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法林岳之のTelecom Watch
第27回:'99年5月編



 例年5~6月は夏のボーナス商戦を控え、新製品が数多く登場する。特に、今年はWindows CEマシンが各社から発売され、にぎわいを見せているのが特徴だ。モバイルコンピューティングの本命と目されながら、今ひとつ普及しないWindows CEが今回の新製品ラッシュできっかけをつかむことができるだろうか。


Windows CEマシンの製品ラッシュ

 今年の春は携帯電話の話題が先行しているが、Windows CEマシンやPDAなどにも注目の新製品が多い。なかでもWindows CEマシンは昨年まで、NECや日立、カシオ、日本HPなどが販売していただけだったが、今年からは各社がニューモデルと投入する一方、シャープや富士通、ビクターといった新規参入のメーカーも増えている。

 まず、国内のWindows CE市場で最大のシェアを持つと言われるNECは、同社が販売してきたモバイルギアIIのモノクロ液晶搭載モデルの最新機種『MC-R320』を5月11日に発表している。モバイルギアIIのラインアップでは昨年、本体を薄型化したカラー液晶搭載モデル『MC-R510』を投入したが、モノクロ液晶モデルについては発表が見送られてきた。その間、MC-R510とほぼ同サイズのモノクロ液晶モデルが『モバイルギアII for DoCoMo』という製品名でNTTドコモから販売されていた。そして、ようやくモノクロ液晶モデルの新製品がNECから発表されたというわけだ。スペック的にはカラー液晶を搭載した最新モデル『MC-R520』をモノクロ化し、PDC/DoPaインターフェイスを省略するなどの仕様変更がなされている。価格が標準価格で67,000円と安く、バッテリー駆動時間も25時間とかなり長い点が魅力だ。メールなどを中心に利用するヘビーモバイルユーザーにはおすすめの製品だろう。

 続いて、NECは5月31日にモバイルギアIIシリーズのROMアップグレードサービスをアナウンスした。前回のこのコラムで「ROMアップグレードサービス開始が繰り返し延期されるのは、ユーザー離れにつながり兼ねない」と書いた直後の発表だっただけに、筆者も少々驚かされた。しかし、6月に入り、「ROMアップグレードサービスの申し込みが予想以上に多いため、受け付けを一時停止する」という発表をしている。ユーザーにとっては『アップグレードサービス開始延期』を繰り返された上に『受け付けの一時停止』までやられたのでは、たまったものではない。百歩譲って、アナウンスしていることを評価したとしても、不手際の連続はメーカーとしての姿勢を問われる行為だ。今後、このような事態が繰り返されないことを望みたい。

 一方、富士通は昨年のCOM JAPANで参考出品していたWindows CE 2.11搭載のH/PC Proマシン『INTERTOP CX300』を5月18日に発表した。640×480ドット表示が可能なDSTN液晶ディスプレイを搭載し、A5サイズのボディを800gの重さにまとめている。特徴的なのは本体のトップカバーにチタンを採用したこと、本体下部にドッキングできるPCシンクロステーションを標準で装備している点だ。

 また、すでにPERSONAシリーズを販売している日立は、Windows CE搭載のH/PC Proマシン『PERSONA HPW-600JC』を発表した。この製品もHPW-30シリーズ同様、ATOK PocketとPostPetを搭載し、CPUはDreamcastでおなじみのSH-4、800×600ドット表示が可能なDSTN液晶ディスプレイを搭載。携帯電話インターフェイスはPDCだけでなく、cdmaOneにも対応するなど、かなり意欲的な構成となっている。製品の出荷が遅れたため、実力のほどはまだ未知数だが、スペック的には申し分なく、幅広いユーザー層に受け入れられそうな印象だ。

 さらに、5月24日には日本HPからコンパクトサイズのH/PC Proマシン『Jornada 680』が発表されている。タッチタイプが可能なキーピッチとキーストロークを確保しながら、200LXをひと回り大きくした程度のボディサイズに抑えている。重量も約510gと、H/PC Proマシンとしてはもっとも軽量に設計されている。

