大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

マウスコンピューターの20周年の軌跡を追う

~小松社長とインテル、日本マイクロソフトの特別鼎談が実現

 1993年、マウスコンピューターの前身となる有限会社タカシマがPC事業を開始してから、2013年で、ちょうど20周年を迎えた。マウスコンピューターの小松永門社長は、「人とPCとを結びつけることを目的に、常にお客様視点でのモノづくりを続けてきたのがマウスコンピューター。最新の技術をいち早く、日本のお客様に届けることを追求し続けた20年だった」と、これまでの経緯を振り返る。

 日本で生まれ、日本のユーザーのために、日本で生産し、日本でサポートするという姿勢を貫いているのが同社の特徴だ。そして、この間の同社の成長において欠かすことができないのが、インテル、日本マイクロソフトとの強固なパートナーシップであったといえよう。

 マウスコンピューターは、インテル・テクノロジー・プロバイダー プラチナ・パートナーであり、Microsoft PLATINUM OEMパートナーでもある。2社との緊密な関係が、最新技術をいち早く搭載するマウスコンピューターの製品づくりにつながっている。このほど、マウスコンピューターの20周年を記念して、同社小松永門社長と、インテルクラウド・コンピューティング事業本部営業統括本部の吉井建博統括本部長、日本マイクロソフトコンシューマー&パートナーグループOEM統括本部長の金古毅業務執行役員による鼎談が実現した。マウスコンピューターの20年、そして3社の強固なパートナーシップが生み出した成果について聞いた。

ガレージからスタートしたマウスコンピューター

--2013年、マウスコンピューターが創業20周年を迎えました。1993年に事業を開始した当時はどんな様子でしたか。

マウスコンピューター小松永門社長

小松 創業者である高島勇二が、埼玉県春日部市の実家のガレージで、事業をスタートしたのが1993年のことです。最初はパソコン通信のサイトを立ち上げ、近くの工業大学生やコンピュータ好きな人間達を集めて、コンピュータの改造や増設などを始めました。その後、オリジナルのBTO PCの販売へと事業を拡大、お客様一人ひとりの希望に合わせてカスタマイズしたPCを市場に提供していきました。

 マウスコンピューターという社名は、当社の創業時からの姿勢を表したものです。「マウス」の語源は、PCの周辺機器として利用しているマウス。PCは機械であり、無機質なものです。これを人が使うことで、楽しみや可能性に広がりが出てきます。人とPCの間に立つものはなにかと考えた時に、一番身近にあったのがマウスでした。人とPCの距離を近づける会社であり続けたいという思いを、社名に込めたわけです。

 では、その当時、人とPCとの距離は、なにによって生まれていたかというと、それは「価格」だったと言えます。当時、PCを一式揃えると、20万円を超える出費が必要であり、多くの人がPCを購入するには価格が障壁になっていました。マウスコンピューターは、お客様に購入していただきやすいPCを提供するにはどうしたらいいのかということを考えてきました。

 その1つの回答として提示したのが、1999年に「300ドルPC」として話題を集めたEasy-300でした。「PC、1年経ったらただの箱」という当時のキャッチフレーズが示すように、それまでのPCは高いものであるという常識を打ち破り、PCは、いまが買い時であるということを広く訴求した製品でした。マウスコンピューターの企業姿勢を強く印象づけることができる製品でしたね。

--マウスコンピューターの初期の代表的製品の中には、業界初のキューブ型PCである「Easy-CUBE」がありますね。

Easy-CUBE

小松 Easy-CUBEの発売は2002年のことです。先進的なユーザーの中には、PCをオフィスや書斎などで使うだけでなく、リビングで使いたいと考え始めていた時期であり、小型で、ファッショナブルなPCが求められ始めていました。Easy-CUBEでは、Pentium 4プロセッサを搭載したデスクトップのアーキテクチャを活用しながら、放熱処理の部分にヒートパイプを採用するといったノートPCの考え方を採用し、小型、軽量化を実現したものです。これにより、リビングでもPCを使うという提案を可能にした業界初の製品だったとも言えます。

