元麻布春男の週刊PCホットライン

エリア拡大を実感した九州のWiMAX事情



 Snow Leopard、Windows 7とOSのメジャーリリースがあった2009年は、OSの年として振り返られることになるのかもしれない。が、もう1つ、WiMAXのサービスが開始された年として、後世から振り返られる年になって欲しいと思う。UQコミュニケーションズが試用サービスを開始したのが2月26日、予定通り7月1日から有料サービスへと移行した。

UQのUSB接続WiMAXアダプタ「UD01SS」

 本来であればWiMAXは、モバイル環境で数Mbps~数十Mbpsのデータ通信が行なえるサービスとして、もっと注目と利用者を集めているハズだった。だが、電気通信事業者協会(TCA)が2009年10月7日に発表した2009年9月末現在の契約者数は、やや期待はずれの21,700件にとどまっている。

 なぜ契約者数が伸び悩んでいるのか。その最大の理由がカバーエリアの問題であるのは間違いない。どんな通信サービスも、最初はカバーエリアが限られていたり、カバーエリア内でもサービスを受けられないエリアが存在する。UQ WiMAXとて、その例外ではなかった。モバイルインターネット接続サービスとして後発のUQ WiMAXは、先行する3G携帯サービスと比較される運命にある。ドコモやイー・モバイルはつながるのに、WiMAXが圏外となるとどうしても厳しい。

 特に試用サービスがスタートした2月時点において、サービスエリア内とされていた東京23区内でも圏外になるエリアが少なくなかった。実は、筆者の自宅(世田谷区内)も2月の段階では見事に圏外であった。これに屋内への電波の入り込みが悪いことが加わり、試用したモニターから「つながらない」という評価が出てしまった。これは、この時点では間違いではなかっただろうが、WiMAXのイメージを損なったという点で痛かったと思う。

 もちろんこの問題はUQコミュニケーションズでも把握していて、基地局の増設と、基地局間の干渉を排除する最適化を行なっている。11月24日、UQコミュニケーションズは「WiMAXサービスエリア整備の前倒しについて」と題するニュースリリースを出した。それによると、当初計画では2009年度末までに屋外基地局を4,000局設置する予定であったのに対し、実績として2009年11月20日現在で5,100局を開局したという。そして4,000局を予定していた2009年度末までには6,000局が開局する見込みだとしている。

 こうした基地局整備の促進により、サービスエリア内の圏外が減少すると同時に、新規のサービスエリアが拡大している。実際、2月の時点で圏外だった筆者の自宅も、6月末あたりからコンスタントに10Mbps以上の速度で接続できるようになった。

 WiMAXというと、サービスが開始された当初のイメージで、首都圏とあとは京阪神、名古屋だけで使えると思われがちだが、すでに広島、福岡がサービスエリアに入っている。さらに札幌市、仙台市、金沢市、静岡市、岡山市、高松市、松山市、北九州市、熊本市をはじめとする35都道府県262市町村で一部基地局が開局しているという。

●福岡、長崎で接続OK

 11月末、筆者が九州に里帰りした際、実際にWiMAXを接続してみたが、サービスエリアの拡大を実感することができた。福岡市内で試したのは5カ所、加えてサービスエリア外になるが長崎市内1カ所の計6カ所で、WiMAXによるインターネット接続を試みた。用いたのはMacBook AirにUSB接続型のアダプタである「UD01SS」の組合せで、OSはSnow Leopard、ブラウザはSafari 4.0.4、帯域の測定には「Radish Network Speed Testing」を用いた。Radish Network Speed Testingの設定は、測定サーバー:大阪-新町、精度:高、データタイプ:標準である。

 それぞれの測定地で3回測定し、その結果すべてを表に示した。唯一、圏外となってしまったドトールコーヒーショップ博多駅いきいき通り店は、JRの高架下で正面がヨドバシカメラ・マルチメディア博多という、ビルの狭間のような立地であることが接続できなかった理由だと思われる。長崎諏訪神社下は、UQコミュニケーションズが提供するサービスエリアマップでは黄色(2010年3月末までに拡大予定)に色分けされている場所だが、すでに電波強度、帯域とも十分だった。UQコミュニケーションズが基地局の開設を前倒しで進めているということがうかがえる。天神中央公園、博多駅筑紫口と合わせ、やはり屋外が有利であることは間違いないが、屋内でも福岡空港第2ターミナル2Fの出発待合所など十分快適にネットワークアクセスが可能な場所も多い。

 第1回目(下り/上り)第2回目第3回目
福岡空港第2ターミナル1F到着待合所607.2kbps/50.92kbps2.165Mbps/33.33kbps3.038Mbps/117.3kbps
福岡空港第2ターミナル2F出発待合所2.704Mbps/746.8kbps4.996Mbps/852.8kbps4.160Mbps/813.9kbps
博多駅筑紫口5.714Mbps/1.962Mbps7.825Mbps/1.991Mbps6.558Mbps/1.959Mbps
ドトールコーヒーショップ博多駅いきいき通り店圏外圏外圏外
天神中央公園13.18Mbps/3.042Mbps12.64Mbps/3.046Mbps11.64Mbps/3.042Mbps
長崎諏訪神社下6.269Mbps/2.463Mbps13.53Mbps/2.880Mbps12.98Mbps/3.042Mbps

