山田祥平のRe:config.sys

Gulftownでつかまえて




 できるだけ処理性能の高いPCを使いたいと思う。そして、快適な環境で仕事をしたいし遊びたい。もはや、もてあまし気味だといわれているプロセッサの処理能力だが、高いにこしたことはない。それは心の余裕につながるからだ。

●メイン環境刷新と2つのイノベーション

 今月は物入りだった。メインに使っているPCを組み替えた上に、ディスプレイまですげ替えたからだ。

 自作PCは、手元のパーツを再利用しつつ、いらないものだけをすげ替える形で旬のパーツを使える点がうれしい。今回組み替えたシステムは、前からあこがれだった6コア32nmプロセスのGulftownを奢り、ビデオカードにはATI Radeon HD 5700シリーズを選んだ。ケースは前のままなので変わった感じはしないが中身は別物だ。プロセッサとビデオのバランスが多少つりあっていないようだが、ヘビーゲーマーではないぼくにとっては、それ以上のビデオカードは宝の持ち腐れだ。

 こういう商売をしているので、やはり、PCはとりあえず最高の処理性能を持つものを日常的にも体験しておきたい。それはWebでニュースが得られるのに記者会見におもむいたり、海外にまで出掛けて展示会や各種のカンファレンスに参加するのと同じだ。この目で見て触って体験することに大きな意義がある。

 メモリはちょっとケチッて以前のマザーボードで使っていたものを再利用することにした。1GBのモジュールを3枚使い合計3GBだ。だから、Windows 7は32bit版だ。今週の発表会で、NECが一部を除くほとんどの機種に64bit版Windowsを搭載することを発表し、いよいよコンシューマの環境も64bit化が一気に進みそうだが、とりあえずは1台を32bitで運用しつつ、今度の連休にでも、もう1台、そこそこのスペックで64bit環境を作り、並行運用していこうと思っている。これまた比較対象がないと困るという事情からだ。

 ここ1年くらいのテクニカルなイノベーションで、もっともうれしかったことが2つある。1つ目は、一般的なビデオカード1枚で3台以上のマルチディスプレイ環境が作れるようになったことだ。ぼくが入手したカードも、DVI端子が2個、DisplayPortが1個、HDMI端子が1個ついていて、DisplayPortを含めれば、3台のモニタにフルHDの出力ができる。

 これまではフルHD 2台のマルチディスプレイだったのだが、今回は、それにもう1台のディスプレイを追加して3台体制にした。選んだモニタはHPの「LP2475W」だ。選んだ理由としては、16:10のアスペクト比でノングレア、そして、そこそこの画質であるというものだ。16:10ノングレアというディスプレイデバイスは、今後、とても入手しにくくなるに違いないので、今のうちにといったところか。だから、正確にはフルHD 3台ではなく、WUXGAが3台の体制になったというわけだ。

 うれしかったことの2つ目はUSB 3.0が一般的になったことだ。今回自作した環境にも拡張カードを増設し、センチュリーの「裸族のお立ち台USB3.0」で外付けのHDDを使えるようにした。カードとクレードルをあわせても1万円以内で手に入る環境としては、すこぶる満足のいくものだ。

 併せて手元でポータブルタイプのUSB 3.0 HDDを使えるようにしようと机下のPCケースからUSB 3.0延長ケーブルを机の上まで引っ張ったのだが、電源供給が足りないようでポータブルHDDがスピンアップしない。これは企画倒れで、今は、電源つきのHubの到着を待っているところだ。バッファローの製品をAmazonでオーダーしたのだが、これまた供給不足のようで未だに入手できていない。

●処理性能は魔法の薬

 Gulwtownについては、すでにあちこちでベンチマークの結果などがレポートされているが、入手困難な状態が続いているのは残念だ。処理性能の高いプロセッサは、結果的に長く使えるので陳腐化しにくい。多少のコスト高にはなっても結果的には損な買い物にはならないと思う。特に自作環境では悪くない選択だ。

 合計12スレッドが働く様子をタスクマネージャで見るのは圧巻だが、ぼくのPCの使い方ではボトルネックが多すぎて、なかなか力を発揮させてやれないのがはがゆい。でも、打てば響くように反応してくれるという点ではすこぶる満足だ。

 このクラスのプロセッサが、メーカー製のコンシューマ向けPCに搭載されるのは、コスト的に難しいとも思うが、こういう処理性能は、一般の人たちにこそ体験してもらい、PCのスゴサを実感してほしいと思う。きっと、携帯電話だけで十分なんていう台詞は出てこなくなるはずだ。

 クルマと違ってPCには制限速度がない。だから速いのがいいに決まっている。コンパクトカメラでさえフルHDの動画を記録するようになるなど、コンシューマが扱うデータは重くなる一方だ。カメラ本体でちゃんと再生できるのに、手持ちのPCではうまく再生できないといったことでPCに嫌気がさすようなことがあってはならない。

 それにしても、普段の実使用環境の処理性能がこれだけ高いと、出先で使うモバイルPCの能力が気になり出し始める。モバイルPCは妥協のカタマリのようなもので、処理性能と引き替えに、バッテリ稼働時間やポータビリティを得ている。でも、できることなら妥協なんてしたくないわけで、ノートPCでも快適に作業ができた方がいいに決まっているのだ。ノートPC環境は、普段のデスクトップ環境の相似形なので、そこに落差がありすぎると、ストレスを感じるようになる。

 この春はiPad発売の話題などもある。デバイス的にはとても興味があり、日本での発売が待ち遠しいし、きっと入手に走るのだろうとは思うが、700gのiPadを、毎日持ち歩くかどうかというと個人的にはちょっとあやしい。どうせノートPCは必ず携帯するわけで、700gを増量するとすれば、処理性能の高いノートPCのために700gをまわしたい。iPhoneやiPod touchはアプリケーションを動かす楽しみを教えてくれた画期的なデバイスといった言い方をされることが多いが、それじゃあ、今までのPCは、何だったのだろうとも思う。そのあたりを考えるためにも入手して体験してみなければなるまい。

 処理性能というのは、どんなに高くても、アッという間に慣れてしまうもので、日常的に慣れ親しんでいるとそれが普通のように感じられるようになる。本当なら後戻りはできないはずなのだが、外出時は仕方がなく、相対的に処理性能の低いノートPCを使うことになるので感覚が元に戻ってしまう。毎日がその繰り返しだ。外的環境が変わることと、はなから外出時のPCでは重い仕事もさせないし、バックグラウンドで稼働するタスクも多くはないため、それほどのストレスを感じることなくガマンできてしまうのだろう。それに、自宅よりもインターネットが遅いために、すべての遅さをそのせいだと思い込むように、自分自身で規制してしまっているのかもしれない。

 いずれにしても、新たに手に入れたこの有り余る処理性能を、際限なく使い果たすけれど、それでいて魅力的なアプリケーションが出てきてほしい。WindowsのAeroは、多少高いグラフィックス性能を求めるけれど、今では、それがない環境など使いたくないと思う。処理性能というのは、そういうものではないだろうか。IDFも、たまには、そうした話題をディスカッションしてみたらどうだろう。