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日本通信が「Light Tab」で提案する安かろうよかろう路線




 「iPad 2」が発表され、世の中がちょっとだけ騒がしくなったその翌々日、ひっそりと発売される日本通信の「Light Tab」。7型タッチパネルを持つZTE製のAndroidタブレットだ。今回は、この製品に託された日本通信の意図を考えてみることにしよう。

●気軽に手に入る7型タブレット

 今年(2011年)はタブレット元年とも言われる。かつて、Windowsタブレットが果たし得なかったタブレットコンピューティングスタイルを、昨年(2010年)発売されたiPadがアッという間に流行らせたのは記憶に新しいし、3月3日には新製品のiPad 2も発表されている。そのトレンドの勢いに、Windows PCでさえ、スレートPCとしてのリスタートをもくろんでいる。

 以前にもここで書いたように、ぼくは、個人的にはGalaxy Tabのユーザーで、その存在感にはすこぶる満足している。9.7型液晶のiPadは、ぼく自身のライフスタイルを変えるには至らなかったが、7型タブレットは明らかに暮らしの中に溶け込んだ。約700g、9.7型のタブレットを持ち歩くなら、あと200gをガマンしてノートPCを携帯したほうがつぶしがきくという判断がそこにあった。

 7型タブレットのサイズ感やその使い心地は、やはり、一般的には中途半端感があるようで、実際に持ち歩いて使ってみなければ、その優位性は理解してもらえないらしく、先駆けともいえるGalaxy Tabは、苦戦を強いられているようだ。それに、話題のAndroid 3.0、いわゆるHoneyComb搭載のタブレットも各社から発売がアナウンスされているようだが、7型よりはひとまわり大きく重いものが先行してリリースされるようだ。また、話題のiPad 2も9.7型を維持している。多少は軽くなったようだが、実際の使い勝手が気になるところだ。

 日本通信が発売するLight Tabは、契約不要で購入できる純粋なハードウェア製品で、7型タッチパネルを持ったAndroidタブレットだ。仕様としてはAndroid 2.2をOSとして搭載した約390gの3G端末だ。

 どうしても同じ7型タブレットのGalaxy Tabと比べてしまうので、先に、その違いを書いておこう。まず、重量は似たようなものだが、同じ7型でも、Galaxy Tabは600×1,024ピクセルだが、Light Tabは480×800ピクセルと、解像度も低ければアスペクト比も異なる。Galaxy Tabを見慣れていると、Light Tabのスクリーンはずいぶん縦長に見える。

 また、Light Tabのタッチスクリーンは抵抗膜方式で、Galaxy Tabのような静電容量方式ではない。さらにマルチタッチにも非対応だ。

 これらの要素はWebサイトの仕様を見ればわかることで、ぼく自身も実際に製品を手にとって使ってみるまでは、安かろう悪かろうくらいに考えていた。でも、実際に製品を手にして使ってみて、こいつは悪くない、むしろリーズナブルかもしれないと感じられたことに自分でもちょっとびっくりしている。

●ほぼ素のままのAndroidに好感が持てる

 日本通信から発売される製品ということで、当然ながら、SIMフリーの端末だ。周波数にさえ対応できればどの通信事業者のSIMを入れてもOKだ。製品パッケージには、10日間の定額データ通信ができる日本通信のSIMがお試しのためについている。そのSIMを端末に装着し、指定された0120無料電話番号に手持ちの携帯電話から電話をかけ、音声ガイダンスに従ってSIMの電話番号をプッシュすれば、アクティベイトが完了し、5分程度でインターネットに接続できるようになる。SIMには日本通信のAPNが設定されているので、手作業で設定をする必要はない。

 この手のタブレットとしては珍しく、裏蓋が外せるようになっている。裏蓋を外すと脱着式の3,400mAリチウムイオンバッテリが顔をのぞかせる。そのバッテリを外すと、SIMスロット、microSDHCスロットにアクセスできる仕組みだ。また、充電は本体下部のMicroUSB端子にケーブルを接続することで行なう。

 製品についてくるSIMで利用できる10日間の試用期間が終わったら、自宅の無線LANで3Gのみで使ってもいいし、ガラケーのSIMを装着しなおして使ってもいい。日本通信の割安なLight Tab用b-mobile SIM U300 8カ月(245日間)パッケージなんてのもある。こちらは15,900円なので、1カ月あたりの接続費用を2,000円以下に抑えることができる。

 外観としては、多少細長い感じがするが、そのせいで、裏側から手のひらでつかみやすく支えやすいというメリットもある。ぼくはタブレットを左手でつかみ、右手の親指でタッチ操作をすることが多いのだが、縦方向に使ったときの横幅が、その操作にはちょうどいい感じがする。

 また、抵抗膜方式のスクリーンは、発色の点で、ちょっとしらっちゃけた印象がある。でも、ボールペンのペン先を出さずに、先っぽで操作したり、文字を書いたりできるのはかえって便利だったりもする。ジップロックに入れたままでも操作に支障がないのも、何かのときに重宝しそうだ。ただ、表面が固いガラスなどで覆われているのではなく、プヨプヨする感じは、強度的にどのくらい耐えられるのかが気になるところだ。カバンの中に裸でつっこんでいいものかどうなのかはわからない。

 OSは、ほぼ素のままのAndroid 2.2だ。余分な手が入っていないのも好感が持てる。ちょうど、プリインストールアプリが少ないPCがシンプルで使いやすいと評価されるのに似ている。Android端末は、最初は無愛想なくらいでちょうどいい。そこからどう環境を構築していくかも含めてAndroidの楽しみだ。

 テザリングもOS標準の機能としてできる。テザリングをオンにし、iPod touchをポケットに入れてつなぎっぱなしで1日持ち歩いてみたが、8時間経過したところでバッテリの残り容量は約30%だった。これだけ持てばまず困らないだろう。日本通信は保証していないので自己責任となるが、同社製のモバイルIPフォンアプリを入れて使ってみたところ、特に支障なく使えた。

 個人的にはあまり困らないが、Flash非対応を問題にするユーザーもいるかもしれない。実際、Androidマーケットからは、Flashプレーヤーをダウンロードしてインストールすることができない。プロセッサはARM V6 600MHzで、最新鋭スマートフォンに比べればモッサリだが、そんなにイライラすることなく使える。ただ、メディア再生支援などもないので、720pのH.264 MP4ファイルでさえ、コマ送り再生のような有様で、まず実用にはならない。

 そんなわけで、数あるAndoroidアプリだが、使えるカテゴリは限られてくるかもしれない。用途をきちんと想定し、それに使えるかどうかを確認してから購入しないと、あとで後悔することになるだろう。でも、メールを読み書きし、予定表をチェックし、ツイッターやフェースブックでコミュニケーションして、GPSで地図を活用し、周辺のグルメ情報を取り込み、メールやメッセージのリンクでウェブを参照し、ひまつぶしに巨大掲示板の板を巡回する程度なら何の不自由も感じない。ガラケーのフルブラウザや一般的なスマートフォンで小さい画面をガマンしてこうした作業をするよりは、ずっと快適だ。だいたい、移動中にすることなんて、そのくらいのものなのだ。

●日本で一番安いモバイル・タブレット

 Light Tabのハードウェアとしての価格は日本通信直販のbマーケット価格で税込み39,800円だ。この価格は高いのか安いのか。たとえば、新規にGalaxy Tabを購入すると、一括払いなら2万円前後で入手できる。ただ、必ず回線契約が必要で、毎月の基本使用料等を支払い続けなければならない。2年の縛りもある。進化の著しいAndroid端末を、2年間も使い続けるとは思えず、見かけの価格は安くても、最終的には高い買い物になってしまうだろう。約4万円という価格は絶対的な価格としては安くはないが、このクラスの端末代金としては、日本通信のプレスリリースのキャッチフレーズ「日本で一番安いモバイル・タブレット」というのは、決して大げさな言い方ではなさそうだ。

 個人的には、この端末は、海外出張の際に持ち歩くのにも最適だと思っている。現地に到着したところで、ガラケーに入れていたSIMをこの端末に入れ替え、海外パケホーダイで1日をしのぎながら現地SIMを探して入れ替える。以降は、現地の安いレートでデータ通信が可能だ。また、モバイルIPフォンを使い、その電話番号に日本の携帯への着信を転送することで、現地でのローミング着信費用も抑えられる。この端末をハンドセットのようにして電話機代わりに使うのはちょっとつらいが、Galaxy Tabよりは幅が狭いので不可能ではない。それに、Bluetoothのヘッドセットと併用してもいいだろう。

 タブレット元年と言われる今、いろいろなタイプのタブレットを経験し、自分のライフスタイルにもっともマッチしたタブレットの方向性を、自分の実感として確かめてほしいと思う。そのためにも、いわゆる高級車ばかりではなく、大衆車に相当する端末も必要なのだ。7型タブレットはぼくのモバイルスタイルを事実として変えた。その選択肢がまた1つ増えたことを喜びたい。少しでも多くの人が、その便利さを知るチャンスにつながるからだ。