吉井 他社には、このスタイルの製品はありませんでしたから、大きな衝撃を受けたことを覚えています。リビングに設置するお洒落なPCがいよいよ登場したという印象でした。

金古 当時のマイクロソフトは、PCをリビングへ、といったことを打ち出しはじめた時期でもあり、当社自らも、Windows Media Centerを提案しています。その方向性とも合致していたのがEasy-CUBEだと言えます。

小松 今振り返っても、Easy-CUBEは、オンリーワンの製品でしたね。そして、新しいものに積極的に取り組んでいくというマウスコンピューターの姿勢を具現化したものだったと言えます。他社と同じことをやっていては生き残れません。新たなものに積極的に踏み出し、多様化するニーズを先取りして、それに応えていくという姿勢をEasy-CUBEで形づくることができたのでないでしょうか。

インテルクラウド・コンピューティング事業本部営業統括本部の吉井建博統括本部長
日本マイクロソフトコンシューマー&パートナーグループOEM統括本部長の金古毅業務執行役員

インテル、マイクロソフトと緊密な連携を開始

--Easy-CUBEによって、マウスコンピューターの存在感が一気に増した感じがします。それに伴って、量販店ルートにも販路を拡大し始めたわけですね。

LUV MACHINES

小松 Easy-CUBEに続いて、2003年に発売した「LUV MACHINES」によって、本格的な量産体制を整え、家電量販店との取引や、販売代理店との取引を開始し、PCビジネスを急激に成長させることになりました。現在のWeb直販と間接販売を両立させるという基本的な販売体制が整った時期でもあります。実は、こうした量産体制に踏み出す上で大きな出来事がありました。それは、2003年を前後して、インテルとはテクノロジー・プロバイダー プラチナ・パートナーとしての契約を結び、日本マイクロソフトとは、OEMパートナー契約を結んだのです。

吉井 インテル・テクノロジー・プロバイダー プラチナ・パートナーの契約を結ぶことによって、PCメーカーとインテルとが、直接情報交換を行なうことができるようになります。それまでのマウスコンピューターとの契約では、代理店を介したり、セミナーを通じた形でしか情報を提供できない関係だったのですが、PCメーカーの技術者が、専用のコミュニケーションツールを活用して、迅速に情報を入手したりといったことが可能になります。製品開発やマーケティング展開などにおいて大きなメリットを享受できます。

金古 OEMパートナー契約も、マイクロソフトとPCメーカーとがダイレクトに話し合いながら製品開発を行なう体制が構築できる点で、それ以前の契約形態であったシステムビルダーライセンス契約とは内容が大きく異なります。マウスコンピューターの技術者に対して技術的なサポートをダイレクトで提供する一方、マーケティング施策でも協業していくことになります。

小松 マーケティング面での協業という点では、2006年のWindows Vistaの登場時には、すべてのSKUにWindows Vistaを搭載したり、Windows XPからWindows Vistaへの無償アップグレードプログラムを実施するといった手を打ちましたが、これも半年以上前から、技術情報とともに、マーケティング情報を入手することができたことが大きく作用していますね。

金古 2005年に当社では、Windows XP Media Center 2005を展開しようと考えていた時期で、国内のPCメーカー各社にそのご提案をしていました。しかし、各社ともTV視聴機能などについては、独自のツールを持っており、なかなかWindows Media Centerを採用していただけませんでした。それに対して、マウスコンピューターは、いち早くコミットしていただき、米レドモンドのMicrosoft本社にも開発チームを派遣していただきました。リモコンを使い、PCから離れて操作する環境に最適化した製品の提案を一緒になって行なえたのも、こうした緊密な関係が構築できていたからです。

吉井 インテルも、かつてViiv(ビーブ)というホームエンタテイメント向け技術の提案を行なっていましたが、やはりマウスコンピューターには、いち早く採用をしていただきましたね。

