元麻布春男の週刊PCホットライン

3社体制に集約されたHDD市場の今後



【写真1】筆者の手元にあるソニー製のHDDSRD2040A。インターフェイスはSCSI(8bitパラレル)で、容量は40MB。今では廃れてしまった3.5インチハーフハイト(約41mm厚)のドライブだ。写真には写っていないが、Macに内蔵されていたドライブなので、リンゴのシールが貼ってある

 Conner Peripherals、DEC、HP、IBM、Maxtor、Micropolis、MiniScribe、Quantum、Samsung、Seagate Technology、Western Digital、ソニー、東芝、日本電気、日立製作所、富士通。この16社は、筆者が購入したことのあるHDDのメーカー(購入したシステム等に内蔵されていたものを含む)だ。筆者が購入したことのないメーカーも合わせれば、最盛期にはHDDを製造するメーカーは優に40社を超えていたのではないかと思われる。

 しかし、それも今ではわずか3社。4月19日、SeagateはSamsungのHDD事業を買収すると発表し、4社体制はわずか1カ月少々で3社体制へと移行した。約1カ月前には日立グローバルストレージテクノロジーズ(HGST)が、Western Digitalへと売却されたばかり。2009年10月には、東芝が富士通のHDD事業を買収している。ここ1〜2年で急速に淘汰が進んだことになる。

 生き残った3社のシェアは、Western Digitalがトップで約45%、次にSeagateが約40%、2.5インチ以下のモバイル向けに強みを持つ東芝が残りの15%弱、というところだと思われる。上位2社に比べると規模の劣る東芝は、何としてでもシェアを拡大したいところだが、もはや買収によって急速にシェアを拡大することはできない、買収したくても対象となる企業がない、という状況だ。東芝を含めた3強体制になるのか、上位2社に絞られてしまうのか、ここ1〜2年で答えは出るだろう。

 元々、HDDはコンピュータシステムメーカーが内製するものだった。IBMのコンピュータにはIBM製のHDDが使われ、富士通のコンピュータには富士通製のHDDが使われるのが、当たり前だった。それを変えたのは、PCの誕生だ。安価なPCには、高価なシステムメーカー製のHDDは採用できない。

 初めてHDDを標準内蔵したIBM PC/XT(1983年10月発表)においてIBMは、CPU等のチップ同様、HDDもサードパーティ製を採用している。1980年代後半、Microsoftのビル・ゲイツ会長が来日したおり、HDDの標準内蔵がなかなか進まなかった日本の状況を見て、「日本のHDDは金塊のように高価だ」と述べた、と伝えられているが、ある時期までのPC-9801シリーズが、日本電気が内製していたHDDを搭載していたことを考えれば、無理もないことだったかもしれない。

 HDD専業メーカーが登場したのはIBM PCの登場より古い1970年代だが、一流のシステムメーカーが皆ドライブを内製していたこともあり、当初は規模が小さく、また安物のイメージがつきまとった。それを変えたのは、PCの誕生と普及、そしてRISCプロセッサの登場によるワークステーションブームだ。1980年代末から1990年代初めにかけて、安価だが数量の大きいPC向けHDDにより専業メーカーは規模を拡大し、またワークステーション市場によりそれに搭載するハイエンドドライブの市場が専業メーカーに開かれた。

 中でも中心的な存在となったのがSeagateだ。IBMのエンジニアであったアラン・シュガートが創立したShugart Technologyから社名を変更した同社は、IBM PC/XTをはじめとするIBM PCシリーズにドライブの供給を行なうことで規模を拡大した。さらに1989年にはコンピュータシステムメーカーであるControl Data(CDC)のHDD事業(Imprimis)を買収、Wren、Elite、SabreといったImprimisのハイエンドドライブを製品ラインナップに加えただけでなく、その製造に必要な技術と特許を入手している。この時期がHDD業界が、業界全体として最も活気のあった時代かもしれない。

 1990年のWindows 3.0から1995年のWindows 95の発売にかけて、PCの市場はさらに規模を拡大し、それによってHDDの市場も拡大する。だが、市場の拡大の一方で競争も激化し、経営不振に陥るところが現れる。1994年には、Maxtor(ハイエンドドライブメーカー)がMiniScribe(PC向けドライブメーカー)を、Quantum(専業メーカー)がDECのストレージ部門をそれぞれ買収する事態となっている。1996年には、SeagateがConner Peripherals(創設者のフィニス・コナーはSeagate創設者の1人)を吸収しており、市場の急拡大が必ずしもメーカーの利益となるばかりではないことを物語っている。1990年代後半、HPやMicropolisといったメーカーも、ドライブ事業から撤退してしまった。日本電気も、IBMのライセンスによるHDD製造を行なうなど生き残りに努めたが、やはり撤退することとなった。

 興味深いのは、HDD業界の合併や買収の流れが、Seagateに集約されたことだ。Seagate自身が行なった買収だけでなく、DECのストレージ部門を買収したQuantumを吸収したMaxtorが、Seagateに買われるなど、激しいM&Aを行なったメーカーは、最終的にSeagateに吸収されたところが多い。

 先日、HGSTを買収したことで話題になったWestern Digitalは、HDD事業に参入するきっかけこそTandonの買収(1988年)だが、HGSTの買収まで大規模な買収を行なっていない。半導体メーカーとして創業したWestern Digitalは、Seagateより創業は古いものの、HDDメーカーとしては後発ということになる。

【写真2】1993年春のWestern Digitalプロダクトガイド(カタログ)。この時点で冒頭を飾る製品はすでにHDDだが、ストレージ関連のチップ、ParadiseブランドのビデオカードやRocketChipブランドのビデオチップ、さらにはPC/AT互換機向けチップセットまで掲載されている 【写真3】こちらは1992年春のSeagateのプロダクトガイド。この時点で1.8インチから8インチまでのHDDに加え、SSD(ソリッドステートドライブ)まで掲載されている。SSDといっても、使われている記憶メディアはDRAMなので、電源を切ればデータは失われる

 SeagateとWestern Digital、2社の専業メーカーと並んで、HDDメーカーとして生き残ることになった東芝は、言うまでもなくHDDの専業メーカーではない。当初は東芝もコンピュータシステムメーカーとしてHDDの内製を行なっていたハズだが、比較的早期に大型コンピュータ分野から撤退したこともあり、HDD事業にシステムメーカー臭があまりしないのが特徴だ。もちろん、2.5インチHDDを主力としてきたのは、同社がノートPCに特化していることと無縁ではないのだろうが、ヘッドやプラッタを外部調達するなど、事業に対してドライな印象が強い。逆に、そうだからこそ、今まで生き残ることができたのだろうと思うが、今後の舵取りが注目される。

 いずれにしても、今回の買収により3社体制になったHDD業界だが、ただちにエンドユーザーに影響が現れることはないだろう。HDD市場において、Samsungのシェアは決して高くない(4番手)。長期的には、寡占化が進むことによる価格の高止まりが懸念されるところだが、あまりボヤボヤしていると、SSDの足音が聞こえてくるかもしれない。スマートフォンやタブレットなど、HDDを内蔵しないクライアントの台頭もある。HDD業界の競争が緩和されたとしても、HDD業界を巡る環境まで緩和されるとは限らない。