accelerated455082093890
Work conventional346238572928
Work accelerated473056474063
ドラゴンクエストX ベンチマークソフト Ver.1.4K
1,280×720ドット 最高品質6595208826796
1,280×720ドット 標準品質7153204896844
1,280×720ドット 低品質8346211486851
1,920×1,080ドット 最高品質3230206653109
1,920×1,080ドット 標準品質4148209844256
1,920×1,080ドット 低品質4927215125835
ファイナルファンタジーIXV 蒼天のイシュガルドベンチマーク
1,280×720ドット 最高品質1653222811713
1,280×720ドット 最高品質(Direct X9相当)2043225282284
1,280×720ドット 高品質(デスクトップPC)1788217771975
1,280×720ドット 高品質(ノートPC)2238226122288
1,280×720ドット 標準品質(デスクトップPC)3039240923280
1,280×720ドット 標準品質(ノートPC)3035242873273
CrystalDiskMark 3.0.3b
シーケンシャルリード483.8MB/s1413MB/s1,648MB/s
シーケンシャルライト442.9MB/s963.2MB/s1,539MB/s
512Kランダムリード322.3MB/s855.9MB/s1,224MB/s
512Kランダムライト386.4MB/s946.8MB/s1,452MB/s
4Kランダムリード26.55MB/s43.38MB/s51.05MB/s
4Kランダムライト51.29MB/s152.9MB/s139.8MB.s
4K QD32ランダムリード342.2MB/s718.9MB/s555.6MB/s
4K QD32ランダムライト235.6MB/s334.7MB/s418.7MB/s
CrystalDiskMark 5.1.2
シーケンシャルリードQ32T1550.7MB/s1641MB/s2,592MB/s
シーケンシャルライトQ32T1515.1MB/s965.0MB/s1,533MB/s
4KランダムリードQ32T1316.0MB/s716.4MB/s545.9MB/s
4KランダムライトQ32T1298.6MB/s335.3MB/s251.7MB/s
シーケンシャルリード481.1MB/s1428MB/s1,854MB/s
シーケンシャルライト454.6MB/s963.5MB/s1,528MB/s
4Kランダムリード28.29MB/s48.51MB/s53.99MB/s
4Kランダムライト58.61MB/s175.2MB/s164.5MB/s

省スペースでスタイリッシュな小型PCとしての魅力は高い

 HP Elite Sliceは、ビジネス向けPCとして設計されており、コンパクトでデザイン性に優れているだけでなく、信頼性やセキュリティにも配慮が行き届いている。

 モジュールにより、機能を拡張できるというコンセプトも面白いのだが、現状ではモジュールの選択肢があまり多くないことが残念だ。例えば、バッテリと小型プロジェクタを内蔵したプレゼンテーションモジュールや、大容量ストレージモジュールなどがあれば、より便利になりそうだ。

 プレミアムブランドとして位置付けられる製品であり、価格が高めなことがネックではあるが、それだけの価値がある製品と言えるだろう。