小松 インテルが、2003年にCentrinoモバイル・テクノロジを発表したときには、赤坂ブリッツで開催した大々的なイベントにおいて、当社の製品も一緒に展示していただきました。さらに、Centrinoモバイル・テクノロジの展開においては、ODMとのパートナーシップに関しても支援をしていただきました。これによって、大手のPCメーカーしか展開できなかったノートPC市場にも、マウスコンピューターが本格的に参入できるようになったのです。いずれも、マイクロソフト、インテルとの緊密な関係がなければ、実現できていなかったものだと言えます。

「タイム・トゥ・マーケット」を強みに展開

小松 このように、お客様に最適なソリューションを提供する上で、インテルとマイクロソフトとの緊密なパートナーシップは不可欠なものでした。例えば、2000年代前半のインテルは、新たなCPUと新たなチップセットを短期間に相次いで投入することを、繰り返した時期でもありました。ところが、大手PCメーカーは、その動きに、なかなかついていくことができないのが実態でした。インテルからは最新のCPUが発表されているにも関わらず、PCという最終製品として、ユーザーのもとに届けられない、あるいは製品化されていても高価でなかなか購入できないという状況が発生していました。

 そこにマウスコンピューターの特徴を活かすことができました。マウスコンピューターにとっては、事業開始直後は、価格訴求が重要な差異化点したが、2000年代前半は価格訴求に加えて、インテルやマイクロソフトが実現した新たな技術を、いかに早く製品化して、お客様に届けるかが差異化ポイントになってきました。この時、「価格」の次の柱として、「タイム・トゥ・マーケット」という2つめの柱が生まれてきたとも言えます。

吉井 タイム・トゥ・マーケットは、それ以降、マウスコンピューターの最大の差異化ポイントになっていますね。大手PCメーカーは、ハイエンドの製品ラインナップ向けに、最新CPUやチップセットを搭載した製品を投入していましたが、マウスコンピューターでは、ボリュームゾーンまでを含めて最新技術を搭載してくる。これは他社には真似ができないものでしたし、インテルにとっても、マウスコンピューターが重要なパートナーである理由の1つだと言えます。

金古 タイム・トゥ・マーケットの実現とともに、製品品質の向上という点にも、緊密なパートナーシップ関係が大きく寄与しているのではないでしょうか。品質問題についてもマイクロソフトにフィードバックし、一緒になって解決する体制が整ったと言えます。

現場が責任を持って決断する体制

--なぜ、マウスコンピューターは、タイム・トゥ・マーケット戦略を実現できるのでしょうか。

小松 それは「気合い」しかないですね(笑)。それはともかく、一言で言えば、すでに社員の身に染みついているんです。マウスコンピューターは、タイム・トゥ・マーケット戦略をやらなくて何をするのか、というぐらい全社員の中に徹底しています。開発、製造、営業、マーケティングが、発売日に向けて一丸となって準備を進める。命がけでタイム・トゥ・マーケットに取り組んでいますよ(笑)。これはマウスコンピューターが絶対に譲れない要素です。

金古 少数精鋭で、現場が責任を持って決断を行なっているというのが私の印象です。また、小松社長と現場が近い関係で仕事をしており、その場ですぐに決定して、次の課題に挑むという姿勢がありますね。当社の技術担当者のところにも頻繁に問い合わせをいただいて、タイム・トゥ・マーケットの実現と、品質向上に対しては、さまざまな要望をいただいています。意思決定までに時間がかかったり、社内での通達が遅れていたりといったことは、マウスコンピューターの場合にはありませんね。市場投入のタイミングを見誤らないためにどうするかといったことが、しっかりとでき上がっていると思います。マウスコンピューターとインテル、マイクロソフト、ODMが1つになって、情報が飛び交う環境が構築されている。だからこそ、スピード感を持った製品投入が可能なのではないでしょうか。

吉井 フットワークの軽さやスピード感を強く感じますね。当社の技術者に対する質問内容は、実に細かいものが多いのですが(笑)、それでいて的確なんです。ざっくりとした質問から入るのではなく、すべてを把握した上で必要な部分だけを質問されてきます。また、先に裏付けをとってから質問をしてくる場合も多い(笑)。

