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後藤弘茂のWeekly海外ニュース

Microsoftが裁判対策のためのWindows戦略を転換か?


●OS部門の統合とMillenniumの縮小

 Microsoftは、反トラスト法裁判対策のために、OS戦略を変更する可能性がある。そう、受け止められる動きが、ここに来て、次々に出てきている。それは、OS部門を含む大幅な組織改編を行ったことと、Windows 98後継OS「Millennium(ミレニアム)」の位置づけを変更したことだ。

 組織改編で行われたのは、Windows関連部門の一本化だ。これまで、Windowsは、コンシューマ向けWindowsを担当するConsumer Windows Divisionと、企業向けWindowsを担当するBusiness and Enterprise Divisionに分かれていた。しかし、今回の改革では、これが一体化されWindows Divisionとなった。Windows Divisionを統括するのはブライアン・バレンタイン氏で、さらに、Windows関連全体を統括するPlatforms Groupのトップには、ジム・オルチングループ副社長が就任した。バレンタイン氏は、Windows 2000開発マネジャーを務めてきた人物で、オルチン氏はそもそもWindows 2000の前身であるCairoプロジェクトの時からこの新OSを統括推進してきた人物だ。

 一方、Millenniumの位置づけ変更は、事実上、Millenniumプロジェクトの縮小だ。Millenniumは、2000年後半に登場する予定のWindows 98後継のコンシューマOSで、Windows 98コードベースだ。Microsoftは、当初Millenniumについて「Windows 98 Second Edition」よりもメジャーなアップグレードになるとアナウンスしていた。ところが、マイクロソフト日本法人は最近になってこのスタンスを改め、Windows 98 Second Editionと同様のマイナーチェンジになることを明らかにしている。

 このふたつの“事件”が示唆するのは、Windows 98コードベース路線の衰退が早まり、Windows 2000コードベースへの移行が早まる可能性だ。まず、組織的にはWindows 2000の部隊に融合されたように見える。また、比較的大きなプロジェクトだったMillenniumが小規模なアップデートにとどまるなら、当然、次のWindows 2000ベースのコンシューマOSのインパクトがより大きくなるわけだ。

 これらの変更が行われた理由としては、技術的あるいはマーケティング的なものが、いろいろ考えられる。しかし、現在進行中の反トラスト法裁判対策と考えると、これもピタリと附合する。


●裁判で最悪の結果が出てもこれなら大丈夫

 まず、今の裁判で問題となっているのは、基本的にはWindows 95とその後継OS、つまりWindows 98だ。解釈はいろいろできるが、とりあえずはWindows NT系OSは提訴の直接的な対象になっていない。つまり、Windows 9x系OSで何か拘束されたとしても、それはWindows 2000系OSに影響しない、あるいはMicrosoftがそう主張し、それが通る可能性がある。そして、Microsoftが徹底抗戦で控訴を行う場合、決着が着くのは2001年頃になる見込みだと言われている。

 となると、現在の裁判状況で、Microsoftにとって論理的な戦略は、控訴で司法省&州政府側に勝つか有利に和解できる道を探りつつ、最悪の事態になっても、被害を最小限にできるように、2001年までに用意しておくことだ。そして、その用意としてもっとも合理的なのは、問題となっているWindows 9x系OSを早期に終息させ、Windows 2000系OSへの移行を急ぐことだ。

 例えば、最悪の事態で、判決を有利に導くすることができず、Windows 9xのソースコードを他社にライセンスしなければならなくなったとする。その場合、Microsoftが自社のコンシューマOSをWindows 2000系へと急転換していれば、Windows 9xを外に出しても実害はほとんどなくなってしまう。他社から出てくるWindowsは、Windows 9xベースの“古いコンシューマWindows”で、“Windows 2000”ベースの“新しいコンシューマWindows”はMicrosoftだけが独占的に出せるからだ。つまり、トカゲのしっぽ切りのような逃げの手を打てるわけだ。

 もちろん、その場合には、司法省側からWindows 2000ベースであってもコンシューマOSである以上、ライセンスすべきというクレイムが出るだろうが、その場合、司法省側はWindows 2000ベースであっても同じという証明を法廷でしなければならなくなるわけで、Microsoft側にすれば阻止できる可能性が高くなるだろう。


●そもそも継子扱いだったWindows 9x系OS

 もっとも、Microsoftはおそらく裁判でそこまで悪い事態になる可能性が高いとは考えていないだろう。ただし、もともとWindows 2000ベースへコンシューマOSを移行させようとは考えていたわけで、それなら、裁判もあることだし、どうせならMillenniumをスキップしてしまえと判断した可能性はある。

 そもそも、MicrosoftのWindows 9x系OSの開発部隊は、Windows 95以来、Microsoftの内部では傍流になってしまっていた。まず、Windows 95の開発が終わった時点で、OS部門はWindows NT系を統括するオルチン氏の下に統合されてしまう。Windows 95を統括していたブラッド・シルババーグ氏は新たにInternet Explorerの部隊を統括することになり、Windows 95部隊の多くもIE部隊に移ったと言われる。

 この頃、Microsoftが示していたOSロードマップは、Windows 95とWindows NTがCairoで統合されるというものだった。CairoはWindows NTの後継OSであり、これは事実上Windows NT系への統合を意味していた。

 ところが、Cairoはそんな生やさしいプロジェクトではなく、すぐには実現できないことが明確になった。そのため、Windows 9x系もやっぱり併存させることになり、メジャーアップグレードとして「Memphis」のコードネームで開発が始まり、部隊が再編された。そして、MemphisがWindows 98として登場したわけだ。

 そして、ここで再びMicrosoftは、Windows 98でWindows 9xコードベースは終わり、次のコンシューマOSからはWindows NTコードベースになると宣言した。Microsoftは、この時点で、「Windows NT Consumer(NTC)」と呼ばれるWindows NTのバージョンの開発をWindows NT 5(Windows 2000)ベースで始めていたと言われる。NTCはその後、「Neptune(ネプチューン)」というプロジェクトになる。そして、Windows 9x系の開発は再びメンテナンス程度になってしまう。

 だが、この路線も、'99年4月のWinHEC 99で再び覆される。Microsoftは、「Consumer Windows In 2000」という名前でMillenniumプロジェクトを発表、とりあえず、2000年の新OSはWindows 98ベースになることをアナウンスした。また、この路線変更と同時にMicrosoftは組織再編を行っており、継子だったコンシューマWindowsの部隊を、Consumer Windows Divisionとして独立した部隊に引き上げている。これは、Neptuneが2000年のクリスマス商戦に間に合わないため、Neptuneに搭載するはずだった機能の多くをWindows 98ベースに載せて出すという動きだと、一般には受け止められた。

 ところが、この路線も、今回の組織変更&Millenniumプロジェクトの縮小で、再び変更になったわけだ。こうやって見てみると、Windows 9x系というのは、ちょっと悲しい運命のOSだという気がしてくる。


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('99年12月17日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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