元麻布春男の週刊PCホットライン

最近のグラフィックスチップに動作クロックが複数ある理由



■ 最近のグラフィックスチップに共通する特徴

RIVA TNT2
連休に登場したRIVA TNT2チップは140MHz止まり。ゲームユーザーの期待は、RIVA TNT2 UltraやPermedia3に移ってしまった
 ゴールデンウィークの直前、秋葉原ではNVIDIAのRIVA TNT2を搭載したビデオカードが出回り始めた。ゴールデンウィーク明けには、Savage4を搭載したカードも登場したようである。これで、4月上旬に発売開始されたVoodoo3と合わせて、春のグラフィックスチップ新製品が一応出揃ったようだ(まだ、すべてのカードベンダの製品が揃ったわけではないので、ここでは「一応」としておく)。他にも、MatroxのMGA-G400、Intelのi752など、すでに発表済みのグラフィックスチップはあるが、これらを搭載したカード製品が登場するのは、おそらく6月以降ではないかと思われる。

 このところのグラフィックスチップに共通する1つの特徴は、明らかに同じコアでありながら、異なる動作クロックのチップが正々堂々と売られるようになったことだ。以前にも、動作クロックの異なる同一のグラフィックスチップが出回ったことがなかったわけではないが、OEM/バルク品とリテール品でこっそり使い分けが行なわれていたり、量産時期が違っていたり、という感じで、最初から異なるクロックのグラフィックスチップが売られることはなかった。

 なぜこんなことになるのか。答えは簡単、半導体にはつきものの歩留まりの問題からである。たとえばプロセッサの場合、よく考えれば最初から1つの動作クロックしかサポートしない製品などないことに気づくだろう。Pentium IIは233MHzと266MHzでスタートしたし、Celeronも266MHzと300MHzが同時に発表された。半導体の場合、ある動作周波数で動かなくても、少し下げれば動作する、ということは珍しくない。たとえばPentium IIなら266MHz品のみなら、266MHzで動作しないダイは捨てなければならないが、266MHzと233MHzを発表すれば、捨てなければならないダイの数を減らすことが可能になる。要するに歩留まりが上がるわけだ。同じことはメモリにも言え、必ず複数のスピードのメモリが用意される。




■ 従来チップで動作周波数が1つだけだったのは

 ここで、1つの疑問が生じる。では、なぜこれまでグラフィックスチップは1つの動作周波数だけで済んだのか(というより動作周波数の異なる複数のバージョンが存在することになっていなかったのか)、ということだ。実際は完全には1種類では済まず、低速品がバルク品向け用などで流通したこともないわけではないのは上記の通り。これまでにも全くなかったわけではない。だが、一般のユーザーの目に触れないで済ませられる程度で済んでいた。それがここにきて、とうとう複数バージョンを提供せざるを得なくなったのである。

 おそらくこの理由は、グラフィックスチップに集積されるトランジスタ数が飛躍的に増大したことと無縁ではない。3Dグラフィックス機能の充実につれて、グラフィックスチップが集積するトランジスタの数は、プロセッサ並になってしまった(RIVA TNT2とPentium IIIでトランジスタ数に大きな差はない)。集積されるトランジスタ数に変わりがない以上、製造に用いるプロセスもプロセッサ並になる。現在、グラフィックスチップは0.25ミクロンプロセスで製造されているが、これはPentium IIIと変わらない。プロセッサが複数グレードを用意せねばならないのと同様、グラフィックスチップも複数グレード用意せねばならなくなったというわけだ(以前はグラフィックスチップとプロセッサではプロセスが一世代以上異なっていた)。

 となると次の疑問は、グラフィックスチップの表記はもう少しわかりやすくならないのか、ということだろう。たとえばVoodoo3の場合、動作クロックの違いにより、Voodoo3 2000(143MHz)、同3000(166MHz)、同3500(183MHz)の3種類がある。いっそのこと、Voodoo3 143MHzとか、Voodoo3 183MHzとしてくれればわかりやすい。

 しかし、よほどのことがない限り、このアイデアが採用されることはないだろう。昨年の発表当時、Voodoo3 2000の動作クロックは125MHz、Voodoo3 3000の動作クロックは183MHzとされていた。しかし、実際にチップを製造してみると、Voodoo3 2000のクロックは上げられたものの、Voodoo3 3000のクロックは当初予定に遠く及ばなかった。もし、発表時にVoodoo3 2000をVoodoo3-125MHz、Voodoo3 3000をVoodoo3-183MHzと発表していたら、製品販売時に名称を変更しなければならなくなっただろう。もちろん、名称変更の理由をしつこく聞かれることは言うまでもない。プロセッサのようにソケットで着脱可能だと、相手(マザーボード)があるだけに、事前に仕様を決めなければならないが、表面実装されるグラフィックスチップなら、歩留まりと性能のバランスを見て、ギリギリ最後まで動作周波数を検討することができる。そのためにも、グラフィックスチップの動作周波数を数字で明示することは避けたい、という事情があるものと思われる。




■ 最先端のプロセス技術では、量産技術も問題になる

 さて、グラフィックスチップに集積されるトランジスタ数が増え、最先端のプロセス技術が必要になると、気になるのは量産の問題だ。Intelを除き、グラフィックスチップベンダのうち自社でファブ(半導体工場)を持つところはない(ひょっとするとMicron Technologyに買収されたRenditionは、自社ファブのグラフィックスチップベンダになるのかもしれない)。最もポピュラーなのは、台湾のファウンダリ企業(TSMCやUMC)に生産を委託することだが、これが必ずしも順調にいかないのは、Voodoo3 3000のクロックが下がったことでも明らかだ。

 たとえば、NVIDIAの次世代チップであるNV10は、Mercedに匹敵するトランジスタ数であるとされている。仮にNV10の設計が可能だったとしても、本当に作れるのだろうか。Intelの本格的なPC向けグラフィックスチップの第1作となったi740は、イザ発売されると、事前の噂ほどの性能ではなかった。6月に発売が開始されるi752も、最初から低価格(1万個ロット時で19.5ドル)に設定されていることから考えて、決してハイエンド向けのチップではないハズだ。それでもIntelが恐れられるのは、プロセッサで実績のある量産技術あればこそだろう。

[Text by 元麻布春男]


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