大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
Dell、Windows 10搭載PCの投入準備は万端
~シュモークプレジデントにPC事業戦略を聞く
(2015/6/16 06:00)
DellのPC事業が好調だ。同社は、9四半期連続でPC市場における世界シェアを拡大。プライベートカンパニー化してから、着実に成長路線を歩み始めている。成長の背景には、個人向け製品のラインアップ強化に加えて、法人向け市場においては、セキュリティソリューションとの組み合わせ提案などが高い評価を得ている点が見逃せない。そして、7月29日からの提供開始が明らかになったWindows 10に関しても、既に製品投入の準備が完了していることを示した。
米Dell クライアントソリューション グローバルセールス統括プレジデントのDavid Schmoock(デビッド・シュモーク)氏に、同社のPC事業への取り組みについて話を聞いた。
PCはDellの成長を握る中核事業
--昨年(2014年)来、米Dellのマイケル・デルCEOは、PC事業に力を注ぐことを明確にしました。この1年でDellのPC事業はどう変化していますか。
シュモーク 私は13年前にDellに入社したのですが、実は、1度Dellを辞めて、2年半ほど前に、もう一度Dellに戻って来たんです。なぜ、Dellに戻ったのか。それは、マイケル・デルや私の上司であるジェフ・クラークといった経営陣が、「Dellは、PC事業に力を注ぎ、この事業を大切にしていく」というメッセージを明確に発信し始めたからです。Dellは、約2年前に、PC事業を成長軌道に乗せるプランを策定し、今、その成果が着実に表れていると言えます。Dellは、2015年第1四半期まで、9四半期連続で、全世界におけるシェア上昇を遂げています。これだけ継続的にシェアを伸ばしたことは、過去15年にはなかったことです。歴史的に見てもすばらしい快挙だと言えます。
--Dellは、全社の中で、PC事業をどう位置付けているのですか?
シュモーク PC事業は、Dellの成功を考える上で中核のビジネスになると捉えています。そして、今後も安定的に成長する事業であり、当社がイノベーションを起こすことができる市場であると言えます。
今年(2015年)1月に、米ラスベガスで開催された2015 International CESにおいて、Dellは50もの賞を受賞しました。Dellとしては過去最多の受賞数ですし、これまでのCESでの累計受賞数と同じ数の受賞数を1年で獲得したとも言えます。プライベート企業となったことでイノベーションが加速し、この勢いはこれからも継続することになります。2015 International CESでは、XPS 13やALIENWARE、Venueタブレットなどが表彰されたわけですが、これらのコンシューマ製品だけでなく、コマーシャル製品でもイノベーションを起こしています。2-in-1 PCやセキュリティソリューションなどが、その最たる例だと言えます。特に、セキュリティソリューションでは、Dell Data Protection(DDP)の1つとして提供しているデータ保護と暗号化ソリューションである「Dell Data Protection Encryption」が、クライアントPC向けのセキュリティソリューションとして注目を集めています。ハードウェアだけでなく、各種ソフトウェア、プロサポートプラスによるサポートもDellの特徴の1つです。これらのトータルソリューションによって、他社との差別化ができ、顧客満足度をより高めていくことができます。
--ユーザーは、どんなところにDellの魅力を感じているのでしょうか。Dellがトータルソリューションを提供しているということを知らない人も多いのではないでしょうか。
シュモーク Dellの製品に、イノベーションがこれまでなかったわけではありません。むしろ、それが十分に伝わっていなかったという方が正しかったと言えます。
その点では、ブランディングをしっかりとできていなかった反省があります。エンド・トゥ・エンドのマーケティングをしっかりとやっていくことによって、Dellはこんなことをやっているんだ、こんな技術や製品を持っているんだということを効果的に伝えたい。今、そうした取り組みを開始し、それに伴い、マーケティングも強化しました。2015 International CESにおいても、多くの方々にDellの製品を見て、直接触れていただき、我々からも新たなメッセージをしっかりと発信できたと考えています。
今の「Dellらしさ」はどこにあるのか?
