山田祥平のRe:config.sys

今求められるシームレスなサポート

 クラウドサービスは、規模が大きくなればなるほどサポートは重要になる。固有のサービスごとの垣根が、その連携で曖昧なものになりがちな今、サービスを横断的に見ることができるスキルが重要になってくる。大病院で言えば総合診断科といったところだろうか。今回は、ちょっとしたトラブルのいきさつを紹介したい。

トラブルはある日突然やってくる

 自分のメールは、MicrosoftのExchage Onlineに委ねている。フリーランスライターをしている自分の事業は法人化しているので、会社のドメインを取得し、それをExchageに登録して使っている。

 以前はExchage Onlineだけを利用していたが、最近になって、Office 365の企業向けサービスに移行し、Microsoftのビジネスサービス一般の契約を開始した。

 起こったトラブルは、ある瞬間からWindows 10 Mobileの「職場および学校のアカウント」への登録ができなくなったことだ。これは「会社の所有するデバイス」としてWindowsを使い始めるためのものだ。

 この1年間くらいの間だけでも、何十台、おそらくは100台近いデバイスを初期セットアップしてきたと思うが、それらは全て「自分のデバイス」として設定してきた。それで何の問題も起こることはなかった。ところが、Office 365のサブスクリプションを始めて、Windows 10 Mobileのセットアッププロセスにおいて、最初の段階で、Microsoftアカウントを使わず、会社のアカウントで登録できるようになっていて、「お客様の所属する組織がOffice 365やMicrosoftの他のビジネスサービスを使用している場合、このデバイスが所属組織に登録される」とある。どんなものかと、これを何度か試してみているうちに、このトラブルに陥った。

 結論から言うと、ExchageやOffice 365サービスの利用は、特にAzure AD(Active Directory)を使わなくても利用できるにもかかわらず、職場のデバイスとして登録しようとすると登録できてしまい、しかもその制限既定値が20になっていたということだった。

 さらに、その制限を回避するには、Azure ADのサブスクリプションを自分で能動的に開始し、そのディレクトリ構成で、制限数を緩和することが必要だったのだ。おそらくWindows 10 OSであっても、職場のPCとしてセットアップすると同じことが起こるだろう。

 デバイス数はユーザーごとに制限され、Azure ADに管理者としてサインインしてユーザーディレクトリから自分のデバイスを確認したところ、初期セットアップを繰り返した同じ名前のデバイスが多数登録されていた。まさに20台の制限にひっかかっていたようだ。

 そこで、この値を無制限に設定したが、セキュリティのことを考えると既定値として制限台数を20程度にしておくのは妥当かもしれない。

 それでも、Office 365やExchangeを利用しているユーザーは、Azure ADを使っている意識がなく、実際にもサブスクリプションを開始していない。使っていないのに、Azure ADの管理下にあってデバイス数の制限を受ける。それを自分でコントロールするには、Azure ADを能動的に使い始める必要があるということだ。

シームレスにサービスをカバーするテクニカルサポートがほしい

 この現象に悩んでサポートに問い合わせたのが今週の月曜日で、何度かの電話とメールのやりとりで、画面キャプチャを送るなどを繰り返し、木曜日の夜にようやく解決に至った。どうやら、Office 365のサポート陣にとっては管轄外の現象のようで、先方も、かなり悩んだようだが、越境に近い形でサポートを受けることができた。

 最初は、そのような事例は過去にないということで、デバイスのベンダーに問い合わせるように指示されたのが、複数の異なるベンダーのデバイスで同じ現象が発生していることや、デバイス数の制限にひっかかっていることが予想されることなどを告げ、絶対にデバイスの固有の問題ではないと主張したところ、サポートが継続されることになった。

 最終的には夕方のラッシュ時に地下鉄駅のホームでサポートからの電話を受け、ホームのベンチに席を確保して作業を始めたものの、ノートPCに装着したMVNO SIMの通信でサービスポータルがまったく開かず、15分後に電話が欲しいと告げ、ターミナル駅まで移動して、屋外の地べたに座り込んで作業をした。こちらから折り返し電話をかけるということができないので、先方からの電話がかかってきた時に、できるだけコマを先に進めなければ問題の解決は先送りになってしまう。

 サポート側も、管轄外ということで、Azure ADについてはメールでのサポートができず、口頭で試行錯誤を繰り返してようやく解決に至った。忍耐強く、こちらの作業の面倒を見てくれたことには頭が下がる。

 Windows 10やWindows 10 Mobileのセットアッププロセスや、Office 365サービスの浸透などを見ていると、今後は、ワンストップで、そのあたりも含めたサポートが求められるのではないだろうか。しかも、Office 365は、Azure ADを使ってユーザーを管理することが明示されているのだから、ちょっとした疑問も残る。

 大きな病院では、各診療科を受診する前に、総合診療科のようなところを受診し、どの科に行くのが適切なのかを判断してもらうことが多い。一歩間違えば、たらい回しになってしまいそうではあるが、今後は、そういうサポート窓口が必要なのではないだろうか。

 電話が繋がりにくいなど、サポートのトリガーはあまりいい話をきかないのだが、Office 365のユーザーサポートは、フォームから症状をサービスリクエストとして投げるだけで、すぐに電話がかかってきて、詳細を話すことができる。そして、その電話でのやりとりを含めて、インシデントに関する議事録のようなかたちでメールが併用され、さまざまなヒントを得ることができる。以前、Exchangeオンラインを、自分のドメインに移行したときに相談に乗ってもらったとき以来の利用だが、このテクニカルサポートにはきわめていい印象を持っている。

 経験的には何かトラブルがあってサポートに連絡をしても、ソフトウェアやファームウェアの不具合であることが多く、結局解決できないなど、頼りにならないことが多かったので、普段はサポートを利用することはまずない。職業的にベンダーとも近い位置にあるため、開発者などに直接不具合を知らせて感謝されることも少なくない。「山田祥平さんは当たりを引きやすい」とまで言われる始末で複雑な想いもしている。

 そんな中でも悩む時には悩む。自力でどんなにがんばっても解決が難しい場面に遭遇することもある。分かってみたら何でもないことであっても、その渦中ではものが見えなくなってしまう。そこをきちんとフォローしてくれるMicrosoftのOffice 365のサポートは頼りになる。願わくば、このサポート陣が悩むことのないようにサービスそのものの質や、その利用のための情報提供、そしてサービスごとの垣根を超えた横串の体制も、クラウドファーストの会社としてチャレンジして欲しいものだ。