 これだけ新製品ラッシュが続くと、Windows CEもいよいよ本格的に普及する時期に来つつあると言えそうだ。特に、モバイルコンピューティングのエントリー層には、安価でかつWindowsとあまり変わらない操作性が大きな魅力になるはずだ。量販店での客と店員のやり取りを見ていると、相変わらず1台目として購入してしまいそうな人(特に女性)も多いが、ポケットボードやコミュニケーションパルなどの延長線上と考えれば、それもひとつの活用方法として認知しなければならないのかもしれない。もちろん、PCとリンクしないことによるリスクは十分に解説するべきだが……。

 ただ、通信という切り口で見た場合、今どき、モデムだけを内蔵しておしまいというレベルでは許されないだろう。PERSONAやモバイルギアII、Teliosのように、携帯電話/PHSインターフェイスを内蔵した製品でなければ、激しい競争に勝ち抜いていくのは難しい。しかし、携帯電話/PHSインターフェイスについては、ケーブルが基本的に別売になっており、少し大きな店舗でなければ、入手しにくいのが難点だ。価格の問題もあるのだろうが、そろそろ製品に標準添付する(せめて携帯電話ケーブルくらいは)ことを検討してもらいたいところだ。

□NEC、67,000円のモノクロモバイルギアII
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990511/nec.htm
□NEC、モバイルギアのROMアップグレード受付開始
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990531/nec.htm
□富士通、チタンボディのWindows CE搭載A5サイズH/PC
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990518/fujitsu.htm
□日立、cdmaOneに対応した携帯電話インターフェイス搭載H/PC
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990525/hitachi.htm
□日本HP、CE H/PC Pro 3.0搭載「Jornada 680」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990524/hp.htm


WorkPad c3の先に見えるもの

 2月に発表され、着実にその人気を高めている日本アイ・ビー・エムのWorkPadに、さらなる小型化を実現した『WorkPad c3』というモデルが加わった。米国で販売されているPalm Vの日本語モデルと考えればわかりやすいだろう。スペック的にはあまり大きな変更点はないが、本体のバッテリが充電池となり、クレードル経由で充電されるようになったこと、本体が薄型化されたことなどが異なる。Palmシリーズは元々、ワイシャツのポケットにも入れられるサイズを目指して開発されてきたとされるが、今度のWorkPad c3はそれをほぼ完全に実現している。ただ、コスト面の問題もあり、搭載メモリは2MBに制限されている。アドレス帳やスケジュール帳などを利用する範囲であれば、2MBでもまったく不足はないが、数多くのPalmシリーズ用ソフトをインストールするなど、ヘビーな活用を目指すユーザーにはあまり向いていない。ただ、すでにPalmシリーズを扱うショップなどで、搭載メモリを8MB化したモデルやメモリアップグレードサービスも提供し始めているので、コンパクトなWorkPad c3をヘビーに利用したいユーザーはそちらを検討してみるのも手だ。ただし、これらのアップグレードサービスを行なった場合、当然、日本アイ・ビー・エムの保証は事実上、受けられなくなる点は注意が必要だ。

 また、今回のWorkPad c3の発表では、PHSアダプタの開発も明らかにされている。データ通信は32kbps対応でスタートし、将来的に64kbps対応を目指すとしているが、このアダプタが発売される時期にはNTT DoCoMoとDDIポケットの両社が64kbpsデータ通信サービスを提供しており、携帯電話のcdmaOneも64kbpsパケット通信サービスを予定している。バッテリ駆動時間の問題もあるのだろうが、32kbpsでどこまでメリットを訴えられるかは微妙だ。いずれにせよ、PHSアダプタに付属するアプリケーションソフトなどがカギを握ることになりそうだ。

