大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
Microsoft新CEOと日本マイクロソフトの動向を樋口社長に聞く
~Windowsタブレットは「艦これ」に適したデバイス
(2014/2/6 13:48)
「2014年は、さらに信頼感を高めるとともに、コンシューマ領域を強化する1年にしたい」。日本マイクロソフトの樋口泰行社長は、今年の方針をそう語る。米マイクロソフトの新たなCEOにサティア・ナデラ氏が決定。デバイス&サービスカンパニーへの転換を急ぐ中で、日本マイクロソフトの事業もさらに加速することになる。そして、日本におけるWindows Phoneについてもなにかしらの方向性を打ち出したいとする。
樋口社長に、新たなCEOによって生まれ変わるMicrosoft、そして、Surface戦略、Windows Phoneへの取り組み、クラウドビジネスへの展開、Xbox Oneの日本投入などについて聞いた。
新CEOのナデラ氏は帯域幅が広くベストな人材
――米Microsoftの新CEOに、46歳のサティア・ナデラ氏が就任しました。これによって、米Microsoftおよび日本マイクロソフトはどう変化するでしょうか。
樋口 私自身、サティアとのこれまでの接点で感じたのは、IQ/EQともに高く、意思決定がシャープで、かつ迅速であるという点です。また、異文化への理解度が高く、お客様志向が強い。そして、日本のお客様との協業に関しても、非常に理解を示しています。Microsoftのようにエンターテイメントからエンタープライズまで多種多様な事業を展開している企業を束ねるリーダーは、帯域幅が広くなくてはいけない。その点では、ベストな人材が、CEOに選ばれたと考えています。Microsoftは、デバイス&サービスカンパニーへの変革に取り組んでいます。その中で、イノベーションをさらに推進していく、という強い信念を持っているのがサティアであり、その点では、大変期待しています。日本マイクロソフトとしても、新CEOのもと、さらなる成長に貢献できるようにさらに邁進する考えです。
――2013年は日本マイクロソフトにとって、どんな1年でしたか。
樋口 社内的なところからお話しをすれば、日本マイクロソフトが目指していた3年連続の世界ナンバーワン子会社の座を獲得できなかったことは非常に残念でした。惜しいところで負けはしましたが、その一方で、日本の市場において、積み上げてきたものが実ってきているという手応えはあります。
特に、コマーシャルビジネスでは、エンタープライズのトータルシステムを考える場合に、Microsoftの製品、サービスは不可欠であるという認識が広がってきていますし、そこに加えて、クラウドでもMicrosoftならではの信頼性が高いサービスを提供できる環境が整ってきた。もはやクラウドをIT基盤の前提にしないと、商談が始まらない、あるいはお客様が持つすべてのデバイス、製品をネットに接続するという流れの中で、日本マイクロソフトが持つ製品、サービスに対する期待が高まっていることを感じます。
Windows Azureのデータセンターとして、新たに日本リージョンを今年(2014年)の早い段階で開設することも決定しましたし、Office 365についても、予算目標は高いのですが(笑)、非常にいい手応えを感じています。Office 365にはどんな機能があるのか、企業にとってどんなメリットがあるのかということが浸透してきたことも大きな効果です。Exchange、SharePoint、Lyncといった製品もワークスタイル変革を実現するツールとして多くの企業から注目を集めています。しかも、その一方で、オンプレミス製品も継続的に提供しており、選択肢が広い。システムインテグレーション系のビジネスパートナーからも欠かせないパートナーとして、新たなアライアンスの提案も数多くいただいている。
我々がいるポジションは、他社にない非常にいい位置にあります。さらに、アベノミクスの影響もあり、経済環境が好転し、企業のIT投資意欲が高まっているという追い風もあります。また、グローバル化、ワークスタイルの変革、社内の活性化といったさまざまなキーワードで、ITに関心が集まっています。マインド、オファリング、世の中の流れというものがセットになって、「信頼性されるマイクロソフト」ということが、コマーシャル市場において、浸透してきていると言えます。
――Office 365は、確かに、かなりの勢いがついてきたようですね。あえて課題はありますか。
樋口 Office 365は、ますます堅牢性を高めていきたい。100%の可用性というのは難しいのですが、停止時から回復までの時間を短くし、信頼性の高いバックアップ体制を実現することにさらに取り組んでいきたい。Office 365についても、日本にデータセンターを設置したいですね。これは次の目標としてやりたいことです。公共、金融のお客様に関しては、日本のデータセンターからサービスを提供することが前提となる場合がありますから、それに対応していきたい。Azureのデータセンターが稼働すれば、そこにMicrosoftが求める機能を持った環境が整うわけですから、コ・ロケーションというような活用もできます。まだ何も決まってはいませんが、方向性としてはOffice 365の日本でのデータセンター展開も考えていきたいですね。
