大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

日本HP、PCとプリンタ事業統合の成果は?

~米本社での統合から1年を経過、岡副社長に聞く

 米Hewlett-Packard(HP)、PPS(プリンティング&パーソナルシステムズ)を2012年5月にスタートしてから、1年が経過した。PPSは、プリンタ事業を担当していたIPG(イメージング・プリンティング・グループ)と、PC事業を担当していたPSG(パーソナル・システム・グループ)を統合したもので、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)では、2012年7月31日付けで、プリンティング・パーソナルシステム事業部門をスタート。同事業を統括する岡隆史取締役副社長執行役員は、「すでに営業、マーケティングではその統合成果が出ているが、その効果が発揮されるのはこれからが本番。組織の統合は、まだ5段階の中で2段階」と語る。HPは、プリンティング事業と、PC事業を一本化したことで、どう変化するのか。

全社売上高の半分を占める組織に

 PPSは、その名の通り、HPのプリンティング事業と、PC事業が1つになって生まれた組織だ。

 日本では、東芝がTV事業と、そして富士通は携帯電話事業と、PCの組織を統合するなどの動きが見られており、それぞれに得意とする領域との連携を図っているが、世界最大規模のPCメーカーであるHPは、自らが得意とするプリンティング事業と統合した。2012年度(2011年11月~2012年10月)の実績では、年間601億ドル(約6兆円)の事業規模を誇るものとなっている。これは、同社売上高の半分を占めるとともに、PCとプリンタだけで、NEC全社の売上規模(NECの2012年度売上高は3兆716億円)の約2倍に匹敵するものになる。

 約1年を経過して、統合の成果はどんなところに出ているのだろうか。

営業/マーケティングでの成果が生まれる

岡隆史副社長

 日本HPの岡隆史取締役副社長執行役員は、「統合の成果は、営業活動やマーケティング活動において、一部表面化している」と前置きし、「HPのPCを使用しているユーザーが、HPのプリンタを使用しているとは限らない。双方のユーザーに対して、新たな製品提案を行なうといったことが、組織統合の早い段階から行なわれた」としており、双方の事業にとって、新たな顧客開拓という成果が生まれていることを強調する。

 また、量販店に対しても、これまではPCとプリンタの営業担当が異なっていたものが、1つの担当窓口で対応できるようになった点も大きい。「1人の営業担当者が売る商材が増えたことで、組み合わせた提案が可能になる。経費効率でも効果が出ている。これに伴い、4月以降、リベート戦略も変更し、さらに量販店が扱いやすい環境へとシフトした」とする。

 販売店向けには、これまでに比べてシンプルな形にした販促プログラムを用意することで、「販売パートナーに、売る気になってもらえる仕組みへと転換していきたい」と、新たな仕組みを提案することになる。

 従来からのPCおよびサーバーとを連動した営業支援体制に、プリンタを加えることで、より提案重視型のパートナー向け情報提供のほか、セミナーやイベント開催などを通じた支援の強化を図っていくという。

開発面では成果が徐々に表面化

 一方で、開発という観点では、「本当の意味での統合はまだ先の話になる。製品開発には約2年を要するため、統合効果を元にした製品が出てくるのは、早くても、今年(2013年)後半になるだろう」と語る。

 だが、それでも少しずつ、統合成果が出ようとしている。例えば、HP ePrintがその好例だ。

 HP ePrintは、プリンタに割り当てられたeメールアドレスに、ファイルを送るだけで印刷できる機能。プリンタ製品にだけ搭載されていたこの機能がPCにも搭載されはじめているのである。

 また、PCとプリンタの上位製品では、「ENVY」という統一ブランドで展開するといったことも行なわれている。

HP Slate 7

 一方で、HP Slate 7も、PC事業とプリンタ事業の統合の影響が及んだ製品だと言っていいだろう。

 4月から欧米市場で順次発売されているAndroid搭載の7型コンシューマ向けタブレット「HP Slate 7」は、Nokiaから米HP入りをしたアルバルト・トーレス氏率いるモビリティ事業部門が開発した第1号製品。これまでのHPのPC事業とは異なる生い立ちで製品化されたものとも言え、これを切り口に、今後、HPの新たなモビリティ製品の方向性が打ち出されそうだ。

 このHP Slate 7は、HP ePrintによる印刷機能を搭載しており、こうしたところにも、プリンティング・パーソナルシステムズ事業としての統合成果が出ている。岡副社長は、今後、日本においても、同製品の取り扱いについて検討していることを明らかにする。

