山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

ファーウェイ「P8max」で電子書籍を使う

~6.8型、新書とほぼ同等サイズのSIMフリースマートフォン

ファーウェイ「P8max」。6.8型と大きな画面を持つが分類上はスマートフォンとなる。カラーはシャンパンゴールドのみ

 ファーウェイの「P8max」は、6.8型という、7型よりも一回りコンパクトな画面サイズを持つAndroidスマートフォンだ。税別価格は59,980円で、iPad並みの薄型設計に加え、平均的な7型端末に比べて50g前後も軽い、228gという軽量なボディも特徴だ。

 昨今のスマートフォンは画面サイズの大型化が著しいが、それでも多くの機種は5.5型以下、大きい機種でも6型程度であり、それ以上で国内発売済みの製品となると、6.4型のソニー「Xperia Z Ultra」(2014年発売)がほぼ唯一といって良い状況だ。一方タブレットは、Androidについては7型から8型へとメインストリームが移行しつつあり、7型未満の製品は見当たらない。

 この「P8max」は、その「6型以上、7型未満」という空白地帯を埋める、6.8型という画面サイズが特徴だ。本体サイズが新書とほぼ同等であることから、電子書籍を読むのにスマートフォンは小さすぎるが、タブレットでは大きすぎるというニーズにぴったりハマる。分類上はSIMフリーのスマートフォンということで、SIMカードを追加して外出先でも通信が行なえるなど、機動性も申し分ない。

 発売は2015年9月ということで、やや間は空いてしまっているが、こうしたサイズの特性ゆえ、一部で評価が高いこの「P8max」を、今回は電子書籍端末として使用した場合についての評価をお届けする。連載の性質上、スマートフォンとしての性能および機能には最小限しか触れないので、予めご了承いただきたい。

高級感のあるボディに大容量バッテリを搭載。デュアルSIMスロットも装備

 競合と呼べる製品が少ないこの「P8max」だが、まずは本連載で過去に取り扱ったAndroid端末の中から、同じファーウェイ製である、Googleの5.7型スマートフォン「Nexus 6P」と比較してみよう。また、ネットでのユーザーの声を見る限り、既に販売終了している前述のソニー「Xperia Z Ultra」からの乗り換え候補として、検討および購入しているユーザーが多いようなので、こちらとも合わせて比較する。

P8maxNexus 6PXperia Z Ultra
製造元ファーウェイGoogle/ファーウェイソニー
発売年月2015年9月2015年10月2014年1月
サイズ(幅×奥行き×高さ)93×182.7×6.8mm77.8×159.3×7.3mm92×179×6.5mm
重量228g178 g212g
OSAndroid 5.1Android 6.0Android 4.2→4.4
CPUHisilicon Kirin 935 (A53X 2.2GHz+A53 1.5GHz、オクタコア、64bit)Qualcomm Snapdragon 810 v2.1(2.0GHz、オクタコア、64bit)Qualcomm Snapdragon 800 APQ8074(2.2GHz、クアッドコア)
RAM3GB3GB2GB
ストレージ32GB32/64GB32GB
画面サイズ/解像度6.8型/1,920×1,080ドット5.7型/2,560×1,440ドット6.4型/1,920×1,080ドット
通信方式IEEE 802.11a/b/g/n/acIEEE 802.11a/b/g/n/acIEEE 802.11a/b/g/n/ac
メモリカードスロットmicroSDn/amicroSD
備考メモリカードスロットはNano SIMと排他利用n/a防水(IPX5/8相当)および防塵(IP5X相当)に対応。海外版はAndroid 5.0へアップデート対応済み

 こうして比較するとスペック上は大きく突出した特徴はなく、OSについても、同時期に発売されたNexus 6P(Android 6.0)と違って、現状Android 5.1となっているが、その代わりに大きな欠点と呼べる箇所もなく、全体的にバランスは取れている印象だ。またサイズや重量、画面サイズに解像度など、「Xperia Z Ultra」とは非常によく似通っており、防水防塵対応などの違いはあるにせよ、乗り換えを検討するユーザーが多いのも理解できる。

 一方、ボディにはマグネシウム合金を採用し、起伏もなく切れ目もない背面デザインはスタイリッシュで、シャンパンゴールドのボディカラーと相まって、ほかの2製品と比べても高級感は上だと感じる。スクリーンは発色も良く視野角も十分で、縦向き横向きいずれの利用でも支障を感じない。