金古 そうですね。こちらから情報を提供したつもりだったのが、すでに知っていますということもありますから(笑)。

吉井 マウスコンピューターの技術者には、多くの技術情報が蓄積していますから、技術者同士のやりとりは、メールや電話で迅速に完了できるという関係が構築できています。ですから、時間をかけずに次の課題解決のステップへと移行することができます。

 少数精鋭というのは私も感じますね。1人が幅広い知識を持ち、課題解決に取り組んでいます。そして、その技術者がタイム・トゥ・マーケットにこだわってやっています。だからこそ、他社にはできないような最新技術を搭載したPCのいち早い市場投入が可能になるのではないでしょうか。

小松 インテルやマイクロソフトでは、良い製品を市場に投入するために、ギリギリまで変更を加えるといったことが行なわれています。私たちも、そのスピードについて行かなくてはなりません。OSではコードが固まってからリリースまでの期間が限定的な場合もありますし、マザーボードやCPUの供給を受けてから期限までに製品として完成させなくてはならないというスピード感が求められます。また、急な変更も発生します。こうしたことにも対応して、結果を出していくことが大切です。最初は、「こんな短い期間じゃできないよ」という声が社内にもありましたが、そうではなく、「これだけの短い期間だからこそ、マウスコンピューターにとってアドバンテージが生まれるんだ」というように発想を変え始めているんです。大手PCメーカーができないことをできるという点が我々の価値だと言えます。

上場や買収によって経営体質を強化

--2004年には、MCJが東証マザーズへ上場し、2006年にはMCJのPC事業部門を分社化して、マウスコンピューターを設立。さらに、2008年にはiiyamaを吸収合併、2009年にはiriver japanを吸収合併するなど、企業体質の強化に取り組んでいますね。

小松 上場によって、PC業界における地位を明確にでき、さらに、社会からも経営に対する評価が得られるようになりました。

金古 法人市場へのアプローチを強めていく中で、上場企業であるという安心感は、ユーザーにとっても重要な要素だったかもしれませんね。その後の法人市場への展開にもプラスになったのではないでしょうか。

吉井 私は、iiyamaの買収によって、エンドユーザーに対して幅広くアプローチできるようになった点で、マウスコンピューターが大きな一歩を踏み出したという感じを受けましたね。

小松 ただ、私が経営者として最も心配したのは、上場企業としての管理体制を敷く一方で、創業時から持っている「ガンガン行こう!」という意識が薄れてしまうことでした。この点には配慮して経営をしました。幸いにも、上場企業としての管理体制と、ベンチャー企業としての積極性は、バランス良く維持できたと思っています。グループ企業としての強みも発揮できるようになったと言えます。

ネットブック、Windows 7で発揮した強みとは

--2008年にはAtomプロセッサが登場し、その後ネットブックブームが訪れましたね。

吉井 2008年10月に、マウスコンピューターがネットブックを製品化しましたが、これは日本のPCメーカーとしては最初の製品でした。海外PCメーカーが先行した中で、日本のメーカーは軒並み慎重な姿勢でネットブックに挑んだわけですが、その後のネットブックの広がりを考えれば、いち早くこの分野に取り組んだマウスコンピューターの判断は正解だったと言えます。

 振り返れば、日本のPCメーカーは、先ほどのマイクロソフトのWindows Media Centerだけでなく、PentiumシリーズからCoreシリーズへの変更の際や、Atomプロセッサの投入の際にも慎重な姿勢で取り組んでいた経緯があります。その中で、マウスコンピューターの早い取り組みは、日本のPCメーカーとしては異例でしたね。

ネットブックのLuvBook U

小松 ネットブックを投入するときに、社内で1つだけ議論がありました。それは、ネットブックによって、ノートPC全体の平均単価を下げてしまう可能性があるという点でした。自分たちの首を締めてしまうのではないかと。しかし、うちがやらなくても、必ずどこかがやってくる。それならば最初からやってしまった方がいい。新しいものが登場したらいち早く市場に投入するという姿勢をブラさずにやっていこうという結論に行き着きました。これがネットブックの製品化に踏み切った理由でした。しかし、ここまで市場が盛り上がるとは考えていませんでしたから、途中で製品供給が追いつかなくなり、市場にご迷惑をおかけしたという反省はあります。