 このように、プリンタとPCの組織を統合させた同社ならではの体制が、ePrintやブランド統合といった動きに加えて、今後、どんな製品を生み出すことになるのかが注目されることになる。

モバイル領域での提案を加速

 こうしてみると、営業、マーケティングではすでに統合成果が出始めているが、開発という点で、その効果が発揮されるのはこれからが本番だとも言えよう。岡副社長は、「統合成果は、まだ5段階の中で2段階の水準」とする。

 組織をそのものの統合を1段階目とすれば、営業、マーケティングにおいて、双方の良い面を知り、それを活用しはじめたのが第2段階。今後、その実績が出てくれば、第3段階に達することになる。そして、こうした仕組みがサーバーやモバイル製品まで含めた横展開が行なわれれば、第4段階。これがHP全体に広がれば、第5段階に到達することになると、岡副社長は見る。

 「日本においては、プリンタ事業をさらに成長させる余地がある。特に、モバイルプリンタによる新たな提案、また、ビジネスプリンタ領域での事業展開を強化していきたい。そして、PCにおいても、さらに日本における存在感を高めていきたい」とする。

 例えば、モビリティ分野では、モバイルプリンタと、Windows 8を搭載したタブレットPC「ElitePad 900」との連携提案などの動きも今後は注目されそうだ。

 「米本社では、日本の企業向けシステムは成果をあげているという認識がある。そのインフラを利用して、日本における企業向けプリンタの事業拡大を進めたい」と岡副社長。インクジェットプリンタによるビジネス用途を切り開いてきた同社は、米国では、その分野において圧倒的シェアを確保している。ここにきて、国内でも、競合他社がインクジェットプリンタによるビジネス用途提案を進めようとしているが、そうした中で、本家ともいえる日本HPが、この分野でどんな存在感を発揮することになるのか。今後のビジネス向けインクジェットプリンタ市場の拡大に伴って、その動きが気になるところだ。

節目を迎える2013年はどんな年になるのか

日本HPオフィス入り口

 今年、日本HPは、創立50周年を迎える。また、同社のインクジェットプリンタのDeskJetが発売されてから25周年という節目も迎える。歴史的な節目において、戦略的な展開も表面化してきそうである。

 実際、米HPでは、25周年記念モデルとして、毎分70枚という高速なインクジェットプリンタ「HP Officejet Pro X」を発売しており、すでに、これを日本市場にも展開することを検討し始めているという。

【HP Officejet Pro Xの公式動画】

 そして、日本HPの50周年にあわせた各種のキャンペーンの実施も、今後は注目点の1つだ。

 日本では、PC市場において、9.5%のシェアを獲得。2桁シェアの獲得まで王手をかけるところまできた。課題のコンシューマ向け市場でも徐々に存在感を発揮している。

 「一時期は、ビジネス向けノートPCで14%までシェアを高めた。だが、日本生産による納期遅れが発生したことでシェアを落とした経緯がある。それが、今年前半から回復し始めている。競争力を持ったノートPCを投入することで、次のステップとして、ビジネス向けデスクトップPCと同様に、ノートPCでも20%のシェアを獲得できるところを目指していきたい」と語る。将来的にはビジネス分野において、通期で20%のシェア獲得が目標だ。

 コンシューマ向けPCに関しては、「依然として、量販店店頭でのブランド認知度が低いのが課題。これを高めていく必要がある。なぜ、HPは世界ナンバーワンのシェアをとり、世界のユーザーから選ばれているのかということを知ってもらうため、HPならではの魅力ある、尖った製品をコンシューマ市場に投入することで、当社製品をより多くの販売店に扱ってもらい、選んでもらえる環境をつくりたい」とする。

 一方で、プリンタ事業では、国内大判プリンタ市場において20%を超えるシェアを獲得しているものの、インクジェットプリンタ市場では約6%のシェアに留まっており、今後の課題の1つとなっている。ここでも同様に、世界ナンバーワンシェアならではの強みを訴求できる品揃えの強化、プロモーション展開を行なっていく考えだ。

 「PCとプリンタの組織を統合したことによって、それらを組み合わせた提案を加速したい。特に、モバイル分野においては、ElitePad 900を始めとするタブレットPCと、モバイルプリンタとの組み合わせによって、モバイル市場における存在感を高めたい。一方で、デスクトップPC、ワークステーション、シンクライアントといった実績を持つ市場においても、引き続き、取り組みを強化していきたい」とする。

 組織の統合を背景に、これまでにない提案が、どんな形で表面化するのか期待したい。

(大河原 克行)