――Microsoftでは、2013年後半から、Cloud OSという言葉を積極的に使い始めましたね。
樋口 Cloud OSは、パブリッククラウド、プライベートクラウド、そして、サービスプロバイダークラウドに提供する、共通で一貫性のあるプラットフォームと位置付けており、Windows Azure、Windows Server、SQL Server、Visual Studio、System Centerなどによって構成されます。これらの製品が揃ってきたのが2013年であったといえるでしょう。Cloud OSは、2014年においても重要な位置付けを担う製品であり、今後も継続的な製品強化が図られることになります。
――Windows XPのサポート終了まで、まもなく残り50日となってきました。これまでの進捗はどう判断していますか。
樋口 Windows XPのサポート終了に関しても、多くのお客様に、「そろそろ堅牢なOSに移行すべきだね」ということをご理解いただき、その移行措置は着実に進んでいますし、これに向けて多くのパートナー企業が一丸となって、コミュニケーションや提案活動をおこなっていただいています。これが、大きなモメンタムとなっています。Windows XPからの移行を受けて、PCの販売台数は、すでに前年同期比2倍という状況が続いていますし、これが3月に向けては、さらに拡大すると見られています。3月は、果たして、どれぐらいの販売台数になるのかがわからないといったところです。
Windows 8.1タブレットは「艦隊これくしょん」に最適なデバイス
――一方で、自社ブランドのタブレットであるSurfaceを、日本で最初に投入したのが2013年3月15日。まもなく1年を経過しますね。
樋口 日本では、第1世代も予想を上回る売れ行きをみせましたし、10月25日から発売となった第2世代は、さらに強い手応えを感じています。他の国に比べても、日本でSurfaceの評価が高いのは、パートナー各社が積極的に取り扱っていただいたことが、大きいと思います。また、SNSの書き込みを見ても、ポジティブな意見が多く、多くのユーザーから高い評価を得ていることがわかります。これまでのタブレットとは違って、キーボードが利用できることがいい、という声は多くの企業からあがっていますね。しかし、Microsoftは、こうしたデバイスビジネスの経験が長いわけではないこともあり、現在、供給面でご迷惑をおかけするという状況が発生しています。肝心な時に、モノがないという状況であり、その点は大きな反省事項です。「あればもっと売れるのに」というが正直なところです。
――今、どんな人にSurfaceが響いていますか。
樋口 キーボード、マウスを使っていた人が、タブレットを使いたいという場合にやはりSurfaceが最適だという判断をしているようです。WordやExcel、PowerPointといったクリエイティブな仕事するためのアプリケーションを利用する際には、キーボードやマウスが必要ですし、PCとタブレットの2台を持たなくてもいいという人たちが、Surfaceを選択しています。
一方で、若い世代や女性に対しては、積極的に仕掛けをしていく考えです。1月27日までの期間限定で、東京・表参道に開設していた「Surface 表参道 ショールーム」では、来店の4割以上が女性ですし、トレンドに敏感な女性層から注目を集めていましたね。できることが多いタブレットなので、その分、訴求しにくいところもあるのですが(笑)、分かりやすく言えば、iPadと同じことができて、それでいてPCでやりたいこともできる製品である、と理解してもらえればいいですね。中には、ライブタイルの操作に慣れるまで時間がかかるという人もいるかもしれませんが、使い慣れるとその良さを理解していただけると思います。
――Surfaceは、「艦これ(艦隊これくしょん)」ユーザーからも高い評価を得ていますね(笑)。
樋口 PCベースであること、Flashが動作することなど、これまでのタブレットとは違う点が、「艦これ」をはじめとするゲームユーザーに評価されているようですね。特に、Surface Pro 2の場合には、PCのフルファンクションを持ちながら、携帯性もあり、コアゲーマーから高い評価を得ています。Surface Pro 2をはじめとして、Windows 8およびWindows 8.1を搭載したタブレットは、「艦これ」をプレイするには最適なデバイスであるといえるのではないでしょうか。
――ちなみに、Surfaceシリーズは、どちらが売れているのですか。
樋口 我々の大きな目標は、Surface RTおよびSurface 2で、iPadに対抗するということであり、その方針通り、販売台数構成比ではSurface RTおよびSurface 2の方が売れています。Surface ProおよびSurface Pro 2は、OEMベンダーと競合する点が、一部では指摘されていますが、市場全体を盛り上げるという点では相乗効果があると考えています。
