山田祥平のRe:config.sys

M登場、その新たな「序」のはじまり

 米サンフランシスコで開催されているIntelの開発者向けイベント「Intel Developer Forum(IDF) 2014」に来ている。14nmプロセルルールによる新プロセッサ「Core M」と、2-in-1 PC、タブレット、もうすぐ登場する「Broadwell」に、その次の「Skylake」、そしてIoTと、4,500名近い参加者を集めたこの会議の話題は多岐に渡る。プログラムの3分の2を消化したところでの雑感を記しておきたい。

そして2年が過ぎ

 ちょうど2年前の2012年に同じサンフランシスコでIDFが開催されたときには、その2日目に目と鼻の先のYerba Buena Center for the Artsで「iPhone 5」が発表された。あちらもIntelよろしくTICK-TOCKで、2年後の今年はSのつかない「iPhone 6」が、IDF開催初日とバッティングして発表されている。ただし、発表会場は近所のYerba Buena Centerではなく、同じシリコンバレーでもちょっと離れた、Appleの本拠地クパチーノのThe Flint Center for the Performing Artsだった。やる気があってもハシゴは無理だ。どっちが表でどっちが裏番組かはともかく、まさにそういうイメージだ。結果として、世の中がiPhone 6報道一色に埋め尽くされたのはご存じの通りだ。

 さて、2年前のIDFでは、Haswell搭載Ultrabookがその主役だった。当時、インテルは、UltrabookがHaswellで変革されると豪語していた。S0ixステータスを最初にサポートしたこのプロセッサは、スマートフォンやタブレットのように、Windows PCの接続維持を新しい当たり前にするはずだった。性能もバッテリ駆動時間も倍になるという夢のようなプロセッサだったわけだが、2年経ってみると、接続維持のためのInstantGo対応機はまだまだ数が少なく、接続維持はいわゆる当たり前の機能にはなっていない。

 かつて、Intelは、SandyBridgeからIvyBridge、そしてHaswellに至るプロセッサの世代交替を「序破急」的なステップに例えていたことがあるが、どうやらこれは「起承転結」で、Haswellの先にBroadwellが待っていたということか。あるいは次の新たな展開のための「序」が始まったのか。また、それが搭載されるPCも、由緒正しいクラムシェルUltrabookではなく、タッチの世界を包含した2-in-1 PCとなっている。

Core M搭載機のラインアップにちょっとがっかり

 Intelは、IDF開催前週にドイツ・ベルリンで開催されたIFAにおいて、Core Mプロセッサを正式発表。いわゆるBroadwell-Yをデビューさせた。IDFでは、その発表をなぞり、Acer、ASUS、Dell、HP、LenovoのOEM 5社とODMとしてWistronがこのプロセッサを搭載したPCをホリデーシーズンに向けて発売。さらに、それを追いかけて、2015年には14nmプロセスルールのBroadwellが、Core i3、Core i5、Core i7として出荷されることが今一度確認された。

 省電力性能の高いYプロセッサ以外のBroadwell出荷スケジュールが2015年にずれこんでしまったものの、すでに、その次のSkylakeは順調に開発が進んでいるようで、2015年はずいぶん賑やかな年になりそうでもある。Broadwellが短命に終わるのではないかという噂もささやかれている。

 だが、当面のモバイル2-in-1 PCは、Core Mプロセッサが、その中核に鎮座することになるだろう。薄くて軽く高性能なファンレスPCは、多くのユーザーが待ち望んでいたものでもあるにちがいないであろうからだ。

 だが、誤解を怖れずにいえば、最初のCore M搭載を叶えた5社の製品群を見る限り、どれも重量は1kgを超えている。モバイルを前提としたハードウェアとしては、Haswell搭載機に比べてそれほど魅力を感じないのも事実だ。正直、強烈に欲しいという物欲を誘わない。それに、本当だったら真っ先に手を挙げていたに違いないパナソニックやNECパーソナルコンピュータ、富士通、VAIOといった日系ベンダーが不在である点もちょっと悲しい。唯一、東芝のCore M搭載機だけがステージでチラリと披露されたに過ぎない。

 けれども、これらの事実がCore Mの実力を象徴しているわけではない。IntelがCore Mのブランドを冠するのはBroadwell-Yプロセッサだけだが、その銘々には、やはり特別な意味があるに違いないのだ。ここは1つ、日本のベンダーにその真価を発揮させてほしいと思う。

Intelのジレンマ

 Intelはずっと、タブレットは情報消費に、Ultrabookは情報生産にと、その役割分担を提唱してきた。だが、多くのユーザーは、タブレットとUltrabookを併用することを嫌い、一台二役をデバイスに求めたという。そこで提案されたのが2-in-1だ。そして、Core Mは、その2-in-1に高い処理性能とファンレスや薄型などタブレットとして恥ずかしくない要素をもたらす。

 個人的に2-in-1には中途半端な観があり、その質実には懐疑的だ。その先入観をくつがえすくらいの製品群が出揃うには、まだ、ちょっと時間がかかりそうだとも思っている。

 そして、そのゆるやかに過ぎる時間の中で、次のSkylakeが動き始めてしまうところに今のIntelのジレンマがある。だからこそ、Core Mという特別なブランドをマーケティング的に用意する必要があったのだろう。

 秒進分歩と呼ばれるITの世界において、2年前のIDFと今年のIDFを重ねてみたときに、その2年前は太古の昔のように感じるかといえば、決してそうじゃない。実際、そのタイミングで発売されたiPhone 5を、まだ愛用しているユーザーは少なくないし、iPhone 5Sを経て今、iPhone 6が出ても買い換える意味を見出せないユーザーも少なくないだろう。感覚としてはデジャブにも似ている。

 同様に、Haswell以前からあったNECパーソナルコンピュータの「LaVie Z」は、今なお、Ultrabookにおける世界最薄最軽量の名をほしいままにしている。これはもう、秒進分歩が日進月歩にスライドしたかのような印象も持つ。そこに苛立ちすら感じるのだ。

 個人的にはCore Mには大きな期待を持っている。これまでにはなかったようなデバイスが誕生する可能性があるからだ。2-in-1は、既存のデバイスイメージを1つに集約したものに過ぎないが、そこから再発明されるまったく新たなフォームファクタを、きっと誰かが思いつくはずだ。

 今、何よりも心配なのは、Intel自身が、2-in-1を「点」のモバイルとしてしか見ていない気配が感じられることだ。世の中のあらゆる「点」にはWi-Fiがあるという前提ではモバイルを語れるはずがない。その点を結ぶ「線」での情報生産をかなえる必要があるだろう。

(山田 祥平)