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“Mr. ZERO”が語る。Hybridの名に恥じない4代目世界最軽量2in1 PC「LAVIE Hybrid ZERO」

NECパーソナルコンピュータ 商品企画本部の中井裕介氏。LAVIE Hybrid ZEROは4代目にして集大成となったと喜びを語る

 13.3型2in1 PCとして世界最軽量を更新し続けるNECパーソナルコンピュータの「LAVIE Hybrid ZERO」。3月になってその出荷も予定通り始まり、1年でもっともPCが売れる時期をリードしようとしている。

 今回は、その商品企画に関わったMr. ZEROこと、中井裕介氏(NECパーソナルコンピュータの商品企画本部)に、同機のコンセプトと開発秘話を聞いてきた。初代以来の担当で、自分は会社の中で好きなことをもっともやらせてもらっている社員かもしれないともらすほどZEROに傾倒する人物だ。

――初代のLaVie Zが2012年の発売で875gからスタートし、翌2013年の2代目Zで795g、少し間が空いて2015年の3代目でZEROを称するようになって779gと、順調に世界記録を更新してきました。数字だけ見ると分からないのですが、ノンタッチモデルとタッチモデルが混在しています。3代目のタッチモデルは最軽量でも926gでしたから、今回の最軽量更新はタッチモデルで779gですから大幅なダイエットです。

中井(敬称略、以下同) 初代から2代目でだいぶ軽くはなったのですが、3代目に何ができるかを考えていた時、限界が見えていたこともあって、そのまま数十g軽くしていくというのももちろん考えたのですが、コンシューマ市場がしぼんできている中で、ある程度のことを考えていかないと、驚きを与えることも難しいだろうということで、2in1化を絶対条件に課しました。タッチのできないPCはありえないということです。

 当然そうすると重くなってしまいます。重量的には2代目のクラムシェルを超えられないので、数値的なインパクトは薄くなってしまいます。実は、そこで泣く泣く、タッチと非タッチモデルの2シリーズに分けたのが3代目なんです。本当は3代目の時点で2in1だけにしたかったというのが本音です。

 今回の企画にあたっては、インセルのタッチパネル、そして狭額縁液晶の技術が出てきたことで、タッチモデルでも、非タッチモデルと同等レベルのことができるんじゃないかという判断がありました。だったらもうタッチモデルだけでいこうと1本化したのが今回の4代目です。

――LAVIEの場合、どのような形で商品企画がスタートするのでしょうか。

中井 初代の時は、本部長レベルまで集まっての会議から始まりました。開発、企画の関係者が全員集まる集中会議です。

 初代でベースが固まったあと、2代目、3代目以降はマネージャレベルの会議になっていました。新商品の開発はまずこの会議がスタートとなります。開発期間は大体10カ月でしょうか。ただ、その前に2カ月くらいで企画の詳細をつめることになります。合わせて1年ですね。それでサイクルを回していることになります。

 企画段階から開発段階にフェイズが切り替わるタイミングがキックオフです。そこで企画会議のあと、会社の承認を取るため。キックオフまでの1~2カ月で、本格的な実現可能性を確認するんです。頭の中で考えていることが本当にできるのかどうかを確認するプロセスです。もちろん、その前から担当者間でいろいろ議論します。うちうちに顔見知りの間で話をするんですね、いわゆる根回しです(笑)。

 PCを構成する要素は全てをNECパーソナルコンピュータだけで作るわけではないので、この段階でさまざまベンダーに情報を展開します。そうしたプロセスを経て社外に実現性可否の問い合わせとして投げるわけです。

 今回については、企画の立場で自分の中でここまではいけるということは分かっていました。たぶんタッチ機で、800gはいけるだろうと思っていました。でも、それ以上は分かりませんでした。

 そこで開発に頼んだのはタッチ機で800gを切って欲しいという一点のみでした。もちろん、700g台ならきっとできるだろうからやって欲しいし、軽くできるものならそれはぜんぜんかまわないと。