 そのほか、この表にはない特徴としては、バッテリが4,360mAhと大容量で、ストリーミングの動画視聴であれば約15時間(メーカー調べ)という長時間駆動を実現していること(Nexus 6Pは3,450mAh、Xperia Z Ultraは3,050mAh)、また2基のSIMカードスロットを搭載することが挙げられる。スロットはMicro SIMスロットとNano SIMスロットがそれぞれ1基ずつ用意されているので、どちらかの規格のSIMが手元にあれば、そのまま挿して使用できる。

 ただし気を付けたいのが、このSIMカードスロットの内、Nano SIMスロットはmicroSDスロットと兼用になっていることだ。詳しい仕組みは写真を参照いただきたいが、microSDを使う場合はNano SIMスロットは塞がれてしまうため、本製品のために新たにSIMカードを手配するならば、実質的にMicro SIM一択ということになる。Nano SIMについては「使えなくはない」という程度に理解しておいたほうがよいだろう。

製品本体。前面がホワイト、側面および背面がゴールドということで、iPhoneやiPadによく似た配色。断面はあまり丸みがなく、デザインとしてはXperiaなどに近い
左右のベゼルが極端に狭い割には、誤って画面に触れてページがめくられることもなく、ストレスのない利用が可能だ
背面はファーウェイのロゴがある。カメラは向かって左側で、突起もなくフラットに収まっている
上面にはイヤホンジャックとMicro USBコネクタを備える。前面にもカメラがある
底面にはスピーカーを備える。スピーカーはこの1基のみ
右側面には音量ボタン、電源ボタンを備える。電源ボタンが音量ボタンよりも下にあること、また電源ボタンが角張っているのは珍しい意匠
厚みは6.8mmと、iPhoneにこそ負けるものの、iPadとはほぼ同等。本体は完全にフラットで凸部もない
デュアルSIMカードスロットを搭載する。左はMicro SIM、右はNano SIMで、microSDスロットも兼ねる
実際にSIMカードおよびmicroSDを載せたところ。microSDを使う場合はNano SIMは利用できない
左から順に、Nexus 6P(5.7型)、本製品(6.8型)、iPhone 5s(4型)。スマートフォンとしてはかなり巨大だ
左から順に、本製品(6.8型)、iPad mini 4(7.9型)。画面サイズは全く異なる両製品だが、縦方向に限ると画面サイズはほぼ等しいのが面白い
左から順に、本製品(6.8型)、第5世代Fire(7型)。画面サイズはわずかしか違わないが、ベゼル幅の関係で本体サイズはかなりの差がある。Nexus 7(2013)などと比べても同じような対比になる
厚みの比較。上はiPad mini 4と、下はiPhone 5sとの比較(いずれも左側が本製品)

片手で握れるスリムさが特徴。セットアップなどの手順は一般的

 セットアップについては、ファーウェイ独自の端末マネージャーの設定のプロセスはあるものの、一般的なAndroidのセットアップ手順と基本的に同様。初期状態のホーム画面は、Google製アプリ以外はオリジナルのアイコンでデザインが統一されている。追加したアプリはホーム画面の右側に追加されていく方式で、別途アプリ画面は用意されていない。

初期状態のホーム画面。Google製アプリ以外はオリジナルのアイコンでデザインが統一されている。プリインストールアプリはごくわずか
Google製アプリはお馴染みの顔ぶれ
設定画面。Androidのバージョンは5.1.1
デュアルSIMの制限事項がまとめられている
デュアルカードの設定画面。どちらのカードをデフォルトにするかが設定できる

 さて本製品の最大の利点は、片手で握れるスリムさだ。前回レビューしたNexus 6Pは「大画面のスマートフォン」というイメージが強かったが、サイズが二回りは大きい本製品は「コンパクトなタブレット」というイメージで、大きさをそれほど意識せずに済むのが興味深い。

 これは、左右のベゼルが極端に切り詰められており、7型タブレットはもちろん、Kindleなど6型の電子書籍端末と比べてもスリムであることも一因だろう。また本体が薄いことに加えて全体の重量バランスがよいので、上部に重心があるNexus 6Pに比べると持った時のバランスがよく手の収まりもよい。