福岡空港到着待合所周辺。1階の奥まった場所のせいか、やや信号が弱いが、接続はできた接続できなかった「ドトールコーヒーショップ博多駅いきいき通り店」周辺。ビルと高架の谷間のような場所であるJR博多駅筑紫口周辺。いきいき通り店から500mほどの場所だが、問題なく接続できた
福岡市役所やベスト電器天神本店に隣接する博多中央公園では、下り方向でコンスタントに10Mbps以上の帯域が得られた長崎の諏訪神社下。まだサービスエリアではないのだが、すでにWiMAXは利用可能だった。基地局の設置が前倒しされていることを実感する

 WiMAXのような無線サービスでやっかいなのは、基地局の整備を進めても、その効果が誰の目にも明らかではないことだ。ある場所で接続できるかどうかは、接続してみるまで分からない。それだけに、一度悪い評判が立ってしまうと、それを挽回するのが難しい。UQコミュニケーションズもTry WiMAX(端末無料貸し出しによる15日間の試用)キャンペーン等を展開しているが、クレジットカードが必須だったりして、なかなか利用が進まないようだ。

 それでも、こうしたカバーエリアの問題は、資金さえあれば解決できるし、そう遠くない将来解決するのではないかと思っている。もっと厄介な問題は、アプリケーションの問題だ。現状では、モバイルインターネット接続サービスとして、つながれば広帯域だがエリアに制約のあるWiMAXと、帯域では劣るがカバーエリアの広い3G系サービスが存在する。が、残念ながらWiMAXの広帯域を必要とするアプリケーションとそのための環境が不足していることが、3G系のサービスに有利に働いている。

 上に示したテスト結果でも分かるように、WiMAXなら数Mbps、条件さえ良ければ10Mbps級の接続帯域が期待できる。3G系のサービスの場合、条件が良くて1Mbps前後、都内だとその半分程度というところだろうか。しかし、ちょっとメールをチェックしたり、Webサイトをのぞく程度なら、両者の差は顕著ではない。数Mbps以上の帯域を必要とするアプリケーションが不足していることが、WiMAXの普及を阻んでいる。

●WiMAXキラーアプリとバッテリ駆動時間のバランス

 何がWiMAXのキラーアプリケーションになるのか。その答えは出ていないが、筆者にはWiMAXのキラーアプリケーションがすでに存在する。それは米国のNFL.COMが提供する「NFL Game Pass」だ。このサービスは、米国で最も人気の高いプロスポーツであるNFLの試合を、米国外に居住するユーザー向けに、インターネットで配信するもので、1シーズンで240ドルする有料サービスである(シーズン途中からならディスカウントがある)。

 このサービスが何より素晴らしいのは、今、米国で行なわれているすべての試合がライブで中継される点にある(正確には約2分間ほどのディレイがあるが)。中継は720pのHDで配信され、画質は利用可能な帯域によって変動するが、おおむね2Mbps程度の帯域があれば大丈夫だ。WiMAXで十分対応可能だが、3G系のサービスではちょっと足りない。

 もちろん、NFLの試合を見るだけならWiMAXである必要はないのだが、いつも自宅で見られるとは限らない。米国で日曜夜の試合は、日本時間では月曜の午前中になる。どうしても月曜日に外出する用事がある場合、試合の結果や経過をチェックするのにWiMAXがあると便利だ。帰ってからアーカイブされた試合をじっくり見るとしても、途中経過をライブ映像で確認できるのはやはり嬉しい。

 ただ、このサービスを利用していて思うのは、バッテリ駆動時間の問題だ。近頃のノートPCでは、8時間や10時間といったバッテリ駆動時間を謳うものも多いが、それはあくまでもメールを書いたり、オフィスアプリケーションを利用するといった使い方が前提。WiMAXでネットワークに接続しっぱなしで、2Mbpsの動画を見ていれば、バッテリはアッという間になくなってしまう。筆者は外出先でNFL Game Passを利用する時は、ThinkPad X200sに9セルバッテリを組み合わせて出かけるが、これで1試合(約3時間)見るのがやっとといったところだ。

 動画再生に限らず、高ビットレートのデータを利用するアプリケーションは、バッテリへの負担が大きい。今のノートPCは、3G携帯が提供する数百kbpsのネットワーク接続と、それで十分利用可能なメールやテキストベースのWebといったアプリケーションとバランスがとれている。そこにWiMAXを持ち込み、それに見合ったデータレートのアプリケーションを使うと、今度はバッテリなどほかの部分が悲鳴を上げる。より消費電力の小さなプラットフォーム、より効率の優れたバッテリ技術が求められるが、それを開発するのはUQコミュニケーションズの仕事ではない。WiMAXの普及は、もう少し長い目で見る必要があるのだろう。