山田祥平のRe:config.sys
パケットくりこしサービスの罠
2017年10月6日 06:00
サービスの名称から想像できる仕様とそうでない仕様がある。メガキャリアが提供するパケットくりこしサービスは、後者だということに気がついた。
今回は、パケットくりこしについてのちょっと騙されたような気持ちをきいてほしい。
消えた5GB
自宅にWi-Fiがあるので、日常的な外出時にスマートフォンで使うパケットはそれほど多くはない。YouTubeをモバイル回線で楽しむこともないので、大容量のデータを消費する機会はない。
だから、スマートフォンのパケットプランは2GB/月のデータSパック(ドコモ)を使ってきたし、それでとりあえずは足りていた。通常携行しているモバイルPCには別途MVNOのSIMが装着してあるので別勘定だが、それでも多くて数GB、通常のプランで事足りる。
それで不自由することはあまりなかったし、月末になって「ギガが足りなくなる」ということも経験したことがなかった。
夏前に新しいスマートフォンに機種変更したのを機に、このパケットパックを20GB/月のウルトラデータLパックに変更し、PCは2台目プラスのデータプランを別途契約して、ウルトラデータLパックの20GBをスマートフォンとPCでシェアすることにした。
それまでのデータSパックはパケットくりこしの対象外で余ったパケットは毎月捨てられていたが、今回からのLパックはくりこしの対象となる。
これまでの2GBが10倍の20GBになったのだから、これはもう夢のような世界だ。使い切れるはずがないとも思える容量だ。
でも、PCのある程度の消費があるので5GBでは難しい。OneDriveが暴走して出先で再同期でもしようものなら、アッという間にパケットを使い尽くしてしまう。それでも便利には代えられないから、同期をオフにはしない。
プラン的には、5GBの次が1,000円増しの20GBなので、このパックを選ぶしかなかったという事情もある。ユーザーの「万が一のために」という心理を想定した、うまいプラン設定だ。その結果として、スマートフォンとPCでの20GB/月を手に入れた。
それでも1カ月目はわりと節約しながらPCを使った結果、利用パケットは約5GBで15GBを余らせた。たぶんそんなものだと思っていたが、やっぱりそうだった。なかなか出先だけでは20GBを使い切れはしない。
これがくりこされれば翌月は15+20GBで、35GBを使える計算だ。そして翌月もまた使ったパケットは5GB程度しか使えなかった。前月の繰り越し分は破棄されるが、当月分はまるまる残っていて、それに新月分が加えられば、翌月は40GBからスタートする。そう考えていた。
ところがそうはならなかった。残り容量が35GBからのスタートだったのだ。40GBだと思っていたら35GB。いったいその差分5GBはどこに消えたのか。
気になって調べてみたところ、すぐにナゾは解けた。前月の余りパケットは、当月に繰り越されるものの、それが使われるのは当月のパケットを使い切ったあとなのだ。当月のパケットを使い切らなければ前月の余りパケットは破棄されるということがわかった。
MVNOとして使っているIIJmioやUQモバイルにも繰り越しサービスがあるが、これらは前月の繰り越し分から先に消費される。IIJmioは、ちょっとややこしい書き方がしてあって「有効期限はバンドルクーポンが付与された月の翌月末日までです」とあるが、要するに2ヶ月間有効だから、3か月目に破棄されるという意味だ。そして寿命の短いパケットから先に使われる。
ところがドコモはそうじゃなかった。前月からの繰り越し分を当月使い切れなければ翌月には破棄されるというのは知っていたが、利用の優先順位のせいで、使われないまま破棄されることが多くなってしまうのは明白だ。
後入れ先出しのくりこし
検索して調べると、それに気がついて、ドコモを非難しているユーザーがそれなりにいることもわかった。20GBものパケットを使い切れないことを見越した仕様と勘ぐられても仕方がないとも言える。
ほかのメガキャリアはどうかというと、auもデータくりこしサービスが提供されているが、ドコモと同様の仕様だった。そしてソフトバンクもだ。
つまりメガキャリアは、3社とも全部そうなのだ。なんだか、騙されたような気がしてならない。余ったパケットは当然の権利として先に使えて、当月分は順繰りに翌月にくりこされると考えるのが自然ではないだろうか。つまり「先入れ先出し」を期待する。でも「後入れ先出し」なのだ。
auはこうした状況に一石を投じるためにピタットプランを用意した。好評のようだが、大容量のフラットプランは高止まっているのが惜しい。こうなると、リーズナブルな単価なら本当に完全従量制でも良いようにも感じる。
MVNOとは違うし、先入観でサービスを判断してはいけないことはわかっていても、どうにも釈然としない。この仕様なら、毎月のユーザーの消費パケットを限りなく契約容量以下に抑えることができるので、ネットワーク利用率の想定がしやすい。多くのユーザーが、契約容量の倍のパケットを持っている可能性を限りなく低くできるからだ。
毎月、契約パケットをうまく使い切り、ギガが不足気味の賢いユーザーには関係のない話だが、保険的な意味合いで利用できるパケットを温存したいユーザーは気をつけてほしい。
実質商法
この商法は「実質××円」という見かけの価格に通じるものがあるんじゃないか。今でこそ「放題」をアピールするのはソフトバンクだけだが、「ホーダイ」を名乗りながら「実質従量制」に移行してきた今のキャリア各社のプランにも似ている。
先に得たパケットを先に使えないというパケットくりこしの罠は、ユーザーにパケットの貯蓄を許さない仕様でもある。よく調べなかった自分が腹立たしいとともに、それはないんじゃないのかなという気持ちにもなるというものだ。
ITシーンには「理論値」とか「ベストエフォート」といったキーワードで語られる免罪符がある。早い話が「できるはずなんだけど、できなかったらごめんなさい」という逃げ道だ。本当は、こういうところでこそ「実質」を使ってほしい。そして、その実質が生まれる背景をきちんと把握できる、賢い消費者になりたいものだ。自戒を込めてそう思った。