 ところで、WorkPadで利用されているPalm OSをはじめ、PDAや携帯情報端末に採用されるOSにはさまざまなものがある。これらのOSは今後、さらに大きなマーケットに成長すると見られており、高い注目を集めている。それはPDA機能を搭載した携帯電話のマーケットだ。5月27日、国内最大手のNTT DoCoMoは、PSIONシリーズを販売する英Synbianの携帯端末用OS「EPOC OS」を採用した電子メール専用端末を2000年に発売する見通しであることを明らかにした。現時点ではまだ詳しいことがわからないが、筆者は「通話部分をイヤホン端子などで簡略化した電子メール専用端末」、あるいは「デジタル携帯電話カードなどに相当する部分を本体に内蔵し、接続ケーブルを内蔵、もしくは添付した端末」の2つが有力ではないかと見ている。もちろん、エリクソンなどが試作したPDA一体型携帯電話も選択肢としてはあるのだろうが、日本の携帯電話の現状から考えれば、一体型はあまり得策と言えなさそうだ。ただ、通信部分はPDC方式による回線交換(現在のデジタル携帯電話カードなどによる通信)だけでなく、パケット通信に対応する可能性もある。また、NTT DoCoMoに携帯電話を供給している松下通信工業も英Synbianとの提携を発表しており、EPOC OS搭載の携帯情報端末を松下通信工業が開発し、それをNTTドコモが採用するというシナリオも考えられる。ちなみに、NTT DoCoMoは6月に入り、3ComとPalm OSを搭載した新端末及び新サービスを開発することで合意しており、携帯情報端末に対する動きをさらに活発化させている。

□IBM、薄型のWorkPad c3発表。PHSアダプタの開発も表明
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990511/ibm.htm
□NTTドコモ、EPOC OS搭載の電子メール専用端末を2000年に発売へ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990527/epoc.htm


携帯型テレビ電話は何を見せてくれるか?

 5月に発表された通信関連機器の内、最もインパクトがあったのは5月17日に京セラから発表された『ビジュアルホン VP-210』だろう。5月に開催されたビジネスショウでも話題を独占し、テレビなどの一般メディアにも数多く取り上げられていた。

 ビジュアルホンは毎秒2コマの画像をリアルタイムにやり取りができるPHSで、DDIポケット電話向けに供給される。毎秒2コマでは『動画』と呼ぶには厳しいが、リアルタイムに画像と音声を無線でやり取りできる電話器はおそらく世界でもはじめての製品だろう。ビジュアルホンではPHSのデータ通信で利用する32kbpsの帯域の内、24kbpsを画像通信で利用し、残り8kbpsを音声通信に割り当てている。そのため、音声通話については既存のPHSよりもやや音質が劣る。とは言うものの、携帯電話並みの品質は確保しており、十分実用になるレベルだ。京セラでは敢えて『テレビ電話』という表現は避けているが、感覚的には携帯型テレビ電話と呼んでも差し支えない。将来的に64kbps対応にでもなれば、もう少しスムーズな動画をやり取りすることも可能だ。

 こうした製品をさらに幅広く普及させるには、やはり既存のインフラストラクチャとの接続を可能にすることだ。たとえば、PC用のビジュアルホン対応通信ソフトを提供し、ISDN回線を通じて、ビジュアルホンとリアルタイムで画像/音声を利用した通話はできないだろうか。あるいはイベントなどで、インターネット上にビジュアルホンからの画像を添付できる掲示板などを用意するのも面白そうだ。今後、京セラやDDIポケット電話がこのビジュアルホンのマーケットをどのように育てていくのかも注目したい。

 ISDNと言えば、ビジネスショウのレポートでもお伝えしたとおり、NTTからちょっと意外な製品が発売された。ISDN回線で利用するためのデジタルコードレスホン『W-1000P』、『W-1000K』の2機種だ。意外というのは、ともにISDN機器として致命的な設計ミスがあるからだ。DSU内蔵機器であるにも関わらず、S/T点端子がない。今までも事ある度に、S/T点端子については触れてきたが、サービスを提供するNTT自ら、このような仕様の製品を発売してしまうとは、筆者もコメントのしようがない。ちなみに、ISDN機器の開発関係者によれば、S/T点端子を1つ付けるのに、どんなに高く見積もっても標準小売価格ベースで3,000円と変わらないそうだ。たかが、目先の数千円のために、将来的にISDN機器を増設できない環境になってしまうのは、あまりにもバカバカしい。特に、NTTブランドの製品は、ISDNに詳しくないビギナーが購入してしまう可能性も高く、そのリスクは計り知れない。