--シュモーク氏が入社した13年前の「Dellらしさ」と、今の「Dellらしさ」は、どこか違うところはありますか。
シュモーク 13年前のDellにおける「Dellらしさ」とは、ビジネスモデルそのものに特色があったと言えます。CTOであったり、直販であったりといったことがそれにあたります。当時のお客様にとっても、それが重要な要素であったと言えます。また、サービス、サポートについても、優れたモデルを打ち出していました。
では、今の「Dellらしさ」とは何か。以前は、PC市場を1つの大きな市場と捉えていましたが、最近のPC市場は用途が細分化されており、それぞれの層に対してアプローチをしていかなくてはならないという市場変化が見られています。
コンシューマPCにおいては、ゲーミングユーザー向けに高い性能を発揮するALIENWAREが求められていますし、デザインや使い勝手を重視し、見た目良く持ち運びたいというユーザー向けにはXPSがあります。またプロシューマーと呼ばれるユーザー向けには、グラフィカルを活用した高度な用途に対応したモバイルワークステーションの「M2800」や「M3800」があります。
このように、DellのPCは、ニーズに合わせた製品を、イノベーションによって提供することができます。また、メインストリームやバリューラインにおいても、性能と価格のバランスを取った製品を投入しています。とにかく安く購入したいというユーザーに対しても、最適な製品を用意しています。
さらに、PCを取り巻くディスプレイなどの周辺機器も重要ですね。ここでも、Dellは総合的に価値を提案できます。ディスプレイ分野において、Dellはグローバルナンバーワンのシェアを持っていますし、最近では、4Kにも力を注いでいます。そして、サービスも提供することでトータルにソリューションを提供できる。これが、今のDellらしさと言える部分ではないでしょうか。
--しかし、細分化しすぎて、製品ブランドが多すぎるような気がします。再編するような考えはありませんか。
シュモーク 個別にブランドを用意しているのには意味があります。製品ブランドには、それぞれメッセージが込められているからです。確かに、過去には、Inspironに製品を統合したこともありましたし、最近ではVostroをやめようということも考えました。ただ、今残っているブランドには、メッセージがあり、何をターゲットとしているかを明確にするためには必要なものだと考えています。ゲーミングのPCのALIENWAREは、XPSと統合すると、ユーザーに対するメッセージが伝わりにくくなります。ですから、これを統合することはありません。
また、Vostroについては、日本などの一部エリアにおいて、スモールビジネスに向けた製品として浸透したブランドであり、これを改めて活用することにしました。実は、我々も、ブランドの数が適正であるかどうかといったことは常に検討しています。できるだけシンプルにしたいと思っていますが、その一方で、メッセージを混同させるような形になってはいけない。明確なメッセージを送ることと、シンプルさとのバランスを取りたいですね。
--OSもさまざまなものを搭載した製品がありますね。Windows、Chrome、そしてタブレットではAndroidも投入しています。
シュモーク これも同様に、細分化したユーザーの選択肢に合わせて提供していく狙いからです。昨年は、Chrome OSへの取り組みが評価され、Googleのパートナー・オブ・ザ・イヤーを受賞しました。また、Microsoftとも緊密な関係を持ち、Windows 10においても、いち早く製品投入が可能だと考えています。それぞれのOSベンダーの取り組みや狙い、ターゲットが異なっていますから、棲み分けが可能です。いずれも魅力的なOSですし、多くの選択肢を確保するという意味は重要だと考えています。
スマートフォンがないことはマイナスにはならないのか?
--一方で、スマートフォンを持たないことはマイナスにはなりませんか。
シュモーク スマートフォンはプレーヤーが多く、Dellがその分野に参入する必要はないという決定をしました。Dellには、PC事業で培ってきた実績やノウハウがあります。これによって十分をビジネスをやっていけると判断しました。PC市場におけるDellのシェアは14%です。裏を返せば、この市場において残り86%の市場がある。もっと多くのユーザーに、DellのPCを使ってもらう余地があると言えます。
--しかし、ユーザーから、Dellのスマートフォンが欲しいという声はありませんか。
シュモーク コマーシャル市場から、そうした声は出ていませんね。ゼロだといっていいと思います。しかし、コンシューマ市場からは、国によっては、サードパーティ製のスマートフォンをDellが販売している例はあります。ただ、ここでも、Dell製でなくてはいけない、という声はありませんね。こうした質問をするのは、エンドユーザーよりも、メディアの方々が多いですよ(笑)。
Windows 10にはいち早く対応する
--7月29日からWindows 10の提供が開始されます。Windows 10において、Dellはどんな強みを発揮できると考えていますか。
シュモーク Dellは、数多くの製品群を持っていますが、これらの製品に対して、すぐにWindows 10を搭載する準備が整っています。これは、DellがPC市場のリーダーであること、そして、Microsoftとの強いパイプによって、実現できるものです。Windows 10では、タッチの操作性が飛躍的に向上しています。多くのユーザーがMicrosoftを見直すきっかけになり、Windowsを搭載したPCを購入したいと考える人が増えるのではないでしょうか。Dellにとっても大きな追い風になると考えています。Dellは、Windows 10の環境においても、イノベーションを追求していくことになりますが、中でも、コンシューマ、コマーシャルを問わず、2-in-1タイプが伸張すると期待しています。
--Windows 10の登場に合わせて、Dellは、どんな製品を用意することになりますか。