--2009年にはWindows 7が発売になりましたね。ここでは、マウスコンピューターはどんな強みを発揮しましたか。

金古 Windows 7は性能を大きく上げることができたOSであり、マイクロソフトにとっては、その点を訴求していく必要がありました。マウスコンピューターのユーザーには、インフルエンサーとなる方々が多いですから、そうしたユーザーに対して、一緒になってプロモーション展開しました。特に性能の高さを訴求していくには、ゲームユーザーに対する共同訴求が、大きな効果を発揮したと言えます。マウスコンピューターは、すべての製品にWindows 7を搭載していただきました。これは、簡単なように聞こえますが、実は大変なことなんです。そこまで最新の技術に対してコミットしていただいたことは大きな意味があります。

Sandy Bridgeの不具合問題をどう判断したか

--マウスコンピューターの経営において、これまでの中で、一番難しい判断はなんでしたか。

小松 いくつかありますが、2011年に、Sandy Bridgeのチップセットの不具合が発生したのもその1つでしたね。新たなものを、いち早くユーザーに届けるのがマウスコンピューターのビジネスの根幹でしたから、この不具合によって、それができなくなります。だからといって、旧来のマザーボードやCPUを再度発注し、旧製品に後戻りすることにも抵抗がありました。

 そこで、このチップセットの不具合を、技術的な観点から検証してみました。その結果、我々がサービス体制をしっかり構築すれば、Sandy Bridgeという新たなテクノロジを十分使ってもらえるのではないかと考えたのです。万が一交換が必要なユーザーに対しては、無償での交換サービスを用意し、市場に製品を投入することを決めたわけです。いち早くSandy Bridgeを使いたいというユーザーに対して、マウスコンピューターがそれに応えるべきであり、そこに当社らしさが発揮できます。

 ただ、その時に法人向けの新たなブランドとして「Mouse Pro」を投入する計画がありました。法人向けにはさすがにあとから中身を交換しますというわけにはいきませんから、これはしっかりと不具合を修正した新たなステッピングのものを搭載しています。

吉井 これはインテルにとっては、大変ありがたい判断でした。この不具合はすべての製品で起こるわけではなく、経年劣化した際に、まれに不具合が起こる可能性がある、という水準のものでしたから。

小松 この時に、インテルが素早く方針を打ち出し、不具合時の交換についても、インテルがしっかりとサポートしてくれるという体制を用意していただいたことが、Sandy Bridge搭載PCの発売に踏み出すことができた理由の1つです。

Windows 8、Ultrabook時代のマウスコンピューターとは

--2012年10月にWindows 8が発売されました。Windows 8時代におけるマウスコンピューターの強みは、どう発揮していきますか。

小松 Windows 8は、今後のPCの進化を担う重要なOSです。フットプリントの小ささとセキュリティの強化という点では、しっかりと作られたOSだと感じています。これをいかに世の中に広めていくかが、我々の役目ですね。タッチ機能によって、新たなエクスペリエンスを実現できるのは大きな特徴ですが、既存のコンピューティング環境でも、より軽く、より快適に動作するのが、Windows 8の素晴らしいところだと思っています。基本部分に忠実なOSであると言えます。

金古 OSとしての改善されたポイントを、インフルエンサーの方々にしっかりと浸透させていきたいというのが今のマイクロソフトの思いです。タッチパネルの供給不足の問題も解決の方向に向かっていますし、これまで以上に、タッチのエクスペリエンスをいかにしっかりと伝えていくことに力を注ぎたいと思っています。