――ラピッドリリースを最初に展開したOSが、Windows 8.1ということになりますが、それから約3カ月を経過した反応はどうでしょうか。
樋口 Windows 8.1になってから、評判は非常にいい状態となっています。Windows 8が出た時には、まだWindows7がいいのではないかという声が多かったが、Windows 8.1が出てからはそうした声が少なくなってきていると感じています。特に、Windows 8.1を搭載した8型タブレットの登場は追い風になっています。Windows搭載タブレットの販売台数も増加していますし、2-in-1タイプのPCも人気が集まっています。量販店店頭市場では、12月にはマイナス成長だったのですが、これはSurfaceの数字が集計されていないためで、これを加えると、12月からプラスに転じているといえますし、1月に入ってからはSurfaceを含まなくても、プラス成長となっています。
Windows Phoneの日本展開はまだ先か
――Microsoftが、「デバイス&サービスカンパニー」への転換を図る中で、そのイメージはどれだけ定着してきたと判断していますか。
樋口 クラウドサービス専業のベンダーに比べると、まだまだ我々が出していかなくてはならないメッセージは多いですし、ソフトウェアとサービスをエンド・トゥ・エンドで提供できることをもっと訴求していかなくてはならない。また、デバイスに関しても、Surfaceを投入したことで、その狙いが伝えやすくなったといえますが、やはり製品が揃わないといけないという点はありますね。グローバルに比べて、日本ではまだ足りないものがありますね。
――2014年にはそうしたあたりが出てくると言えますか。
樋口 Microsoftのグローバル戦略から見た場合、日本で、まだ足りない部分がいくつかあります。データセンター、Windows Phone、そして、直営店のWindows Storeは、日本での展開が遅れています。その中でデータセンターは、日本での展開がいよいよスタートします。一方で、Windows Storeは、日本には多くの量販店があり、手厚い販売体制を敷いていますから、そこにWindowsエリアといった日本ならではの展開を始めたところです。そして、Windows Phoneに関しては、まだ日本では何も具体的なことは決まっていませんが、Nokiaの買収によってグローバル戦略に変化があるのは確かです。
――Windows Phoneでは、今年何かしらの動きが日本でありそうですか。
樋口 Nokiaの買収をきっかけに、何かしら歩みを進めたいというのは正直な気持ちです。デバイス&サービスカンパニーという点では、モバイルデバイスは重要なデバイスであるのは当然です。しかし、すぐに何かしらの動きが、日本で始まるというわけではありません。ただ、Windows Phoneに関しては、2014年中には、社内に向けては、何かしらの方向感を出せるのではないかと思っています。
Xbox Oneは総合力で勝負
――2014年は、日本マイクロソフトにとってどんな1年になりますか。
樋口 日本マイクロソフトは、7月から新年度が始まるわけですが、その折り返し点というこれまでの約半年間を振り返れば、売り上げの面では非常に好調に推移しています。他の国の成績を大きく上回っています。クラウドでも非常に高い成長を遂げています。これらの実績をもとに、このコマーシャル領域、クラウド領域における信頼感をもっと高めていく1年にしたいですね。
日本に2カ所のデータセンターを設置することは、信頼性を高め、さらにビジネスを拡大するという点でも、大きな意味を持ちます。コマーシャル市場は引き続き旺盛な需要が続くでしょうし、先にも触れたように、日本マイクロソフトは非常にいいポジションにいます。また、Windows 8.xという次のラピッドリリースにおいて、さらに評価を高めていくということも重要です。
一方、コンシューマビジネスの強化は、重要な部分です。ここには、Xbox Oneも含まれます。まだ現時点では、具体的な日本での投入時期には言及できませんが、現在、13カ国で展開している次のところで、日本でも何かしらのアクションを取れればと思っています。
Xbox Oneは、米国では非常に高い評価を得て、好調な売れ行きをみせています。日本は、ソニー、任天堂の「御膝元」の国ですから、厳しい市場環境にあるのは事実です。ただ、新たなKinectで実現するモーションセンシング、音声認識技術は、さらに進化しており、ここでは、さまざまな応用が期待できます。単なるゲーム機としての競争ではなく、Microsoftが提供する総合力を活かした提案もしていきたいですね。Kinectは業務利用での展開もありますし、財務基盤という点では、他のゲーム機メーカーに比べて、Microsoftは強いところにありますから、それを活かすこともできるでしょう。
このように、さまざまな製品、サービスが登場しますし、そこでさらに存在感を増していきたいというのが、この1年の目標です。さらに、新たなCEOが決まりましたから、意思決定も加速していくことになるでしょう。そこにも日本マイクロソフトがさらに飛躍できる要素がありますね。