シュモーク 現行製品については、7月29日以降、Windows 10を搭載した製品へと移行します。いち早く、新OSに対応できるのはDellの特色です。また、今年後半には、Intelから新たなCPUが登場しますから、それとWindows 10とを組み合わせた製品も登場することになります。年末商戦向けには、新たなフォームファクタの製品も登場することになるでしょう。デザインについても刷新されたものを投入したいですね。きらめいた、エキサイティングな製品を投入しますので、ぜひ期待していてください。
セキュリティソリューションに力を注ぐ
--Dellは、この1、2年間、クライアントPC領域において、セキュリティソリューションに、かなり力を入れている感じがします。今どんなセキュリティソリューションを用意していますか。そして、その狙いはなんですか。
シュモーク Dellは、ここ数年、セキュリティ分野に向けて多額の投資を行ない、それに伴い、多くのソフトウェア会社を買収してきました。中でも、2012年に買収したCredantの技術を元に、データ保護と暗号化ソリューションである「Dell Data Protection Encryption」を製品化しています。買収前までのCredantの年間売上高は2,500万ドルでしたが、今では3億ドルを超える事業規模となり、買収以降、急速に事業を伸ばしています。
製品は、パーソナルエディションとエンタープライズエディションの2つがあり、ファイル自体を暗号化することができますから、データをクラウドに移動させても暗号化されたままですし、USBメモリやHDDに移動しても、暗号化による安全な環境が保持できます。USBメモリを紛失しても、その中のデータは守られたままです。また、この製品は、Dellのハードウェアだけでなく、他社のハードウェアでも動作が可能です。
そのほか、Dellでは、システム管理を行なうKASEや、ファイヤーウォールのSonicWallを提供していますし、問題が発生する前に、プロアクティブに情報を検知し、深刻化する前に対応するプロサポートプラスでは、安心とともに、生産性を高めることができる。こうした充実したサポート体制もDellの強みとなります。これは他社にはできないことだと言えます。
先ほど、「Dellらしさ」という話がありましたが、コマーシャルPCの領域では、優れたセキュリティ環境を提供し、高い管理性を実現できることは、今や「Dellらしさ」の1つだと言えます。企業で利用されるクラウトアントPCにおいては、セキュリティが重視され、管理性、信頼性が重要です。
--しかし、Dellとセキュリティとの結び付きが、まだまだ弱いというイメージがあります。
シュモーク Dellがセキュリティにおいて数多くの優れたソリューションを持っていることが知られていないという点は、今後、改善していかなくてはならない部分です。実際には、Dellはセキュリティ領域において、業界リーダーのポジションを獲得しています。また、Dellがセキュリティと言っているのは、セキュリティソフトウェアを提供することではなく、エンド・トゥ・エンドのソリューションとしてセキュリティを提供できるということです。クライアント、エンタープライズ、サービスまでを、トータルセキュリティソリューションとして提供できるのはDellだけです。ここをもっと積極的に訴求したいですね。
--情報システム担当者が、TCOの観点からDellのPCを選ぶことはあります。また、ゲーマーがパフォーマンスの観点からALIENWAREを選択することはあります。セキュリティの観点から、Dellの製品を選ぶというユーザーは増えていますか。
シュモーク 繰り返しになりますが、Dellは、トータルでセキュリティソリューションを提供できることが大きな特徴だと言えます。データ保護、暗号化ソリューションにおいても、競合他社の場合は、サードパーティから製品を調達しなくてはなりませんが、Dellは自社ソリューションの1つとして、これを提供することができます。
また、Dellでは、インテグレーテッドITを打ち出しているように、エンド・トゥ・エンドでソリューションを提供することができます。分かりやすい例の1つが、VDIです。ここでは、エンドポイントの端末としてWyseを活用しています。ネットワークを介して、データセンターのサーバー、ストレージと緊密に連携し、それをソフトウェアで管理し、今まで以上に、効率化、シンプル化することができます。クライアントからデータセンターまで繋がり、セキュリティでは最高のものを提供でき、管理性を高めることができます。PC市場において、最もセキュアで、最も管理性に優れ、最も信頼性に優れたPCを提供できるのはDellだと言えます。こうしたメッセージをもっと訴求していく必要があると考えています。
シェア拡大よりもカスタマーエクスペリエンスを重視
--今後1年間、DellはPC事業において、どんな点に重点的に取り組みますか。
シュモーク Dellにとって、競合他社や業界平均を上回る成長を遂げ、マーケットシェアを拡大するのは当然の方針ですが、ただ単に、シェア拡大を優先するつもりはありません。Dellの長期的な成長を考えるのならば、カスタマーエクスペリエンスが大変重要になると言えます。DellのPCを購入していただいた時に、その製品やサービスに満足していただければ、また次もDellを購入していただける。製品そのものだけでなく、カスタマーエクスペリエンス全体を通じて、Dellの良さを訴求したいですね。強引にシェアを伸ばすつもりはありません。ユーザーにより満足していだたける取り組みをしなくてはならないと考えています。
PCは、Dellとの接点という意味で、最初の入口になりうる製品です。実際、Dellの製品を最初に購入していただくきっかけは、PCになることが多いのです。PCをきっかけに、満足していただければ、ほかの分野の製品も購入していただける。そうした意味でも、PCを購入していただいた人たちを大切にしていきたいと言えます。
--ただ、シェアナンバー1を奪回するという大きな計画はありますよね。
シュモーク 私は負けず嫌いなので(笑)、数字は良いに越したことはありません。しかし、シェア拡大ありきでビジネスをするわけではありません。上昇志向は大切であり、次の高見を目指す必要はありますが、長期的な視点で見れば、必ずトップシェアを獲得できるタイミングが訪れると考えています。「いつまで」とはコミットしませんが、そこに向けて一歩ずつ事業を拡大させていきたいと考えています。