 すると、開発側からは、約束できるのは800gだと言われました。そこからは検討していかなければ分からないというんです。

 3代目は非タッチモデルは779gでしたが、タッチモデルは926gありました。これを100gダイエットするのはいけると思っていましたが、そこをタッチ対応でもクラムシェルの779gと同等にしたいと考えたのです。

――それでタッチモデルで769gとなったわけですね。より駆動時間の長いLバッテリ搭載機でも831gですから、とにかく95g分の更新ということになります。数値の表現としてはちょっとズルい感じもありますが……。

中井 今回は、軽量化も大事なんですが、力を入れている点はデザインなんです。狭額縁のトレンドがきていることが分かっていたからゆえのデザインです。

 3代目を米・ラスベガスで開催されたCES 2015に参考出品して賞を獲得した時に、出展で最後まで争っていたのがDellのXPS 13でした。個人的にもパッと見の印象が強かったので、きっと流れがくると感じていました。そこは絶対外せないという時に、もろもろ問題も出てくることも想像していました。

 一番のネックがカメラとアンテナのレイアウトです。左右の2辺狭額縁液晶ユニットもありますが、このモデルについては3辺狭額縁を絶対にやりたかったので、そのレイアウトが一番の課題となりました。

 上部に額縁がありません。じゃあ、どうするか。

 カメラを画面の下にもっていく。それはいいだろうということになりました。アンテナについては、ヒンジキャップに入れることにしました。実はこれも3代目の時に事前に開発が検討していたんです。当時の資料を見た覚えがあったので、エンジニアに連絡してみたら、上部からヒンジ部にアンテナを移動しても性能的には大丈夫という確証を得ました。

 ヒンジの中にアンテナを入れるとうれしいことがたくさんあるんです。3代目はパームレスト手前にアンテナがあったので、そこを別パーツにして電波の通りを確保していました。でも、これではいろいろな問題が出てきます。組立時の工数とか、見た目などですね。でも、ヒンジに入れることで、液晶を裏側に折り返しても大丈夫だし、特別なパーツもいりません。いいことづくめなんです。これは自分のアイディアなんですが、エンジニアに相談して、それだったらいけると判断されました。

 でも、周りが金属だらけじゃないですか。その中でアンテナの性能を最大に出すためにものすごい検討をしました。今回は、そこが一番苦労した部分だといってもいいでしょう。

 そして、レイアウトはできたものの、生産の過程でいったいそれをどうアセンブリするのかです。

 簡単なのはパイプ上のヒンジパーツを縦分割して、アセンブリしてからくっ付けることなんですが、それだと接合部が縦に露出するのでデザイナーは割りたくないと言うんです。

 筒状のパイプパーツだけでやるにはどうするか。なんとかしてその中にヒンジとアンテナを固定しなければならない。

 結局、設計はかなり苦労したようですが、内側に壁を作っておいて、そこにネジを長いドライバーでとめるかたちに落ち着きました。金型を走らせる前にモックアップを作って、その段階で生産の責任者も出席して問題がないかどうかを決めてゴーするんですが、何とか行けると判断されたのです。

ヒンジ部分の構造を図で説明する中井氏。筒状のパーツを割らずにアンテナとヒンジを実装している

――狭額縁についての問題はありませんでしたか。

中井 狭額縁については液晶にかかる負担をより考慮しなければならない点でたいへんでした。今まではヒンジアップ設計といって、ヒンジより上の部分は、各モジュールで買ってきて、それらを組み合わせて使っていました。工数はかかりますが、われわれの基準をクリアできるように設計ができます。

 ところが今回は、インセルの液晶モジュールを使うことになったので、工数を簡略化できる反面、本当にわれわれの基準をクリアできるだけの強度が確保されているかどうかを考慮しなければならなくなりました。

 ただ、ペン対応がないのでレッツノートのような製品とはアプローチが違いますね。個人的には毎回ペン対応は考えているんです。検討はしているんですよ。でも、ペン対応のためには液晶面にピンポイントで加圧がかかるのでハダカでは耐えられません。どうしてもガラスが必要になってしまいます。ペンと軽量どちらを取るか。で、軽量を取ったわけです。