 なお、ベンチマークソフト「Quadrant Standard」を用いた、ほかのAndroid端末との比較は以下の通りで、Nexus 6Pには負けるものの、Nexus 7(2013)よりは上、Nexus 9とほぼ同等という結果になる。最も、ネットワーク越しの動画再生などヘビーな用途で使っていても特に支障はなく、これらベンチマークのスコアの差は、体感値に比べ低い印象だ。Kirin 935というやや特殊なSoCを採用していることで、ベンチマークソフトが対応しきれていないのかもしれないので、参考程度に見てほしい。

P8maxNexus 6PNexus 9Nexus 7(2013)
OSAndroid 5.1Android 6.0Android 5.0Android 4.4
Total1336719921135295141
CPU43327754004104113908
Mem100771095689037435
I/O1086610736148442038
2D324285391247
3D2239222624652078

テキストコンテンツにはまたとないサイズ

 では電子書籍を表示した際の特徴について見ていこう。

 本製品のフットプリント(93×182.7mm)は新書サイズ(103×182mm)に極めて近く、テキストコンテンツを読むにはまたとないサイズだ。6型未満のスマートフォンのように窮屈さを感じることもなければ、7型以上のタブレットにありがちな、画面の上下の距離がありすぎるせいで、文字を追っていて目が疲れる症状も起こりにくい。文字サイズにも依存するが、なかなか絶妙なバランスである。解像度についても不足は感じない。

 一方、コミックなど固定レイアウトのコンテンツは、画面の横幅に合わせてページが縮小されることから、上下に黒帯ができてしまい、必ずしも6.8型という画面サイズをフルに活かせない。昨今のスマートフォン向けコミックアプリによくある、縦スクロール型の画面設計なら別だが、紙のページを踏襲したレイアウトの場合、7型タブレットに比べて実サイズ以上に差がある印象だ。ただし、5.5型クラスのスマートフォンと比べれば格段に見やすいのは明らかで、スマートフォンでは小さすぎるというニーズにはぴったりだろう。

 ただし、本製品を横向きにして見開き表示で使うというのは、さすがに実用的ではない。これがNexus 6Pであれば、横向きで見開き表示にしても細部を読み取れるだけの解像度(518ppi)があるが、本製品の解像度は324ppi止まりなので、見開き表示だと単純にサイズが小さいことに加えて、細部の読み取りそのものが難しい。基本的に単ページ表示に限定されると考えてよいだろう。

新書とほぼ同じサイズ。余白を除いた1行の上から下までの高さもほぼ同一で、読書には適している
新書とほぼ同じ文字サイズにした状態での細部の品質の比較。左から本製品(6.8型/1,920×1,080ドット、324ppi)、Nexus 6P(5.7型/2,560×1,440ドット、518ppi)、Xperia Z3 Compact(4.6型/1,280×720ドット、319ppi)。さすがにNexus 6Pにはかなわないものの、電子書籍には十分な品質。右端のXperia Z3 Compactは本製品とほぼ同等の解像度だが、本製品のほうが線がシャープな印象を受ける
コミック(うめ著「大東京トイボックス 10巻」)の比較。口元の曲線や肩や頬の斜線など、細い線の表現力で違いが出やすいが、基本的には解像度通りの品質で、テキストに比べると、それほど極端な差は感じられない
画面比率の関係で、コミックなどでは上下に黒帯ができる。そのため単ページのサイズだけで比較すると、見開き状態にしたiPad mini 4における1ページのサイズと大差ない
コミックを見開きで読むにはかなり無理がある。iPad mini 4との比較でもご覧の通り、サイズの差が大きい
実際に手に持った状態。表示サイズが小さいことに加えて、解像度も実用的とはいえない

視力保護機能や消費量通知など、電子書籍を読む際に役立つ機能も

 といったわけで、画面の見やすさだけで判断するならば、テキストコンテンツの表示は◎、コミックは○、見開き表示は×というのがここまでの評価だが、これ以外にも本製品には、電子書籍端末として利用するにあたって、便利に使える機能がいくつかある。それらをまとめて紹介しよう。

 まず1つは、画面オプションの中にある「視力保護」機能だ。これをオンにしておくと、電子書籍アプリで読書を行なう際、画面がやや黄色がかった状態になる。いわゆるブルーライトをカットした状態になるため、長時間の読書でも目を疲れにくくしてくれるというわけだ。スクリーンショットを撮ると白い背景のまま出力されるので、どうやらディスプレイ側で色をコントロールしているようだ。

