■山田祥平のRe:config.sys■
今回のIDFは、Intelが2013年にも市場に投入するとされている新たなプロセッサ「Haswell」の話題が中心だった。そのアイドル時の消費電力の著しい低さは、モバイルノートPCの使い方を根本から変えてしまうかもしれない。そんなHaswellに、ぼくらは何を期待すればいいのだろうか。
●いつでもプッシュレディなHaswell新しいパワーマネジメントフレームワークによって、Haswellのアイドル時の消費電力は、現行プラットフォーム比、すなわちIvy Bridge比で1/20になるという。というのも、これまでのプロセッサが、S0とS3、S4、すなわち、稼働、スリープ、休止状態といったステータスを行き来していたのに対して、Haswellでは、さらにS0ixというステータスが用意されるようになるからだ。
S0ixのxには数字が入り、さらに細分化された複数の状態があるようだが、いわばアクティブアイドルというタヌキ寝入りのようなステータスがサポートされるようになる。そして、Haswellは、常にこのS0ixのステータスを維持する。
タヌキ寝入りは寝たふりをして実は起きている状態だが、このステータスは、どちらかというと起きているように見えて本当は寝ている状態に近い。目を見開いたまま寝ているというイメージだろうか。
それで何が嬉しいかというと、モバイルPCが、常にプッシュを受けられるユセージモデルを創造することができる点がある。PCを常にオンにしておくことで得られるメリットは、たとえば、Twitterのタイムライン更新やメールの受信などを自動的に行なうようなモデルばかりがクローズアップされてきたが、個人的には、こうした「勝手プル」よりも、他デバイスからのプルにいつでも応答できる「プッシュレディ」であることこそに意味があるんじゃないかと思う。
Haswell世代では、結果として、コンピュータをスリープさせる必要がなくなる。明示的にコンピュータをスリープさせるという行為をユーザーが意識しないですむようになるわけだ。PCを使い終わったらスリープさせて次の使用に備えるというのではなく、たとえば、クラムシェル型のノートPCであれば、液晶を閉じるだけで、PCは起きたままという新しい使い方ができる。スマートフォンはある種のコンピュータだが、そのスリープ状態への推移は、ユーザーの意識にとってきわめて希薄だ。同様の使い方がPCでもできるようになるということだ。
カバンの中のPCの電源を入れっぱなしで持ち歩く使い方については、「ノートPCを眠りにつかせないチャレンジ」として、以前に実験的に試したことがあったが、それがいよいよ現実的になってきた。
●カバンの中の子は寝ない常に「プッシュレディ」なPCは、どんな使い方ができるのだろうか。たとえば、カバンの中のPCがNASになる。あるいは、通信機能があればルータにもなる。これまでは、スマートフォンをゲートウェイとして使うことばかりを想定してきたが、Haswell以降はその考え方を変えてもいい。PCとして常時機能しながら、丸1日余裕でバッテリが保つという点で、夕方にはバッテリが不安になってしまう現行のスマートフォンよりもずっと有利だ。
いずれにしても、シャットダウンと再起動以外は、PCのステータスをどうしようということをユーザーが意識しなくてよくなるのだ。
そんなノートPCがあるとして、たとえば電車の中で立っているときは、ポケットからスマートフォンを出して使うだろうか、それともカバンからPCを出して使うだろうか。そんなことはどっちだっていいのだ。好きにすればいい。結果は同じなのだから。
今後は、スマートフォンとノートPCの役割分担を少し考え直さなければならなくなりそうだ。そして、それは、Ultrabookが担う役割は何なのかということにつながっていく。
ここで大事なことは、ノートPCとスマートフォンを棲み分けさせることではなく、うまく連携させるということだ。以前、「カバンの中の寝た子を起こす」という観点の考察をしたことがあるが、Haswell世代のノートPCは、ずっと起きたままだ。だから起こす必要がない。いつでもスマートフォンからのプッシュに対してレディ状態だ。つまり、眠らないPCだ。
眠らないというのは厳密にいえばウソだが、眠っているようには見えない点がHaswellの最たる特長だ。
●スマホ作業の続きはUltrabookでクラウドを介さないでスマートフォンとPCが連携する仕組みも重要だ。たとえば飛行機の中や圏外の場所などでも、きちんとPCとスマートフォンがピア・ツー・ピアでコミュニケーションできれば、使い方のモデルは大きく拡がっていくだろう。
そして思いつくのは、Haswellの入ったポケットPCを、クラムシェルダム端末でリモートデスクトップ運用するということだ。どう考えてもPCはポケットに入らないし、たとえ入るものができたとしても使いにくいだけだ。だから、PCの居場所はこれまで同様にカバンの中だ。そのときに、5型程度のスクリーンを持つダム端末で、カバンの中のPCをリモートデスクトップ運用できれば便利じゃないだろうか。PCはずっとオンのままだ。つまり、眠らないHaswellをのぞく窓が欲しいということだ。そして、その窓は、スマートフォンアプリであってもかまわない。
もちろん、十分にネットワークが速ければ、カバンの中のPCをリモートデスクトップ運用しなくても、自宅のデスクトップPCに接続すれば十分なのだが、今のWANにそこまでの速度は望めない。
今は、液晶ディスプレイを開くなどのアクションを与え、手動で起こしているPCがずっと起きたままになるということを前提にして、スマートフォンにはできなくてPCならできることをもう一度考え直してみなければならなくなりそうだ。
これまでの考え方では、PCは情報の創造、スマートフォンは情報の消費という枠組みがクローズアップされていたが、Haswellなら、そこにメスを入れることができるかもしれない。
5型程度のスクリーンでリモートデスクトップができたとしても、クラッシックなWindowsデスクトップは使いにくいだけだ。でも、Windows 8で用意された、かつてMetroと呼ばれていたGUIならどうだろう。スクリーンが小さな端末でもMetro GUIなら実用になるかもしれない。
そのとき、ノートPCとスマートフォンは両方WANにつながっていなければならないだろうか。それは理想だが過渡期はスマホだけがWANにつながっていればいいかもしれないし、場合によっては大容量のバッテリをもつノートPCにWANを頼るのもありだ。
たとえば、Googleドライブで、同じ文書をスマホとノートPCで同時に開けば、両方のデバイスでの変更が同じ文書にリアルタイムに反映される。これによって、スマホでの殴り書きを、シームレスにPCで完成させるようなスタイルが実現できる。
似たようなことがクラウドを頼らずできないか。そこにあるのは、デバイスの使い分けという概念ではなく、カバンの中のPCのHID的に機能するスマホかもしれない。
今は、考えることが山のようにあって、自分の中での整理がなかなかつかないでいる。こういうIDFは悪くない。いずれにしても、Haswellはユーザーをいつでも待っている。あらゆるプルを待ち受ける全方位外交的存在だ。このことは、これからのモバイルコンピューティングに大きな変化をもたらすだろう。今、分かっているのはそれだけだ。