□京セラ、TV電話つきPHS「VP-210」を7月末に販売
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/1999/0517/vp210.htm
□法林岳之の非同期通信レポート~「ビジネスショウ'99 Telecomレポート」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990519/bs99rep.htm
□NTT、64K PIAFS対応のPHS親機機能付きISDNコードレスホン
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990513/ntt.htm


Windows 98 Second Editionで変わる通信環境

 すでに、ボーナス商戦真っ盛りの時期になりつつあるが、5月28日、マイクロソフトから当面の次期Windowsとなる『Windows 98 Second Edition』の概要が発表された。Windows 98 Second EditionはWindows 2000ベースのコンシューマ向けOSが登場するまでの『つなぎ役』的な存在と言われており、すでにアメリカなどでは出荷が開始されている。基本的には現在のWindows 98の不具合などを修正し、いくつかの新機能を追加したものだが、実は通信関連については注目の機能が搭載されている。それは『インターネット接続共有』という機能だ。

 インターネット接続共有は簡単に言ってしまえば、Windows 98が動作するPCにルータの役割をさせようというもので、最大5台までのクライアントPCでインターネット接続を共有することが可能だ。接続する回線などは制限がなく、アナログモデムやISDN TAはもちろん、ケーブルモデムやxDSLなどの接続も共有できるとしている。SOHOユーザー向けの扱いやすいルータが少ないアメリカなどではウケるかもしれないが、国内ではすでに優秀なルータが数多く発売されており、Windows 98によるインターネット接続共有がどれだけの意味を持つかは非常に疑問だ。

 たとえば、NECは5月26日、COMSTARZ ROUTERに自動メール着信・取得や掲示板(行き先表示板)、RVS-COMへの対応などの強化を発表している。これを見てもわかるように、国内のISDNルータ及びIPルータは単純に接続を共有するだけでなく、複数の接続先を選んだり、LAN上で掲示板を共有したり、PHSとのメッセージ通信を可能にするなど、多機能かつ扱いやすい製品に仕上げられている。つまり、Windows 98 Second Editionによって実現できる環境とは大きな開きがあるわけだ。ただ、NTTサテライトコミュニケーションズが提供する衛星インターネット接続サービス『MegaWave』のようなサービス、あるいはケーブルTVによる常時接続サービスなどの環境には、意外に応用が利くかもしれない。

 ちなみに、ISDNと言えば、近く新しいサービスが始まるのではないかという業界内の観測がある。これは一部で報道されている定額料金制と関係するもので、今年の夏以降、ISDNは大きな転機を迎えることになりそうだ。筆者の想像では、「ISDNのデジタル通信のみを定額料金で提供」、「プロバイダの接続料金を含み、月12,000円程度で64kbpsでのつなぎっぱなしが可能」、「テレホーダイ対象時間の見直し」などが実施されるのではないかと見ている。つまり、アナログ回線に対する明確なアドバンテージがISDNに提供されるということだ。もし、これらが本当に実施されれば、ISDNルータなどによる接続は、料金の制限もなくなるため、かなり利用しやすい環境になるはずだ。今後のNTTの発表などを注意深く見守りたい。

□マイクロソフト「Windows 98 Second Edition」製品概要を発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990528/ms.htm
□NEC、自動メール着信など、コムスターズ・ルータの機能拡張を公開
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990526/nec.htm


最後に

 筆者は6月はじめ、Networld+Interop'99への取材へ向かう途中、追突事故に遭い、しばらく通常通りの活動ができない状態にあった。そのため、Networld+Interop'99のレポートはもとより、すでに取材を済ませていた一部の記事についても掲載することができなかった。読者ならびに、取材にご協力いただいていた関係各社に、お詫び申し上げたい。今後、スケジュールなどを立て直し、新たな記事を執筆する予定にしているので、しばらくお待ちいただきたい。

[Text by 法林岳之]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp