連載第2回 :  CPUの新製品、流通業界の裏事情



■ CPU流通事情

 秋葉原を始めとしたパソコンショップは、CPUを色々な流通ルートより仕入れます。流通ルートには大きく分けて2つあります。ひとつは国内正規代理店から、もうひとつは並行輸入ルートです。

・国内正規代理店ルート

秋葉原  国内正規代理店ルートの場合、CPUのメーカー毎に代理店が違い(一部に2メーカー以上扱っているところもある)、国内に数社あるのが通常です。各代理店はCPUメーカー各社の国内法人のもとで、パソコンショップやシステムメーカーへの販売を行なっています。
 国内代理店から仕入れることのメリットは、すばやいデリバリーと少量からの販売を行なってくれることです。昔は後述する並行輸入品の方が圧倒的に安かった時代もありましたが、最近では海外との価格差も少なく、価格の変動にもすばやく対応してくれるようなりました。

 Intelの場合、国内代理店から購入している多くの秋葉原のショップは、IPI (Intel Product Integrator) プログラムに加入しており、いくつかの特典を受けています。詳細は一般閲覧可能なIntelのホームページで見ることができます。通常、国内代理店から購入することが多いのはパッケージングされたBOXタイプ(FAN付)のCPUとなります(バルクのCPUも、仕入れようと思えば仕入れることも可能です)。Intelは大手メーカー(NECや富士通等)に力を入れているようで、ショップのマーケットに対しては互換CPUメーカーに比べて弱いバックアップしかできていないと筆者は感じています。最近は多少良くなりましたが、まだまだ……。

 AMDの場合、国内代理店はバルクタイプのCPUもBOXタイプのCPUも両方扱っています。大抵の場合、新製品はバルク品から販売が開始され、かなり遅れてからBOXタイプ(FAN付)が投入されます。元々、大手メーカーの採用が少ないこともあり、ショップへのバックアップは非常に強く、メーカーとショップ・代理店との繋がりも深いように感じます。ゲームCDの添付プレゼントや、AMDオリジナルグッズプレゼント等も店頭販売で実施しているのは非常にうれしいことのひとつです。

 IDTやCyrixの場合も、代理店制度を引いています。ショップへのバックアップ等も頑張っていますが、いかんせん人気が前述の2社より弱いので、印象が薄いのも否めません。多くのパソコンショップが正規流通ルートから購入しているようですが、これは数が売れないため少量から出荷してくれる国内代理店のほうが楽だからです。後述の並行輸入ルートでも扱い量が少ない事も理由の1つだと思います。

・並行輸入ルート

 海外経由で入ってくるものを並行輸入ルートと呼びます。業界では「グレイマーケット」と呼ばれています。海外の代理店やブローカー・流通業者を通じ、直接仕入れるか、国内の輸入業者を通じて購入するルートです(後者がかなり多いようです)。正規代理店ルートと違い、大抵の仕入先はいくつものメーカーの商品を扱っています。Intelに関してはBOXタイプもバルクタイプも扱っており、AMD等はバルク品のみの取り扱いです。

 並行輸入ルートの怖いところは、一時期話題になったクロックアップのマージンを利用し、非常に精巧に似せて作った「リマークCPU」が多いことです。ピーク時には、秋葉原で販売されているCPUの80%がリマーク品だったとも言われています。一時期のようにたくさんは出回っていませんが、いまだにかなりの量が日本にも入ってきているようです。バルク品だけでなくBOXタイプのCPUのリマーク品もあります。ほとんどの場合、ショップは気づかないで仕入れており、ショップが被害者であることも多いのです。リマーク品で泣かされたショップの多くは、信頼できるルートから仕入れていることが多いようです。Pentium IIIになってからリマークCPUが一時的に無くなったと思っていましたが、ここにきて出現してきたという話も聞くので怖い限りです。前述のIPIプログラムは適用されません。もちろん、その分安い価格で入荷するのが通常です。


■ 新製品の登場、その裏側

秋葉原  新製品の情報は主に、このPC Watchのようなニュースホームページからの情報と、正規代理店やCPUメーカーからの情報があります。正規代理店やCPUメーカーからの情報は、かなり前から詳細な情報として手に入りますが決して十分では無く、海外のニュースホームページなどの方が早い場合も多々あります。情報によってはマザーボードメーカーの代理店や、台湾のメーカー筋からの方が早い場合もあります。本来のところならCPUメーカー各社の日本法人からの情報が一番早く来なくてはいけないところなのに、遅い情報しか来ないのは困ったものです。これは相対的に、日本法人の力が弱いということなのかもしれません。ショップとしては最新のホットな情報をいち早く手に入れたいところなのですが、うまくいきません。

 新製品の登場と、流通ルートは密接な関係にあります。前述した並行輸入ルートの利点として多くのショップが挙げるのが、新製品のCPUの入荷が早くて、しかも販売における制約が無いことです。多くのCPUの場合、正式発表があるまでは販売をしない決まりになっています。これは正規代理店ルートの商品に限った話であり、並行輸入品はそういう縛りがありません。秋葉原にフライング販売で登場しているものの多くが並行輸入品なのです。なお最近では、メーカー及び国内正規代理店がフライング販売を認める事例も出てきています。

 最近では小さなショップにも新製品のサンプルが提供されるようになりはじめており、秋葉原のショップ市場も重視されてきたのかな? と感じることも多くなりました。ショップの店員さんと仲良くなれば、こういう新製品にいち早く触れることもできるかも?


■ 秋葉原CPU価格戦争

秋葉原  秋葉原のCPUの価格は激戦です。最近のインターネットの普及により、AKIBA PC Hotline!のようなところで、価格が安いショップと高いショップがはっきりでるようになり、ショップはどんどん利益を削って他店より安い価格で販売しようとしています。昔は新製品が出たり価格改定があっても、一気には安くならないで、徐々に安くなっていたのですが、最近では最初からギリギリの価格で販売するショップも現れてきて、さらに厳しい状況になってきました。

 さらに追い討ちをかけるように、メーカー間の競争から価格改定も頻繁に行なわれるようになってきました。昔は年に4回程度しか値下げがなかったのが、今では毎月のように価格が大幅改定されます。しかも値下がりの幅はどんどん大きくなってきています。これはひとえにAMDを始めとした互換CPUが人気を集めたことへ、王者Intelが対抗してきていると言えるのですが、ショップにとっては大変困ったものです。安定して高い価格で販売できる商品がたくさん欲しいショップにとっては、どんどん値段が下がってしまい、いくら売っても手元に利益があまり残らないCPUが増えています。ショップによっては100円玉1枚も儲かっていないところもあるのではないかと思うことすらあります。まぁ、ユーザーの立場になって考えれば、安くて良いCPUがたくさん売られるのはいいことですし、ショップにとっても安価に自作PC等にチャレンジできればユーザーが増え市場が広がります。市場が広がれば色々な商品の販売チャンスが増えるということでもあり、ある意味喜ばしい事なのでしょう(と、筆者自身は強引に納得している)。

 現在の秋葉原ショップ業界におけるCPU市場は、行き着くところまで行ったような雰囲気です。これからどのように変わっていくか、筆者もまったくわからず、ある意味面白いのですが、ショップにとっては大変苦しく思うところです。さてさて、どうなることやら。


写真提供:AKIBA PC Hotline!

[Text by AMUAMU]


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