 今回はKindleアプリで試してみたが、ページを開いた瞬間にモードが切り替わり、それを知らせるメッセージが画面に表示された。多くの電子書籍アプリには背景を白ではなくセピアカラーに設定する機能があるが、これらはアプリごとに適用してやらなくてはいけない。あらゆる電子書籍アプリを確認したわけではないが、本製品の「視力保護」はOSレベルで適用されるのでアプリ側の設定は不要で、またテキストコンテンツだけでなくコミックなどにも適用されることから、より幅広い効果が期待できる。

 もう1つ、「消費量通知」機能も重宝する。電子書籍を読んでいる際に、別のアプリに切り替えて、そのまま作業を続けることになった場合、電子書籍アプリがバックグラウンドで起動したままになり、電力を余分に消費する原因になりうる。本製品ではそうした状態にあるアプリを知らせてくれるので、アプリを閉じるか、そのままにしておくかが選択できる。もともとバッテリの持続時間には余裕がある本製品だが、これによりさらにバッテリを延命できる。

「画面」の最下段にある「視力保護」をオンにしておくと、電子書籍アプリでコンテンツを表示した際にブルーライトをカットしたモードに切り替わる
電子書籍アプリなどがバックグラウンドで動作し続けたままの状態が続くと、通知領域で知らせてくれる。ちなみにこの機能はデフォルトでオンになっている

 また、現時点では電子書籍アプリと組み合わせての利用はできないが、iPadの「Sprit View」に似た、画面の分割表示機能も用意されている。ブラウザと地図を並べて見る場合などに重宝するこの機能、割合も常に1:1ではなく任意に調整できるので、今後もし電子書籍系のアプリに対応すれば、コミックを表示した際の上下の余白を使って別の情報を表示するなどの用途が考えられる。電子書籍に限らず、さまざまな用途に使える機能なので、本製品を購入したらぜひ試してみてほしい。

画面の分割表示機能。これは本誌のスマートフォン向けページを上半分に、PC向けページを下半分に表示しているところ
分割の割合はドラッグして変えることができる。ただし、操作はややコツが必要

 このほか、外部メモリカード(microSD)が使えるのも、自炊コンテンツを楽しみたいユーザーにとっては嬉しい仕様だろう。iPhone/iPadやNexusシリーズなど、microSDを搭載しないスマートフォンやタブレットは少なくないだけに、製品を選択する際には強みの1つになるはずだ。先に述べたように、Nano SIMスロットを占有すること、またトレイを取り出す際には、クリップなど尖ったものが必要になることは考慮しておきたい。

電子書籍を楽しむには極めてすぐれた製品。ネックは価格か

 以上ざっと見てきたが、7型のタブレットよりもわずかに小さいだけながら、ハンドリングしやすい本体サイズと、スマートフォンとは一線を画する可読性を兼ね備えており、電子書籍を楽しむには極めて優れた製品というのが、暫く腰を据えて使ってみての感想だ。見開き表示はさすがにオススメしないが、前述の視力保護機能のような電子書籍を前提とした機能も備えており、長時間の読書にも支障はない。

 また、薄く軽いボディ、発色の良い画面など、タブレットとして見た場合も優秀な製品であり、特に電子書籍という用途に限定しなくても、オールラウンドに使い勝手が良い製品という印象を受ける。中でも動画の再生は、上下に黒帯ができるiPad mini 4などに比べて間延びすることもなく、適しているという印象を受けた。

動画を表示した状態で、iPad mini 4(上)と並べたところ。ほぼ同じ表示サイズながら、本製品のほうが無駄な黒帯もなく間延びしない

 ネックがあるとすれば、やはり価格だろう。本製品が発売されてから約半年が経過しているが、価格は依然5万円台をキープしており、やや割高な印象を受ける。同じファーウェイ製のGoogle Nexus 6Pが6万円台後半であることを考えると、極端に割高というわけでは決してないのだが、こちらも同じくファーウェイから2014年暮れに発売された6型SIMフリースマートフォン「Ascend Mate7」は、現状で実売3万円を切りつつあるだけに、もう一声欲しいというのが正直なところだ。

 とは言え、そのサイズ面から直接競合する製品がなかなか登場しにくいと考えられるため、暫く待っても競合の登場で大きく値下がりする可能性は低い。また、発売直後にあった通知機能の不具合もバージョンアップで改善されており、製品としては買い時ではある。大手量販店では実機が展示されていることも多いので、気になる人は是非ともチェックしてみてほしい。

(山口 真弘)