 個人的にはペンは好きです。実は自分でマンガを描くんです。うちでも子どものためにマンガを描いてやったりしています。コミケに出展はしてませんけど……。だから本当はペンを使いたいです。でも、世の中にはペンはいらないけど、もっと軽いモデルを求めているユーザーがいるんだと考えました。

――4代目にしてついに完成といったところでしょうか。

中井 はい、この4代目は今までの集大成だと思っています。デザインもゴールドの色も追加して、味気ない感じを払拭できました。かなりやったなと思っています。次については、これから検討になるんですが今の時点でどうするかは決めかねています。シンプル化としての完成系で、Hybridという名前を冠し、名実ともにHybridになれたのが今回の4代目です。それを超えなければなりません。

名実ともにHybridを名乗れるようになった

――第7世代Coreは問題なかったでしょうか。

中井 前世代のSkylakeがよかったので、モバイル的にはずいぶん跳躍できました。それを継ぐプロセッサとして、第7世代は障壁にはならなかったですね。

 ただ、今後のためにUSB 3.1をサポートしたいということでそうしたのですが、逆に、消費電力が思ったより大きかったのだけは誤算でした。実は、BIOSで3.1を殺すなどすることで、2つあるうち後方のUSBポートが使えなくなるんですがバッテリ駆動時間はかなり延びるんです。こういうこと言っていいのかどうか分かりませんけど。

――なるほど、外でとにかく長時間という時には、そういう手があるんですね。新装備としてUSB Type-Cについての検討はありましたか。

中井 USB Type-Cについては真っ先に検討しました。ただ、今回はフットプリントが小さくなって、ポートを置ける位置が制限されています。ヒンジキャップが大きくなって、ファンが付いていた位置なども移動していますから、今ある何かを殺さないとType-Cは入りません。それに手前の部分にはバッテリモジュールがありますからこれも無理です。

 普通はDCジャックを殺してType-C PDで充電する方法を考えますが、企画を進めている当時、検討の中で挙がっていたのは、規格自体がもやもやしているということでした。Appleも投げ出しそうな規格を使ってもいいのだろうかと。ACアダプタも馬鹿でかくなってしまいます。トータルのモバイル性能を考えた時に、それでいいのかという話になったわけです。

 かと言って、2つあるType-Aの片方を殺して Type-Cにするか。さすがにそこまでやるかというとやらないです。母艦側として、各種周辺機器をサポートできるメリットを考えると、Type-Aを殺してまでやるのは時期尚早と判断しました。アドオンで付けるのはかまわないんですがとにかく場所がありませんから。次は、音量ボリュームボタンの撤廃などを考えてもいいかもしれませんね。

――急速充電のトレンドはType-Cに移行するでしょうから、次の課題と言うことですね。積み残しという点では、生体認証などのWindows Hello系、SIMスロット装備によるWAN通信などの見送りも残念でした。

側面にはポートがビッシリでSIMスロットもType-C端子も実装は難しい

中井 ご覧になればお分かりになりますが、SIMスロットも付ける場所がないんです。それに、SIMスロット装備によって市場価格が1~2万円高くなってしまうということで、ユーザー負担も大きくなってしまいます。11型のWAN対応機の売れ方を見る限り見送らざるを得ませんでした。

 ならばeSIMかということも考えたのですが、こればかりはキャリアがついてこないと話になりません。いろいろと課題はまだたくさんありますね。

――ここだけの話、失敗したと思っているところはありますか。

中井 あります(笑)。壁紙が黒なんですよ。黒の真ん中に白で大きくZEROとデザインされています。額縁も黒なので、そうすると狭額縁が目立たないんです。しまった、と思いましたね。

――ありがとうございました。

黒の狭額縁に黒バックの壁紙で額縁の狭さが十分に伝わらないのは大失敗