山田祥平のRe:config.sys

ときめきの世界はいつもハードウェアイノベーションがもたらす

~Lenovo Tech Worldから

 中国・北京で開催されたLenovo Tech Worldには、ハードウェアベンダーとしてのLenovoの覚悟のようなものを感じることができた。今回は、その雑感をお届けしたい。

世界を目指すために何が必要だったのか

 かつて、IBMはコンピュータハードウェアメーカーからサービスを提供する企業になるという宣言をして実際にそうなった。Intelも似たような過去がある。プロセッサのベンダーであると同時に、インターネットを構成するビルディングブロックを提供する企業になると宣言したことがあるからだ。

 その一方で今や、世界シェアナンバーワンのPCベンダーとなったLenovoはどうか。IBMからPCの事業を買い、ThinkPadが彼らのものになったことのインパクトは強かったし、日本国内では、NECのPC事業についてもほぼ掌握したかたちになっているのはご存じの通りだ。また、GoogleからMotrolaを手に入れたことも記憶に新しい。Lenovoの世界一は、さまざまな世界一を次々に手に入れたことで成立しているといってもいいかもしれない。

 中国国内におけるLenovoは、まさに国民的ブランドとして圧倒的な立ち位置に君臨している。Lenovoを知らない人は誰もいないといっていいだろう。

 だが、そこに踏みとどまることなく、世界に目を向けてもらうには、もう1つのチャレンジが必要だった。だからこそ、ThinkPadを買ったし、NECとの協業に踏み切った。それらの施策は世界に出ていく同社のチャレンジに大きく貢献していることは間違いない。

ハードウェアを作る会社であり続けたい

 興味深いのはLenovoが常にハードウェアメーカーであることをやめないことだ。やめないどころか強くこだわる。つまり、LenovoはOSを作らない。Lenovoはプロセッサを作らない。Lenovoはインフラやサービスプロバイダにならない。少なくとも現時点ではそこに全く興味を示さない。あくまでもハードウェアを作る会社として世界に君臨することを目指している。これは、今回のTech Worldイベントに伴って、同社のエグゼクティブ数名が口を揃えて言っているのできっと確かなのだろう。そのためにも、Lenovoにとっては、ハードウェアイノベーションが求められるし、実直にそこを追求しているのが同社だ。

 そして、そのバックグラウンドには大和研究所や米沢事業所といった日本の拠点の存在感が大きいことも同社はしっかり理解している。

 基調講演には、Intel CEOのBrian Krzanich氏、Microsoft CEOのSatya Nadella氏、そして、百度CEOのRobin Li氏がゲストとして登壇、新しい発表などはなかったものの、Lenovoとの深い絆を確かめ合った。少なくとも中国国内においてはそれで全てが揃う。

 Intelがプロセッサを供給し、OSとしてのWindowsをMicrosoftが供給、さらに、中国国内において最大のシェアを持つサービスプロバイダとしての百度、つまりBaiduがサービスを提供すれば、それで全てが賄える。スマートフォンにおいても今はまだOSとサービスがGoogle依存となっているかもしれないが、スマートフォンシーンにおけるIntelとMicrosoftの存在感は高まる一方で今後の動向からは目が離せない。

 ただし、この図式の中で中国国内における検索やコンテンツサービスなどの部分を担う百度の役割は、各地域ごとに異なり、例えばばGoogleとサービスプロバイダが置き換わる地域もあれば、Yahoo!に置き換わる地域もあるだろう。Bingの可能性もある。そこはうまく地域ごとの特性を考慮しつつ置き換えればいい。

ソーシャルを阻む長城

 今回のTech Worldは、ソーシャルを強く意識したイベントでもあった。昨今ではごく当たり前のマーケティングではある。もっとも中国国内におけるソーシャルといえばWeiboだ。TwitterやFacebookはマイナーな存在だ。

 ご存じの通り、中国国内から普通の方法では、これらのSNSを使うことはできない。さらにはGoogleの各種サービスを使うのにも高いハードルが待ち受けている。どのくらいハードルが高いかというと、普通に入手した中国国内キャリアのSIMを装着したAndroidスマートフォンを満充電の状態で放置しておくと、がんばっても繋がらないGoogle Play開発者サービス等との通信を繰り返し、操作してもいないのにボディは熱々になり、数時間でバッテリが不安になるくらいと言えば分かってもらえるだろうか。

 だから、Lenovo製品に限ったことではないが、中国国内で販売されているAndroidスマートフォンは、他の国で入手できるAndroidスマートフォンとは異なる。Googleに依存しないように作ってあるのだ。

 そこはそこ。蛇の道は蛇だ。Tech Worldの会場にはインターナショナルプレス専用のWi-Fiアクセスポイントが用意され、そこに接続すれば、制限を受けずにTwitterやfacebookにアクセスできた。そうしてもらわなければ、中国以外の国からプレスを呼んだ意味がないからだ。

コンシューマあってのLenovo

 MicrosoftやIntelは別格だとしても、そのほかのLenovoのパートナーは、同社と競合することはないと言える。つまり、頭角を現した結果、巨人Lenovoに買われてしまうことはあっても、潰されることはないだろうからだ。Lenovoは新しい領域に手を出すためにゼロからスタートするよりも、既に実績を手に入れることを考えるだろう。そして、一緒に世界一を目指す。イノベーションを一緒に起こすのだ。まさにウィンウィンの関係だ。

 その戦略の背景にある考え方は、常にハードウェアイノベーションが同社の礎になっているということだ。そのハードウェアを活かすためにどうしても必要なサービスやインフラ、アプリケーションについては自前で調達することもあるが、基本的には他社に任せる。そのことによって、協業しやすいベンダーであらんことをLenovoは目指している。これはかつてのIBMのように、また、HPやDellがB2Bやエンタープライズサービスを大きな柱にしているのと対照的だ。コンシューマの領域でまだまだできることはあるとLenovoは考えている。常に、コンシューマに目を向けているのがLenovoの姿勢と言っていい。

 Lenovoは昨年、1億4,800万台のデバイスを世に送り出したという。それらのデバイスのためにIntelやQualcommはプロセッサを、MicrosoftはWindowsをGoogleはAndroid OSを提供した。そして、中国国内では百度がそれを支えた。そのモデルをうまく使って世界を制覇するために応用する一方、スマートフォンの世界では、LenovoとMotorolaのダブルブランドで新興市場から成熟市場までをカバーする。そこにあるのは「シナジー」だ。ある領域での成功をなぞり、失敗を取り除けば、大成功に結びつく。

 今回のイベントには、中国国内のメディアのほか、世界各地のメディア、パートナー各社、そして「ファン」と呼ばれる熱烈なLenovoの支持者たちが集まった。そこで晴れの舞台に立ったLenovoの存在を再確認した形だ。同社がこうしたイベントを開催するのは、意外にも1984年の創業以来初めてであるということだ。

 このイベントを機に、Lenovoは企業ロゴも変更した。企業ロゴと言えば、そのアイデンティティの確保のために背景や周りの余白などさまざまなレギュレーションがあるものだが、今回のロゴでは、そこはいっさい自由であり、写真やイラストを背景にした白抜きであってもかまわないという。それが明日に向かうLenovoの姿勢を語っているように感じる。

 次は是非、アメリカンな、あるいはヨーロピアンなLenovoを見てみたいと思う。

(山田 祥平)