27型一体型のNEXTGEAR-ONE

小松 私は、タッチの機能も評価しているのですが、その先のジェスチャーにも期待しているんですよ。当社では、27型大画面ディスプレイを搭載したオールインワンのゲーミングPCを製品化していますが、こうしたPCを使用する環境などを考えると、タッチよりも、ジェスチャーの方が適しているのではないでしょうか。例えば、RPGでもジェスチャーに反応して、キャラクターが動くといった使い方ができるようになります。振り返れば、Windowsの進化は、ナチュラルユーザーインターフェイスの進化であり、どれだけ自然にPCを使うことができるかといったことへの挑戦の繰り返しだったと言えるのではないでしょうか。その点でもWindows 8によって得られるエクスペリエンスは、ナチュラルユーザーインターフェイスの進化に大きな意味をもたらすと言えます。

--一方で、インテルでは、Ultrabookの提案を加速していますね。

LuvBook X

吉井 インテルのユーザーエクスペリエンスの向上に向けた提案の1つがUltrabookです。マウスコンピューターは、いち早くUltrabookとして、LuvBook Xシリーズを市場に投入し、しかも、985gというその時点では世界最軽量を実現しました。一般的に軽いノートPCというのは大手PCメーカーから登場するものなのですが、それがマウスコンピューターから登場したということで、驚きを持って市場に迎え入れられました。

小松 製品開発の過程においては、インテルの技術チームと緊密な連携を行ない、それが活きたことで製品化できたものです。インテルとの緊密なパートナーシップがなければ、この製品は市場に登場しなかったでしょう。

 実は、4月にインテルとコラボレーションしたUltrabookを製品化します。「劇場版 魔法少女 まどか☆マギカ」のデザインを施したもので、これまでにはない形でのコラボレーションとなります。

吉井 これは、製品企画自体が2012年暮れに生まれたもので、製品化するには、フットワークのいいメーカーとコラボレーションする必要がありました。そうなると、小ロットで対応でき、短期間に製品化できるマウスコンピューターしかない(笑)。小松社長にも迅速に判断をいただき、協業がスタートしたわけです。コンテンツに強い日本ならではのUltrabookとして、提案する最初のコラボレーション製品になります。

 Ultrabookは、今後、インテルが提案するジェスチャーや音声認識といった技術、さらには手のひら静脈認証や指紋認証といったセキュリティ技術も、真っ先に取り込んでいこうという取り組みを考えています。そうした新たな提案活動を、マウスコンピューターと一緒にやっていきたいですね。

小松 私はUltrabookの特徴の中で、セキュリティを強化している点が非常に重要であると考えています。私も「LuvBook X」シリーズを持ち歩いているのですが、とても軽くて持ち運びが楽ですよ。ただ、実際に使っていると、不安になるのが情報漏洩なんです。落とした時にどうするか、ということが常に頭の中をよぎります。これに対して、UltrabookとWindows 8の組み合わせによって、セキュリティと使い勝手を両立できるようになります。特に複数のPCを使い分けている場合には、それぞれのPCが同期して、同じ環境が構築できます。これは便利ですね。クラウド対応を含めて、リスクを軽減できる点は大きなメリットだと言えます。

3社の協業は、これからなにを生むことになるのか

小松 マイクロソフトが提供しているのは、PCをいかに、身近に自然に使うかという技術。インテルが提供しているのは、CPUやプラットフォームによって、ナチュラルデータを処理するための技術であると考えています。この両者の技術が揃うことで、最高のユーザーエクスペリエンスを提供できると言えます。

 全体の方向性はインテル、マイクロソフトが作り上げる。その上で、大衆車のような万人受けする中心に位置付けられるPCは、大手PCメーカーが出す。ただ、スピードの面でチューニングされたもの、デザイン的に優れたもの、デコレーションパーツをつけたいというカスタムカーのような需要に対して、商品を展開していくのがマウスコンピューターの役割だと言えます。

金古 マウスコンピューターは、最新のテクノロジをいち早く搭載していただくメーカーとして、マイクロソフトとしても絶大な信頼感があります。新たな市場を牽引するという役割はこれからも担っていただきたいですね。そして、Windows 8の進化でも重要な役割を果たしていただきたいと思います。

 日本には、まだWindows XPを使用しているユーザーが多いですから、そうしたユーザーに対して、最新のOSを搭載したPCはこれだけ優れているということを体感していただくきっかけづくりを担っていただくことにも期待しています。これからも、一緒になって、安心で快適なPCを利用した生活を送っていただけるような提案をしていきたいですね。

 日本のマーケットはハイエンドユーザーが数多く存在します。そうしたユーザーに刺さるPCを投入しているのがマウスコンピューターです。新たな技術を搭載したPC市場を形成する「司令塔」となっているのがマウスコンピューターだと感じています。

吉井 私も、引き続き、新たな技術を採用したPCをタイム・トゥ・マーケットを投入するPCメーカーとしての役割を担っていただきたいと思っています。こだわりをもったユーザーに対して、応えることができるPCを投入できるメーカーとして、これからの発展にも期待しています。まもなく、インテルからは第4世代のCoreプロセッサが投入される予定ですから、この発売に合わせて、マウスコンピューターがどんなPCを投入するのかが、今から楽しみですね。個人的には、海外進出もしていただきたいと思っているんですよ(笑)。マウスコンピューターのスピード感があれば、世界で戦えると思います。

小松 スマートフォンやタブレットに注目が集まっていますが、インテルとマイクロソフトには、今後も継続的にPC向けのソリューションを出していただき、この進化を牽引してもらいたい。創造的な作業においては、PCでないとできない部分が多いですし、ITの要は、あくまでもPCであり、そこで作られたコンテンツがスマートフォンやタブレットで使用されるということになるのは明らかです。PC領域に対するさらなる投資を期待したいですね。

今後のマウスコンピューターはどうなるのか

--今後のマウスコンピューターはどう進化しますか。

小松 PC市場で生き残っていくためには、今のマウスコンピューターよりも、もっと速くならなくてはいけないと感じています。お客様の声をこれまで以上にしっかりと聞いて、会社の施策の中に活かしていく体制を確立したいです。量販店を始めとするパートナーがやりたいと思うことを具現化していくことも我々の価値の1つです。顧客中心であり、スピード感を持って、クオリティの高い製品を投入していくことにこだわりたいですね。PCはITの要です。この需要は、今後10年間は変わらないでしょう。もちろん、PCの形は変わる可能性はあります。そして、これからどんな技術が登場するのかもわかりません。ただ、それでも、マウスコンピューターは、PCを主戦場としていくことに変化はありません。

吉井 マウスコンピューターが、タイム・トゥ・マーケットを重視するPCメーカーであるという点は変わってほしくないですね。ユニークなモノづくりにこだわる姿勢も変わってほしくないと思っています。

金古 日本品質にこだわりを持っているのがマウスコンピューターの特徴の1つです。こうした活動を若い人たちが見て、次の世代に影響を与えるようなPCメーカーになることを期待しています。また、一般コンシューマユーザーの底上げに向けてどんなことをするのか、教育分野に対して、どんなことを展開するのかといったことにも期待したいですね。

吉井 企業向け市場は、マウスコンピューターにとっては伸びしろのある部分ですからこの領域への展開も期待しています。また、生産、サポートを日本国内に置いていることも、ユーザーの安心感につながっているのではないでしょうか。こうした体制もぜひ維持してほしいですね。

20周年記念キャンペーンも実施

--ところで、20周年に合わせた記念キャンペーンは何か予定していますか。

小松 2013年4月8日午後3時から、創業20周年記念キャンペーンを開始し、現在は豪華プレゼントキャンペーンや、ノートPCの「カラーバリエーション総選挙」などを実施しています。このほか、オンラインゲーム大会などさまざまなキャンペーンや企画を予定しており、情報は随時20周年の特設ページにアップしていくので、是非ご覧いただきたいです。

--最後にPC Watchの読者にメッセージをお願いします。

小松 20年間のみなさんのご愛顧があり、こうした形で20周年を無事に迎えることができました。お客様が欲しい商品を作っていくという姿勢はこれからも変わりません。ますます叱咤激励をいただき、さまざまなメッセージをいただければと思っています。これからのマウスコンピューターにもぜひご期待ください。

(大河原 克行)